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White -in eternal winter, you slept for years-  作者: 浜坂摩耶
1.In eternal winter, you slept for years.
13/89

1-3 3つに練られし魂の設計図/Infiltration of core 202X/2048(2)

 廃れた跡に残ったものには、恐らく何もない。かつての残骸なのだから、そんな抜け殻に中身があるはずがない。きっと多くの者はそのよう考えることだろう。現在研究者である私でさえ、かつてはそう思っていたのだから。

 だが一方で、その「何もない」性質を利用して、生き延びるものも確かに存在する。ある種の生きる知恵というものだ。生きるために、色々なものを利用する。そうして地盤を整え、殻にこもる。一見生きづらそうに見えるが、それでも確かに乗り過ごすことができる。

 問題なのは、それは誰からの視点なのか。強者であると思っていたその立場は、本物であるのか。その殻に潜むものは、果たしてどちらか。


 ※


 ただの廃墟に向かっていた辺りから、恐らくとは思っていたが、その予想はやはり的中した。一段落ついた後、彼女は私が通った道をそのまま逆走し、いくつかの抜け道を通って、とある廃墟に到着した。彼女が使っている施設のようだが、このボロさ加減は流石にどうにかならないものかと思ってしまう。


 「今、ここボロボロだなあとか思った?」


 「お前の割には勘が冴えているな。正解だ。」


 「一言余計なんですけど!!!」


 私の言葉に彼女はどうにも憤りを感じているらしいが、あくまで事実を言っただけだ、それが嫌なら、それなりの証明を見せてみろと言いそうになったが、彼女が何をしでかすか分からないので心の中にしまっておくことにする。


 「(今に見ておきなさい…フフ、フフフ…)」


 「なにか言ったか?」


 「い、いいえ、何も?…あ~、お腹が空きましたわ~」


 「ごまかしきれてないぞ」


 「うるさいわね」


 とりあえず何かあることは分かったが、あんまり予想がつかない。まあたいしたことではなさそうだからそこまで心配はしていないが。せいぜい部屋の中が広いとか、見かけ騙しの機会とかその程度だろう。

 

 「帰ったわよ」


 と件の勘違いお嬢がどこかに向けて語りかけ始めた。どうやら仲間がいるらしい。それかAI識別で音声認識しているかだ。


 『合言葉は?』


 「double」


 思惑通り合言葉を使っていたのには少し残念だが、とりあえずセキュリティはしっかりとしているらしい。まあ、当然と言えば当然か。

 と思っていたのだが、

 

 「…ん?あれ?もしもーし???」


 『合言葉が違います』


 「ええ!?」


  案の定合言葉が違っていた。


 「え?いやいやいやいやそんなことないでしょ」


 なんか先ほどから慌てているのだが、まさか忘れてしまったのだろうか。だとしたらこの女、どうやってこの場所に入っていたのだろうか。

 

