表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レスティア物語  作者: マリア
第二章 王都センスティア
74/275

互いを見極める目

 カイルの右側にはキリル、ハンナ、トーマが、左側にはレイチェル、アミル、ダリルが座っている。それぞれ表情を引き締めているが、カイルと同じような決意の眼をしている。それぞれに訴えたいこともあるのだろう。

「……初めまして、でいいね。わたしのことはバースおじさんと呼んでくれていいよ。君にはずっと会いたいと思っていたけど、なかなかね。ロイドとの約束もあったし、わたし自身思うところもあってね。ああ、でも本当に生きていてよかったよ。君が死んでいたなんて聞いた時には生きた心地がしなくてね。本当に、こうして会えてよかった……」


 トレバースは矢継ぎ早に言葉を繰り出す。それにはレイチェル達だけではなく、側近達も驚いた様子だった。トレバース自身も何を言いたいのかよく分からないままに、色々な思いが口をついて出たという感じだった。外交であれば相手に付け入られること間違いなしだ。

 舞い上がっているというより、どこか落ち着かないという感情がこんな行動に走らせたと、トレバースは自身を自己分析して少し反省する。だが、カイルはその様子をじっと見て、それから口を開いた。


「じゃあ、バースおじさんで。えっと、バースおじさんって、俺のこと避けてただろ? 俺に会いたくなかったはずなのに、何でこうして会おうって思ったんだ?」

「えっ! い、いや、そんなことは……いや、確かにそうだね。わたしは君のことを避けていたよ」

「それって、父さんに関係して? 父さんの……死とかに?」

「っ! そ、そうだね。わたしはロイドの死に責任を感じていた。そして、ロイドの息子である君にそれを非難されたくなくて、君を避けていた。その結果が、今回の騒動につながったと思うと、どうしても会わないでいるという選択肢は選ぶわけにはいかないと思ってね」


 レイチェルや、側近達にも知らせていなかったトレバースの心情に各々驚きを感じていた。同時に、初対面でそのことを見抜いたカイルにも同じ視線が向けられていた。

「……別に、父さんの死を誰かの責任にするつもりはない。父さんは、自分の意志でそれを選んだんだろうし。贅沢を言や、生きて帰ってきてほしかったけど……。でも、父さんがそれ以外に方法がないって思って、自ら望んで死を選んだって言うなら、俺は納得はできなくても理解はする。それで世界を、たくさんの人達を救ったっていうことを誇りに思う。きっと、父さんが命かけても守りたいって思った人達の中には、俺や母さんだけじゃなくて、関わってきた人達とか仲間とか、親友であるバースおじさんも含まれていたんだって、そう思うから」


 ロイドにはカイルの他にもその背に背負っている人達がたくさんいた。支えてくれて、助けてくれて、時に自分や大切な人を守ってくれる人達が。その人達を守るためにロイドが行動したというなら、その行動は理解しようと思う。納得できなくても、呑み込もうと思う。仲間ができた今では特にそう思う。

 トレバースはそんなカイルの笑みを伴った言葉を聞いて、眼を潤ませた。長年心に突き刺さっていたものが少し軽くなったような、痛みが消えていくような気がした。父親ばかりではない、その息子にさえ救われるのかと、妙な感慨が心に浮かぶ。


「き、君は……そう、か。そう思ってくれていたのか……。すまない、もっと早くに君に会っておくべきだった。君の父親の死を見届けたわたしから、直接報告すべきだった。その後もおざなりな対応を続けて、そのせいで君や君達がいた村にも取り返しのつかない苦難を味あわせてしまった。申し訳なかった」

 トレバースは改めて謝罪をする。王である以上、人前で簡単に頭を下げることは出来ない。だが、せめて謝らなければ自分自身が許せない。カイルはそんなトレバースを見て苦笑する。今はともかく、当時はどうだっただろうかと思い返しながら。

