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幼馴染×ヤンデレ=の方程式  作者: 漆黒の堕天使
最終章 幸せのその先に
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11話 タノミゴト

7月27日


リリが復活してからだいぶ経ち、体調もすっかり元通りになって、新学期当初の元気を取り戻していた。


「しょーちゃん、明日から夏休みだね♪」


「そうだな」


季節はすっかり夏を迎えていた。つい最近まで春だったのに、俺の嫌いな季節がやってきた。


「それにしても暑いな〜」


「うん、暑いね〜」


リリとたわいのない話をしている。こんな当たり前のことが、今ではとても信じられない自分がいる。それは、まだリリが自ら剥がした爪が治っていないからだ。

リリ自身、戒めとして爪の傷を隠さず、曝け出している。


「リリの爪、だいぶ良くなってきたな」


「うん、橘さんの爪も治ってるといいけど」


「そうだな…」


未だに橘さんとは事件以来会ってない。連絡も何もなく、リリが言うには実家に戻り、地元の高校に通っているらしい。


俺たちは教室につき、席に着く。


「お前ら、明日から夏休みだが気を抜かず、高校生ということを忘れず過してもらいたい!」


担任の夏休みに向けての指導が始まり、改めて夏を実感する。


「それじゃ、俺からの夏休みについての注意は以上だ!今日は解散!」


結局、担任が話をしていた内容など頭に入っておらず、俺は今後の予定について考えていた。


「しょーちゃん、明日からどうしよっか?」


俺以外にも、同じことを考えているヤツがいた。


「う〜ん…」


当然、俺は暇だ。けれど、もう少しで母さんが置いていったお金が底をついてしまう。それを考えると日雇いのバイトをしなければならない状況でもある。


「夏休みだからって特別なことをしなくてもいいんじゃないか?」


「えー!?せっかくの17歳の夏休みだよ?17歳は一生で一度しかないんだよ?」


「そんなこと言われてもな〜」


リリは燥ぐ気満々である。


「俺さ、お金がなくなってきているから日雇いをしようと思ってるんだけど」


「そんなの勿体ないよ!」


「勿体ない…?」


「そう、時間が勿体ないよ!お金なんて使わなくても遊べることなんて山ほどあるよ!例えば、しょーちゃんの家とか!」


「そりゃそうだけどさ、毎日家で過ごすのもな〜」


そんな俺とは御構い無しに、リリは夏休みの計画を黙々と企て始める。


「とりあえず明日はしょーちゃんの家で作戦会議ね!」


「さ、作戦会議って…」


「そっから話を広げようよ!」


「は、はぁ…」


そして俺たちは明日の約束をし、解散した。


実際のところ、リリとはあまり外に行きたくないのが本音だ。確かにリリの体調が治ったのは目に見えるが、それは外見であって中身ではない。俺はまだリリが完全に治ったとは思ってはいないし、いつ再発してもおかしくないとも思っている。だから、せめてこの夏休みだけは安静にしていてほしい。


−−prrr…prrr…


急に俺の携帯が鳴り出した。


「もしもし…」


「おっ、久しぶりだな!」


「こ、この声はえりねぇ!?」


「そうだよ、お前の大好きなえりねぇだぞっ!」


「あはは…」


そう言えば、ここ1ヶ月はリリにつきっきりで、えりねぇと電話をしていなかった。

それにしても、えりねぇからの電話なんて珍しい…何かあったのか?


