表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レスティア物語  作者: マリア
第五章 動き出す歴史
274/275

落ちた神と昇り詰める人

 カイルの体からは、眼前の邪神とは正反対の神力が放出される。それによって先ほどまで周囲を侵食し、自らが作り出した空間さえ不安定にさせていた力を打ち消していく。

 完全に崩壊し、何一つ残さずに光と消えたレオノーラの複製体を抱きとめるようにして跪いていたゼメトルが顔を上げた。


「そうか、そうだったか。わたしの、計画は……わたしの、夢は、最初から……」

「ああ、最初から破綻していた。あんたがどんなにレオノーラの体を作ろうと、その魂はすでに別の命として生まれ変わってた。そして、その魂は決してあんたを受け入れはしない」


 最初から失敗することが分かっていた。どうあってもゼメトルの願いはかなわないと知っていた。だからこそカイルは笑っていられた。

 これで少しは理解できただろうか。これで少しは己の行いを振り返ることができただろうか。

 だが、その望みは薄いように見えた。もうすでにゼメトルにはそんなことを考えるだけの正気など残ってはいない。


「そうか。カイルが……だから、言っていたのだな。どうあっても、あいつの願いはかなわない、と」

 第二次人界大戦がはじまる前、黒幕の動きを警戒していたレイチェル達。だが、そんな彼女たちをよそに、カイルはゼメトルの願いは絶対にかなわない、と告げていた。


 その時には必ず阻止するからだと考えていた。しかし、本当のところは違ったのだ。カイルがゼメトルが愛し、取り戻そうとするレオノーラの生まれ変わりだったから。

 どれだけ器を用意し、生贄を捧げ、長い時間をかけて準備しようと、失敗することが見えていたからだ。


「蘇生はたとえ神であっても叶わない望みだ。死んだ者は生き返らない。だからこそ、俺達は生きている今を、命を大切だと思えるんだ。それなのに、あんたは自分が愛した人に自ら命を捨てさせる選択をさせた。愛を押し付けるだけで、愛を育もうとしなかった。愛を言い訳に、自分の行いすべてを正当化した。だから、すべてを失ったんだ」


 もし、下心があったとしても、すべての元凶であったとしても、最初の出会いの時、違う対応をしていたら違う未来もあっただろう。

 孤独だった彼女に寄り添うだけでよかったのだ。長い時を生きる神でありながら、あまりにも性急に事を急ぎ、結論を求めた。


 それが自分の意に沿わないというだけで、彼女からすべての選択肢を奪い、力づくで手に入れた。そうすればするほどに、彼女の心は遠ざかるのだと気付かないままに。

 ゼメトルは彼女のことをずっと見ていながら、彼女のことを知ろうとはしていなかった。自分が求めた理想を押し付け、愛を強要した。


 結果は御覧の通りだ。何一つ手に入れることができないまま、二千年という時を無為にした。多くの人々の人生を歪めながら、愛に狂った神は今すべての希望を失ったのだ。


「違う。まだ、終わっていない。まだ終わらない! そうだ、お前だ。お前を殺せばいい! お前はレオノーラじゃない、だが、お前の魂はレオノーラのものだ。ならばお前を殺し、その魂をわたしが生み出した肉体に宿らせばいいのだ!」


「まぁ、そうなるよな」

 恐ろしい執着を見せる目を向けられながら、カイルはやれやれというようにため息をつく。こうなることもまた分かっていた。


 自分の計画のすべてを邪魔した存在であり、自分を唯一殺せる存在でもあり、そして愛しいものの生まれ変わりでもある。

 殺してしまえば自分の望みのすべてがかなう。ならば、狙わないわけがない。これで、ようやく目の前の神から逃げるという選択肢を失わせることができた。


 カイルにとって最も厄介なのはこの神に雲隠れされてしまうことだ。神王との合同探査でこの神が逃げられるだろう場所はいくつか把握している。

 それでもそこを転々とされ、逃げ続けていられたのではまたろくでもないことをしでかすに違いない。


 決着をつけるためには、どうしても相手を戦いの土俵に引きずり出し、逃げ出さない餌をぶら下げるしかない。

 そういった意味でも、レオノーラの意識を表層化するだけの意味と価値はあったのだ。お互い目的が違っても利害が一致していた。そうして実現した一時の邂逅だった。


 これでゼメトルは遮二無二カイルを狙ってくるだろう。どんな手段を用いてもカイルを殺そうとするに違いない。そしてまた、己の悲願を目前にして逃亡するという考えも消えた。