 「あ~昨日変えたんだったわどうしよ…」


 「いや覚えておけよ」


 「忘れがちなのよ!!!」


 「だったら普通に鍵にしろ馬鹿じゃないか?」


 「それってなんかかっこ悪いでしょ!!!」


 「かっこ悪いとかの話ではないだろ」


 「なんでよ!!!!!!!!!!」


 なんでではないだろ。



 「まさか普通の言い方でダブルとはね…恐れ入ったわ。」


 「お前が無駄にかっこつけるからだ反省はしておけ。」


 「くーるびゅーてぇいーな私の誇りを捨てることはできないわ。」


 「言っておくが私がすぐに思いついた第一印象はくるくるぱーだぞ。」


 「さてそろそろだわ。」


 無視かよ。


 「ふふん、観て聴いて驚くがいいわ。その無駄に余裕なクソ眼鏡がよくする表情も崩れこと間違いなしよ!!!!!!」


 ぶん殴りたい、正直、ぶん殴りたい。だがここで殴るのも性に合わないと思いつつ、とりあえず今日の分の薬を軽く口に含みつつ水を飲みながらかの女の後を追う。

 と、そんな彼女が先ほどの自分の行動を見てこんなことを聞いてきた。


 「持病かなにか?」


 「ん?…ああこれか。これはただのアレルギー薬だ。飲んでおかないと結構ひどくてな。」


 「そういうのって結構大変なものでしょうしね。」


 「まあ、そうだな。というか、そういうところもあるんだな、気遣い。」


 「なんで気遣いできないって思っているのよ。かなり悔しいわ。」


 「泣いてもいいんだぞ。」


 「そこまでじゃないわよ!!!!!!!」


 なんてやり取りをしつつ、無駄に話をしすぎたのもあって時間を少々かけて、ようやく当の目的地に辿り着いた。…て、これはこれは。


 「お前に似合わないくらいしっかりしている部屋じゃないか。」


 「そっち方面での驚きは望んでいないけどとりあえず驚いてくれたのは嬉しいわ。…そう、ここが私たちの基地、『Wt.space』よ。」


 私が当初想像していたのはおおよそ学校の一教室にごちゃごちゃしたものが散らばっている、的な情景であったのだが、驚いたことに、冗談抜きでこの場所は、物にしろ、雰囲気にしろ、しっかりとしたものが形成されていた。

 その組織の規模を判断するにあたって根拠となるものの一つにあたるのが施設の規模なのだが、その規模が実際に存在する中小企業、あるいはそれ以上のものであった。書類や開発物らしきものも種類ごとにしっかりと整理整頓されており、コーヒーメーカー、ちょっとした植物、その他菓子類もしっかりと常備されていた。作業スペースもかなり余裕があり、部屋全体は広い。これはなんというか、


 「お前にはもったいなさすぎる」


 「最初入ってきた仲間にもよく言われていたわ。」


 分かっているじゃないか、その仲間とやら。


 「ん?そういえば仲間がいるのか?」


 「まあ私一人じゃこの組織は回らないからね、当然いるわよ。何度かやめかけているけど」

 

 「やめたがっている辺りお前本当に人遣い粗そうだな。」


 「私はそこらへんのダメ人間じゃないわよ!!!!!」


 「というかやめたがっているって正直に言うか普通」


 こちらとしてはさっさと自分自身のことを反省してほしいのだが、多分、というか絶対言うことなんぞ聞かないだろうから、本当に一番上の立場なのだろうかという正直な気持ちはとりあえず隠すことにする。

 さて、次にその仲間とやらがどういった連中なのか軽く見てみたいもの(まあ期待はあまりしないことにする)だが、今はここにいないのだろうか。まあ別室のような気はするが。

 と思っていた矢先、やはり別室にいたのか仲間らしき人物が部屋に入ってきた。長髪で後ろを結んでいる、黒髪の女性だった。後、絶対こっちの方がクールである雰囲気で分かる。


 「あ、佐紀ねえ~普通のダブルじゃなくて『double』にしてって言ったじゃあ~~~ん、、、」

 

 「いつも調子乗るからそういうところから治してあげようっていう粋な計らいよ。少しは自分のことを知りなさい。」


 「私はくーるびゅーてぃーなれでぃよ」


 「鍵に変えとくわね」


 「なんでよお!!!!!!!」


 扱い分かっているじゃないか。なんて感心していたら、まあ当然のごとくこちらに気づいた様子で話しかけてきた。


 「ああ、あなたがかの丸山忠君ね、ごめんねこんな子で」


 「本当ですよ」


 また馬鹿にしたわねなどと外野がほざいていたがそんなものは無視し、もう片方の仲間とやらと会話を続ける。


 「私は木下佐紀、とりあえずここの開発担当だわ。ちょっと手伝ってあげている感じなのよ。この子何気にとんでもないもの持っているからね。」


 「そうでしたか。改めて、丸山忠です。」


 「結構苦労しているみたいね。」


 「まあ内容が内容ですから。」

 

 やはり色々知らべているみたいだ。きちんとその点においては裏の組織らしい。


 「さて、ここまで来てもらっていきなりなんだけど」


 かの開発者はそのまま続ける。


 「能力者(あれ)を見て、どう思う?」



 本当に裏事情を知っていそうな人物が現れて、ようやく現実がはっきりとしてきた。嘘みたいなギャグ世界の住民のせいで余計な時間をかけてしまったが、正直、聴きたいことは山ほどあった。何故、禁止されているはずの超能力開発が既に達成されてこうやって現れてきたのか。何故、私を必要としているのか。

