14.再会(3)
「蓮ね、身体がだんだんと自由に動かなくなって、すごく辛そうだった。でもね、優菜ちゃんの手紙やライン見てる時はとっても楽しそうにしてたんだよ。まるで優菜ちゃんと一緒の高校に通ってるみたいに。
蓮、結局高校に行けなかったからね」
「お姉さん、ごめんなさい。私、本当に何も知らなくて・・・・・。蓮くんにいっぱいワガママ言っちゃった・・・・・」
「謝るのはこっちのほうだよ。優菜ちゃんは蓮に会いたいって何度も言ってくれたんだよね。その度にすごく蓮は悩んでた。でも結局、優菜ちゃんを幻滅させたくないからって断り続けたんだよね」
「幻滅って?・・・・・」
「その時の蓮はもう優菜ちゃんが知ってる蓮の姿じゃなくなってたんだ」
蓮くん、辛かっただろうな・・・・・。
目に涙が溢れ、胸が圧し潰されそうになる。
「テニスの試合があったんでしょ?」
「え?」
「新人戦、優菜ちゃんの初めての試合だったんだよね。一年生ではたったひとり選ばれたって」
「それも知ってたんですか?」
「蓮ね、試合、観に行こうとしてたんだよ。病院から外出許可も貰ってね」
―え?
優菜はびっくりして何も言えなくなった。
「病院の先生からはダメだって言われたんだけど、どうしてもって頼み込んで。私も一緒に先生にお願いしたんだよ。そしたら、渋々オーケーをもらって。蓮、喜んでたなあ。でも、こんな自分の姿を見たらがっかりするんじゃないかって心配もしてたけどね」
「それじゃあ、やっぱり試合に来てくれてたんですか?」
唯は俯きながら首を横に振った。
「試合の日の朝、急に容態が悪化しちゃってね。その日すぐに手術になったんだ・・・・・」
「手術?」
「命は取り止めたけど、蓮はその日以来、ずっと眠り続けてるの」
「あの試合の日からずっと?・・・・・」
唯はそれからしばらく黙り込んだ。
「今日は優菜ちゃんに来てもらって本当によかったと思ってる」
「え?」
「もう蓮は目を覚ますことはないんだ。ずっとね。今はこの冷たい機械が蓮の心臓を動かしてるだけ」
優菜がその現実を受け入れるにはあまりにも衝撃が大き過ぎた。
「でもね、蓮は頑張ったんだよ。病気に負けないように、ずっと、ずっと頑張ったんだよ」
唯の声が涙で詰まった。
「だからね、昨日、家族で決めたの。もう蓮を楽にさせてあげようって・・・・・」
優菜は愕然とした。
そして言葉の意味を理解することを拒んだ。
優菜は激しく首を横に振った。
溢れ出した涙の粒が足元に飛び散った。
「あの・・・・・蓮くんの手、握らせてもらってもいいですか?」
唯は黙ったまま頷いた。
優菜はベッドの横に寄り添い、蓮の手をそっと掴んだ。
初めて触れる蓮の手。
それは華奢で痩せ細った弱々しい手だった。
また涙が溢れ出した。
どんなに辛かったんだろう。
どんなに苦しかったんだろう。
「ごめん。ごめんね、蓮くん」
私はその崩れそうな手を両手でぎゅっと強く包み込んだ。
とても・・・・・
とても暖かかった。