8話 ホンショウ
5月8日
「おはよー!しょーちゃん!」
「リリ、その髪どうした!?」
「えへへ、しょーちゃんはショートカットの方が好きって言ってたから…どうかな?」
リリは俺の為に、好きなショートカットに髪型を変えてくれた。リリの親は、大切に髪を伸ばしているって聞いたことあるけど…
「すごく似合う!すごい可愛いよ!」
「えへへ、ありがと♪」
「それじゃ、学校行くか?」
「うん♪」
俺はリリの手を取り、一緒に学校に行くことにした。
「あ、橘さんおはよう」
「…」
橘さんは、この前のことを、まだ引きずっているのだろう。
「今日クラス委員で集まるらしいんだけど…」
「チッ…怠いから、私はパスで」
「それが、全員参加なんだよね…」
「じゃあ、外せない用事があるから休みってことにしといて」
すごい不機嫌だ。俺が何かしたのか?一番の原因はえりねぇだと思うんだけど。
俺は結局、1人でクラス委員の集まりに参加した。
「さて、帰るか」
俺が寂しく校門をくぐると。
「しょーちゃんお疲れ様!」
「おぉ、リリか」
「集まり終わるまで、待ってたの♪」
「そうなのか、ありがとな」
そして、帰り道では橘さんについてのことを話した。
「ひどいね、あいつ自分から志願したくせに、仕事しないなんて」
「まぁ、橘さんにも色々あるんだよ」
「しょーちゃん優しすぎだよ!私が言っといてあげよっか?」
「大丈夫だよ、リリは気にしないで」
「私は、しょーちゃんに迷惑かける人は、親だとしても絶対に許さないから」
「あははっ、それは言い過ぎなんじゃないか?」
「冗談じゃないよ?」
リリの目が急に変わった。それは、殺気を感じるような、冷たい目つき。こんなリリの目を見るのは初めてだ。
「じゃ、じゃあ次また橘さんがサボった時は注意してもらおうかな」
「うん!しょーちゃん、任せて♪」
5月25日
ついにその日が来た。
「橘さん、今日もクラス委員の集まりがあって、作業が色々あるらしくて手伝ってほしんだけど」
「はぁ?なんで私があんたの手伝いをするわけ?」
「一応、クラス委員だし…」
「勝手に1人でやってて、私は忙しいの」
「うっ…わ、わかったよ」
そんな会話をしていたら、リリがこっちに向かって来た。
「ねぇ、しょーちゃんが困ってるのわからないの?」
「はっ?部外者は黙ってくれない?」
「あんたいい加減にしなさいよ…」
「私は、あんたにキレられる筋合いがないんだけど?って、もしかして彼氏のために頑張って代わりに怒ってあげてる、みたいな感じなの?ウケるんですけど〜」
「殺してやる…」
「なんて言ったのか聞こえなーい」
リリの目があの時と同じ、冷徹な目になっている。何か嫌な予感がする。
「リリ、落ち着いて」
「しょーちゃんは黙ってて!」
「お〜、こわっ、リリちゃんそんなにシワ寄せると、せっかくのお顔が台無しよ?」
「あんた、本気で殺す…」
「殺してみろよチビ!お前じゃ、相手にもなんねぇよ」
「2人とも落ち着けよ!!」
俺は声を張り上げた。その場が静まり返る。
「はぁ、私早退するわ…」
橘さんは席を立ち、保健室に向かった。
「ごめん、しょーちゃん」
「あれは、さすがに言い過ぎだろ」
「えっ、もっと言ってやれなかったことについて謝ってるんだけど?」
「それ、本気で言ってるのか?」
「私は本当に、あいつを殺そうと思ってたけど」
リリの限度が計り知れない。
これがリリの本性なのか?こんなに近くで、何年も一緒にいるのに、気づけなかったのか?
