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群馬帝国国有鉄道に籍を持つ者  作者: Kanra
走れDD51 進めカンナ
41/66

上毛電鉄線の車内

翌日、アヤがわざわざ俺の住まいまでバイクで迎えに来た。

姉ちゃんに見送られるように、俺はヘルメットをかぶってバイクに跨る。

だが、バイクでニケツする場合、どうしても運転者に体を密着させて後ろから抱くような形になってしまう。

姉ちゃんの見ている前では、それができない。

「ゴメン。アヤ、列車で行かないか。」

「え?」

 アヤは驚いた顔をした。

 ヘルメットのバイザーを上げて俺の顔を見、そして姉ちゃんを見て、

「分かった。じゃあ、駅で待ってて。」

 と言って、一旦帰っていった。

「何で行かないの?」

 姉ちゃんに聞かれる。

「罪悪感、みたいなものを感じてね。」

「私を置いていくってことに?」

「いや、その―。」

 姉ちゃんの前で、アヤを後ろからハグするようにバイクに乗ることに抵抗を感じたのだ。

 前は躊躇いもなかったのに。

「姉ちゃんも一緒に来る?」

 そうだ。どうせなら、姉ちゃんも一緒に。

 俺は明日試験だが、姉ちゃんは群馬に来てからほとんど毎日修行だった。

 今日ぐらいは温泉に入っても文句は言われないだろう。

「いいわ。付き合ってあげる。」

 姉ちゃんは笑って言った。よかった。

 俺自身、DD51の事に気を取られていて姉ちゃんに構っていられなかったし。

 前橋駅でアヤと合流。その時、姉ちゃんも一緒に行くと言うとアヤは、

「別に良いわよ。」

 と、溜め息交じりに言った。

 両毛線か上毛電鉄線で行くか、列車の時間で決める。

 結果、上毛電鉄線で行くことになった。

 天々座交通のシャトルバスで中央前橋駅に行き、デハ100型電車に乗る。

 通勤時間帯ではないため、1両の単行である。

 車内はお年寄りが多いがそれでも、ロングシートに空きがある。

 春まっただ中の赤城山南麗を駆け抜けるチョコレート色の電車。

 バレンタインデーの時には日本から来た連中が、「チョコレートだ!」と言い無断で写真を撮影してドカチン喰らっているのをよく見る。別にデハ100は軍用列車でも政府専用列車でも無いから撮影したって問題はないとは思うのだが、こうした珍しい列車を「鉄ヲタ艦隊」は狙っているのだから情報はなるべく外に出さないようにし、無断撮影は言語道断だと言う態度を示す。そうすることで、変な奴等が群馬に来るのを抑止しているのだ。

「そういえば、今年の誕生日はロクなことなかったかね。」

 と、姉ちゃんに言うのは姉ちゃんの誕生日である3月11日は例の祭りの日だったからだ。

「別に。誕生日なんて何するわけでもないし。日本で起きた大災害の日に生まれた不謹慎の死に損ないって言われる原因だったし。」

 ああそうだ。

 あの時、群馬帝国は、機関車不足と運転士不足で救援物資を運べないJR貨物を助けるため、DD51やDE10を総動員して緊急貨物列車を運転していた。

 そして、電気も原発事故による電力不足で節電を余儀なくされ、近い将来全運用を停止することになっていた蒸気機関車が走り回り、引退した蒸気機関車も急遽復活して増援に駆けつけたりと大騒ぎだった。

 その時は鉄道商人も大忙し。

 大規模災害における国際協力列車の運行状況の記録はもちろん、無事に列車が目的地に到着したかという確認や、緊急時の救援まで行った。

 だが、それにも関わらず日本は群馬を侮辱した。

 結局、日本は何も変わっていないのだ。

「そういえば、アヤの誕生日っていつなん?」

 姉ちゃんの質問に、アヤは「12月24日」と答えた。ちなみに俺は2月15日だ。

 三俣駅に停車。

 ここで対向列車の到着待ちだ。対向列車は凸型電気機関車のデキ3020とタキ1両と言う短い貨物列車だ。

 この路線はJR線に直結する路線に接続していないため、貨物輸送量は低い割に面倒だ。

 伊勢崎まで他の列車に連結された1両~3両の貨車を、伊勢崎線と桐生線を経由して上毛電鉄線に乗り入れるが、これは物凄く大回りをしなければならない。

 両毛線の前橋駅から見れば、三俣は目と鼻の先なのだが、接続路線が無いため、伊勢崎や大田、桐生を回って三俣まで行くのだから超面倒。桐生駅からショートカットも出来るが、こんなしょうもない区間のためにここだけ電化するのも面倒だしかといってこの区間のためだけにDLにするのも効率が悪い。東急電鉄で廃車となったデキ3020を投入したが、輸送費の無駄遣いだと言う声も多く今にも廃止になりそうだ。

 実際、前橋の外れだから倉賀野貨物基地か渋川辺りから陸路で運んだほうが早いし。

(かつては、途中駅でちまちま細かい貨物を拾っていたらしいのだが。ま、廃止になったってタンク車が2~3両余るだけだし、その余った車両がどうなるかはこっちの知ったことじゃないし。)

