1-4 加速する世界と揺がぬ才能/one of truth, diverge its fates 202X/2048(5)
目が覚めると、私はずっと上に向かっていた。というより、担がれていた。…誰に?
ふと、視線を横にずらす。そこには、私を抱えている女が一人。そこでようやく私は今の状況を思い出す。
そうだ。私はalphabeterに囚われの身だった。それをすっかり忘れていたなんて、なんたる不覚か。
ここで改めて状況を整理する。幸運なことに、Adamは起動状態のままだ。アーマーそのものはまだネックレス内に閉まったままなので、いつでも対応はできる。取り敢えず、セントラルコアに流れている電波を介して現在位置を送信しておいた。あとはユウがなんとかしてくれるはずだ。
さて。取り敢えず私がやるべきなのは、コイツに探りを入れることだ。まずは形から入ってみることにする。
「んっ、んう…?……あ、そうだ…私…!!」
「んあ?なんだ起きたのかよクソガキ。」
「クソガキってなによクソガキって!!!」
「お前なんざいつでも殺せるってこと忘れるなよ。」
なかなかに凶悪だ。ちょっとだけちびりそうになった。ちょっとだけ。うん。
「ねえガキ。なんで私がアンタを連れて上に向かっているか分かる?」
「…人質でしよどうせ。」
「物分かりがいいな。ということで殺されるまでのボーナス猶予発生しました〜!!!」
奴はファンキーだった。引く。
「………」
「まあ聞けよ。どうせお前死ぬし。ここにはな、私が最も欲しかったモンがあるんだ。つまり、組織として欲しかったモノ。それさえあれば、この世界の理すらねじ曲げることができるんだよ。"大いなる意志"がそう告げているんだよ。」
やはりよく分からなかった。そもそも、「大いなる意志」とは一体何なのか。それこそが奴らの親玉なのか。
「その"大いなる意志"って何のことよ。私には理解できないわ。」
「そうか。まあ、お前らには分かるわけがないだろうな。何せ、頭の中に流れてくるんだからな。」
「は……?」
「信じられねえならお前は結局その程度ってことだ。聞こえていたら、お前も私達の仲間になれたのになア。」
「ふん、そんなのお断りよ!!!」
「そうか。じゃあ後で殺してやる。ほら見ろ、ようやく目的地だ。」
そう言って彼女は彼女が言う目的地に到着する。そこには無駄なものは何もない、ただ空が見え、空に近い、屋上であった。
と、突然Accessが空に向けて何かを放つ。ドームの天井に、穴を開けるかのように。
しかし。
「………ち。やっぱり無理か。まあ想定内だ。最初から期待なんざしていなかったし。…じゃあ。」
そう言うと彼女は屋上の床に強く足を踏みつけた。
瞬間。その足から集まっていく高エネルギーが観測された。これはまさか…
「……まさか、ここで……???」
「ああそうだ、チャージって奴だな。」
完全体になるタイムリミットが始まった。
「ああ…これだ…これだよ……この圧倒的な力。これぞまさしくalphabeterの力!!!ははは、はははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ちっ、くしょお……」
「抱えられたままで、何もできない自分が憎いか?そうだろう憎いだろう!!!私はこれからさらに最強になるのだから!!!もはや誰が相手であろうと勝てる!!!そしてその力で人々を支配し、殺戮する。その最初の相手がお前だ。誇りに思えよガキ、偉大なるalphabeterの力の前で、お前は誇らしく死ねる!!!!」
段々と力が強まっているのを感じる。どうやら私は、この力によって実験かのように殺されるらしい。
「だが普通にやってもスマートじゃない。そこで私はお前という存在を利用することにした。そしてどうやら着いたみたいだな。」
「!」
そこにはリックとユウが立っていた。どういう手段を使ったかは知らないが、追いつくことができたらしい。
「なんだコレ…力がアイツに集まっているじゃねえか!!!」
「まずい…完全にチャージ状態だ……」
「ねえクソガキ達。貴方達が欲しいのは"コレ"よね?」
私はどうやら"コレ"扱いらしい。
「クソ野郎が…今すぐノアを取り返してやる!!!」
「待ってリック!!!それじゃあ貴方の方が死んじゃう!!!」
しかし、リックは既に一撃を放つためAccess
へと攻撃に入った。
だが当然、それは軽く受け流され、攻撃をくらってしまう。