「と、とりあえず、まずは俺と橘さんで話し合いをするから、リリは少しの間は我慢しててくれ」
「うん、わかった!けど、私がつい我慢できなくなったら、しょーちゃんが止めてね♪」
「お、おう…」
6月4日
橘さんは、あの日以来から欠席が続いていてる。
けれど、今日は久々に学校に登校してきた。
「橘さん、この前はごめん」
「あぁ、気にしないでいいよ、私も頭に血が上っちゃったし」
「それでさ、もし良かったらなんだけど…」
「2人きりで話し合いたいって?それなら別にいいけど」
「そう、話が早くて助かるよ」
俺は放課後に、橘さんと屋上で話し合うことを約束した。
そして放課後。
「んで、私になにを聞きたいの?」
「それじゃ、遠慮なく…ここにきた理由と、一條 瑛利果との関係性を教えて欲しい」
「まぁ、そのことだと思った。私は、あなたを陥れるためにこの学校にきた」
「そ、それってなんの意味があって?」
「あの遊園地で、あなたも見たでしょ?あの鷲田って男に、私は惚れているの、だから―――、
橘さんと鷲田が出会ったのは4年前。
橘さんは神社の宮司の家系で、そこの神社をよく鷲田がお参りに来ていたことから、顔見知りになったらしい。
そこから、鷲田と会話を重ねるごとに、彼の人の良さに惹かれ、それ以来、橘さんは鷲田のことを想っている。
「そこで、あの女が邪魔に入った…」
あの女とはえりねぇのことで、焦った橘さんは2年前に、一度鷲田に告白していたらしい。
「そして、告白の返事は…エリカさんのことしか考えられないって言われて断られたの」
「だから、えりねぇを陥れるために、ここにきたってことか」
「そう、それで調べていくうちに、あなたに辿り着いたの」
「それってどういう意味?」
「あの女がよく、あなたらしき人の話をしていたの」
「それで?」
「だから、あなたがあの女の好きな人なんだって勘違いして、あなたが傷つけばあの女の復讐になるのかなって思ったから」
狂った人の愛し方だ。だから、この学校に転校してきて、俺に接触したってわけか。
「もう、色々バレちゃったし、計画も崩れちゃったけど、私はあなたを傷つけることはやめないから」
「ど、どうして?」
「今は、あの山田 リリがうざいから、あいつの絶望した顔が見るために、あなた今から死んでくれる?」
鷲田奪還作戦は、橘さんの勘違いで終わったためか、今はリリに飛び火してしまった。
「それは、ワケが違うんじゃないかな?」
「私さ、指図されるの大嫌いなの、そもそもあのチビの態度が気に入らないし」
「そんなことして、どうなるの?」
「それが私の快感なの!ヤメられない!人の絶望した顔が好きなの!堪らないくらいゾクゾクするの!」
「狂ってる…」
「あははははっ!だからいつでも死ねる準備しててね!しょーちゃん♪」
今日の話し合いは、これで終わった。
リリは用事ですでに帰っており、この話し合いを盗み聞きしていなかったのは、不幸中の幸いだった。
6月7日
休日を挟んでの学校。俺は、この休日中に色々な対策を考えた。だから、俺は今日も橘さんと話し合うことを決めた。
ちゃんと、橘さんに伝われば問題がないのだが、今は信じるしかない。
「おはよー♪」
「リリ、おはよ…」
「あれ、しょーちゃん疲れ気味だけど大丈夫?」
「ちょっと考え事しててな」
「橘のこと?」
「まぁ、そんなところ」
正直、リリにはあまり関わって欲しくない案件で、リリ自体何を考えているのかわからないからだ。
「私が話つけてあげようか?」
「いや、それは大丈夫だよ」
そして、気づけば学校に着いていた。俺は迷わず橘さんに話しかける。
「橘さん、今日もいいかな?」
「おっ、死ぬ覚悟できたの?」
「そんなんじゃない、ちゃんと話し合おう」
「チッ、つまんないの」
そして放課後。
なんだかんだ言って、橘さんはしっかり屋上に来てくれた。
「橘さんは、絶対にリリを傷つけないと気が済まないの?」
「う〜ん、そんな感じ〜」
「そっか、俺もうリリとは別れたから」
「えっ、なにそれ!?」
「だから、俺はえりねぇと付き合って、鷲田を渡すってのはどうかな?」
「なに、訳のわからないこと言ってるの?」
そう、俺だってよくわからない。けれど、これが俺の作戦。鷲田にえりねぇを諦めてもらって、橘さんとくっついてもらう、それが理想の形。
「だから、俺を殺しても誰も悲しまないし、絶望なんかしたりしないよ」
「まぁ、それでもいいや」
「えっ?」
橘さんの顔が変わった。
「もう、さっきから刺したくてうずうずしてるの!」
橘さんは、自分のポケットに手を入れ、サバイバルナイフを取り出した。
「ちょ、ちょっと落ち着こうよ!」
「聞こえなぁ〜い、聞こえなぁ〜い!」
もうだめだ、なにを言っても通じない気がする。逃げたほうがいいのか?いや、逃げたらなにも解決しない、それだけはダメだ!
「ぼーっとしてると刺されちゃうよ〜♪」
「俺は、逃げない!刺すなら刺してみろ!」
「威勢がいいねぇ、嫌いじゃないよ♪」
橘さんが、踏み込んでこっちに走ってくる。
そして次の瞬間。
――ドンッ!
俺は橘さんではない何者かに、鈍器のようなもので後頭部を殴られた。予想外のことで、橘さんも立ち止まる。
「グッ、誰だ…」
意識が遠のく。
「しょーちゃんごめんね♪」
この声は…リリ!?
「あんた、相当やばい女ね」
「ナイフ振り回す女もどうかと思うけど?」
一体どうなってしまうんだ…
―—バタンッ
俺は意識がなくなり、その場で倒れた。
目覚めた頃には夜になっていて、まだ学校の屋上だった。そして、両手を手錠で抑えつけられていた…




