自宅警備員が地獄に落ちる(!?)まで
今年で二十五歳になる現役自宅警備員、堂森綾は、今日も今日とて、自宅警備員の任務を遂行していた。
とはいえ、実際はただ家でグータラしているだけの、暇人である。まあ、今日は少し異なるが。
そんな彼女は、先日受けたコンビニ店員の正社員雇用の茶封筒を片手にオロオロしている。
その中には多分、雇用してくれるかどうかを左右する書類達が入っていることだろう。さっさと開ければ良いのだが、なにせ彼女自身、初めてなことでアワアワしているのだ。
「よ、よし、、開けるぞ、、!」
という謎の掛け声と共に、茶封筒を開封する
しかし、結果は残念ながら、不採用。つまりは自宅警備員としていつも通り働くことが決定したのだ。
そろそろ二十代後半に入ってきて、正直なところ、かなり焦っている。
そのために受けたコンビニ店員の面接、、何故コンビニ店員なのか、というのは、少し前に遡る。
私は学生時代、アルバイトをしていた。
その時に親切にしてくれた、バイトの先輩、、名前は確か、吉野さんだったはず、、は陰キャの私にも気さくに声を掛けてくれて、まだ新人だった私はとても嬉しく、ほっとしたのを覚えている。
そんな彼は、性格もいい事に加え、顔も良かった。実際、よくアイドル事務所に誘われてるの見かけたし。
絶対にそっちの方がギャラが良いだろうに、彼は何故かコンビニ店員として通い続けていた。
一度聞いてみたことがあった。すると彼は、生きてるっていうかけがえのない日常に関われるのがいいんだ、と返していた。
その時の彼の目は、少し遠くを見つめているようで、どこか他国の人なのか、と勝手に自分で解決してしまっていた。
これをもっとしっかり考えるべきだった、と後悔するのは、少し先の話だ。
久しぶりの自棄酒で、ぼーっとした頭でスマホを弄る私に、一通の電話が。
噂をすればなんとやら、というのは本当なようで、例の先輩、吉野さんからの電話だった。
酒を飲んだ後で頭がフワフワした状態の中で、会話をして、随分夜遅くだったが、二人で会うことになった。
久しぶりの再会ともあって、小綺麗な服に、、なんてことはなく、適当な服を着て、財布等の貴重品だけカバンに入れると、言われた場所へ向かった。
「お久しぶりです、吉野さん」
「おう、久しぶり。変わりないようで安心したが、、お前、だいぶ飲んだろ?顔赤いし、フラフラしてんぞー。そういう、自己管理能力の低さも変わらねぇなぁ、ったく」
呆れ顔でガシガシと頭を掻く。そこそこに力が強いのは彼の特徴で自慢だ。
そんな彼に連れられて、神社の階段に腰掛ける。もちろん、隅の方で。
先輩に自販機で買ってもらった水を流し込んで、ようやく酔いが冷めた。
「もう少し、お前自身を大事にしろ?、、つーか、その成、、まだ彼氏とかいない感じか?」
余計なお世話ですよ、とだけ返して、背を向けてその場を後にしようとした。
しかし、先輩の一言で足を止める
「俺とかどうだ?」
固まる私を他所に、一応俺、顔が良い方だろうし、身長もあるぞ?等思いっきりセールスしてる。
ポカンとしたまま、その話を聞いていたが、首を振って頭を冷やす。
相手は、確かに超優良物件だが、だからこそ、確認が必要なことがある!それは、、彼女の有無だ!