 ここからが本当の闘いだ。儀式のために割いていた意識も力もすべてを集中させてくる。戦闘力は先ほどと比べどれくらい上がるかわからない。


 それでも、カイルの心に不安はなかった。

 心残りを解消し、穏やかに眠りについた己の前世。どれほど大きな相手であっても、共に戦ってくれる仲間。そして、己が帰る場所を守ってくれているだろう人々。

 どれ一つとっても、カイルに大きな力と勇気をくれる。


 路地裏で蹲っていた己が、届かない空に思いをはせていた己が、今ようやく夢の一歩に手をかけた。

 ずっと自分たちを苛んできた、目に見えない悪意の根源に辿り着いたのだ。この神を倒しても、すべてが解決するわけではない。だが、この神を倒さなければ始まらないのだ。


「ここからが、本番か。カイル、俺も出るぞ」

 ダリルが鋭い視線をゼメトルに送りながら、念を押す。先ほどまではアミルたちの援護に回っていた。だが、これからは自分もせめてに回る。おそらくそうしなくては手が足りなくなることを感じたのだろう。


「ああ、もちろんだ。全員で、勝ち取ってやろうぜ? 俺達の、人界の未来ってやつをな!」




 絶え間ない剣戟と魔法が生み出す衝撃が響き渡っている。

 戦いが始まってから数時間、膠着状態が続いていた。無尽蔵とも思えるゼメトルの神力と魔力を自ら補給することのできない空間。

 さらには、人と神という圧倒的に生きてきた年月による経験の違いがこの状況を生み出しているのだろう。


 何よりも、カイルの持つ聖剣以外の力ではゼメトルに対して有効打を与えられないということが大きい。

 人に神は傷つけることができない。そういう理を裏付けるかのようにレイチェル達の攻撃はことごとくが効果を示していないように思われた。


 最初は人数や連携による防戦一方な戦況に焦りと憤りを見せていたゼメトルだったが、レイチェル達の攻撃がほとんど効いていないことに気づくと余裕を取り戻していった。

 今では半ば無視するかのような形で、カイルからもたらされる一撃にのみ集中しているように見える。


 いかにカイルが拡張空間の中や他の領域の王たちによる修行を受けたとはいっても、実際に神を相手に戦うのはこれが初めてだ。

 探りながらの戦いでは致命打を与えることはできないでいた。

 何よりも、カイルは自身の戦いだけではなく、仲間達の魔力を回復させる役割も負っている。


 ならばこの空間から脱出すればいいのだが、そうすると戦闘の余波による影響が大きくなりすぎる。それを気にしなくてもいい領域にはカイル以外立ち入ることができない。

 そのためにこの長年にわたって作られ外への影響が最小限になるこの空間での決着が望ましかった。


 相手の土俵で戦う以上、どうあっても一筋縄ではいかないことは覚悟していたが、思っていた以上に厄介だ。

「最初の勢いはどうした? わたしを殺すのだろう? 人界を守るのだろう? その体たらくでできるのか?」


 余裕が生まれたゼメトルからはこちらをあおるかのような言葉が飛び出す。トーマは頭に血が上るのを感じながらも、横目でちらりとカイルを見た。

 この流れは予想されていた展開の一つではある。だからこそ全力を出しつつも、死力を尽くしてまではいかない力調整で戦っていた。


 相手が上位存在である神であるため、ある程度相手の手の内が知れるまでは慎重に戦うことを念頭に置いていた。

 聞いた時にはなぜそこまでとも思った。だが、実際に相対してみるとカイルの懸念が理解できた。

 たしかに、今目の前にいるのは別次元の存在なのだと。


 カイルとの出会いやその後の修行で壁は超えたつもりだった。自分でも驚くほどに実力が伸びているのを実感できた。

