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嘘と約束の鎮魂歌  作者: 心音
夏の章
112/171

第102話『今年の夏は』


「──終わったーーーーーっ!!」


 結羽の元気いっぱいの叫びによって、教室に漂っていた重たい空気が一瞬のうちに霧散する。それは三日間という短くも長い、学生が最も嫌うであろう期間が終わったことを告げる雄叫びだ。

 今日は前学期の成績のほとんどが決まるテストの最終日。勉強会を開いたり、放課後に集まって勉強をしたおかげか、それなり手応えがあり、前回よりも良い結果になりそうな予感がしている。赤点回避は正直余裕だ。他の面々も表情は明るく、この感じなら夏休みの補講の心配もいらないだろう。


「打ち上げ! 打ち上げしましょう!」


「ナイス提案だ愛桜! 甘狐処で盛大にやろうぜ!」


「そうなると思っていたから予約してあるよ!」


 疲れた体と頭を甘味で癒すのは正しく至高。

 テスト明けは甘狐処で打ち上げと、俺たちの中では相場が決まっている。


「打ち上げついでに夏休みの予定もある程度決めませんこと?」


「そうだね。じゃあお店に着く間に各自一つ以上案を決めておこうよ。で、甘味を堪能しつつ発表ってことで」


「うん。じゃあとりあえず甘狐処に急ごうよ。わたしの体が甘味を欲しているんだ」


 既に甘味脳になっている涼香が『早く早く』と催促する。

 俺たちは手早く帰り支度を整えて、わいわいと会話をしながら教室を後にして甘狐処に向かい始めた。


 夏休みの期間は七月下旬頃から八月の末日まで。六人でそれぞれ案を出し合っても足りないくらいたっぷり遊べる。もちろん宿題という逃れようのない概念は存在するが、それもみんなで集まってやれば楽しい時間になることは間違いない。


「はい! 友樹くん、質問です!」


「何かな、愛桜」


 甘狐処に向かうまでの間の会話として、愛桜がニコニコ笑顔で話しかけてくる。


「去年は皆さんで何をしたんですか?」


「遠出して山でキャンプしたり、美桜丘の夏祭りに行ったりしたよ。あとは定番どころでボーリングとかカラオケだね。もちろん他にも色々したよ。前にみんなでやった缶蹴りみたいな結羽考案のゲームをしたりとかね」


「へー! それはとても楽しそうですっ! 夏休みの期待度が高まりますねっ」


 楽しそうに俺の話を聞いてくれる愛桜。

 そこで俺はふと思う。愛桜は友達を作ってこなかったと言っていた。これまでの間、どんな夏を過ごしていたのだろうか、と。でもそれを口にすることは出来なかった。こんなにも楽しそうにしている愛桜の笑顔を曇らせたくは無かったからだ。


「愛桜。今年の夏はたくさんの思い出を作ろうね」


 だから代わりにそう告げる。

 俺が言えたことじゃないけど、大切なのは現在(いま)であって、過去ではない。過去に囚われていては、人は決して前に進むことができないのだ。過ぎ去ったことはどうしようもできない。この世界はゲームのようにリセットボタン一つで過去を改ざんすることは不可能。だから、未来を良くするために現在(いま)を大切にしなければならないのだ。


 愛桜がこの笑顔の裏にどんな闇を隠しているのかは分からない。

 けれど、嘘偽りなく笑う愛桜は素敵だ。そんな彼女のこれからを心配するのは、友達(・・)として当然のことだろう。例え──


「はいっ! なので友樹くん。今年の夏はわたしといーっぱい! 二人の思い出を作りましょうねっ!」


「俺だけじゃなくて、みんなとも作ろうね」


「分かっていますっ! でも、好きな人との思い出を作りたいと思うのは、恋する乙女ならば当然のことなんですっ」




 ──例え、闇のように黒い羽が視界を塗り潰そうとも。




to be continued

次回の更新は『10/27 21時』です。

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