第7.5話『回想 ②』
Another View 涼香
「ふぅ……」
土曜日の午後。中学校が休みということもあり、わたしは公園でひなたぼっこをしていた。
ここは櫻美崎自然公園という、わたし達の住む櫻美崎街にある大きな公園。公園の中央には大きな時計台が建っていて、時計台公園とも言われている。
そんな公園の一角。日当たりが良く、人があまり来ないこの場所はわたし達幼馴染が集まる場所になっていた。
「みんな今日は来ないのかなぁ」
普段は特に連絡をせずとも勝手に集まる。けど今日に限っては誰も来る気配が無い。まぁこういう日も少なからずあるからあまり気にはしないのだが。
お昼過ぎに公園に来て早一時間。公園に来た誰かとご飯を食べるつもりだったわたしのお腹は空腹を訴えていた。そよ風を受けながら、ぽかぽかとした陽気に当たってのんびりするのは悪くないが、空腹はそれだけでは満たされない。
コンビニで適当にご飯を買って戻ってこようかなと考え始めた時、わたしの瞳がこちらに向かってくる少女の姿を捉える。
「あーちゃん。やっほ」
挨拶をすると、やって来た少女は凛と透き通った声で挨拶を返した。
「こんにちは。すずちゃん」
わたしの幼馴染は三人。とも君とかず君。そして今わたしの目の前でニコニコ笑っている一つ歳上の紅音ちゃん。わたしはあーちゃんと呼んでいる。
「ともくんとかずくんは来てないのかな?」
「うん。あーちゃんだけ」
「そっか。残念」
残念と言いつつも、あーちゃんはニコニコと笑ったままだった。
「すずちゃんは帰ろうとしていたのかな?」
纏めていた荷物を見たあーちゃんが訊ねてくる。わたしは小さく首を振り、空腹と伝えるためにお腹に手を当てた。それを見たあーちゃんは少し考える仕草をした後にぽんと手を叩く。
「妊娠報告?」
「なんでよ」
「違うの?」
「違うよ。中学生で妊娠とかシャレになっていないと思うんだけど」
「ふふ。ご飯食べに行こうか、すずちゃん」
話を無理矢理切り上げ、くるりと踵を返したあーちゃん。そのまま歩き始めるのかと思いきや、顔だけこちらに向けるとニッコリと笑う。
「顔、真っ赤だよ」
「っ!!」
すぐさま手を顔に伸ばす。触れた瞬間分かるくらい頬が熱くなっていた。そりゃあんなこと言われたらこうなる。まだ中学生とはいえ、そういう知識は学校で習っているのだから。
「すずちゃん可愛い。誰との子どもを想像したのかな? ともくん? かずくん?」
「ち、ちが。そんなこと想像もしてない。大体そういうのは好きな人とすることでしょ?」
「すずちゃんはともくんとかずくんのこと嫌い?」
「そういう問題じゃない」
意地悪なあーちゃん。わたしは仕返しのつもりで訊ねてみることにした。
「なら、あーちゃんは二人のことどう思っているの」
少しでも困った顔をするあーちゃんが見れたらそれで満足だったのだが、あーちゃんは笑顔を崩すことなくさも当然のように答える。
「大好きだよ」
「っ」
まっすぐな瞳でそんなことを言われたらもう何も言い返せない。
「ともくんとかずくんと同じくらい、すずちゃんのことも大好きだよ」
「〜〜〜っ」
本当にあーちゃんには敵わない。
あーちゃんはわたし達のことを家族のように大事にしてくれる。そんなあーちゃんのことがわたしも大好き。もちろん、とも君とかず君のことも。
わたしもあーちゃんのようになりたい。大好きって想いをまっすぐに伝えたい。でもわたしは口下手だから言葉で伝えることは難しい。どうすれば大好きって想いを伝えることが出来るんだろう。
「ほら、置いていくよすずちゃん」
あーちゃんの手が伸びてくる。わたしはそのあたたかくて柔らかい手を取って隣に並ぶ。
「あーちゃん。わ、わたしも......」
「うん?」
「や、やっぱり何でもない」
「そっか」
今はまだこれでいい。
いつか自分なりの伝え方を見けるまで、わたしの『大好き』の想いは胸に閉まっておこう。
to be continued