3話 オトナリサン
淀んだ空気のまま1日が過ぎていく。降り出した雨が強くなり、俺の気持ちも曇らせる。
「やっべー、傘忘れちゃったよ…」
午後の降水確率は20%だったのになんでこんな豪雨なんだ?ゲリラ的な雨だと願うしかないな。
「ねぇ、しょーた君どうしよっか?」
「なにが?」
「放課後にクラス委員で集まるじゃん!」
そういえば、今日の放課後に各クラスのクラス委員代表で1名ずつが集まり話し合いをするって担任に言われたな。
「橘さんこの学校来たばかりなんだし俺が代表で行くよ」
「えッ、ありがと!しょーた君」
正直言うと、今日はリリと一緒に帰りたくない。最近、あいつは本当におかしい。何かに焦っていると言うか、追われている感じがする。
―—キーンコーンカーンコーン
「起立、気をつけ、礼」
授業がすべて終わり、みんな帰りの支度を始める。
「しょーちゃん一緒に帰ろ♪」
「あぁ、ごめんリリ!今日はクラス委員で集まりがあるらしいからさ、先に帰っててくれ」
「それってあの女と2人で?」
「いや、代表で俺が1人で行くけど」
「そっか、それじゃまた明日だねしょーちゃん!ばいばーい♪」
「お、おう!またな!」
なんか作り笑顔だったなあいつ…
「それじゃお願いね、しょーた君!」
「あ、うん!橘さんもまたね!」
各クラスのクラス委員が2年1組の教室に集まり、15分ほど今後の行事やら、新しいクラスについての報告会が行われた。
「意外と早く終わったな」
話し合いが終わる頃には雨もすっかり止んでいて、とても良いタイミングで家に帰れた。
明日ちょっとリリと2人で話し合ってみるかな。
ってかいつもリリとしか喋ってないか…
でも真剣に話をすれば、なんで最近おかしいのか教えてくれるかもしれないな。
そんなことを思っていると、ふとお隣の家のドアが開いた。
――ガチャ、
「あっ」
「えっ?」
一瞬その場が沈黙に包まれる。
「おぉ!!チビじゃねーか!!」
「えりねぇ…?」
俺のことをチビと呼ぶ目の前の女性は、えりねぇこと、一條 瑛利果。4年前に仕事のため、一時的に此処を離れていたお隣さん。
えりねぇとは昔からの中でよくお世話になっていた。因みに年の差は7歳だ。
「見ないうちにデカくなったな!」
「それは、成長期の4年間ろくに顔も合わせてなかったからじゃ」
「そうだよな!ははっ!ってかウチに会えなくて寂しかったか?」
「寂しいなんて…思ってなかったです」
「おい、チビィ〜!なんかよそよそしくないか?って、大人になった証拠か!あははっ!」
相変わらずよく笑う人だな。それにしても、小さい頃はよく遊んでもらってたから寂しかったといえば寂しかったが、なにかが喉に詰まってしまった感じがした。
「えりねぇこそ、パンク感が増したと言うか、その髪型すごいね」
「あぁ、これか?めっちゃオシャレだろ?」
「俺、そういうのはわからないから…けど、似合ってると思うよ」
「そうか?ありがとな!あははっ!」
えりねぇは根っからのパンク少女で、髪型は昔からショートカット、今は毛先を灰色にしていて今時のツートンカラーというやつにしている。
「あ、そういえばもう1人のチビがいただろ?お前にずっとくっついてた」
「リリのこと?」
「あぁ、そんな名前だったな!そいつとお前が帰ってくる前に少し顔を合わせてな」
「リリは変わってないだろ?」
「まぁな!あいつは本当に小さいままだったな」
「あはは、確かに!」
「けど私には相変わらず冷たいんだよな〜」
言わずもがな、リリは小さい頃から俺にべったりで、えりねぇもよくリリを交えて遊んでくれてたが、いつしかリリがえりねぇに距離を置くようになった。その理由は未だによく分からない。
「てかさ〜、立ち話もなんなんだから、久しぶりにウチの汚い家に上がるか?」
「あ、それ良いかもね。えりねぇに聞きたいこと他にも沢山あるし」
「あ、荷物まだ滅茶苦茶で、余計汚くなってるけど気にしないでくれよな!あははっ!」
えりねぇが笑いながらドアを開けると、後ろから人影が1人、もの凄い勢いで走ってきた。
――ドンッ!
「い、いった〜…誰だ俺にタックルしたヤツは?」
「あ、ごめんしょーちゃん!!」
「リリ?」
突然俺の背後にタックルをかましてきた犯人はリリだった。
「お、もう1人のチビじゃねーか!久しぶり!」
「お、お久しぶりです…」
明らかにリリはえりねぇに距離を置いているのが分かる。4年振りなのにその態度はないだろ。
「あのなぁ、リリ―——、」
「あの!しょーちゃんはこれから私とお勉強しなきゃいけないので、失礼します!」
は、はぁ!?まだ学校始まったばっかで、テストなんてないだろ?そもそも勉強するとも聞いてないぞ…
「リリお前何いっ―――、」
「それじゃ行くよ!しょーちゃん!」
「おい、ちょっとおまッ!!」
急にリリに手を引っ張られ、俺の家に押し込まされた形になった。
―—バタンッ!
「な、なんだあのチビは?せっかく、将太とゆっくり話せると思ったのによ〜」
俺はリリに、さっきの行動について問い詰めたていた。
「おい!お前、いきなりあれはないだろ?せっかく、えりねぇと4年振りの再会だっていうのにーー」
「バカっ!しょーちゃんのバカっ!」
「はぁ…?あのさ、お前最近おかしいぞ!」
「バカ…しょーちゃんのバカ…グスッ…」
「えっ…泣いてるのか?」
なんでリリは泣いているんだ?さっきから返事も一辺倒だし、まともに会話ができる気がしない。
「なぁ、落ち着けよ」
「グスッ、グスッ」
「ごめんって、俺も強く言いすぎた、謝るから何か喋ってくれ」
「グスッ…あのね、しょーちゃん―――――、
俺はその後の言葉に驚きを隠せなかった。わかっていたのかも知れないけれど、自分には関係ないことだと言い聞かせていたのだと思う。
そんな感情が湧くわけがないんだ…
けれど、リリのまっすぐな瞳は俺を正直にさせる。