走る鉄路 進む婚約
分けが分からない。
姉ちゃんは苦労した資格を、群馬帝国鉄道教習所で行われる研修を修了することで群馬帝国の資格として再取得、そして姉ちゃんの意向によってだが研修終了した後、国鉄託児保育所で保育士として採用される。それは分かる。
だが、俺に至っては姉ちゃんと同じ鉄道教習所で鉄道運転士としての研修の後、俺の意向によってはそのまま鉄道運転士として国鉄へ入社が認められるというのだ。
「教習所は、下新田の鉄道教習所だ。ここで保育士資格の取得、そして鉄道運転士としての資格を取得してもらいたい。」
霧降が言うのだが、下新田鉄道教習所と聞いて愕然とした。
群馬帝国国有鉄道の鉄道教習所は、鉄道専門の横川鉄道教習所と、鉄道、及び国鉄関連事業に関する教育を行う下新田鉄道教習所がある。
横川鉄道教習所は、蒸気機関車や電気機関車といった国鉄の花形と言える車両の運転士を目指せるのだが、下新田鉄道教習所で行えるのは電車、及びディーゼル車、ディーゼル機関車の運転士を目指す物だ。
そして、俺の今の状態で行けるのは、ディーゼル機関車の教習だ。
姉ちゃんは直ぐに資格を取り直せる上に職場まで決まって安堵しているのだが、俺に至っては違う。
俺は国鉄の蒸気機関車の機関士になりたいのだ。
だが、国鉄に入れるだけましだと思って受け入れることにした。
「鉄道教習所には寮もあるが、通いの者も居ます。いかがいたしましょうか?」
霧降が姉ちゃんに敬語で話ているのが腹立たしい。
しかも、霧降は俺が蒸気機関車の機関士になりたいと言う事を知っているだろう。
「私、カンナと一緒にいたい。もう、婚約までしちゃいましたし、その―。」
あーあ。姉ちゃんがノロけ出した。そして、敬語の霧降。我慢ならん。
「霧降。その前に一つ、お前、俺が蒸気機関車の機関士になりたいって事知っているだろ?なのになんで俺を―」
「それでは、南条さんのそばに居てやれないだろう。」
「同棲って事になるのなら、俺は横川鉄道教習所で蒸気機関車の機関士を目指したい!同棲ってことになるのなら、何も俺が下新田鉄道教習所に無理して通わなくたって、姉ちゃんには逢えるんだぞ!」
「残念だが、やはり新移民であり亜神であるお前は、国鉄の花形の席に座ることはできないのだよ。」
「くっ。またそれか。」
俺は思わず舌打ちした上で、
「好きにしろ。」
と言い放った。
そのまま、俺は天々座交通を強制的に退職させられた挙句、望みの国鉄入社を果たし望まぬ部署への配属となった。
ディーゼル機関車の機関士。まあ、悪くはないだろうが、ディーゼル車は国鉄では地味な存在である。
活躍するのは八高線と両毛線の一部、それからわたらせ渓谷線と臨時列車、事業列車だ。
車両も、高崎1機関区所属のDD51とDE10。
DE10はわたらせ渓谷線等で貨物列車、及び一部の旅客列車の定期運用を持っているが、DD51は八高線の一部列車に定期運用を持っているだけであり、他の活躍の場は少ない。
無理矢理納得することにした俺の横では、姉ちゃんと坂口愛菜が俺と同棲するに当たり、入籍するかって話をしている。
って、おい待てこら!
なにどさくさ紛れに入籍しようとしてんだ!
「ちょっと待てコラア!」
「え?別にいいじゃん。二人とも天涯孤独なんだし。愛し合っているなら、入籍してもいいじゃない?」
坂口がニヤニヤしながら言う。
「今後、南条さんが群馬帝国国籍を正式に取得したということを示すと言う上でも、入籍は妥当な線だろう。」
霧降や山河総統閣下まで言い出した。
なんだこの流れ。
姉ちゃんは俺と入籍するが、俺は蒸気機関車の走る鉄路へ入線出来ない。
姉ちゃんにとってはとんとん拍子で道が決まったのだが、俺に至っては確かに姉ちゃんの婿になることは約束したが、蒸気機関車の機関士を目指すという道を無くすという事になるとは思ってもない。
国鉄に入社後、再度蒸気機関車の機関士を目指せなくもないけど、それも難しそうだ。
だが、何度も蒸気機関車の機関士にさせろと訴えたところで、それは叶いそうもなかった。




