■98■夏の冒険の仮の終焉
僕らはホラービデオに出てきた「ロケ地」の雑木林を抜け、そこに「見慣れぬ」廃屋を発見した。
池田と、花さんを返した後、僕は廃屋の横にある地下への入り口からあの「旅館」にたどり着く。
旅館で「奇妙な者」達との邂逅の後、街を抜け、ビジネスホテルまで戻った。
ビジネスホテルでの危険を察知すると僕は車を取りに、「ロケ地」への入り口へと戻った。
入り口には池田が待っていた。僕は池田の運転で地元の街まで帰る。僕らの夏の冒険は仮の終焉を迎えようとしていた。
僕が電話を置くと「なんだった?」と池田は言った。
「なんだか、よくわからなかったよ」
「そうか」
「悪いけど、うちの前まで送ってくれるか?」
「もちろん。何言ってんだよ、当たり前だろ」
「ありがとう」
料理が運ばれてきたので、僕らはそれを食べた。池田はステーキとセットのご飯に塩をふりかけていた。僕はあまり食欲がなかったので、パンケーキを少し食べ、牛乳を飲んだ。
「お前は寝れたの?」と僕は池田に訊いた。
「車で寝てたよ」
「そうか」
僕の身体には夜を通した後のあの独特の疲労感が広がっていた。
「帰りの車で、やっぱり、寝るかもしれない」と僕は言った。
「いいぜ、もちろん」
「サンキュー」
「いいってことだぜ。。それにしても、結局、あのビデオの旅館てなんだったんだろうな。明らかにあそこになかったしな。なんとなくだけど、土地柄もちがうし」
「旅館はあったよ」と僕はあくびしながら言った。
「それが本当にその旅館と同じものとは限らないけど」
「どういうこと?」
「よく似せて作った同じものかもしれないってこと」
「なぜ、そんなことをする?」
「さあね、わからないな。ただ、あそこは、きちんと管理された場所だったよ」
「ふうん」と池田は言って少し考え込んでいた。しばらくして池田は言った。
「じゃあ、本当にそこに行きたいんだったら、他のところを探さなくてはならないってこと?」
「多分、そうかも」
⭐︎
車に乗り込み少しすると、僕はやはり眠り込んでしまった。
夢を見た。夢の中で僕は寄る辺のない海の中に放り込まれていて、泳ぎながら、因数分解を解いていた。別にそれを義務付けられているわけではないのだが、僕の頭はその流れを止めることができずに、延々と繰り返していた。そんな夢だった。
⭐︎
目を醒ますと、見慣れた隣町の国道だった。
「わりい。結構寝ちまった」と僕は言った。
「気にすんなよ」と池田は言って、僕にスポーツドリンクのペットボトルを渡した。
「サンキュー。お前、疲れてない?大丈夫?」
「大丈夫だよ。途中、コンビニとか寄って、休憩したし。それも、そこで買ったんだ」
「そっか、ありがとう」
僕はペットボトルのキャップを開けて、中身をゴクゴクと飲んだ。ひどく喉が渇いていた。中身を全て飲んでしまうと、僕は一つ嘆声して、しっかりと身を席に正した。
「ぐっすりと眠ってたぜ」
「そう?うなされてなかった?」
「全然。平和そのものって感じだった」
「そうなんだ」
「お前、今日これからどうすんの?」
「バイトまで寝るよ。まだ、寝足りないし。。お前は?」
「学校の友達のとこ行って遊ぶよ」
「横浜だろ?タフだな」
「まあ、そうだな」
車は国道をしばらく進んだ後、幾つかの道を曲がり、問題なく僕の家の前に停車した。
「着いたぜ」と池田は言った。
「ありがとう」
「携帯の充電しとけよな、またすぐ連絡するから」
「オーケー、わかった」
「じゃあな」と言って、池田は車を発進させた。僕は後ろ姿を見送ることもなく、門を開け、家の中へと入った。
雨戸の閉まった家の中は暗く、わずかな隙間から昼の太陽の日差しが差し込んでいた。僕は戸を開けることなく、自室へと上がり、バックパックを下ろしてから、また階下に降りた。シャワーを浴びて、汚れや汗を綺麗に拭い去った後、新しい服に着替えた。家の鍵を入念にチェックした後、歯を磨き、自室へと戻った。携帯電話を充電器につなぐと、エアコンの設定温度を26度に設定してから、布団の中に潜り込んだ。眠りはすぐに訪れた。夢のない静かな眠りだった。