死地への旅
翌日、三条神流率いるヨコカル艦隊は、横川から群馬から長野へ直接行くことの出来る唯一の手段であるバスで長野へ行く。
一応、日本の新宿から中央本線の特急「あずさ」でも行くことは出来るが、時間がかかる。
三条神流はバスの車内で「軍艦行進曲」を聞いていたが、その後、群馬帝国では三条神流の行方が解らなくなるまで、所在が解らなかった。
「こちら山崎一歩。緊急事態発生。三条が長野電鉄長野駅でトイレに行ったきり戻りません!」
と、山崎一歩が大慌てで言った。
「長野電鉄の長野駅以外の場所も探しておりますが、何処にいるか解らないのです!」
霧降要は直ちに遠征中止を決定、ヨコカル艦隊を引き上げさせようとした。
「待ってください!三条が―。」
内田が叫んだ。
「命令だ!直ちに戻れ!」
ヨコカル艦隊は止む無く、三条神流を残して群馬に戻ることにした。
「霧降。なぜ止めなかった。貴様が止めてくれたのなら、俺はまだ―。」
「もう戻れない。決めて。カンナ。」
三条神流は最後の最後まで、考えた。
だが、ヨコカル艦隊の面々が列車で軽井沢へ引き上げて行くのを確認して決断した。
「受け入れよう。姉ちゃん。」
群馬帝国国有鉄道本部は大騒ぎになった。
エンゼル艦隊の生き残りである三条神流が、長野で行方不明になったのだ。
「だから言ったのだ!三条が転生人となったら、その時は誰が責任を取る!自分の意志で行ったのではなく、そっちの命令で行ったのだぞ!」
妙義神社宮司、宮野真樹が電話の向こうで怒鳴っている。
この事態を受け、前橋の群馬帝国総統府から議員も群馬帝国国有鉄道本部に駆けつける。
望月光男が鉄道司令室に対し、全列車運転取り止め措置を命令したほうが良いか尋ねる。異常事態が発生したとき、鉄道で成り立つ群馬帝国で鉄道に何かが有れば、血管の血を全て抜かれたのと同じである。
そして、その混乱の兆しが見え始めていた。
「現在、郡鉄八高線の寄居発―倉賀野行きセメント貨物列車が利根川鉄橋付近で突然、機関車停止。立ち往生しているとの連絡が入りました。」
「列車の編成は?」
「D51‐777とD51‐768の重連。貨車はタキ1900が10両です。」
「では、八高線以外の鉄道路線は何もないのだな?」
「はい。」
「それならば、それが混乱の兆しと言い切れないな。八高線の寄居―倉賀野間を運転中止して、貨物列車の救援を行え。」
と、議員が言ったのだが、
「緊急事態発生!上越線水上発の快速「谷川」が制御不能に陥っております!」
との一報。
「バカな―。」
霧降が絶句する。
「やむを得ん。群馬帝国国有鉄道全路線の運転中止を命令する。暴走状態の快速「谷川」は、八木原か渋川の貨物側線にて脱線させる他無い。」
ついに議員が決断。そして、この混乱は群馬帝国総統である山河五十六にも伝わった。
「三条は移民であるが故、帝国の盾のような扱いをされることもあった。もし、三条の身にも何かあれば、群馬帝国が全力で守らなければ。」