「そん時は俺、四歳のガキだったから、八つ当たりくらいはしてたかもしれないぜ? 実際、しばらく夜寝られなかったからな。朝まどろんで、ふと目が覚めても隣で寝てくれる父さんがもういないってこと受け止めきれなくて、家の中やよく一緒に行ってた場所を探し回って……いないこと実感しては泣いて帰ってた」


 その情景を想像できた者はみな、ズキリと胸が痛む。四歳の幼子に、父親の死をすぐに理解して受け止めろと言う方が無理なのだ。いかにカイルといえど、どうしようもなく辛かったのだろうから。

「そん時はいつもジェーンさんに慰められてたな。村の人達にはそんな姿見せらんないから、俺も必死で笑おうとしたんだけど……」

「なぜです? その頃から雰囲気が悪くなっていた村人達を刺激しないためですか?」

 テッドも加わってくる。レイチェル達から報告は受けていても、実際にどんな人物なのか自ら見極めようとしているかのようだ。実際、トレバースが心を許してしまった以上もしくは引け目があって強く出られない以上、カイルが見返りに何か無茶な要求をしてきても止められるのはテッドぐらいなのだから。


「それもないわけではないけど。でも、俺が泣いてたら示しがつかないだろ? 世界を救った英雄の息子が、そのことを誇りに思わなきゃ、笑ってその死を認められなきゃ、みんな大戦が終わったこと素直に喜んで笑えないだろ? 家族や友人をみんな亡くしても必死で生きて笑おうとしてる人達が、俺に遠慮して笑えないなんて、そんなのは嫌だったからな」

「君は、四歳でそんなことを?」

「生まれてすぐ母さんが死んで、父さんもあまり一緒にはいられなくて、でもジェーンさんは俺を甘やかしたりしなかった。父さんや母さんのように立場や地位があり有名な人達がどういう責任を負っているのか、そしてその家族がどのような存在であらねばならないか、言葉覚える前からずっと言い聞かされて育ったからな。村でもいつも特別扱いされてた。だから、俺は英雄の息子じゃないといけなかったんだ。みんなが辛くて悲しい時だからこそ、俺が笑えなきゃいけなかったんだ」


 それほどまでに、英雄の息子という肩書は重く、幼いということさえ言い訳にはできない。そうあるべきだと、頑ななまでに教え込まれていたから。それをすべきだと、自身でもそう感じていたから。

「でも、よく考えりゃ逆効果だったのかもな。みんなが笑えない時に笑ってた俺は、ただでさえささくれ立ってた心を逆なでする存在でしかなかったのかもな。俺の……俺や父さんのせいで、みんな辛い思いしたのに」

「それはっ! それは、わたしに責任がある。君や君の母親が敵に狙われる可能性も考慮して動くべきだったのだ。国を預かる者として、気づかねばならなかった。言い訳にしかならないけど、即位したてで大戦に臨み、配慮を怠った。もし君が見つかって捕えられていたとすれば、大戦の結果は全く違ったものになっていたかもしれない」


 仮に本当にカイルが死んでいたとしても、村人達は同じことをしたのではないか。罪悪感に耐え切れず、見捨てられた痛みに耐えかねて。もしそうなっていれば、あのカミーユをとらえることもできずもっと被害が広がっていたかもしれない。それを思えば、四歳でそこまでの配慮をして行動できたカイルを褒めこそすれ、責めるなんてできない。

「いーや、そもそもは父さんのせいだ。とことん隠し事に向かない性格だろ? どーせ、父さんの行動から足がついたんだ。自分だけでできないなら誰かに頼めばいいのに、自分の子供のことだからって意地でも張ってたんだろ。それで、危機に陥ってりゃ自業自得ってやつだ。案外、母さんや村の人達に謝るために、死を選んだのかもな……」


 それはそれでロイドらしいと、トレバースはクスリと笑みをこぼしてしまう。カイルもしょうがないという顔をしながら、口元には笑みがあった。そんな父親だったからこそ、憎めないのだというように。

