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群馬帝国国有鉄道に籍を持つ者  作者: Kanra
日常、そして非日常経由、新日常へ
23/66

101号車

 翌朝、俺が出勤すると101号車が整備工場に入っていた。

「三条さん。実は貸切運用中に―」

「分かっている。椅子壊したんだろ?」

「えっええ。」

 整備士がなぜ知っているのだ?って顔している。

「それで、今日は代車か。」

 俺は点呼場で運行管理者の杉田さんからも101号車の椅子が壊れたって言われる。

「それで今日は代車で―。」

 ガサガサと点検簿をまさぐり、箱型のいすゞK‐ECMの点呼簿を引っ張り出して来た。

 日本とは20年から30年近い時代差が開いているように見える群馬帝国の交通機関だが、さすがにボンネットタイプのバスも限界が近いと見え、箱型が走り出すようにはなった。

 いすゞK‐ECM。天々座交通125号車。後乗り前降りタイプのバスだ。

 箱型はボンネットが前に無い分、見通しが良い。

 点検を終え、点呼をし、いつものように倉賀野地区を周回するバスの勤務につく。

 午前の勤務を終えて、午後の勤務までの間で昼食。

 今日はカツ丼。

 ラジオから流れるラフマニノフピアノ協奏曲 第2番を聞きながら、食べ終えると、休憩室で休憩。

 休憩を終えると、また勤務。

 午後の勤務も、いすゞK‐ECMでの勤務だった。

 霧降のバカめ。どこまで壊してくれたんだ。役たたずのクソ役人め。姉ちゃんが研修終えたら、即刻叩き斬ってくれる。

 しかし、午後の勤務が終わった時、101号車はなんとナンバープレートを外すため、車庫の隅っこに追いやられていた。

 そこは、廃車や部品取り車が置かれる場所で、コンクリートの舗装もなければ草ぼうぼうの更地だ。

「101号車だけど、部品取り車という形で廃車にすることになった。」

 と、運行管理者の杉田さんが言った。

 ふざけんなあのグラサン面の壊し屋め。

 もう怒った。

 あの野郎今度会ったら、張り倒してくれる。

 おかげて、次の勤務からは空いている車両を運転する事になり、勤務する路線もその日によって異なるだろう。

 国鉄は俺の彼女を隔離した上、俺の仕事ひっぺがすつもりか?って、霧降に言ってやったが、本当にその通りになりそうだ。

 胸糞悪い。

 自転車で帰路に着く途中、アヤの実家の菓子屋の前を通ると、アヤが待っていた。

「今日はお茶飲んで行く?」

 とか言うから、気分じゃないがせっかくの誘いだから受けることにした。

 アヤが抹茶と和菓子を持って来た。

 二人分って事は、なるほど。こいつも仕事が暇だから俺に相手して欲しいって事か。

「仕事中になんかあったん?」

「霧降のバカが俺のバス壊したせいで、俺はまた補助乗務員に逆戻りだ。あの野郎、今度会ったらぶっ殺してやる。」

 冗談交じりだが、半分本気だ。

 こちとら仕事ってもんがあるんだ。俺の彼女を脅した挙句俺の仕事に影響を及ぼしているなんて業務妨害以外何物でも無い。

「南条さんになんか持っていけば?」

 と、アヤに言われるが、

「アヤは俺がこっちに来て研修受けてる時、なんかくれたか?」

 って逆に聞き返す。

「俺に甘えているようじゃ、群馬で生きていけない。」

「そうね。そうやって鍛えられたんだよね。三条君は。」

「まあ、研修終わったら、1日くらい空いている日はあるだろう。そんときにでも。」


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