小説を書く理由
ねぇ。君は何の為に小説を書くの?
そう聞かれた事があった。
だからそれに答えた。
「書きたいから書いてる。」
当たり前の返答に相手は満足してくれなかった。
そりゃそうかもだけど…。
もっと具体的な理由とかない?
少しだけ悩むふりをした後、
渋々本心を伝える事にした。
「怒ってるから書いてる。
悲しいから書いてる。
辛いから書いてる。
現実がどうしようもないから書いてる。」
今度の答えは相手に満足してもらえたようだ。
ふぅん。それが君の動機なんだ。
この物語を書きたい!っていう熱意からだって言うのかと。
この返事に今度はこちらが不満に思う。
「大抵はそうじゃない?
ただ、こっちはそういう書き方を最近しないってだけ。
簡単に言うならストレス発散。」
へぇ。ストレス発散ね………。
どんな風に?
「自分が思ってる事をぶつける事で。
現実じゃ絶対有り得ないこととか、言えない事を小説は言える。酷いとか、そう言うディスりも小説の世界にしてしまえる。現実に影響しないのがいいね。」
勤めて淡々と話したつもりだ。
相手はこの発言に口角をにっとあげて話す。
気に入った。それさ、これから出来たら見せてよ。
生の感情ってものを見られるかも。
相手は少し弾んだ声で言う。
この小説に読者がつくのか。読者ね…。
まぁ、勝手にしたらいいと思う。
どんな小説だって読者がいてこそ成立する。
それが自分であっても。
そこに第三者が入るって言うのは想像できない。
というか、想像するべきじゃないんだろうな。
どう思うかは人それぞれだ。
書き手に自由があるなら、
読者にだって自由を認めないと成立しないだろう。
「いいよ。感想もご自由にどうぞ。
ただし、これだけは忘れないでくれ。」
相手の目が真っ直ぐこちらを向く。
その目を見返して、話す。
「この小説は、こっちが現実から離れる為に作ったもの。
だけど、現実に向き合えばこの小説なんて忘れる。
作者はこの小説より現実の悩みの方が比重が大きい事を覚えておいてくれ。」