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ピラミッド・ソング  作者: 白坂 夏実
19/110

♥18♥レクサス 郊外 人工的な谷間

 高速に乗る手前でわざと道を逸れ、同じ道を一周回った。先ほどから同じ黒いレクサスがずっと私の後ろを1、2台の車を挟んで付いてきているのが少し気になったためだ。

 回り道をすると黒いレクサスは私の後ろから消えていた。私は再び高速道路の入り口に向けて車を走らせた。念のため、入り口を一つ飛ばして下道を走り、先の入り口で高速道路に乗った。30分ほど余計に時間がかかったが、しようがない。わずかでも違和感があれば、大体の場合、私は何かを避けるために、時間をかけることを惜しまないことにしている。ほんの気休めのようなものだが。

 

 高速道路に乗ってから10分ほど時速100kmで走り、そのあとはずっと110kmを保って運転した。 私のミニクーパーのエンジンは継続して、小気味よく唸りを上げていた。本当はあと10kmほど上げた方がちょうどいいのだが、私はいつもそこまでスピードを出すことはほとんどしない。

 サービスエリアを二つ通り過ぎたあとの出口で高速道路を降りた。下道を10分ほど走り、あらかじめ調べておいた大きめのスーパーマーケットの駐車場に車を停める。

 バックパックからミネラルウォーターを取り出し、唇を潤す程度に飲む。スーパーマッケットからでてくる人、駐車場に入ってくる車に違和感はなく、物事は無事に過ぎていくようだった。同じ人が2回でてくることもないし、黒い大きな車が私に向かって突然突進してきたりもしなかった。平凡な平日のスーパーマーケットの様子だ。私は、車外に出て小さく一つ伸びをして、再び車の中に戻った。

 車内の時計は停車してから丁度10分が経っていた。ダッシュボードの中に入っている腕時計を取り出し、差異がないか調べた。特に違いはなかった。私はバッグから手帳と地図を取り出し、今日の目的地への最終確認をして、車を発進させた。

 高速道路に再び戻ることなく、一般道を走り続ける。よくある郊外の国道だ。工場やロードサイドの靴屋や、スーツ屋や、ファミリーレストランが織りなす単調で退屈な風景。それが延々と続いていく。それはある種の目的のために作られた匿名的な風景のようだった。つまり、あなたが、一体、どこにいるのか、不明にしてしまう。あたかもそれが、唯一の回答であると、思わせてしまうような。

 私は機械的に車を走らせ続けた。渋滞はなかった。渋滞は私が最も避けるべきものの一つに入っている。身動きがとれない状況は何としてでも避けなくてはならない。スムーズに動き続け、常に逃げ道を確保し、自然に知らないふりをし続けること。それが何よりも重要なのだ。

 しばらく走り続け、別の高速道路の入り口が見えてくると私はそれに乗った。人工的な谷の間を時速110kmでひたすら走り続ける。

 私の座標は当初の目的地とは大きく離れたところに向かっていた。

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