緊急召集命令
翌日は休みだ。
だが、三条神流は突然、群馬帝国議会に呼び出しを喰らった。
迎えに来ていたハイヤーに乗って総統府に行く。
そこには、群馬帝国国有鉄道の重役幹部になった霧降要。妙義神社の宮司である宮野真樹。更には帝国警察隊隊長や帝国戦闘隊隊長もいた。
「南条美穂という人物に心当たりは?」
と、山河五十六群馬帝国総統閣下が言う。
「隠しても無駄でしょう。私が転生人となった理由です。総統閣下。」
三条神流が応えた。
「日本政府は非人道的だよ。長野県の安曇野には、女性を生贄に捧げて奉納する祭りがあるそうだ。」
「生贄?まさか殺した上で?」
「ああ。それも無作為にな。」
「―。」
三条神流は山河五十六が何を言い出すのか、予想がついた。
その様子を見た山河五十六は、
「帝国政府は日本政府、長野県、安曇野市、関係各所に対し抗議を行う方針だった。この祭りに関しては20YA年から毎年のようにね。だが―。」
山河五十六は三条神流に手紙を突き付けた。
「長野県安曇野局の消印、そして、群馬帝国郵便輸送印が刻印されている。これは昨日の夕方届いたものだ。」
見るまでもない。南条美穂からの手紙だ。
そして、三条神流ではなく群馬帝国議会に送り付けるというところから見れば、察しは付く。
内容を見るが予想通りだった。
「なんで姉ちゃんが殺される。」
「既に、この件について同盟国との電話会談も開始している。アメリカのロズワール大統領、そして、ロシアのスターン大統領がお待ちかねだ。」
大型スクリーンに、ロズワール大統領とスターン大統領の姿が映し出された。
「日本は一体何をやっているのかね?集団的自衛権行使容認に関しては憲法違反と騒ぎながら、殺人を容認する祭りは憲法違反ではないと言うのか。随分と矛盾した国家であるな。」
「日本という国は、矛盾で成り立つ国なのです。だから我々は群馬帝国として、日本にありながら、日本とはかけ離れた存在であるのです。」
「今は、筋書きはいい。イソロク。それで、この祭りに関してなぜ我が国とロシアにまで話を広げたのだ?」
「我々の力では、日本の暴走を止められないのです。日本人は、群馬を未開の地、変人の国として罵るだけで、何も変わりません。毎年、我が国はこの祭りに対し抗議を行いますが日本からは「検討する」と言う答えのみで、結局実行。毎年、1人の命が日本に奪われているのです。」
今度はロシアのスターン大統領の発言だ。
「我が国は、この件に関し貴国と共に日本政府に抗議しよう。ただし、軍事介入は出来ん。そして、抗議こそするがそうすれば、我が国も日本から変人、野蛮国家と思われるというリスクもある。その点について、どうするおつもりかね?」
「現在、我が国が使用している政府専用機。あれは日本で作られたMRJという飛行機だが、故障が頻発するポンコツでねえ。鉄屑にしてアメリカに売ってしまった。そこで、次期政府専用機であるが、貴国のYak‐40を2機投入したい。」
「はっ。日本と結んだ政府専用機契約を、鉄屑にしてアメリカに売った挙句、我が国のYak‐40と契約するというのかね。それでアメリカにはどうするつもりかね?」
「帝国警察隊のピストルだが、あれも日本で造られた言うこと聞かん銃でね。スプリングフィールドXDを購入したいと思っていたところなのだ。」
「はっ。人一人助ける条件に、武器購入と政府専用機購入とは。貴国も何を考えているのか解らないな。」
スターン大統領が笑った。
「聞けば、ドイツやイギリス等からは鉄道技術供与を盾に承諾に取り付けたと言う。この件に関しては、日本政府への抗議のみならず、国連人権委員会に議題として取り上げよう。」
「国連―。」
ロズワール大統領の国連人権委員会という言葉に三条神流は息を飲んだ。
自分が転生人となったためか解らないが、とてつもない事に南条美穂を巻き込んでしまいそうな気がしたからだ。




