プロローグ
注意事項
物語上に登場する人物、地名、団体名は全て架空のものであり、現実のものとは一切関係がありません。
作中には性行為を連想させるシーン、微流血シーンがあります。苦手な方はご注意ください。
以上のことをご理解頂いた上で、嘘から始まる約束の物語をお楽しみくださいませ。
──人は誰でも嘘を吐く。
誰でも嘘を吐いて生きている──。
嘘は大まかに分けて三種類ある。
他人のための嘘。
自分のための嘘。
そして──嘘のための嘘。
限りなく小さい嘘も、果てしなく大きな嘘も、どれも等しく平等にこの三種類に分けられる。そしてその大半は自分のための嘘だ。
「──あ、あのっ! と、と、突然こんなこと言われて驚くかもしれないんですけど……っ」
人は会話をしてコミュニケーションを取る生き物。言葉のやり取りが行われるからこそ、嘘というのは必然的に生まれてくる。
どうすれば自分に不都合がないか。どうすれば事を上手く運べるか。自分のためになる選択は何か。言葉一つで結末は大きく変わる。故に、人は自分が最も正しいと思う嘘を選ぶ。
つまり、嘘は自分を守る鎧であり武器でもある。
このどうしようもなく不条理な世界で生きていくために、人が無意識のうちに身につけた生存戦略。
例えば、友達や家族とする他愛ない会話の中にも。
例えば、会社の未来を決める大切な会議の中にも。
例えば──目の前の少女が頬を赤らめて俺に何かを告げようとしている時にも。
「──は、初めて会った時から素敵な人だなって思っていました!!」
日常に嘘は溢れ返っている。
いついかなる時も、嘘は常に隣り合わせ。
俺は人が嘘を吐くとすぐに分かる。
それは直感や心理学的なものではなく、確証を得て嘘だと判断することができる。
誰かが嘘を吐く時、その人の背後に──黒い羽根が視えるからだ。
誰かが会話をしている時、俺自身が誰かと会話をしている時、時折カラスのように黒い羽根が宙を舞う。
それは決まって相手が嘘を吐いた時。その嘘の大小によって舞う羽根の量は変わる。小さい嘘ならば一、二枚舞う程度。例えば明日の天気が晴れなのに雨だと嘘を吐いた時とかだ。でもこれがもっと大きな嘘になると、それこそ数十枚といった量の羽根が舞い散る。
「だから……っ!! その、良かったら私と……」
一呼吸ついて、視線を上に向ける。
暖かな春風に乗って桜の花びらがはらはらと舞っていた。空を飛ぶ小鳥たちが歌い、目の前の少女から漂ってくる甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。
桜の舞う綺麗な景色の中、可憐な少女が恥ずかしげに何かを告げようとしている。傍から見れば眩しい青春の1ページ。この光景を見ている人が居たら、きっと自分の事のようにドキドキとした展開だろう。
「わ、私と──付き合ってくださいっ!!」
──でも、俺にはそうは思えない。
「ああ……」
世界が──染まっていく。
いや、染まっていくなんて綺麗な表現を使ってはいけない。桜色の美しい景色が黒く、黒く──闇のような漆黒の羽根によって塗り潰されていく。
人が嘘を吐いた時に舞う黒い羽根。
彼女の言葉が全て嘘であるという何よりの証拠。
これまでに見たことがないくらい大量の羽根を舞い散らせる少女。あまりの得体の知れなさに恐怖すら覚えてしまうほど。
けれど、恐怖よりも好奇心の方が勝っていた。
彼女がどんな思いでそんな嘘を告げたのか俺は知りたい。
その嘘の裏に、どんな真実が隠されているのか知らなければならない。
きっとそれが、俺自身の──贖罪に繋がるのだから。
これは──これは、嘘の物語。
嘘から始まる────
────約束の物語────。
to be continued
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