「君は……今でも剣聖ロイドの息子として生きているのですか?」

「そうとも言えるし、そうでないともいえるかな」

「どういうことですか?」

「あん時の俺には、英雄の息子って肩書きしかなかった。でも、村を出て流れ者になって、ジェーンさんが死んで、孤児になった。今の俺を形作っているのは父さんや母さんの息子ってだけじゃない。同じ境遇の人達の夢や希望みたいなもんも背負ってる。俺自身の夢もある、無二の相棒と交わした約束もある、仲間と交わした誓いもある。それら全部ひっくるめて、俺として生きてる。カイル=ランバートとして」


「アンデルセンとは名乗らないのかい?」

 トレバースが授けた名前はロイド一代限りのつもりではなかった。偉大なる剣聖の一族として受け継いでもらえれば、と考えていたのだ。ともすればその名だけで貴族位を授けてもいいと思えるほどに、感謝していたし貢献した。

「柄じゃねぇよ。父さんはすごくても、俺はまだまだだ。絶賛修行中の身だし、死んだってことになってもいるし、名乗れねぇよ。そんな重たい名前、まだ支えきれねぇ」

 父であるロイドが公式の場でその名を名乗っていたのは、その名に込められた期待や責任感を実感し背負うためでもあったのだろう。今のカイルにはそれを支えられるだけの実力も覚悟もない。だから、名乗れない。


「ギルドでは、なかなか活躍しているようじゃないか? 俺の元にも噂が届いている。新進気鋭の期待の星とか」

「レイチェル達とか、親方達とかにしごかれてるからなぁ。それくらい成果出せないと、むしろ申し訳ねぇっていうか……ちょっとは加減しろよ。何回ぶっ倒れても回復させては遠慮なく続けやがって。親方達は親方達で、俺は生産者一本じゃねぇってのに一流になるまで辞めさせんって。体が持たねぇよ。俺最近ちゃんと寝た記憶ねぇぞ? いつも気絶するみてぇにベッドに倒れてんだからな?」

 最初は感謝している風だったが、だんだんと愚痴になってくる。お前らいい加減にしろと言いたい。揃いも揃って、遠慮もためらいもなく詰め込み教育を施してくる。いくらなんでも短期間に詰めすぎだ。


「それはそれだ。カイルはいつピンチになるか分からない。だからできる間に仕込んでおこうと思うのは当然だ」

「そうですわね。詰めれば詰めるほど入るので面白いのですわ」

「叩いたら叩いただけ、奇想天外な答えが出てくる」

「そつなくこなせるだけに、色々教えたくなるんだよな」

「そうだな、上達ぶりがすさまじい」

「教える立場としては、いつ追い抜かれるか危機感さえ抱くほどだ」

「……お前ら、それ半分は褒めてねえよな? 確かに色々あったけども、だからって限度くらいはあるだろ?」

 実際、いつだって限界ギリギリまでしごかれる。効果はあるのだろうが、少し休みも欲しいと思う今日この頃だ。


「こなせているのだからいいのではないか? 限界を超えることで、新たな道が開けるというぞ?」

「新たな道が開ける前に、冥界への道が見えてきそうだわ! この前、レイチェルにぶっ飛ばされた時、花畑が見えたんだぞ!」

「う、あ、あれは少し……力加減を間違えたというか。つい、技が出たというか……」

「ついで、意識飛ぶ技出すなよな。みんなだんだん手加減も雑になってくるし。おかげで回避と直感は随分鍛えられたわ……」

 忌憚なくレイチェル達とやり取りを交わすカイルを、トレバースを始めテッドやレナードも驚きや関心や納得の表情で見ていた。本当に仲間といえる絆が結ばれているのだと分かる。誰もが遠慮することなく自身の意見をぶつけ合える。


 レナードなど、家でもどこか委縮しているような感じのするレイチェルが生き生きと、また普段は見せないような表情を見せるのを見て、小さなため息をつく。自身にも覚えがあるだけに、レイチェルの気持ちが誰より理解できたのだ。