「この路線では、蒸気機関車は走っていないんだね。」

 と姉ちゃんに言われる。

「ああ。今、蒸気機関車は主要幹線でしか走っていないんだよ。」

 国鉄の主要幹線である両毛線や八高線等では蒸気機関車は健在だし、かつては上毛電鉄線や上信電鉄線、わたらせ渓谷線でも蒸気機関車は走っていた。だが、蒸気機関車は煙害や運行経費と言った問題に加え、転車台という蒸気機関車の向きを変える設備も必要となるため、盲腸線と言われるような路線からは非効率的となり撤退したのだ。また、わたらせ渓谷線のように草木ダム建設に伴う長大トンネル建設によって蒸気機関車が走れなくなったため撤退した路線や、建築限界、重量制限等のため蒸気機関車乗り入れ禁止路線となっている路線もある。

「ちょっと前までは、こんなのが走っていたよ。」

 と、アヤが写真を見せる。

 アヤも一応、鉄道商人として契約しているため、ミッションや慣熟に限り、鉄道の撮影は可能である。

 アヤの写真には、400型蒸気機関車が写っていた。

 イギリスから輸入した中古の蒸気機関車だが、日本の大震災の後に最後の運用を終え、今は横川鉄道教習所の教習車となっている。

「ちっこくってカワイイ。」

 と、姉ちゃんは笑った。

「ねえ!俺はどう!?」

 と、見知らぬ奴に言われる。

 俺は身構える。

 金髪男だった。

「貴様、帝国の人間ではないな。日本人か。その金髪の頭!日本の男であり、汚染物質の証しだ!」

「何お前?この子の連れ?」

 俺は構わずスマホで帝国警察隊に通報するが、男の方が勝手に通報した。

 あーあ。自滅だ。

 もういいや、ほっとこ。

 大胡駅で帝国警察隊がドドーッと乗ってきて、通報した金髪男を拘束してしまった。

 さあここからがお楽しみ、みんな大好き金髪男残虐処刑ショーだ!

「貴様!帝国に寄生する汚物か!殺れ!」

 実弾が装填されたスプリングフィールドXD拳銃にゼロ距離で頭を撃ち抜かれた男は即死だ。

「手際が良いもんだな。」

 と、俺とアヤは慣れっ子の光景に感心するが、始めて見る姉ちゃんは怯えていた。

「お疲れ様です。お手数をおかけしました。」

 帝国警察隊の隊員が列車の運転士に詫びる。

「全く。国境警備隊は何をしている。みすみすこんなところまで汚染物質を入れるとは。」

「申し訳ございません。国境警備隊には厳しく指導を行います。」

「それは、客室で怯えているあの女性に言いたまえ。」

 警察隊の隊員、彼はどうやら小隊長だったようだ。

 小隊長の名は葛城というらしい。

「ご迷惑をおかけいたしました。」

 と、葛城小隊長が姉ちゃんに詫びた。

「えっいやあの、なんで、ここであんなことを―。」

「はっ。金髪男は―」

 群馬帝国は他所に対しては人権など無視である。金髪という理由で、いきなり処刑されかねない。帝国に住む者に、金髪の者がいないのもそういう理由だ。

 金髪というのは都会人の証しであると言う理由である。例え籍を置いていても、入国許可を貰っていてもお構いなく殺害される。

 かつてはここまで目くじら立てては居なかったのだが、近年、群馬は東京等の都会人から「田舎」「未開の地」とバカにされる事が多い。

 理由は不明だが、都会人の中で「群馬=田舎」と言う方程式でもあるのだろう。そのようなことから、都会人への制裁のため金髪というのは都会人の証しであると言う理由で処刑されるのだ。

 と、理由を説明する。

「しかし、この場で殺る必要はあるのかね。」

 俺が食って掛かりながら、身分証明書を見せる。

 国鉄研修生にして、鉄道商人であり、転生亜神の証しを見た葛城小隊長は、

「御無礼を働き失礼しました!」

 と、頭を下げる。

 国鉄の人間のほうが警察隊より僅かに身分は上である。

「今後は人目に触れることのない場所で処刑するように。群馬帝国は観光地化される事にもなる。特に、ロシアからの国際列車運行も検討される事になっているのだから、気を引き締めるように。」

「はっ!」

 この騒ぎで、列車は5分遅れになってしまった。

「いきなり殺すの?」

 と、姉ちゃんが聞く。

「ああ。まあ、人にもよるが。俺を始め、姉ちゃんを助ける為にドンパチやった奴等はみんな、最後まで一発も撃ちたくないと願っていた。だから何度も通達していた。だが、姉ちゃんをレイプしようとする様子をネット配信するという暴挙に至った。それでも、俺達は誰も殺しはしなかった。でもね、それを「消極的だ」「帝国が舐められる原因」と言う声もある。特に、警察隊の一部と国鉄内部でね。まあ、もし帝国で姉ちゃんになんかあったら、俺は相手が誰だろうと、ぶっ殺す。」

「国を敵に回しても?」

「ああ。」

 そういった時、アヤは溜め息をついていた。


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