神様になった少女
僕は目が見えない。生まれつきというわけではないが、小さい頃にかかった病気のせいでもう視力が戻ることはないらしい。だから僕はいつも思う。人生というのは酷く不平等だと。
「何を考えてるの」
澄んだ声。ここ一年、毎日のように聞いている声だ。飽きもせず、よく話しかけてくるものだと思う。それも、全部僕のことについて聞いてくるのだから。
「神様なんて、いないのかもしれないなって」
「何それ」
彼女が微かに笑う。神様の存在を否定するような笑いだった。
「いると思うのかい? 神様なんて、何もしないのに崇め奉られる存在が」
「いる筈ないじゃない」
即答だった。むしろ少し食い気味に答えられて僕は少し戸惑った。
「いたとしたら、今私がこうやって横たわってる事自体がおかしいもの。何もしてないのに蝕まれて、苦しめられて。だからいないわ」
珍しく熱の籠った声だった。僕の知りうる彼女は自分の考えを人に伝えるような人ではないし、こんなに興奮することもない。けれど、いつもの自分を忘れて熱くなるのも無理はないと思った。というのも、僕は明日移植手術を受ける。それが成功すれば退院。彼女ともお別れというわけで。同時期に入院した僕が先に退院するのに、少し神経質になっているのだろう。
しかし、彼女の次の一言で僕の中の彼女の像は崩れ去った。
「だから、神様がいないなら自分が神様になってしまえばいいんだよね。誰かの神様になることなんて、そうそう難しいことじゃないし」
自分が神様になればいい。もちろん冗談で言っているのだろうが、僕にはそれが冗談に聞こえなかった。
「……そうかもね」
最適解を示す解答が見えず、僕はただ曖昧な言葉を返すだけだった。
翌日、予定通り手術が行われた。手術は無事成功。両親は泣いて担当医の先生にお礼を言っていた。だけど、僕はなぜか素直に喜べなかった。
気づけば元居た病室に足を運んでいた。ドアを開けると、僕と同じくらいの少女が目に包帯を巻いて横たわっていた。
「誰?」
「僕だよ」
彼女はほっと胸をなでおろす。
「……手術、成功したのね。よかった」
僕よりも彼女が嬉しそうに見えた。いや、きっと実際嬉しかったのだろう。
「君も、目が見えなかったんだね」
「……えぇ。早くドナーが見つかるといいのだけれど」
「僕もそれを祈ってる」
彼女は曖昧に微笑んだ。僕は何も言わずに病室を後にした。
それから一か月後。彼女の病室に訪れた。しかし、彼女のネームプレートは外されていた。不思議に思い、僕は看護師さんに退院したのかと尋ねた。すると看護師さんは、少し暗い表情を浮かべてこう言った。
「神様になったと伝えてくれって」
想像させるという前提で書きましたが、ここだけは譲れないという部分のネタばらしだけ。。。
少女は目が見えなかったわけではありません。むしろ視力は2.0ありました。……つまり?
ビターチョコの中に一欠片のホワイトチョコが入ってるようなお話って、いいですよね