 実践においても、長年人界を苦しめてきた組織の幹部を一方的に屠ることさえできたのだ。

 慢心していたつもりはない。だが、それでも見通しが甘かったことを実感する。


 カイルは自分達よりも先にこのことを知っていたのだ。

 自分たちの中で唯一、領域の王と本気の戦いを繰り返してきたから。少々無茶をしたり、通常の人なら死んでしまうような損傷でも生き残れる体を得ていたためにできたこと。


 自分達が今まで感じたことのなかった、次元の違う圧倒的強者との闘い。それを数多く経験してきたカイルだからこそどこまでも慎重に備えていた。

 臆病だと、過剰だと思えるほどに多種多様な展開と状況を想定し、そのための対策と解決案を打ち立てる。この相手はそうまでしないと勝てない相手なのだと、当たっているのに手ごたえのない攻撃を繰り返しながらかみしめる。


「そう、だな。そろそろだ」

「なんだ? 降伏でもするのか? いいぞ! 貴様が命を差し出せば仲間くらいは見逃してやろう」

 だが、そんな現状も終わりを迎えた。反撃を許さないように攻撃を続けながらもじっと相手を観察し続けていたカイルが手を止めたのだ。


 カイルに合わせて仲間達も手を止めて周囲に集まってくる。あるものは少々不安げに、あるものは戦意をみなぎらせて。

「降伏? 何を言っているんだ、これから殺す相手に降伏するわけがないだろ。あんたの見極めが終わったって言ってるんだ」


 カイルの言葉にゼメトルが首をかしげる。何を言っているのか理解できないという顔をしている。

「見極める? 人風情が神であるこのわたしを、か?」

「そうだ。あんたは確かに強いだろうさ。仮初の器であっても、本来の力に近い出力が出せるように長年研究と改良を繰り返してきたんだろうな」


 そう、本来であれば仮初の器でこれだけの力を出せるわけがないのだ。なぜなら普通の、平凡な人と変わらない力で過ごさせるための罰なのだから。

 しかし、ゼメトルは長い時間をかけて器の改良と己の力をなじませることを繰り返し、仮初の器であっても神であった時と同等に近い力を扱えるようになっていた。


 神でありながら人界において神の力を行使するという不可能に近い事象。その執念とゆるぎない思いにばかりは脱帽だ。

 なおさら、この堕ちた神を人界に野放しにしておくわけにはいかない。


 あまり大きな力を行使すれば神王に気取られ処分を下されるだろう。だからすべての準備が整うまで歴史の影と闇の中を生きていた。

 人々の無意識に暗示をかけ、立場の弱い者たちを虐げるように、関心を抱かないようにするよう仕向けてきた。


 そんな神から生み出され、人々の間に広がっていった形の見えない悪意の先に、今までのカイルの境遇があった。

 数えきれないほどの人々の嘆きと無為の死が積み重ねられてきた。カイルが背負っているのは、今まで目の前で死んでいった者たちだけではない、そうした歴史の中で生み出されてきた数多の人々の無念もまた背負っているのだ。



「そうだ。人界にいる限り神界の者達は大きな力をふるうことができない。そして、わたしは十全に力を使える。かつてわたしを批判し糾弾した者達に思い知らせてやるのだ。わたしは間違っていないと。これこそが正しい形なのだと!」


 ゼメトルの目的の大半はレオノーラのことだが、神界やそこに住まう神々に対して復讐するという意味合いもあるのだろう。

 自分を糾弾して貶め、自分から愛しい人を奪った憎き相手として。


「そう、あんたにはそれしかない。そうする以外に自分を肯定する方法がない。神は間違わない、間違ってはならないから。だからこそ、そこには付け入る隙があり、そこにはあんたを破滅に導く鍵がある」


