アヤとカンナ
俺だって、馬鹿じゃない。
どこぞの異世界ハーレムやラブコメの主人公のように、何の取り柄もないのにチート能力で女の子達にチヤホヤされているのに、その事に気が付かないでX脚に組んだ自分の足を眺めている間抜けで役たたずのミリタリーショップの店員みたいな奴じゃない。
自分のX脚になった足の先で、アヤが俺を思っているのでは無いか?と思うこともあったし、実際問題、そう感じることは多々ある。
だが、そう感じるようになったのは、皮肉にも、姉ちゃんと出会ってからだったのだ。
姉ちゃんと出会った後、アヤの姿を見たとき、俺は初めてアヤに魅かれるものを感じた。しかし、その後アヤと一緒に居ると姉ちゃんが恋しくなって行ってしまった。
だから、アヤに対して冷たく接するようになった。
そして姉ちゃんに至っては、俺が群馬帝国の人間と分かった時から、群馬を題材にしたマンガを興味も無く買って、それを群馬帝国の教科書のように扱い、上毛かるたを覚え、焼きまんじゅうを食べてみたりと、自分が群馬に嫁に行くのだと言わんばかり。
俺も、姉ちゃんに群馬のことを教えた。
いつか姉ちゃんも群馬に来てくれるのではないかと思って。
そしたら、予想外の展開。用意も何も無くいきなり姉ちゃんと群馬で同棲となってしまった。
寝台車のベッドで同衾してベッドを壊す、女の子に引っ張りまわされる、挙句の果てには国鉄に入社と来た。
そして今は、成り行きでアヤとデートのような状態だ。
おいおい。俺を家まで送るって言っておいて、実際のところどこ連れてく気だよ。
信号で止まる。
俺はすかさず、人工言語でアヤに訊いた。
「どこ連れてく気だよ?」
「別に。ただ、三条君を後に乗せて、走っていたいだけ。」
「アイドルの件か?群馬帝国にまでご苦労なこった。さっさと帰れバーカ。」
いつものアヤなら、苦笑いを浮かべる。だが今日は違う。
「そう言ってくれていればいい。三条君。」
と、暗い声で言った。
前橋の総統府の前を通り、県道4号線をひたすら走っている。
俺を引っ張りまわして。
午後の太陽が照らす赤城山南麗。
「私、今日の昼はおっきりこみ食べたの。」
だからどうしたと言いたいのだが。
「切り込みを掛けるわ。今日の私は。」
「何に。戦争参加は勘弁しろ。」
県道4号線を外れ、国道353号を進む。
本当にただ走っていたいだけのようだ。
さっきから、迷走している。
目茶苦茶走って、着いたのは三夜沢赤城神社。赤城山の麓にある神社だ。
境内に入る。
お参りをする。
いや、本題はこれからだろう。
本殿の裏に俺は引っ張りこまれる。
「ドカン」と、俺を本殿の壁に押し付け、アヤは壁に手を着く。
「東京、と言うより日本でカップルや意中の人を落とす時にやる必殺壁ドン。効く?」
「お前のような美人にやられたのなら、喜ぶだろうよ。見る目のないアホでチンケな能無し金髪日本人男はな。」
「ドン!」と、もう片方の手を壁に押し付ける。
「ええ。そうよ。私に寄ってくるのはそう言う奴ばかり。三条君と一緒に長野に行ったエンゼル艦隊の二人も、私を口説こうとした。でも中身はクズ。そして私は―」
人工言語の会話が進む。
今日のアヤは何かが違う。恐い。恐すぎる。
こりゃ、今日はただじゃすまないぞ。
「強引に唇を奪おうとした奴がいた。エンゼル艦隊に。」
「何。それは―」
「分かるでしょ?誰がやったのか。」
「まさか―。」
「ええそのまさか。三条君以外の二人から同時に。エンゼル艦隊の真の目的は、二人を抹殺する事。もう二人は死んだ事になっている。でもね、そこに三条君が参加した。」
「それで?」
「奇妙に思わなかった?なぜあのとき、太陽嵐が起きたのか、なぜ電波障害が起きたのか。」
「―。」
「私だって、エンゼル艦隊の事は調べている。さっき、ギルドで機密資料を覗いた。どうやってかは、言わない。偶然見たって事で。そしたら―。」
「人工嵐と言う事か?」
「ええ。群馬帝国国有鉄道と群馬帝国議会、そして群馬帝国大学宇宙研究部が人工ブラックホールの実験を行った。結果、群馬のみならず日本も世界も、磁気嵐に襲われた。そして、あの二人には磁気嵐に逢うと狂気に襲われ、最後は脳が壊死して死亡するという薬を混ぜた飲料水を飲ませた結果、二人は暴走。最後は死んだと推定される。」
「その反動で、俺が転生人になったと言う事を隠蔽するために、群馬帝国国有鉄道は姉ちゃんとの出会いを、お前との関係に押し付けたと言うわけか。あのとき、俺は報告した。姉ちゃんと出会った。転生したのではないかと。それを、霧降は無理矢理消させた。」
「ええ。みんな知っていた。宮野君に伝えていなかっただけ。だから何度も三条君に長野行きのミッションが来た。単独も艦隊編成タイプも。転生に転生を重ねれば何とかなるだろうという漠然とした考えで。でも結果は違う。三条君は南条さんと結婚することになってしまった。」
「では七夕作戦はなんだったんだ?成り行きから行けば、実行せずに姉ちゃんを殺せば全て元通りで、全部解決だっただろう。」
「帝国保護法。亡命を求める者を救済し帝国国民とする。」
「仕来りでそれはできないって事か。」
アヤが肯いた。
「もし、南条さんが助けを求めずに、三条君にだけ伝えたのだったら帝国は普段の抗議だけしか行わなかった。亡命を求めたため、国連人権委員会まで話が広がった。運がいいね。南条さんは。まあ、そうしたら三条君は自決するか、クーデターを起こすか―」
俺の鼻を抓むと、アヤは一気に顔を押し付ける。いや待て?
待て!
「あるいわ私と―」
待て待て待て待て!!




