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群馬帝国国有鉄道に籍を持つ者  作者: Kanra
物語の始まり
13/66

神社帰り

 妙義神社の鳥居の横に、小さな食堂兼、土産屋があった。

「お腹空いてるっしょ。うどんでも食べていこう。」

 と、松田が言った。

 三条神流と松田彩香は朝食を食べる。

「私ね、三条君を婿にしたいなって思っていたのに、まさかまさかの転生人で、しかも、婚約までしちゃって。」

「お前、なんでそれ早く言わねえんだよ。」

「こんなに絡んでいたら、誰だって解るよ。鈍感なんだよ。三条君。」

「違う。俺はエンゼル艦隊の事件の後、姉ちゃんしか見えなくなってしまったのだろう。」

「解らない。どうして、血の繋がりもない人を姉ちゃんって呼ぶの?」

 三条神流は頭を掻きながら、

「群馬帝国の人が、日本人と恋人同士なんて、帝国では良くても日本は快く思わないだろうし、先方もからかわれる原因になりかねないからね。だから、俺はあの人の弟と言うことになった。」

 と、理由を大雑把に話した。

 朝食の後、妙義神社から上信電鉄線の下仁田駅行きのバスに乗る。

 群馬帝国国有鉄道から交通費は出るので、タクシーで横川、または高崎まで出てしまってもいいのだが、神社に呼ばれたということであり、社用という扱いにはならずタクシーチケットという気の効いた物が支給されなかったため、社章で乗れる交通機関に乗ることになった。

 一応、タクシーも社章で乗れなくは無いが、タクシーの料金は信号待ちや経路等で変動する事もあるため、タクシーチケットで支払う場合が多い。

「領収書持っていけば良いだろうが。」

 と、三条神流は不満を口にしながら、バスに乗る。

 バスで延々山道を走り、群馬帝国国有鉄道上信電鉄線下仁田駅から列車に乗る。

 下仁田駅からは、群馬帝国国内運行の貨物列車も発着している。

 主に、吾妻線長野原草津口行きの石灰石輸送列車である。

 吾妻線の沿線には、草津温泉があるが、この温泉は強酸性である上、強酸性の成分が川にまで流れ込み、生物を殺す上、コンクリートまで破壊してしまう。

 そのため、草津温泉では強酸性になってしまった川の水を石灰で中和して安全な物に変えている。その石灰を下仁田から貨物列車で運んでいるのだ。

 小さな凸型の電気機関車が、石灰石を載せた無蓋車3両を牽引する貨物列車が下仁田駅で発車を待っている。

 平日は、吾妻線と高崎線へ乗り入れる客車を連結した貨客混合列車として運行されるのだが、今日は休日なので貨車のみである。

 高崎側から、2両編成の電車が入線してきた。

 これが、折り返しの高崎行き列車となるが、その前に貨物列車が発車した。

「もし、姉ちゃんのところに婿入りしたら、この風景も見られなくなるのかな。」

 三条神流が寂し気に言う。

「そうね。でも、そうならない方法はあるよ。」

「お前の婿になれってのか?」

「違う。群馬帝国国籍を取得して、一緒に群馬帝国で暮らすの。」

「そんなことできるわけ―。」

「三条君だって、小学校卒業と同時に、群馬帝国に逃げてきた亡命者でしょ。」



 その日の夜。小学校を卒業した三条神流の前には、D51‐498とマイテ39が待機していた。

 埼玉県桶川市の桶川駅2番線に停車している2両編成の列車の先頭に立つD51‐498蒸気機関車とマイテ39は群馬帝国政府専用列車の車両である。

 小学校時代。三条神流はいじめと教師の虐待。そして、両親の事故死で天涯孤独の身となっていた。

 悪いことに、両親が事故死したタイミングで、助けを求めた教師に虐待されたため、何も頼ることが出来ず、毎日、必死に生きていた。

 息を切らしながら生きていた三条神流に声をかけた少女がいた。

 それが、当時、群馬帝国から情報士官として派遣されていた松田彩香である。

 帝国小学校でバリバリのエリートであった松田彩香は、小学校6年の間、日本国埼玉県の小学校に留学という形でやって来て、外の世界を見ていたのだが、事故で両親が死に、更にいじめと教師の虐待で天涯孤独となっていた三条神流を哀れに感じた。

 そして、隙を見て三条神流を連れ出して自分の正体を証し、共に群馬帝国に来て人生をやり直してみないかと誘った。

 群馬帝国に住む両親を通じて、帝国政府にもそれが伝わり、帝国は「亡命者保護」という名目で「新移民」として受け入れるとした。

 三条神流は、小学校卒業と同時に、言われるまま群馬帝国国籍を取得。そして、松田彩香と迎えに来ていた群馬帝国政府役人とともに、群馬帝国行きの政府専用列車に乗って群馬帝国へと向かった。

「三条君にとって、群馬は異世界となるからね。」

 と、役人に言われながら、群馬帝国に降り立つ。

 これが、三条神流が群馬帝国に初めて降り立った時である。

 三条神流は中学入学と同時に、群馬帝国国有鉄道に籍を入れ鉄道商人として群馬帝国に貢献するようになる。

 そんな生活をしながら、現在は群馬帝国国有鉄道の重役となった霧降要や望月光男と出会い、三条神流もエリートコースに乗ったように見えたが、「新移民」という立場が災いし、群馬帝国国有鉄道への就職は出来ず、国営天々座交通へ就職し現在に至っている。


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