 だからこそ、ここは正直に言うのが筋だと思い、そのまま告げることにした。


 「正直、能力者自体はいたとは思います。ですが、ここまでのものになっているとは思いませんでした。…ただ、妙に早い気もします。」

 

 「なるほど、早い、ね。やっぱり君は変わっているね…ってごめんなさい、この言葉苦手でしたのに」


 「そこまで調べているとは驚きですね。そのことに関しては大丈夫です、慣れていますので。お気遣いありがとうございます。」


 「なら良かったわ。正直なところ、まだ詳しくは調べていないからね。ざっと大学入学周辺を調べたくらいだから、後の話はあなたから話してくれる以外は何も調べないわ。」


 「そうですか。」


 「さて。早い、と言ったわね。流石だわ。きっとこれから説明することもすぐに理解してくれそうね。早速だけど、話しちゃってもいい?」


 「構いませんよ。」


 「ありがとう。じゃあ、説明するわ。」



 丸山君、君は人間の遺伝子が未だ不完全であるのは知っているよね?そう、まずはその遺伝子のことよ。確かに、人体のことは未だ謎が多い。現代科学に至っても解明されているのはほんの少し、ようやくIPS細胞だのなんだのが出てきたのは記憶に新しいわね。後はウイルス関連とか認知症のメカニズムとか…、とまあ、言い出してしまえばきりがないわね。

 話を戻すわ。遺伝子情報の解明は現在も研究が進んでいるけれども、まだまだ真相までにはかなりの時間を要することになるでしょう。最も、()の(・)科学(・・)技術(・・)となるとね。…気づいたかしら?

 もう一度言っておくけれど、ここはあくまで裏の組織の一つ。表の技術だけなはずはないでしょう?つまりね、裏の技術ともなればある程度は真実に近づくの。そして当然、世の中には表に出されることなく裏で広がって終わるものも存在する。

 三重らせん構造が存在する人間が発見されているニュースは見たことあるかしら?世界で5人しかいないとされているって内容の。凄いことよね、何せ今まで二重らせんのものしかないとされていたのに、まさに世紀の大発見だわ。そして報道されているということは、表の科学者達が発見したものなの。そこも凄いことよね。

 ただ、そのニュースはあんまり広がらなかったの。何故だか分かる?拡散される前に、裏の組織が止めたの。だって、それを広めてしまえば、こちら側が不利益を被るからね。そしてそれをする上で何をしたか、予想がつくわよね。

 ある時から、その科学者達の身元が不明になったのよ。まるで存在しなかったかのように。もちろん、該当者の5人も行方不明だわ。まあ裏ではこの手の出来事なんて日常茶飯事だし、あるいはその科学者達が雲隠れしている可能性だってあるわ。とにかく、その科学者達は行方をくらませた。そういうことになるわ。…問題はその後よ。

 その10年後、南極で不可解な爆発事故があった。裏でしか回っていないのだけれども、あまりに不可解なもので回ってきたころはかなり話題を呼んでいたわ。何せ、爆発する規模が大きすぎる。気象異常だって発生しているわ。オゾン層に穴が開いたのはかなりの衝撃だったわね。表じゃ二酸化炭素がどうのこうのってなっているけれど、裏じゃそんなのデタラメだわ。これに関しては表に持っていってもいいけれども、まあ信じてもらえないでしょうね。

 つまり、ただの爆発ではなかったということ。その爆発後、何があったのか調査が入っていたらしいのだけれど、そこにはもう不自然すぎるくらい何も残っていなかった。本当よ?さらに不可解なのが、その日の南極は天候がひどかったのもあって船や飛行機、ヘリも出ていなかったらしいのよ。当然、南極施設にはその日周辺の入退出記録は0、こんなことなかなかないのよ?裏の組織ですら何をどうやってもみ消したのか分からないくらいなのだから。もうこうなってしまってはどうしようもないわよね。

 こうなってしまえば調査隊ももうお手上げ。結局、謎のままその調査は終わってしまったわ。裏組織をここまで振り回した挙句、手がかりすらわからなかったこの事件は後に裏で『Zero Day』と呼ばれるようになるのだけれども、私にはこの事件の名前が単純すぎてダサく感じるのよね…じゃなくて。