 そしてまた、それまでのトレバースや宰相との会話で、カイルがどのような人物かについてもある程度理解できた。レナードも若ければ、共について行きたいと思わせる確かな魅力と器を持っている。

「仲良くやっているようだね。君の迎えを彼らに頼んでよかったよ。一人増えているのは、報告にあったキリル=ギルバート君だね、ディラン=ギルバート氏の孫にあたる」

「はい、祖父も今共に住んでおります」


 キリルは祖父の仕事柄、高貴な人々と会う機会もあったため、母親などから敬語も教えられていた。聞きなれないキリルの敬語にカイルは眉を上げる。そういえば、ジェーンは作法や心構えには厳しかったが言葉遣いに関してはそこまで矯正されなかった。

 裏通りの生活に合わないと感じたのか、ロイドがそうだったため無理強いをすることを避けたのか。ジェーン自身は敬語に近い感じで話していたのに、カイルにはそれを教えるということもさせるということもなかった。


「カイル君の剣もディラン氏の作ということだったが」

「ああ、この間打ち直してもらったんだ。だから、一応俺専用の剣ってことになるのかな」

 カイルは腰から外した剣を机の上に乗せる。手に取ったのは騎士団団長でもあるレナードだった。レイチェルと同じく剣士でもあるため、剣には興味があるのだろう。

 質素な拵えの鞘から、剣を抜き放つと、レナードはうなるように感嘆の声を上げる。名匠と呼ばれるほどの存在に打ち直された剣は、飾り気などなくとも人を圧倒し魅了できるほどの美しさと輝きがあった。しかも、抜く前に手に取った時から、レナードは自身にこの剣を扱うことができないと悟っていた。

 振れないわけではない。だが、この剣の持つポテンシャルを十二分に引き出すことができないと感じたのだ。それに長さや重さやバランス、癖のようなものまで持ち手に合わせて調整されている。まさにオーダーメイドと呼ぶにふさわしい一品。カイルのためだけに打たれた剣だ。


「素晴らしい。君がこの剣を使いこなせるようになった時、君はもしかするとロイドを越えるほどの剣士になるかもしれない」

 剣は人を選び、また持ち主を知る手がかりともなる。これ程の性能を、力を与えられているということは、持ち主がそれだけの力を秘めているということだ。それだけの力を引き出し自在に扱える可能性を持っているということだ。

 ならば、この唯一無二の剣を使いこなせた時、カイルは剣の道において父であるロイドに並べる、あるいは越せる可能性を有していることをレナードは読み取った。そして、それを娘や二つ名持ちの若手達も感じているからこその熱血指導なのだろう。


「そうかな。まだまだ剣の方が荷が勝ちすぎてるけどな。まぁ、出来るなら父さんを越えたいよな。そうすりゃ、父さんができなかったことでも、俺ならできるかもって思えるだろ? ま、実際に剣を持たなくていい世の中なんて無理だろうけど。でも、父さんが言いたかったのは、理不尽や不条理に暴力で立ち向かわなくてもいい世の中ってことなんだろうから。それなら、出来るかもしれないしな」

 剣を返してもらって、鞘に納めながら笑うカイルにレナードもつられて笑う。公務でこんなふうに笑ったところを見たことがなかったレイチェルは驚きの顔をして、レナードもそれに気づいて、自身が笑っていたことを悟る。どうにも、剣聖の息子というのは人を乗せるのが巧みだと実感してしまう。


 レナードも知らず知らずに乗せられて、いよいよ最後のとりでとなったテッドは、自身の夢や目標とも重なるカイルの夢について追及を続ける。これによってはテッドもまたカイルの陣営になる可能性もあるという思いを込めながら。

「あなたもまた、同じような夢を抱いているのですよね? 孤児や流れ者、そういった現在不当に虐げられている者達の待遇を改善するという。その困難さや敵の多さや大きさは知っての上ですか?」