これで、彼女いた場合、私は間違いなく虐められることだろう。それだけは避けたい。しかも、その時に先輩が私を庇うことがなかった場合、間違いなく私は消される。陰キャとはそういう生き物なのだ。カーストの底辺と言っても過言じゃないと思う。
というわけで、しっかり証拠によって確認をする。
そして、彼女がいない、ということに確認を取るべく、彼の家に着いていく事に。
今思えば、浅はかな上に馬鹿げた行動だったけれど。
謎に差し出された手を素直に取ると、その瞬間に辺りに強風が巻き起こる。
しかも、綺麗な桜吹雪。
その後、一段と強い風が吹いて、思わず目を瞑った。
次、目を開けると、、
目の前に広がる景色は、日本のものではなく、かと言って、海外でもなく。
何とも独特な、非現実的な景色が、広がっていたのである。
町?のような賑わい栄えている所の上空にどういうわけかいるのだが、その周りをぐるりと見渡すと、真っ黒い塔や城、広大な赤く乾燥した大地、そして赤い煙のようなものが見えた。
それだけで、ここが地球でない異界の地であると分かる。
ひゅっと息を呑んで、賑わいを見せる下の方の町を見る。
「ここが、お前らで言う、地獄だ。」
案外良いトコだろー、なんて笑いながら言ってるが、それどころではない。
「え、先輩。今、、地獄、って言いました?ここが?」
「おう。予想より良い所だろ?」
何でもないことのように言ってのけるこの人、、いや、人かどうかも怪しいぞ、、?
ていうか、ずっと上空で浮遊しているんだが?そうだ、そこからまずおかしい。
色々考えに考えた挙げ句、口に出せたのはのは次の一言だけだった。
「取り敢えず、、下に降りませんか?」
なお、これが笑顔で言えていたかは聞かないお約束だ。
こうして、私達は地獄に降り立った。
その刹那、隣にいた先輩(?)の姿が、人間とはかけ離れたものとなる。
黒髪だった髪は金髪になり、肌は随分と褐色になった。耳は尖っているし、身長も伸びた上、服も露出狂か!って突っ込みたくなるくらいに開けたものになってるし。
驚きを隠せず、唖然と彼を見つめていると、困った顔で笑われた。あ、中身は先輩のままっぽい、、?
人間ではないものとこういう風にご対面することになるとは、、としみじみ思っていたら、(一周回って他人事)今度は頭から耳の生えた男の子が走ってきた。
犬なのか、狐なのかは分からないが、獣耳を生やしている。、、横には耳が無いのだろうか?どういう聞こえ方するんだろう、、
じーっと観察していると、余程目付きが悪かったのだろうか、青い顔をしてこちらに向き直って深々と礼をされた。
「えーと、自分は主様、、基、吉鬼様に仕えております、響春と申します。今日から、貴方様の付き人の任を賜りましたので、以後宜しくお願い申し上げますっ。」
見た目の齢はまだ九つ程の子が、これほど難しい言葉を使えるのか、、!と感激しつつ、相手につられて敬語で挨拶した。
「ならば、執務室に行くから着いてこい。」
部下の前だからなのか、先程までと少し違う口調でそう命じた。その言葉や大きな背中からは、重厚な威厳が溢れており、もしかして、かなり位の高い妖なのか?と仮説を立てつつ、これまた日本風の綺麗な廊下を進んでいった。
「父上、何用でしょうか?しかも、コレまで牢から出すなど、、」
「誰がコレだ?ブチ殺すぞクソ野郎。」
「ハイハイ、喧嘩ストップなー!全く、お前らはいつも顔合わさせたら喧嘩しかしないな。」
え?えっ?父上?イケメンすぎんか、、顔似てるし兄弟?てか、先輩家族いたの??彼女いないっていった、、あ、奥さんはいないって問うてないから?屁理屈じゃね??
