エンゼル艦隊消滅事件
20YB年2月9日。
三条神流、指田貴志、清野康人の3人は群馬帝国国有鉄道からJR東日本に譲渡された後、行方不明となっていたDD13ディーゼル機関車が、散々放置された挙句、長野総合車両センターへ解体のため回送されると言う情報を元に、所在確認、及び証拠写真の撮影のため、中央本線の特急「あずさ」に乗り松本経由で長野に向かっていた。
JR東日本で廃車となった車両が長野へ回送される時は、中央本線を経由していくため、中央本線経由で長野を目指せば手掛かりをつかめると思ったのだ。
そして、その車内で情報を集めていた三条神流が、同日、東京総合車両センターを出たDD13の廃車回送は、現在EF65の牽引で岡谷駅に停車しているという情報を掴み、岡谷駅で下車した。
しかし、岡谷駅で確かにDD13を確認したエンゼル艦隊だが、指田貴志、清野康人の二人が岡谷駅で気まぐれを起こして飯田線に行こうと言い出したのだ。 三条神流は任務を遂行することを優先しろと言ったが聞かず、結局二人は飯田線へ行ってしまい、三条神流は単独で任務を遂行していた。
「あのバカ連中め。」
三条神流は、指田貴志、清野康人が脱走を図ったとして、直ちに群馬帝国国有鉄道に通報し、帝国警察隊と戦闘隊の出撃要請を行おうとした。
しかし、運悪くその日、太陽フレアが発生。強力な電磁波の影響で通信が出来無くなってしまった。
三条神流は通信も出来ず、岡谷駅で次の列車まで立ち往生していた。
その間に、DD13の廃車回送は発車してしまっていた。にっちもさっちも行かないとはまさしくこのことだろう。
焦った三条神流は誤って、隣にいた人にぶつかった。
それが、彼女であった。
三条神流は直ぐに謝ったのだが、ぶつかった時、三条神流の服に付けていた物が落ちた。
それは、群馬帝国国有鉄道のGNRのマークを象ったバッチであった。
GNRのバッチの落下に気付いた三条神流は、慌てて拾おうとしてまたぶつかった。彼女も、拾おうとしていたのだ。
「これは、なんのバッチ?すごく慌てて拾おうとしていたけど。」
「何処の物でもありません。私は、ある物に所属しております。言うならば、社章のような物です。」
当時高校生だった三条神流だが、そんなもの、見た目で分かってしまう。
「とても、社会人のようには見えない。」
「どこの人間でも良いでしょう。例え外国人でも、皆、同じ人間です。さあ、それを返してください。」
だが、彼女はそれを返さなかった。
「貴方、長野には何しに来たの?旅人って事は見れば分かるよ。」
三条神流は溜め息をついた。
「鉄道を追い、無計画の旅を行っております。」
「なら、明日の予定は無いってことね。」
「いや―。」
三条神流は任務を遂行しなければと思っていた。だが、DD13の情報も電波障害のせいで分からなくなり、同行者も勝手に行動していては、任務どころの騒ぎではない。直ちに帝国へ連絡し帰還するのが先決だ。
「ねえ、この後一緒に松本で遊ばない?案内するわ。」
「残念ながら、帝国の掟で商売女には手を出せないのです。さあ、それを返してください。」
「帝国?」
このとき、三条神流は誤って、帝国と言う言葉を使ってしまった。仕方なく三条神流は、
「私の所属は、群馬帝国です。GNRは、群馬帝国国有鉄道です。」
「群馬帝国?日本の中の特異点とされる。言うならば異世界の人?」
「はい。もう良いでしょう。それを返してください。私にとって、この場所は敵地であり、異世界なのです。そして、貴女も私から見れば宇宙人のような人なのです。」
「私は南条美穂。貴方と同じ、人間よ。」
三条神流は相手が名乗った上、自分も同じ人間だと言ったことに驚いた。
当時、群馬帝国は日本から「未開の地」等と不当に馬鹿にされていた上、そこに住むのは変人だと言われていたからだ。
「なぜ名乗るのです。私は群馬の―」
「さっき、例え外国人でも、皆、同じ人間ですって言ったでしょ?それは、群馬帝国の人でも同じ人間って事でしょ?」
三条神流は唇を噛み、
「私の名は、三条神流。群馬帝国国有鉄道所属の人間です。」
と名乗った。
これが、二人の出会いだった。




