ほごしゃいちどうからのおねがい。
自分の家の敷地から、塀にもたれて煙草を吹かす。
木枯らしの吹く季節だが、長袖であれば上着までは必要ない。長袖のセーターに煙草の臭いがつくのを嫌う飼い猫は、いつも外での喫煙の後にじゃれつく事が無く。
僕はその瞬間だけが唯一、全てから解放された気分になれるんだ。
休日にすることもなく、ただごろごろする至福の時。塀に顎を乗せて外を見ていると、目の前を赤いランドセルを背負った小さなどんぐり。
たった一人でのろのろと歩く女の子に、僕は右手を上げて時計を見る。もう、正午だ。
日曜学校というものがあるらしいが、この子もそれに行っていたのだろうか。塀の上の生首に気づく事無く女の子は歩いて行く。
何となく目で追ってみると、赤いランドセルに奇妙な文言の書かれた紙が貼られていた。
このこをふりむかせないでください。
ほごしゃいちどうからのおねがい。
…………。
意味が分からない。
興味の湧いた僕は、とりあえずその女の子の後をつけてみた。もちろん、最終的な目標は少女を振り向かせる事だ。
といっても小学生低学年ほどの女の子を追い掛け回すなんて不審者の極みであるし、そう長い事つけ回そうってつもりでもない。
だから僕はその子を観察している訳だけど、どうも変わった所がある様子もなかった。寝違いでもしているのか、首を怪我でもしているのか。
よくある都市伝説ではこういった手合いだと、振り返ると首が切られる、なあんてものを聞き及んだ事はあるが、それは振り向くなと言われた時のお話だ。
僕は吸い終わった煙草を携帯灰皿に押し込むと、足音を忍ばせて女の子の後ろについた。
テープで上だけ、簡単に止められた白紙がその身をくねらせている。
一反木綿。そんな言葉が思い浮かんだけど、一反じゃない。一寸? いや、一寸では小さすぎるかな。
そんな事を考えながら、たぶん学友からいたずらされたであろう紙を取った。
音はしなかったけど、違和感があったのか女の子が振り返る。
肩を反らし、首を曲げ、子供も大人もやるごくごく普通の動作で後ろを確認しようとした女の子。
その首はぐるりと回転して、そのまま地面に落ちてしまった。
抉れた首元に溢れ出す血溜りは、時折勢い良く飛沫を上げて僕の持っている白紙に赤い斑点がついた。女の子は、訳がわからずと地面の上で目を瞬かせている。
まるで電球のソケットみたいな頭と首と、捩れた先が赤黒く。
後は立ち尽くす女の子の体が真っ赤になって、その上に雪が積もって真っ白になるまで、僕はずっと泣きそうになりながら、こちらを見続ける女の子とにらめっこをしているのだった。
霜月透子様主催【ヒヤゾク企画】参加作品、五作品目となります。
僕は女の子の体が血に染まってもなにもしませんでしたが、皆さんはこういう状況に陥ってしまったらきちんと救急に電話を入れて、止血したり、首を回して元に戻らないかなど最善策を模索しましょう。
注意書きは素直に受け入れましょう。女の子に限らずつけ回すのは止めましょう。
人の嫌がる事をするととんでもないしっぺ返しがあるかも知れません。