ハテナマークが頭をビュンビュン飛び交う中で、また新たな爆弾が投下された。
「俺さ、この人と再婚するから!手ぇ出すなよー、お前ら!」
ポン、と肩に手を置かれそのような紹介をされる。
それだけ言うと、以上!と声を上げて解散を命じた。
私もその兄弟達も納得と理解が出来ていなくて、必死で出ていこうとする彼を食い止める。
そんな私達に、彼は吹き出し大笑いしだした。
「今のお前ら、家族みたいだったぞ!その調子だな~!」
偉い偉い、とでもいうかのように、頭を撫でられる。兄弟達は頑なに拒否していた。、、あ、もしかしなくとも兄弟っていうより双子かも?(今更)
場が和んだ所で、各々自己紹介をすることに。
「私は堂森綾です。まだ何が何だか分かってないけど、よろしくお願いします。」
素直に今の感想を述べて、さっさと終わらせた。
「俺は、綾でいう、吉野庄。だが、こっちでの名前はさっきちらっとそこの子狐も言ってたが、吉鬼。お前みたいに名字と名前で分かれないからなー、ここは。」
お見通しなのだろうか、心の中であれ、名前は?と思っていたのが顔に出ていたのか、、もし後者なら恥ずかしいばかりだが。
続いて、双子?の全体的に色素が薄い方の子が胸に手を当てて、執事のような礼を見せる。
「自分は吉影って言います。鬼城軍第一組の長を務めています。嗚呼、鬼城軍というのは、ここら一帯を指揮し、平和を維持する為の軍なのです。」
しっかりこちらの分からない所を察してくれる辺り、父親譲りだね。後で言っとこ。
もう一人の、やけにボサボサだが、吉影君と似たような髪型(左右逆で黒髪)の男の子はなかなか自己紹介してくれなかったものの、先輩、、吉鬼が何かを言ったことで仕方なく、といった様子で話してくれた。
「俺は、鬼龍。言っておくが、仲良しごっこをする気はねぇ。俺は俺の為にするんだからな。」
ギロリと睨まれながら彼の言葉を頭で復唱する。、、アレ?仲良しごっこってことは、今後もまた会う機会あるってことです?
それの答えだと言わんばかりに、吉鬼が口を開く。
「鬼龍には先に話したが、
お前らには少々旅に出てもらう!
と言っても、自らの花嫁を行かせるんだ、それほど危険ではない。だが、警戒は怠らぬように。何せこの娘は現世から何の事情も説明することなく連れてきてしまったので、この土地や世界についても全くの無知だ。
だから、お前ら二人を俺の嫁の騎士に任命する!お前らなら、全て回る事も可能であろうし、実力は申し分ない。
綾、旅先では絶対に此奴等と離れることにないようにしろよ?お前はいつも肝心な時に限ってどこか抜けるからなぁ」
先程のようにポンポンと頭を撫でてくれる。そして、安心させるかのように優しく微笑む。
それらによって、無事にHPを回復させた私は、元気よく頑張ります!と告げた。
双子達には軽く呆れられただろうが、声を出すというのは大事なんだよ。ええ、吉野先輩の教えです。
「仕方ねぇ。言っておくが俺は、コレを無事に遂行出来たら晴れて自由になれるっつーのがあるから旅に行ってやるだけだ。つーわけで、死んでも逸れんなよ、クソガキ。」
「は?あんたら幾つよ?見た目的に年下」
「五百五十二。」
「は?」
「まぁ、人間と違って自分らは時の流れが遅いからね。」
そういうことか、、てっきりそういうジョークなのかと思った〜。
「父上、質問なのですが。旅に行っている間、鬼城軍はどうするおつもりなのでしょう?」
「仮でお前の補第一佐に任せたぞ。彼奴ならまだマシにこなすだろうしな。」
そうですか、とだけ返すと、彼は黙り込んでしまった。
そんな彼に後ろ髪を引かれつつ、手招きする吉鬼の方へ一歩歩みを進めた。
「どう思う、俺の子供達は。どういうわけか、いつの間にやらあんな気難しい性格になってな」
多分貴方の放任主義のせいでしょうよ
ちらっと兵士やらに聞いたけど、また遊びに行かれたんですか!みたいに言ってたし。呆れてたよ、兵士達も。
「どう思う以前に、子供がいた事の説明をしてもらいたいんですが、、」
そう、子供がいるとは聞かされてない。最悪、元妻が出てきて修羅場、とか子供達にけちょんけちょんにされるとか、面倒なことが多すぎる。
