親不孝な息子
あるところに親不孝な息子がいた
息子は親不孝だった
朝早くから起き出して勉強し、野良仕事に精を出し
掃除洗濯を行ってから両親のための食事を用意し
既に汗まみれた
学校へは薄着で駆け出していく
成績は常にオール優である
「まったくうちの子は親不孝でね」
父が近所の人に言い回っているのを聞いた息子は
「なにくそっ!」と奮起して更に努力した
成績優秀のために名門大学に合格し、有名企業に入社して
懸命にはたらいた
「いやはや、まったくうちの子は親不孝だよ」
母がまた親戚一同に聞かせている
「あんたのところの麻衣ちゃんは本当に親孝行で羨ましいよ」
いとこの麻衣ちゃんは出会い系サイトで出会った人と結婚した
麻衣ちゃんは妊娠3ヶ月だ
麻衣ちゃんの結婚式には貧乏そうな人やガラの悪い人が大勢来た
息子は帰り道、父と母とふと漏らした。
「あれでよかったのかな?叔父さんも叔母さんもあまり嬉しそうじゃなかったけど」
「麻衣ちゃんは親孝行だよ」
「うちはちっとも結婚しないし、孫の顔も見せようとしない」
息子は奮起した。親を喜ばせるために出会い系サイトで嫁探しだ。
とにかく早く親に孫の顔を見せなければならない。
息子は頑張った。見つかった女を妊娠させた
両親に紹介すると両親はため息を付いた
「はぁ~~」
「こんなお嫁さん連れてきて、あんたは本当に親不孝だよ」
「で、でも、父さんも母さんも孫の顔がみたいって」
父と母は顔を見合わせた。
「そんなこと言ったっけ?」
「いや、私は言った覚えないよ。あんたが勝手にそんなふうに思い込んだ!」
「全く親不孝な子だね」
息子は女に慰謝料を払って別れてもらった。子供は堕胎してもらった。
「そろそろ生まれる頃じゃないのか?」
「えっ?」
「お嫁さんは元気にしてる?孫の名前を色々考えているんだけど」
息子は事情を説明した。
「いや、もう、子供は処分したし、女の人は帰ってもらった」
「なんだって!?」
両親はため息を付いた
「はぁ~~~、まったく親不孝だ、親不孝だ」
それから10年たった。
息子は出世した。友人の紹介で彼女ができた。
「今度こそ」
両親に紹介すると両親はため息を付いた
「親不孝な子だねえ~~」
「こんなお嬢さんじゃ丈夫な赤ちゃんを産めないだろ」
「そうそう、もっと女というのはがっしりしたお尻をしてないと」
息子は泣く泣く彼女と別れた。
それからまた10年経った。息子は更に出世し、
取引先で出会ったキャリアウーマンの彼女ができた。
両親はため息をついた。
「はぁ~~、どこまで親不孝なんだろう」
「30歳すぎたヨメを連れてくるなんて」
「みるからに世間のアカに染まりきってる」
「そうそう、お嫁さんというのはもっとお嬢さんじゃないと」
息子は言い返した。
「でも父さんも母さんも最初の彼女は子供だの、チンピラだのって
次の彼女はお嬢様すぎるだのって……」
父が目をむいて怒鳴った。
「お前が決めたことだろうが!」
「そうよ!あんたが決めた!あんたが決めた!」
「でも、父さんや母さんだって……」
「自分がそう思うなら、なんで押し通さないんだ!?」
「そうよそうよ、親の言うことだからって、聞く時は考えて聞かないと!」
「言うこと聞く時は考えて聞けよな」
息子は父と母と距離を置くことにした。
それから10年がまた経った。母から手紙が届いた
父が癌なのだという。息子は急いで駆けつけた。
そして懸命に介護をした。癌に効く食べ物、薬、ワクチンがあると聞けば全国どこにでも飛んでいった。
「全く親不孝だな」
父の最期の言葉だった。
「ほんとよ!あんたがもっとしっかり介護をしていれば!」
母は息子の背中にいい続けた
「ほんっと親不孝!親不孝!!」
それから数年後に母が倒れた。
息子は仕事を辞めて懸命に介護した。妊娠中の妻も懸命に介護した。
最高級の病室と最先端の医療を施した。保険の効かない高額の医療費がかかった。
疲労のあまり妻は流産してしまった。
親戚たちが母の周りに集まった。
母が最後の言葉を言おうとする。息子は耳を近づけた。
母が懸命に声を吐き出した。
「お…や……、ふ、こ……う……もの」
母の葬儀が終わった。父も母も灰になった。
「僕は親不孝者だった」
「そんなことない。あなた程の孝行息子はいないわ」
妻がねぎらった。
「僕はわかったことがある」
「なに?」
「親孝行は親孝行が理解できる親の元に生まれなきゃ不可能ってこと」
「あなたは生まれた瞬間詰んでた、ってわけね」
「ああ、バカな親から生まれたらおしまいだ」
息子は父と母の位牌を眺めた。解決できるのは時間だけなのだ。