2話 ウラノカオ
4月10日
相変わらず気持ちの良い天気だ。最近は朝も清々しい。よし、いつも通り登校するか。
今日から本格的に授業が始まる。昨日の2限目でクラス委員などを選出し、男子のクラス委員は俺になった。これは橘さんといい感じになった罰なのか、クラスの男子に嵌められた為である。
因みに女子のクラス委員は、意外にも橘さんが立候補した為、橘さんが選ばれた。俺は、てっきりリリと一緒にやるのかと思っていたが、橘さんがリリよりも早く手を挙げ立候補をした為、リリが遠慮した形になりこのような結果になった。
「おはよう…しょうちゃん…」
「おはようリリ、ってお前元気ないけど?」
「私あの橘っていう人嫌い!大っ嫌い!!」
「嫌いって、一応お前もクラスメイトで、これから一年は確実に一緒なんだからそんな事言うなって」
「だってあの女、絶対しょうちゃんに気があるもん!」
「そ、そんなわけないだろ?そもそも、俺も少し橘さんは苦手だし」
「えっ?それってどういうこと!?しょうちゃんは別にあの女に気はないの?」
確かに橘さんみたいな人は容姿端麗だし、優しそうでしっかりしていて、彼女としては申し分ない、けれど俺はそこに少し距離を置いてしまう。苦手というか、そういう人に限って、本当の裏の顔がある気がしてならない。
あと、俺だって常に自分に自信があるわけではないし、自信に満ち溢れている橘さんとは到底吊り合える気もしない。
「まぁ、俺には勿体ない人ってことだ」
「そうなんだ〜、なんか安心した」
「なんでリリが安心するんだよ」
「だって、あの女に興味ないならしょうちゃんの童貞はまだ奪われないって事でしょ?だからまだ安心って――」
「はぁ!?俺だって女の1人や2人はなぁ〜!」
「はいはい、嘘はいいから。私はずっと、しょうちゃんの隣にいるわけだし〜、今更強がらなくても…ね?」
クソッ!お前がずっと一緒にいるから彼女と間違えられて別の女の子が近寄らなかったんだろ?そもそも、俺だって本気を出せば!
「しょうちゃん、そんな怖い顔しないで〜!私だってわかってるよ、しょうちゃんが彼女を作らない理由くらい」
「じゃあなんだ?言ってみろよ」
「そ、それは…しょうちゃんは私のことが好きだからでしょ?」
少し照れながら発言するリリ。その発言に対して俺の反抗心が湧いてしてしまった。
「そ、そんなわけ…そんなこと言うなら俺、橘さんに告白するからな!」
「えっ?なんでなんでなんで?なんでそうなるのしょうちゃん?」
「お前が茶化すからだ!」
「ごめんなさい〜!さっきのは冗談だから!誤解だよ〜!だからあの女に告白はやめてー!!お願いだから〜!」
急に涙目になるリリ。少し感情的になってしまったか。
まぁ確かに衝動で動くのもあまり良くないことはわかってる、だが流石に今の状況であの告白宣言を撤回するとまたリリに舐められてしまう。だから、今は黙って教室に向かうことにする。
――キーンコーンカーンコーン
「起立、気をつけ、礼」
なんでクラス委員が号令をしなきゃならないんだよ…号令係っていうのを作ればいいのに。
「ねぇねぇ、皐月君」
「どうしたの橘さん?」
授業中にも関わらず橘さんが小声で話しかけてきた。
「私、まだこの学校来て2日目だし、全然他の教室の場所とか知らないから、あとで案内してくれる?」
「あぁ、そういう事ね!俺でよかったら」
「やったー!!」
「橘さん声が大きい!」
「こら!そこ!新学期早々うるさいぞ!」
「す、すみません…」
橘さんのせいで俺も怒られた。てか学校を案内してくれなんて、今授業中に言う必要あったのか?
「むぅ〜、しょうちゃんのバカ…」
――キーンコーンカーンコーン
「起立、気をつけ、礼」
気づけば午前の授業が終わっていた。橘さんの学校案内の約束は放課後だったが、早速午後の授業で特別教室を使うため、お昼休みに学校案内をすることになった。
「将太君!お弁当食べよ♪」
「あぁ、ごめんリリ。今日は先約がいてな」
「えっ、先約って誰が?」
「私で〜す!ごめんねリリちゃん、皐月君に学校を案内してもらう事になって〜」
「と言う事だ、リリは先に食べててくれ」
「やだ、ならリリも一緒に案内する!」
「はぁ?お前は別に橘さんをーー」
「だったらリリが橘さんを案内する!将太君は先にご飯食べてて!」
「意味がわからん…橘さんごめんね、今リリを黙らせるから」
「いいよいいよ!リリちゃんが案内してくれるなら――」
「なら行くよ、橘さん早く!」
リリが橘さんを置いて行くように小走りで教室を出て行ってしまった。それを追いかけるように橘さんも出て行った。
リリは橘さんの事が嫌いじゃなかったのかよ…ったく、あいつはなに考えてるんだ?
リリは次々と教室を橘さんに紹介し、急ぎ足で進めていた。
「あ、あの〜…リリちゃん歩くの早くない?」
「そうかな、ゆっくり歩いてお昼食べれなくなったら橘さんも困るでしょ?」
「私は別にお昼食べなくても」
「ここが美術室で、あっちが図書室で――」
「チッ、聞いてねーのかよ」
2人はいきなり険悪ムードになる。
「ねぇ、橘さんって将太君のこと、どう思ってるの?」
「え、えっ?す、すっごい急だね、皐月君は可愛いし好きだよ?」
「そういうことじゃなくて、か、彼氏にしたいとかそういう事は思わないの?」
「彼氏!?まぁ別に、皐月君なら彼氏にしてあげてもいいかな〜」
「彼氏にしてあげてもいいって…将太君をそんな軽い言い方しないでよ」
「えっ?なんか気に障っちゃったかな?」
「ぐッ…あなたに、しょうちゃんは触れさせないから」
「私が触れていいかなんて、『しょうちゃん』が決める事でしょ?」
「あなたはしょうちゃんって呼ばないで!!」
「はいはい、もう案内はいいや、最初から教室なら大体わかってるし、それじゃまたねリリちゃん♪」
「やっぱり嫌い…」
橘さんが1人で教室に帰ってきた。リリも一足遅れて帰ってきて、俺の席に近寄ってくる。
「しょうちゃん、もうご飯食べちゃった?」
「あぁ、もう食べ終わったよ」
「そっか…それじゃ今日は1人で食べるね」
「お、おう」
リリの様子がおかしい、橘さんと喧嘩でもしたのか?橘さんの方も少し表情が強張っているし…
「しょーた君♪私の顔になんかついてる?」
しまった、ついつい見つめてしまっていた。ってしょーた君って今、下の名前で呼ばれた?
「あ、何もついてないよ。それにしてもリリの案内は大丈夫だった?」
「それがさ、ちょっとリリちゃんに嫌がらせさせられたっていうか…」
「えっ!?例えばどんなことを」
「私に酷いことを色々言った後、全然教室を説明してくれなくて1人で早く行っちゃったり…だから私先に帰ってきちゃった」
「そうだったんだ、色々迷惑かけちゃったね」
「いいのいいの!しょーた君は気にしないで!これはリリちゃんと私の問題だから」
リリはそんな事を橘さんにしていたのか?それにしても、リリがそんな事するとは思えない。橘さんも妙に近づいてきているというか転校してきて2日目なのに、なにか不気味だ。
今日も良い天気、だったが急に雨が降り出した。これは何かの暗示なのかは今の俺にはわからない。