「当たり前だろ? 簡単にいかないことくらい分かってる。時間がかかるってことも、その間にどれだけ犠牲が増えるか分からないってことも。でも、誰かがやらなきゃ、始めなきゃいつまでたっても変わらない、ってか悪くなるばかりだ。だから俺はどんだけ時間かけても、どんだけ歩みが遅かったとしても、出来るだけ犠牲を少なくする道を選びながら一歩ずつ歩いてく。クロのおかげで、その時間をもらったからな」


「妖魔としての寿命……ですか。ですがそれは同時に、あなたが人の道から外れてしまったということでもありますよ」

 テッドの言葉に、カイルは痛いところをつかれたという顔をする。それでも一度深呼吸をするとテッドを真っ直ぐに見返す。

「それも、分かってる。いつか俺は、化け物って呼ばれるようになる。助けたい、一緒にいたいって思える人達からは外れていくってことも。でも、例えそうなっても夢をかなえることができたならそれでいいって思ってるんだ。父さんのように歴史に名が残らなくても、母さんのように助けた人の心に残らなくても。それでも、俺がやったことは、やれたことは未来の世界に残り続けるだろうから。誰もが、俺の名を忘れることがあっても、俺が残せた希望は忘れない。そんなふうになれたら、そんなことができたらいいと俺は思ってる。そのために今、努力してる。あんただって、そうだろ?」

 最後の質問に虚をつかれたのか、テッドの目が丸くなる。


「冷たそうな顔で厳しいこと言ってくるけど、テッドさんだって似たような思い抱えて今まで努力してここまで上り詰めたんだろ? 試すようなことばっかり言ってくるけど、なめるなよ? 俺には精霊が見えてるんだぜ? 本当に冷たい、厳しいだけの人にそこまで精霊達が集まってくるなんてことはない。好かれるなんてことはない。それがなくても、眼を見りゃわかる。テッドさんが、俺達のような存在でもちゃんと人として認めてくれているって。知ってるか? どれだけ取り繕っても、本当に冷たくて厳しい人間ってやつは、俺達のような存在を見る時、すげー冷たい眼をするんだぜ?」

「冷たい……眼?」

 今まで何度も冷血漢と呼ばれてきたテッド。だが、カイルから見ればそれは表面上だけで、内面はまるで違う。冷たいのも厳しいのも国を、人を思う故にそうあらざるを得ないのだと。後は生来の性格もあるのだろうか。


「そ、まるで興味ないっていう無機質な感情のこもらない眼。それなのに瞳の奥には嫌悪だとか侮蔑だとか不快感だとか、そんな悪意がこもったぞっとする眼だよ。昔、今回子供達に使われたのと同じ毒で孤児達全員を殺して、町の浄化だって言ってた領主はそんな眼をしてた。唯一生き残った俺を見て、『なぜおまえは生きている?』って問いかけて殺そうとしてきた時の眼だ。何とか逃げられたけど、しばらくは夢に出てきた」

「なっ……毒で生き残ったから、直接殺そうと?」

「……魔法で拘束されて、首を絞められた。精霊達が拘束をほどく手伝いをしてくれたから、どうにか意識が落ちる前に逃げられたけど、そうじゃなきゃ殺されてた。そん時俺、ずっとそいつの眼を見てたから。俺が苦しそうにして、呼吸音が小さくなるたびに、眼の中に悦びが広がっていった。ほんとはみんなこうやって殺したかったんだなって思った。数が多かったから、長く苦しんで必ず死ぬ毒を使っただけだって。……怖かった、子供達の無残な死に様より、殺されかけたことより、そいつの眼の方が……怖かった」

 そして気付いた。自分に、自分達に向けられるその眼の多さに。その眼の意味に。だから余計、カイルはその眼を向けられたくなくて、努力を続けられた。あの眼で見られることが怖く、とても辛いことなのだと体験したからこそ、その眼をなくす努力を続けられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