1-4 加速する世界と揺がぬ才能/one of truth, diverge its fates 202X/2048(4)
「ふう…とりあえず粗方片付けたかな?」
「暴れすぎなんだよリック。大体、あの爆発はどう責任取るんだ?」
「そうよ、仮に叱られるみたいなことがあったら、私は私で逃げることにするわ。」
「お前は薄情なんだよノア!!!」
「まあ、お前が悪い。」
「ユウ、俺ら友達だろ?」
「失態しでかした奴は切るに限る。」
「ごめんよ捨てないでお二人方!!!」
とはいえだ。無駄にゴチャゴチャしていた機械を片付けることができたのは大きい。終わりよければ全てよしという訳ではないが。
「とりあえずノア、下の方の連中は?」
「あー、これはまずいわね。さっきより早く上がってきているわ。」
「本当にすまん…」
「もういいさ、お前は取り敢えず元気にやってればいいんだよ。そういうことも織り込み済みで動いたんだからさ。」
「そうか?なら俺はいつも通り元気満タンフルパワーでいかせてもらうぜ!!!…待て、織り込み済みってどういうことだよ!?」
「とりあえず、追いつかれるのもまずいからさっさと上に上がるか。」
「そうね。その方が一番良いわ…待って」
ふと。ノアが何かの違和感に気づいた。
「ねえ、何か一人だけ妙に早く上がってきてない?」
「は?…でも、確かに何か妙だな。」
共有されたセンサーを改めて確認すると、明らかに異次元の速さで登ってきている何かがある。まさか、姉貴か?だが、姉貴の集団にも気づかれないようシステムは組んだつもりだし、何より『監獄』が能力を使う程まずい状況だと判断したのか?
だが、『監獄』の能力者の中に、そのようなものが存在したとは確認していない。というより、そういった能力を使うのは航空隊の連中だけだ。よもや派遣か?
などと考えていると、さらに疑問を増やすようなことをノアが発した。
「え、反応消えたんだけど?」
「なんだって?」
「本当よ!なんか、急に消えたのよ。私達の50メートル下の位で。そんなことありえる?」
「そんな能力なんてあり得るのか?」
「分からないわよ!!!そんなことできるのって、制御隊の能力者か、あるいは…」
その時、彼らは気が付かなかった。
もし。
もう少し早く判断をしていれば。
きっと別の道があったかもしれないと。
これが本当に、分岐のきっかけになるとは。
彼女がその後告げた、ある者達の名称、世界を揺るがす連中の名前、つまりは、
「alphabeterくらいよ!!!」
その言葉が、トリガーだったのか、あるいは単純にタイミングが悪かったのか。
その嫌な予感は。よりにもよってかの凶悪なalphabeterは。唐突に姿を現した。
ノアを一直線に捕まえて。
「「「!?」」」
「へ〜、貴方女の子なんだ。なかなかアグレッシブで素敵だとは思うわ。」
最初の印象は、ただただ綺麗の一言。
「でもね、私はムカつくのよ。クソガキが。」
次に暴言。ここで既に印象は最悪になった。
「だからこそ面白い。こんなよく分からない所に来る子供なんて。なかなかに興味が尽きない。」
それは果たして上部だけの言葉か。
「だーかーらー、そんな子供はぐちゃぐちゃにしてから一つ一つ調べて炙って食らうのよ。」
そして最後には、人ならざるものが発することのない、凶悪で最悪な宣言。
ここでもう。次の行動は決まった。
「「加速!!!」」
「遅い」
俺たちはノアを救出すべく加速装置を展開した。
しかし相手もまた、その加速に対し、完全な対策を打ってきた。というよりかは、ただ、腹パンを食らった。
たかが腹パン、されど腹パン。高速で動いた分の力も加わり、その威力は昼に食べたものを逆流させるどころか、胃液すらも全て吐き出させてしまうほど。つまりはかなりのダメージを食らう。
「「グガッッッッッッぁ!!!!????」」
「おー、なかなか耐えるわね。でも、私が逃げ出せる位には動けなくなったわね。」
奴はそのまま上に向かおうとする。俺たちはそれを阻止しようと動こうとするが、体は既に言うことを聞かない。
「耐えたことに免じて、最後に名前だけ教えてあげるわ。私はAccess。貴方達が忌み嫌う、alphabeterの一員よ。能力は、『相手の情報のアクセス、及びその能力の模倣』。じゃあね♪♪♪」
そうして奴は、ノアをさらって上の階に消えていった。
※
「チクショウが!!!」
逃げられた後、ようやく体の感覚が戻り出したリックは、ずっと留めていたものをはきだすかのように言い放った。
当然、俺も同じ気持ちだ。
「ああ…やられたよ…完全に舐めていた…alphabeterにも対抗できるようシステムは組んだつもりだったのに、アレが本物か…」
今までalphabeterの強さの基準は、関わってきた理系の人間達の能力と照らし合わせて把握をしていた。おおよそ、公務系能力者の10倍の威力と応用力、それが俺の判断した指標だった。
しかし、実際は50倍、いや100倍だった。あまりにも脅威だった。今になって姉貴の言葉が沁みる。alphabeterだけは関わるな、と。
「…なあ、alphabeterって、結局何者なんだ?」
「大規模な報道だってあっただろ?alphabeterは能力そのものに脳を侵食された化物。だからあんな力があるんだよ。」
「ちげえよ、俺が聞きたいのは、何が目的かってことだよ!!!人も攫って、殺して、建物も破壊して、最終的に何がしたいんだよ!!!」
「…姉貴の話だと、アイツらは革命を望む過激派集団らしい。この街に対して不信感があり、だから各地で暴れ回っているんだと。」
alphabeter。その実態は革命家集団である。人数はアルファベット数に合わせた26人。一部では、主張がAからZまであるということの表れとしての意識表明を名前にしているとも言われている。
メンバーの全員は、何かの手段によって、能力者の限界値を克服している。その為、応用性も高く、威力も凶悪。治安部隊ですら手に負えないのではとも言われている。
彼らは重要な施設に突如として現れる。そこで行われるのはシステムの改ざんと破壊。そしてハッキングだ。
当然、公務員はこの集団をそのままにしていない。彼らが目立ち始めた辺りから、セキュリティも厳しくなり、訓練もより厳しいものになったと聞く。当然、対alphabeterのための部隊も存在するとは聞くが、その正体はトップただ一人しか知らないらしい。理由としては、どこに内通者がいるか分からないから。alphabeterはどこかに溶け込んでいる。そして間違いなく、公務員の中にも内通者は存在すると踏んでおり、その対策としてトップとその部隊の代表だけがその事実を知っているという方法に出た。
しかしながら、alphabeterはつくづく穴という穴をかいくぐっている。一体その力はどこで身についたのだろうか。
「そして今回はセントラルコア、と。ふざけるのもいい加減にしろってんだ。」
「そうだな。そうしてセントラルコアに侵入して、そうしたら偶然にも俺たちがいた。ついでだし、ガキは始末しようってな。…狂っているだろそんなヤツ。」
「ああ…だからこそ、ノアをそのままにしちゃいけねえ。」
「もちろんだ。俺もやれるだけのことはやろうと思う。作戦も色々考えている。」
「ナイスだユウ。…今から行けるか?」
「当然だ。もう下の連中も近くなってきている。追いかけてさっさと脱出するぞ!!!」
《2048.7》