でも、その後とんでもないことが起きるのよ。というのもね、どうにも例の5人が裏の世界で暗躍し始めているの。…その反応だと、やっぱり信じていないわね。まあこちらとしてはその証拠をもったいぶらなくて出すことができるからいいのだけれど。はい、これがその証拠。動画が残っているの。これを再生、と。…どう?一人を中心に見えない衝撃波が現れているのが分かるかしら?ホント、漫画みたいよね。こんなものが現実にあるとかたまったものじゃないわ。

 ん?どうやって撮ったかって?そりゃあ当然、生で撮っているわ。そこにいた被害者が動画で残したの。まったくよく撮ろうって頭が回ったよね、やっぱ裏の人間は生き様が違うわ。…おかげで、これが裏で知れ渡るきっかけとなったの。ありがたい話よね。

 でも、それでももう手遅れだったの。実は、その日を境に似たような現象がまたたく間にあちこちで発生しているの。まるで増殖したかのように。恐らく、あの研究者達が仕組んだことね。大方、不特定多数の人間の能力発現の開発が成功したのか、それとも5人が同時多発的に活動しているのかのどっちかだって、思っていたの。

 実際は、薬だった。そう、元々の人間を薬物によって能力発現したのよ。それがさっき現れた能力者。…恐ろしいわよね、こんなことができるということは、いつ本格的に動いてもおかしくないわ。でも、これが現実。紛れもない、真実なのよ。

 そんな彼らが今、さっきのあの子を狙っているの。まああの子も複雑なものだからね…まあ、結論から言うと、あの子は形見なのよ、あの場所にいた研究者達の。

 そう、研究者達はね、みんな死んだのよ。たった5人に。



 「…」


 「酷よね、たまたま生まれがそこだったっていうのに。しかもね、彼女は最終セキュリティなのよ。彼女の親、金城啓介のデータベースの、生体認証型パス。生きるセキュリティとはよく言ったものよ。」


 衝撃だった。まさかあの何考えているのかよく分からない生体物がよもや重要事項の鍵となっているとは。いくら親バカとはいえ、娘に残すにはあまりに重すぎる。明らかに狙われるのは分かっていたはずだ。

 しかも、あの金城啓介だと。


 「あなたも研究者の端くれだから分かるわよね。そう、あの金城啓介よ。」


 金城啓介。世界の研究機関における数多の賞を獲得し、日本の科学に貢献した第一人者の一人である。主にDNAを中心に生態学を専門にしていたのは百も承知なのだが、まさかこのような形で関わっているとは。だがまあ納得はする。三重らせん構造なんぞ見つけてしまっては興奮するに違いない。


 「そんな金城啓介はね、かなり娘を溺愛していたのよ。これでもかってくらい。まあ、裏情報だから信憑性はないけど。でも彼女、パパ呼びだから絶対だと思うわ。」


 「パパ呼びしているなら間違いないですね。」


 別にいいでしょパパ呼びでも!!!!!となんか外野が騒いでいたが、普通に無視することにする。


 「でもね、彼女、若い内に別れたのよ。それも早くから。事件が起きた頃には既に苗字を変えていて、なんでも、母方の方を使っていたらしいわ。よくある隠し方よね。」


 「でも、とっくにバレている。」

 

 「だから狙われているというのもあるのよね。ただ、余計に悪化させてしまった出来事があるのよ。」


 「はあ」


 「あの子、無駄に情報を知っているのよ。なんでも研究者一括のデータベースに、本来通常アクセスできないはずの普通のパソコンでアクセスできたらしくて。なんでそんなことできるの?って聞いたら、『なんか突破できた』って言うのよ、流石に疑ったわ。でも本当に勘でいけたとかって言うから、ひょっとすると妙な才能はある子なんじゃないかって気になっているの。」