 己の間違いを認めてしまえば、神は存在意義を失う。それは力を失うのと同義だ。神とは誕生と同時に定められた権能があり、理がある。

 それに背けばたちまち力を失い、存在さえも失ってしまうことになる。不老である神々が、不滅であるともいえる者達が増え続けることなく一定数で保たれている理由でもある。


 神といえども一度も間違うことなく、己の間違いを自覚することなく生き続けることはできないのだ。そして、己の間違いを己で自覚した瞬間、神は神としての力と存在を失い無へと帰す。

 力の強いものであればあるほど、その消滅には時間がかかり周りへの影響も大きくなる。そのため、己の力の減衰と過ちを自覚した神々は後継たちに引き継ぎを済ませると神王に願い出て自ら消滅させてもらうのだ。


 神といえども個であり、感情が存在する。だから、ゼメトルのように誰かに、何かに感情移入してしまい神としての分を超え、理を犯してしまうこともある。

 だが、神は間違ってはならない存在なのだ。理を司る神が間違えば世界が狂う。そのために、間違った神は速やかに世界の舞台から退場しなければならない。


 だが、退場できるのはあくまで己の罪を、間違いを自覚した者のみ。ゼメトルのように大きな過ちを犯しながらも己の間違いを自覚できていないものは無に帰せない。

 そのための追放措置。自らが狂わせた世界で、自らが狂わせたのと同じ存在となって自覚を促すための方法だった。


 にも関わらず、ゼメトルは何が間違っていたのかを自覚しないままに、さらに世界を狂わせた。神々にとっても想定外。元が慈悲深く、愛情深いものだったから。捕らえられた当時には深い罪悪感に苛まれ、けれども諦められない思いに罪の自覚を拒んでいたから。


 だから、きっと己を顧みて過ちに気づくだろうと思われていた。いつかは、愛する者を一方的な想いで傷つけたことを理解するだろうと。

 それがまさか二千年にわたって人界にとどまり続けるなどど。挙句、神々でも許されない蘇生を試みていたなんて思わなかった。レオノーラは救助された後、村から出ない限りはゼメトルに感知されないよう保護されていた。


 そのことで、ゼメトルはレオノーラが死んでしまったと考えたのだろう。そして、どうにかして取り戻そうと考えた。

 抱いていた罪悪感も理に背いた背徳感も、レオノーラを失ったという喪失感を上回るものではなかったのだ。


 二千年もの間、仮初の体でありながら神としての力を失わなかったのはレオノーラへの一途な愛があったから。どのような形であれ、友愛を司る神の胸の内に愛がある限り神としての権能は失われない。

 それでも、その愛は歪んでいた。一方的で相手を一切顧みない、究極の自己愛に似た執着。それがゼメトルの神としての力を歪ませている。


 カイルは順次仲間達を回復させてから聖剣を握りなおす。今では随分と無口になった聖剣。けれども共に過ごしてきた分お互いの思いは伝わりあっている。

 強大な邪神を前にしても、聖剣は少しもひるんでなどいない。勇ましい力と意思が手から伝わってくる。『やってしまえ』とでもいうかのように。


 カイルは聖剣の補助を受けながら神力を外に展開していく。炎のように立ち上った神力が六つに分かれそれぞれの方向に流れていく。

 温かな黄金の光を受けてレイチェル達の体もほのかに輝きだす。それを見て慌てたような、あるいは焦りにも怯えにも近い表情をしたのはゼメトルだった。


「それは……、まさか、貴様。そのようなこと、人の身でできるはずが……」

 ゼメトルが気圧されたように一歩後ずさる。

 神力を他者に分け与えること。それは神であっても容易なことではない。受け入れる側にも負担が大きいし、何より分け与える側にとっては力を分散することに等しい。


 なぜ自ら弱体するようなことをするのか理解が及ばない。何より、堕ちて歪み切っているといえども元は友愛を司る神。彼らをつなぐ神力の糸が何よりも深い信頼と絆で成り立っていることを理解してしまった。


 一方的にカイルから与えるだけではない。与えられた側も全身でそれを返そうとしている。それゆえに、本来なら分割した分だけ弱体するだろう力はむしろ増幅しているように見えた。