「そっちは元気にやってるか?あははっ!」


「まぁ、相変わらずかな」


「そっか…」


「えりねぇは元気ないみたいだけど、何かあったの?」


「えっ、やっぱり分かっちゃう?」


「うん、バレバレだよ」


「あの、将太が忙しかったら、べつに構ってくれなくていいんだけど」


「もぉ〜、えりねぇ回りくどいよ!」


「あはは、お前に言われるとはな」


「俺はどんなことでも、えりねぇに協力するからさ、何があったか話してくれる?」


「うん、それじゃ話す」


えりねぇからの話は、鷲田との事だった。未だに鷲田からのアタックが激しく、最近それが酷くなってきていて、えりねぇが我慢できず口論になったらしい。


「そこでな、ウチがちょっと厄介な事を言っちまってな」


「えっ?」


「将太さ、リリと別れたって話したろ?」


「う、うん」


「それでさ、ウチが鷲田に彼氏ができたって嘘をついたんだよ」


「まさか、その彼氏って」


「そのまさかなんだけどさ…」


何か嫌な予感が脳裏を過る。


「ウチと将太が付き合ってる事にしちゃったってわけなんだけど」


「……」


やっぱり当たった。


「将太、聞いてるか?」


「あ、あぁ、なんだそういうことね!それで俺は話を合わせればいいの?」


「まぁ、大雑把に言えばそうだな」


「……」


少しの沈黙が訪れる。そして、えりねぇからまたとんでもない提案が出された。


「将太ごめん!今度、鷲田と会ってくれないか?」


「お、俺が会うの!?」


「鷲田のやつが信用してなくてな、実際に二人でいるところを見してくれって」


「それじゃ、俺とえりねぇがカップルらしいことを鷲田の前で見せるってわけ?」


「そういうことになるな」


なんだか、大変なことに巻き込まれてしまった。実際にえりねぇと付き合うなんて考えたこともなく、擬似という形でも、何故だか心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。正直、面倒臭いという気持ちがある反面、嬉しいと思っている自分もいるのは否めない。


「具体的にどんなことをすればいいの?」


「まぁ、カップルらしさを出すには腕を組んだりとか、とりあえず密着しとけばいいんじゃないか?」


「う、腕組みですか…」


「手、繋ぐぐらいにしとくか?」


「う〜ん、やっぱえりねぇに任せる!」


「お、本当か?じゃあ容赦なく彼氏扱いしてやるからな!」


「お、俺も頑張ります」


そして、鷲田と会うための日にちを決めた。


しかし、一応俺はリリにこのことを報告することにした。それは、リリ自身まだ不安定なところがあり、何も言わずに、えりねぇと俺がカップルを装っている所を見られたら、勘違いをしてしまい、また暴走をしてしまうのではないかと思ったからだ。


「明日、ちょうどリリと会うし、今日はとりあえず寝よう…」


そうして俺は、部屋の明かりを消した。


7月28日


夏休み1日目が始まった。


「ふぁ〜」


相変わらずの朝、夏休みだからといって俺の生活は変わることはない。


ーードンドンッ!


「しょーちゃんいつまで寝てるの〜?」


朝から大きな声でリリが起こしに来た。


てか、あいつ外にいるのに声が大きいって。


俺は玄関の鍵を外す。


「おはよう、リリ」


「おはよー、しょーちゃん!」


そして俺は顔を洗い、パジャマから部屋着に着替え、リリが待っているリビングに向かった。


「しょーちゃん、また部屋汚くなってる!」


「しょうがないだろ?男の一人暮らしなんてこんなもんだ」


けれど、俺自身綺麗好きなところがあって、一般の一人暮らしをしている男性の部屋よりかは、比較的綺麗な方だと思っている。


「私が毎日、掃除しに来てあげる!」


「そんな必要ないよ、そんなことより作戦会議するって言ってただろ?」


「あ、そうだった!あのね、今度の平日に遊園地に行きたの!」


「ゆ、遊園地か」


「そう!この前の遊園地は、そんなに二人でいる時間がなかったでしょ?」


「まぁ、そうだけど」


「だから、次は二人でずっと一緒に園内を回るの!」


「そ、そうか」


まずい、このままだとリリのペースに持っていかれてしまう。早く昨日のことを話さなきゃ。


「あ、あの、その前に俺から話をしなきゃならない事があるんだけど、いいかな?」


「え、しょーちゃん困っちゃうよ〜、急にそんなこと言われても、私まだ心の準備が…」


「いやいや、そういうのじゃなくて!えりねぇの事についてなんだけど」


「あ、なんだ…」


リリの顔が曇る。やっぱり、先に言っておいたほうが良かったのかもしれない。


そして俺は、えりねぇと昨日、約束したことをリリに話した。


「ふ〜ん、しょーちゃんはそれでいいの?」


「まぁ、俺は問題ないかな」


「それなら、いいんじゃないかな?私がとやかく言える立場じゃないし」


「うん、だからその件が終わったら遊園地に行こう」


「わかったけど、私もついて行っていいかな?」


「えっ、なんでリリが?」


「だって、カップルを装うだけなんでしょ?もし、瑛利果さんがしょーちゃんの嫌がることをしたらどうするの?」


「えりねぇに限ってそんなことはないよ」


「でも私、キスは嫌だよ?」


「き、キス!?まさか、そんなことはしないよ」


「もし、しょーちゃんが他の女とキスしたら私、何するかわからないよ」


「で、でも俺たちは付き合ってるわけじゃないから…」


「だとしても私は嫌!だから私もついて行くって瑛利果さんに言っておいて」


「わ、わかったよ」


なんとか話しはできたけど、余計に面倒臭いことになった気がする。けれど、話さないよりはマシだ。


そして俺は、えりねぇに今日のことを告げ、鷲田との面会の日を待つことにした。

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