しかも、かなりの女好きだと聞く。尚更怖い。
「子供達が嫌なのか?」
「いや、こう、、なんていうか、、虐められそうで、怖くて、、」
事情があるんだろうが、流石にちょっと面倒事になる要素が多い。フリーターからジョブチェンジしてこの仕事内容は流石にちょっと適応できない。
「なら、君にはコレを渡しておこう。これは、連絡用の紙だ。言うならば、手紙とラオンを合体させたような物だ。」
なるほど、、と手渡された紙束の一枚をペラリと捲る。見たところ、なんの変哲もない紙だが、こんな世界だし、有り得るだろう。
ちなみにラオンとは、スマホで使える、超有能で入れてない人はいない程大人気な連絡用アプリのことである。
さて、紙束は、一旦響春に渡して、先程の質問に戻す。
しかし、次の予定がどうとかで答えれることなく去っていった。
「もー!意味分かんないんだが!?先輩が子供いるし、人間じゃないし、しかもあの人、旅に出ろとか言ってたよね!?こんな異界の地で旅に出させるとか、殺す気なんですかね?鬼畜!鬼畜の所業だー!」
、、あ、ゴメンね。怖かったよね、本当ごめん。
涙目でこっちを見てる響春を見て、怒りがフッと和らぐ。そして、罪悪感が出てきたため、彼に駆け寄って頭をポンポンする。
すると、泣き出してしまったので、尚の事慌てる
なんか、今日あった二人よりもこの子のほうがよっぽど子供よね、、可愛い
ひとまず謝ることしかできないが、一人にしてくれと言われたので、そっと席を外す
適当に、ベランダに出てみたけれど、、高っ!
風が髪を搔き乱す中で、押さえて下を見ると、高層マンションどころか、スカイツリー位の高さで驚いた。
やっぱり、何もかもが規格外なんだな、、
改めて、異界だと現実を突きつけられた感じ。
遠く下に見える提灯の灯りや耳をすませば聞こえる、ガヤガヤとした喧騒。その風景は、少し異なるが東京となんら変わらない気もしてきて、何となく安心した。
そろそろ響春君も落ち着いた頃かと室内に入ろうとした瞬間、誰かに首の襟をグイッと掴まれてしまった。
そして、面倒そうに俵担ぎにすると、高くジャンプした
只でさえ高かった所の屋上へ少々乱暴に降り立つと、ペイッと地面に放り出された。
何とか受け身は取ったものの、急に何なんだ、と相手を睨みつける。
その相手が、例の子供(しかも、牢から出されたとか言われてた方)だったとき、私は今からどうするべきだろうか?
相手もこちらを睨んでおり、蛇に睨まれた蛙の気持ちがよく分かる。先生、実際になってみると動物の気持ちも分かるモンなんですね、、あの時は否定してすみません。
ふと脳裏に出てきた、小学校の理科の先生に謝っておく。、、いや、絶対に今すべき事ではないだろう。
思った以上にパニック状態なようで、腰が抜けたのか、相手が近づこうともこの場を動けない。まるで何かに縫い留められているかのように。
、、実際に縫い留められてました。何か重しが体に付いてた。いつの間に?
「、、ンな怯えんなって。何も、取って食う訳じゃねぇんだ、、今はな」
オイ!そこは確実に否定しろよ!不安煽ってんじゃねー!
パニックで脳内おかしくなってるます★
って、それどころじゃない、、逃げなければ、、!
今までゆったり弄ぶように来てたくせに、急に高速で動くのはやめてもろて。あと、ちょっと力強すぎ、手首折れる。
今の状況=両手上で止められてて、馬乗りにされている
おやおや、ちょっとやばくないです??
口調もおかしくなりながら、今の状況を整理した
てか、髪の毛擽ったい、、切れや!
ついに情緒不安定になりだしましたぜ、イエイ!
ん?顔近くねーですかね?距離感バグってる系男子、、じゃないですね!ええ!え、どゆこと?子供にこうされてんの?ん?混乱してきた。
すると、ゴニョゴニョと口を動かしているのが見えた。しかし、聞き取れなかったのでもう一度と頼むと、キレながらこう言われた。解せぬ。
「だーかーらー!あんなダメ親父より俺にしとけって言ってんだ馬鹿が!」
へー、成程成程、、ん?ちょい待ち
え?君すっごく私のこと嫌いじゃなかったっけ?どういう心境の変化??