1-4 加速する世界と揺がぬ才能/one of truth, diverge its fates 202X/2048(1)
1-4以降、細かく分けて投稿していこうと思います。
少しは投稿速度も早くなる…はず…
言っておくが私は、この世の中に絶望している。
丸山忠は確かにそう言った。…私には、彼自身何か大きな過去があるように思えた。だが、彼の過去に関してはあまりに情報は少ない。そこがやはり不自然にも思える。少し調べてみてもいいような気がした。
取り敢えず、先程からブツブツ文句を言っている可愛い可愛い天然さんにおつかいでも頼むことにしよう。とは言っても、ただ検索してデータを転送させるだけだが。
「クールビューティーちゃん、丸山忠の情報、もう少し欲しいから、例の所で取ってきて欲しいんだけどいける?」
「スマートにこなすわ」
「やる気満々ね。」
「当たり前よ、あんな才能手放したくないもの。ちゃっちゃと弱みを握ってやるわ。」
そう言って彼女は足早に保管室に向かっていった。ちょっと気乗りするようなことを言うとすぐにこなしてくれるものだから逆に心配になる。
「ホントあの子、ブラック企業に入らなくて良かったわね。」
まあ、命を狙われるという点においてはブラックなのだろうけど。
※
「出なかったの?」
「なんか、空白というか、消えているというか…とにかく無かったのよ!!!」
帰ってきた矢先、一言目に出たのが、情報がないとの答えだった。ない?この裏ネットワークを介してでも?
「なんか、0と1ばっかな上に、解読しても全然分からないのよ。どうなっているのよ全く!!!」
「それは大変苦労したわね…というか、2進数分かるの?」
「テキトーに調べたらなんか出てきた」
「ああ…あるわよねそんなサイト。ちなみに何が書かれていたの?」
「ええと、『結びは鹿、頭は干す』だったわ。…なにこれ?」
「確かに、なんでしょうね?」
何かの暗喩なのは確かなのだろうが、これが何かヒントになるのだろうか。というか、全く理解できない。
「あ!」
「分かったの?」
「干した鹿なんて海外しかないでしょ?つまり海外にいたってことなんじゃないかしら?」
「なるほど!確かに!…な訳あると思う?」
「ないわね」
「分かればよろしい。」
とは言え、結局何も分からないままだ。というか何故こんなにも時間を費やしているのだろうか。感覚がいいとはいえ、結局はただの表舞台の人間。多少裏の世界を知られてしまったが、もう単純に諦めた方がいいような気がしてきた。
そう、ただ単純に。そうでないとキリがない。考えすぎると足元をすくわれる…
「あ」
「何か分かった?」
そうだ。何を深く考えていたのだろう。単純ではないか。これはそういう暗号だ。つまり、ここでやらないといけないのは。
「結び…つまり最後に"鹿"。そして頭…つまり初めに"干す"、ほす、ほうす……」
「なるほど、確かにそう考えたら言葉ができる!!!流石佐紀ねえ!!!ってアレ?どうしたの?なんか急に喋らなくなったけど…」
「"ほうす"を英語で?」
「?まあ、すぐに思い浮かぶのは馬だけど。そんな当たり前のこと….あ」
馬鹿。
「「あのクソ眼鏡があああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」
※
してやられた。やられてしまった。
「というか、そもそも天才だしそこら辺の悪戯くらいできるわ…研究者ってやっぱり異常よ…」
「ねえ佐紀ねえ、アイツぶっ飛ばしたいんだけど?」
「やめときなさい返り討ちにされるわよ。」
「なんでよ!」
「貴方分かりやすいもの。」
「くそう、だったらすれ違う前に殴っておけば良かった…」
「だから返り討ちにされる…ねえ、今なんて?」
「え?だから、すれ違う前に殴っておけは良かったって。」
そういえば。丸山忠が出て行った後、退出のログはどうなっていただろうか。というか、すれ違った?
急いでログを確認する。そこには今から5分前に退出の記録が。そして、あの子に使いを頼んだのがおおよそ30分前。
「いつすれ違った?」
「ええと、ここを出て5分後くらいかな?」
「保管庫を出たのは?」
「大体、今から15分くらい前かな。」
つまり。もしかすると。彼は恐らく、あの保管庫に侵入した可能性が高い。というより、本来裏ネットワークの情報は裏ネットワークを介した機材でしか書き換えが出来ず、さらには裏の情報も書き換えそのものも困難である。
しかし。彼は研究者であり、天才だ。ここから結び繋がることとすれば。
「何か、パクられた……」
※
あの佐紀という奴は油断大敵だ。あれ系の人物は見透かすのをいとも簡単にやってのける。その為、裏を調べようにも、それをつかれてしまうのは目に見えていた。
しかし。あの金城の娘はどうだろうか。恐らく、彼女に関しては生存能力に長けているだけで、他は大したことない。つまりは、彼女を鍵にしてしまい、扉を開けば、粗方の情報を掴むことができる。
恐らく向こうは、私という人材を捨てに捨てがたい存在だと考えている。よって、一度断った私の弱点、欠点、過去なんかを調べる筈だ。
だが、表の情報はほぼ存在しないも同義なので、裏を介しての捜査になることだろう。まあ、裏すらも分かる訳がないのだが。
「大体、裏のネットワークを持っていないと思っている時点で浅い。あらゆる想定を鑑みるべきだ。」
今頃、私の「馬鹿」の文字に踊らされていることに違いない。さらには、退出の時間に気づくことも遅くなっていることだろう。
なんなら、あの無駄に大きいコンピューター室で裏情報を書き換えたなどと勘違いもしているのではないだろうか。最初に入ったのは、私ではなく金城の娘なのだから。
だがまあ、色々な情報があった。確かに、あそこには様々な情報がありそうだ。
「しかし、まず優先すべきは…」
奴、あの加速野郎を、どうにかすることだ。
「あの人を超えた力、あれは、見過ごせない。」
私のプライドが、興味が、そう言っている。静かなる、興奮である。
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