 お互いを思いあう気持ちが、支えあおうとする姿勢が、この奇跡のような相乗効果を生み出している。


 認められなかった。認められるはずがなかった。神力を持つ敵は、自身にとって脅威となる相手は一人だけだと思っていた。だから、その一人をどうにかすればいいと思っていた。

 だが、違った。確かに神力の源は一人だ。致命傷を与えられるのも本当の意味では一人だろう。それでも、己を傷つけられる者達がその者の周りにいる。己に傷つけまいとさせる者達がその者のそばにいる。


 わかっていたはずだった。知っていたはずだった。これこそが、この絆による結びつきこそが人の最たるものであり、そしてかつての己が何よりも愛していたものであると。

 一人一人の力は弱くとも、その力を束ね合わせることができる。お互いを信頼しあい、助け合うことで強大な敵にも立ち向かい打ち破ることができる。それが人の強さだと。


「覚悟しろ、ここからが本番だ。あんたが踏みにじり、断ち切ろうとしたものの強さを思い知れ」

 カイルは剣先をゼメトルに向けて不敵に笑う。魂の因縁は断ち切った。前哨戦も終わった。本番はこれから。ここから先の戦いこそが、幾度も修練を重ねてきた成果を見せる時だ。


「行くぜっ!」

 一番槍はやはりトーマ。体を包み込み流れ込む神力によってさらに強化され神速に達した踏み込み。

 一瞬でゼメトルの前に躍り出ると、目を見開いたまま驚きの顔を浮かべる相手にこぶしを叩き込む。


「ぐふぁっ……貴様っ」

 先ほどまでの赤子に殴られているかのような攻撃とは違う、痛撃。腹にめり込んだこぶしから伝わる衝撃とともに吹き飛ぶ。相手が身にまとう神力で、自らの神力が削り取られるのを感じた。


「まだだっ!」

 ゼメトルが吹き飛ばされた方向に回り込んでいたのはキリル。小柄な体を生かした機動力と双剣から繰り出される縦横無尽な斬撃がゼメトルの背中を切り刻んだ。


「がぁっ」

 血の代わりに黒い神力をこぼしながらよろめくゼメトルの目に、金色に流れる髪が映る。なんだと思う間もなく、己の懐にいつの間にか入り込んでいたレイチェルが力の限りに切り上げた。

 地面から体が浮かび上がり宙に放り出される。


 もはやうめき声も出ないゼメトルの体を、幾筋もの光の鎖が拘束していく。魔法を神力で強化したそれは、神をもその場に縫い留めて動きを封じていた。

「ハンナっ」

「了解」


 アミルの声にハンナが淡々と答える。仲間達が攻撃している間にも延々と作り続けていた魔法群。空を埋め尽くさんばかりのそれが、動きを封じられたゼメトルに降り注いだ。

 一発一発は小さな攻撃。しかし、その数が膨大であれば何よりも強力な連続攻撃となる。まさに人らしい攻撃法だといえるだろう。


 純白だった衣をボロボロにして落ちていくゼメトル。意識はあるのかないのかピクリとも動かない。

 ゼメトルがそのまま地面に着くことはなかった。四肢を断ち切るようにして走る剣線により再び打ち上げられ、落とされた手足は白く輝く炎によって燃やし尽くされる。


 膨大な魔力を込めた剣をふるったダリルは最後の仕上げをするだろう相手にバトンを渡す。

「これで終わりだ、あんたも、あんたの野望も」

 神力によって刀身の倍以上の長さになった聖剣をふるう。聖剣の破壊の力を最大限までのせた一撃。

 それは、レイチェル達の攻撃によって大きく削られ、四肢を失った体と神力を一瞬のうちに消し去った。


 蒸発するようにゼメトルが消えると同時に空間にひびが入る。ガラスが割れるように、砂が零れ落ちるようにあっという間に景色が崩れ落ちていく。

 閉鎖空間から出た場所は、どこかの洞窟内。いくつか見当をつけていたうちの一か所だろう。あたりに気配がなく、魔法による探索にも何も引っかからないことでようやく全員が体から力を抜いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