「さーらーに〜」
Accessは、その力でもって、何かに干渉した。だが、それが何かが分からない。
しかしその答えは当の本人によって告げられる。
「知識の宝庫ともされるセントラルコア。う〜ん、確かにこれは最高峰だ。」
瞬間、重力がリックにだけ集中した。しかも、全方角からの容赦ない圧力。吐いていた息ですら己の身を潰すかの如く、存在する空気そのものが彼を襲う。
「あが、ご、ぶ」
「あれれ?何もない空間なのに、凄い苦しそうだね?どうしてかなあ???」
奴はわざとらしい態度を取る。凶悪だ。これがalphabeterか。確かに、奴は間違いなく敵だ。
しかし、リックをどうにかしようとも、もう一人が動き出す。ユウだ。
「情報の適合、及び分析完了。舐めるなよ…俺がぶっ潰す!!!」
ユウは彼女が最も苦手とする立ち位置に素早く移動した。そして、彼女に対して最適な一撃を放つ。
「お前のハッキングは電子、及び電磁波由来のものだ。だから同じ出力でお前に干渉し、揺らいだ所を突く!!!」
「へえ、やるね君。」
流石の奴も身動きがぎこちない。これはチャンスなのではないか。
しかし、そこは流石のalphabeter、ここから有効打ともなるカウンターを彼に放つ。
「でもね、溜め込むだけじゃなくて放つこともできるってこと、忘れてないかな〜???」
直後。ユウに放たれたのはより強度な電磁波。一度放った電気を吸収し、鏡のように反射され、彼の体に電磁波が流れ込む。
「が、ぐぞ…」
共に一撃。やはり敵わなかった。私が最も恐れていた結果だ。
「おーし、見やすい位置になったな。じゃあ早速、お前のクビをちょんぎってしまおうか。」
「「な」」
やはりリックとユウを精神的に追い詰める方に出たか。あまりに悪趣味すぎる。
そしてそれに対して何もできない私も情けない。せめてAdamさえ起動すればとも思ったが、さっきの電磁波で完全にやられてしまっている。
ここまでか。そう私は覚悟を決める。…嘘だ、本当はボロボロになって泣いている。
「ひ、ひぐっ、うあ、あ」
「いいねその泣き声、そそる。でもうるさい、さっさと死ねよ。」
首に斬撃波が放たれる。ああ、ああ!!!
「ーーーーーー!!!!」
「ーーーー!!」
「ーー」
「ー」
「」
……………。
「ふー、ようやっと静かになったな。なかなかに苦しそうな表情だっ
「ハズレよ。」
直後、Accessにアッパーがかかる。そしてその威力は果てしなく、奴を3回転ほど空中で回してしまっていた。
そして私は、ようやく気づく。
「うー、痛い痛い…はあ、帰ったらあなた達説教よ。だから今は取り敢えず何もしないで待っておきなさい。」
その人は、『監獄』のトップ。かつ、ユウのお姉さん。アマノ・ルリ。そして、界隈屈指の超能力者。
「ご、ぶ、まさか…アンタが居るとはな。へへっ、最高に、最恐に面白いことになってきたなあ!!!!」
「ええ、alphabeterのA。私もあなたと言う存在にワクワクが止まらないのよ。最高に楽しい。」
界隈最高峰とalphabeterの強さはほぼ同等とされている。しかしその実態は隠されていることが多く、この世界では伝説と同等の扱いだ。誰が何の能力を使っているか。それを知れるのは上層部と親しい間柄でしかいないという。
そして、ルリ姉はそのうちの一人。それを知っているのは、私と、その間柄だけ。ユウもリックも当然知っている。
「でもね、Accessちゃん。これはちょっとやりすぎかな〜???この始末をするのは毎回私なのよ?それに私は私で周りに敵を作っちゃっているし…はあ〜先が思いやられるわ〜」
「一つだけ解決策があるぜ。テメェが死んじまえばいいんだ。そうすれば」
「元も子もないこと言う暇はあるのね。私を相手しているのに。」
「!!!!!!!」
瞬間。ルリ姉はAccessの懐に移動していた。それでもって強力なグーパンチを奴に放つ。たかがグーパンチ、されどグーパンチ。放たれた一撃は奴の体力と精神を一気にすり減らす。
ぐごぎぐぎがぁあああああ!!!!!、と。今までに聞いたことのない音がそこから発せられた。その音と共に、奴は屋上へ投げ出される。中々の仕打ちだ。
「…ふう。」
そして、ルリ姉は一悶着ついたと判断し、いつものユウのお姉さんの顔になっていた。
「ん〜じゃあ〜、ちょっと説明してもらわないとね〜」
「「「ひっ」」」
やっばい。これ相当怒ってる。どうしよ。
《2048.7》