 「なかなかに変人ですね。とにかく、狙われていた理由が分かりました。ただ、彼女は

そんな身分なのに、あんなにアクティブに行動してもいいんでしょうか。」


 「まあ、そう思うわよね。これにはちゃんと理由があるの。ここに関しては、あなたのことも関係しているわ。」


 「なんだと?」


 「単刀直入に言うわ。あなたの研究、予測通りよ。」



 最初から、そうなのではないかとは思っていた。自分でも寒冷化を取り扱っているなんてなかなかの変人にしかできないものだと思う。しかも温暖化と呼ばれているこの世の中で。


 「ですが、何故私なんでしょうか?」


 「あなたはね、無駄に賢いのよ。多方面で色々できる人間なんてそうそういないわ。しかもこの状況を受け止めている時点で、あなたはどちらかというとこっち側の人間よ。適性が、揃っている。それが理由よ。」


 なるほど、適性か。確かに無駄に冷静で物事を見極めている辺り、かなりこの環境は合っていると過言ではない。


 「だが、これがあいつの話と関係があるのですか?」


 「もう時間がないの」


 「!」


 「もうタイムリミットは迫ってきている。だからもう守りに呈する必要はない。今ここで必要なのは金城が残した産物と、それを的確に使うことのできる能力。こうなってしまえばもう手遅れ。あの子は確かに頼りないかもしれない。でも、信じられる。時間がないという事実を教えてくれたのも彼女だし、最初に行動していたのも彼女。私は、昔の馴染みでもあるから当然信じている。だから、あなたもできれば信じてほしい。最初はもちろん疑いながら行動してもいい。当然、今あなたが欲しいと思っているものもあげるわ。」

「待って下さい、その前にこの話が先です。何故、寒冷化が起こると言い切れるのですか?」


 「能力よ。」


 「天候を操っていると?」


 「そういうことになるわね。」


 「ばかばかしい、そこまで言い切れる事実でしょうか?」


 「私はあの子を信じている。」


 「あんなアホが?」


 「ええ」


 「…そうですか」


 なるほど、能力と来たか。先ほど出会った能力者の異常性を見る限り、その能力もあり得る話だ。南極の異常気象もどこか腑に落ちるような気もする。色々と辻褄が合う上に、根拠もかなりある方と言えるだろう。

 だが、


 「帰らせてもらいます。」


 「協力してくれるのね、ありが…え?」


 どうやら拍子抜けしているようだ。


 「今、何も協力するとは言っていません。何でも計画通りに進むとは思わないことです。」


 「でも、あそこまで話して何もしないわけが」


 「よく考えてみてください、私は寒冷化なんてものを研究しようとしている人間です。そんな研究者は普通に考えて考え方がいかれている。そこを貴方達は把握しておくべきだった、ああ、武装などという考えはしない方がいいですよ、既に周りは把握済みだし、仮に隠していたとして、私に危害は加わらない。根拠はなどと言うかもしれないが、既に能力者を相手に退かせた身。そんなことより容易いに決まっています。」


 「…そうね、お手上げだわ。」


 やはり、手元に何か隠し持っていたか。どうりで話をしている最中に手元を見せない訳だ。やはり分かりやすい。どうやら、裏の組織とはいえ完全には染まっていない感じだ。


 「その甘さが貴方達の首を絞めつけている。恐らく、これまでに何回か死にかけているでしょう?なら、そんな所に自分の身を預けるなんて博打をする訳がない。普通に考えたらそうなるに決まっている。」


 「…はは、何も言い返せないわ。」


 そういってかの美人は両手を見せた状態でこちらに顔を向ける。


 「やめなさい、手なんて出せないわよ」


 「ッッッ!?」


 当然、後ろのバカ正直女の様子も把握している。気づいていないとでも思ったのか。


 「そういうわけだ。少しの間だったが、ある程度の情報は頂いた。それだけは感謝しておこう。だがまあ心配はするな、今回の一件はお前達の身を考慮して自分の心の中に伏せておく。最も、言った所で信じてくれないからな。」


 そう言って、この事務所から出ようとする。


 「待って。…ねえ、本当に協力しないの?このままじゃ、みんな死んじゃうのよ?」


 例のポンコツ女がそんなことを言ってきた。情に訴えてきたか。なら、こう返してこのまま出ることにしよう。


「言っておくが私は、この世の中に絶望している。」


≪time:202X.05≫

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