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ピラミッド・ソング  作者: 白坂 夏実
108/110

♣106♣婚礼

アカネ章 最終

 大通りの突き当たりには大きなアーチがかけられており、そこをくぐり抜けることで、踊りの行進は終了した。30分以上も踊っていたおかげで、ぐっしょりと汗をかいていた。僕は浴衣の裾を帯に挟み込み、白狐のお面を外してアカネの姿を探した。門をくぐった後、中にいる多くの演者たちのカオスの中で僕はアカネを見失ってしまっていたのだ。辺りには同じ格好をした男女が入り乱れて談笑していた。僕はその中にアカネの姿を探したが、見つけることはできなかった。

「ここにいるよ」とアカネは言って僕の頰に冷たいビールをあてた。

「消えてしまったのかと思った」

「まさか。あそこでビール配ってるのが見えたからもらってきたの」とアカネは言って前方を指差した。そこには白い仮設テントの下で青い大きなプラスチックの「バケツ」から、演者たちに飲み物を振舞ってている人たちがいた。バケツの中にはおそらく氷と水がふんだんに入っているのだろう。缶を手渡すたびに辺りに水しぶきが飛んでいた。

「目ざといね」と僕は言った。

「そうだね」

「ありがとう。もう喉がカラカラだよ」

「うん。わたしも。。。ちょっと、歩こう」

 僕らはお面を被ったままの人や、鼓笛隊の制服を着た子供や、武士や農民の格好をした人を抜けてそぞろ歩いた。辺りには何かをやり終えた人々の安堵と祝福と寂しさと熱気が入り混じった雰囲気に満たされていた。僕らは空いている道路の縁石を見つけて腰掛けた。

「乾杯」と言ってアカネは缶を高くかがけた。僕は慌ててプルタプを開けて、掲げた缶に缶を合わせた。僕らはしばらく黙ってビールを飲んだ後、美味しいと言った。

「生きてるって感じがするね」

「そうだね」と僕は同意した。

「お祭りは好き?」とアカネは言った。

「好きだよ。こういった混沌とした雰囲気も好きだね」

「そう。。でも、このお祭りの本当の本番はこのパレードじゃないんだよ」

「え、そうなの?」

 うん。とアカネは言って、僕から白狐の面を奪って自ら着けた。そのまま面の下をずらして、ビールを一口飲む。お面の下から鮮烈な赤い唇が現れてはまた消えた。

「結婚式があるの」

「結婚式?」

「そう。盆に迎えた人と此の世の人が」

「ん?幽霊と生きた人がってこと?」

「そう。結婚しないで亡くなった人が初めて戻ってくる。そして、一度結婚する。そして帰るときに別れる」

「随分、忙しいね」と僕は言った。アカネは笑った。

「そうだね」

「相手は誰がするの?」

「相手?」

「幽霊の相手だよ」

「それはね、決まった家系の決まった人が取りまとめてするの」

「重婚だ」

 アカネは笑った。

「確かに、そうだね」

「好きだった人とはできないんだね」

「普通はね」

「例外もある?」

「そうだね。でも、その相手が了承したところで、結局その人は連れて行かれてしまうかもしれない。だって、どうしても、一度死んで、また戻ってきてでも会いたい人だもの」

「黄泉の国へ?」

「そう、冥府へ」

「構わないんじゃないの。了承してるなら、つまりそういうことなんじゃないの」

 僕は小さなりんご飴を持った女の子が兄のような年頃の男の子に手を引かれて歩いていくのに目を引かれていた。いつの間にか通りや、周囲のビルの明かりが灯っているのに気づいた。

「構わないに決まっている」と僕は繰り返した。

「それは前のような形をしていないかもしれないよ」

「どこにいたって見つけられる」

「相手はそれを忘れているかもしれない」

「僕は忘れない」

「どうしてそういう風に言えるの?」

「僕にはただわかるんだ」

 ねえ、とアカネは僕の左肩にそっとその小さな顔を載せて呟いた。

「私の名前を呼んで」

 僕は彼女の名前を呼んだ。

 同じ時、打ち上げ花火の最初の一つが夜空で大きな爆発音を放って花開いた。3尺玉の柳だ。僕らはその垂れていく先を消えるまでじっと見つめた。


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