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レスティア物語  作者: マリア
第五章 動き出す歴史
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レオノーラの意思と決断

 人であっても一定以上の神力を有し、その陰陽のバランスがとれていれば神や天使のように不老の特性を得られることは知られていた。

 ほかならぬ神王が与えた聖剣に付随していた能力がそれだったためだ。歴代の剣聖たちはその能力をうまく利用できずいずれも短命だったが、正しくその力を受け取ることができれば不老となる。


 ならば、同じようにして安定した神力を人が持つことができるのならば、その者もまた不老の特性を得るのではないか。

 いくらレオノーラと一緒になれても百年余りしか共にいられないのでは意味がない。彼女は永久に自分と一緒にいるべきであり、自身にはそれを可能にする力がある。


 ゼメトルは毎日、嬉々として彼女に神力を分け与え続けた。それが彼女にどのような変化をもたらすのか、そしてそれがこれから先の人界にどれだけの影響を与えるだろうかということを考慮せずに。

 ゼメトルは慎重に、彼女を壊さない範囲を見極めて神力を注ぎ込み続けた。交わるたびに強い光を宿す目で拒絶の意思を示し続ける彼女が、いつか自身を身も心も受け入れる日が来ることを信じて。


 レオノーラが神力を受け入れることができたのはもともとの魂の器が大きかったこと。紫眼の巫女として他領域の力に対する耐性があったこと。

 何より彼女の強い意志と生き抜こうとする思いが純粋な力の塊である神力に方向性を与えていたからだ。


 神力を注ぐという目的のためだけに与えていたゼメトルも気付かなかった。己が与えた神力が己の思惑を大きく外れて彼女の意思の元、彼女自身に変化を与えていたことを。

 レオノーラは考えていた。生き抜くために必要なことを。そして、この男に報いを与えこの場所から逃げ出すために必要なことを。


 今の自分よりももっと大きな力が、強い力が必要だった。幸いにしてその力の源は与えられている。ならどうすれば強くなれるのか。己の行動も行動範囲も制限されている中で、いかにして己を高みへと導くのか。

 この段階にきて、レオノーラも気付いていた。目の前の男がただの人ではなく、次元の違う存在。領域を異にする『神』と呼ばれる存在であることに。


 神を人が害することはできない。超えることもまたできない。それは絶対の真理であり、厳然たる事実として魂が自覚している。

 ならばどうすればこの神に対抗できるのか。答えはすぐに出た。ならば、自身もまた神の力を用いればいいのだと。神の力を使って神に近づき、神に通じるだけの力を得ればいいのだと。


 レオノーラを神に近づけだせようとするゼメトルの意思と、自ら神に近づこうとするレオノーラの意思が重なった時、レオノーラの中にあった神力は大きく変革することになる。

 より大きな力を受け入れられるように魂の器を拡張し、どのような力でも受け入れられるような柔軟性と耐久力を持つ肉体へと。


 レオノーラに着実に変化が起き始めたことを感じたゼメトルは歓喜した。ようやく自分とともに歩むことを受け入れ、自分と同じような存在になることを決めてくれたのだと。

 だからこそ、いまだに変わることなく自分を拒絶し続けるレオノーラの目を見たとき、ゼメトルは絶望し、さらに狂っていく。


 見極めることも、加減することも忘れ神力と精を注ぎ、決して彼女に響くことのない愛の言葉を語る。もし、最初にこれをされていたのなら、レオノーラは死んでいただろう。しかし、変革を遂げ始めていた彼女の魂と肉体はそれを受け止め、それ以上に成長して見せた。


 レオノーラが自分と同じ存在に近づくにつれ離れていく心に、ゼメトルはなすすべもなく、けれど決して彼女を手放すことができなかった。

 結果として、彼女との間に芽生えたのは絆でも情でもなく、愛なくして宿った命だった。


 存在としての格が違いすぎるがゆえに授からなかった命。それが宿ったということは、ほかならぬゼメトルの望みがかなったということ。レオノーラが自分と同じ次元まで上り詰めたことの証明だった。

 だが、不思議とゼメトルの心の中に喜びは生まれなかった。友愛を司る神だからこそ分かった。その子供が愛なき肉体のみの結びつきで生まれたということが。


 友愛を司る神であるはずの自分が、そのような背徳的な存在を生み出してしまった。その罪悪感が歪み切って狂っていたゼメトルをほんの僅か正気に戻した。

 一体自分は何をしていたのかと。なぜこのようなことになったのかと。愛しい彼女の中に確かに息づく新たな命を前に、ゼメトルは押しつぶされそうな罪の意識に苛まれた。


 その段階になって、ようやく神界も事態に気づき、収拾のために動き始めたのだ。レオノーラがゼメトルに囚われてのち、三年の月日がたっていた。

 レオノーラは己が思っていたのとは全く違った形で解放の日を迎えることになった。だが、感慨もなければ歓喜もない。ただただ、どこか拍子抜けのような不完全燃焼の思いがくすぶるばかりだった。


 レオノーラの扱いに困ったのは神界も同じだった。前代未聞の事態だけに、どのような対処をすればいいのか前例もなく、神であるがゆえに人である彼女へ何をすればいいのかわからなかった。

 結局、彼女の希望を聞くという形で償いをすることになった。


 ゼメトルの魔の手から逃れ、報いを受けさせる。その一心で生きてきたレオノーラにとって、他者の手によってなされた解放は救いとは感じられなかった。

 ただただすべてが空しかった。自分の頑張りも思いも、またしても自分ではどうにもできない大きな存在によって無に帰したのだから。


 埋められない心の穴を抱えるレオノーラの出した希望は、速やかにして安らかな死。生まれてきても愛することができるかどうかわからない子供を宿したまま冥界の門をくぐることだった。

 しかし、その希望はかなえられることはなかった。なぜなら、罪なき者に対して神の直接的な関与による死は理に反するものだったから。


 神によって存在や運命を捻じ曲げられたものを、たとえ本人の希望であろうとも神が殺すことはできなかった。

 また、ゼメトルによって変質させられていたレオノーラは人としての枠を超えるほどの魂の器を有し、寿命もまた人外の域に達してしまっていた。


 死ぬこともできず、どうあっても人とは違う長い生を生きなければならない。レオノーラにとってそれはある意味死刑宣告よりも残酷なことに思えた。

 けれど、それしか道がないというのなら、せめて残りの人生は心安らかに過ごしたい。人と神との間に生まれくるだろう我が子のためにも。


 そうしてレオノーラに与えられたのが神への信仰を持ち続ける一族が住まう土地で暮らすことだった。彼らはかつて神王の加護を受け、神託を聞くことができる一族だった。

 そこに神に近しい存在であり、神の子を宿したレオノーラが現れた。細々と、けれど途切れることなく続いていた一族に神子が誕生した瞬間だった。


 レオノーラとゼメトルの子供は神王よりの加護を受け『創造』属性を有していた。ただ、神力に適応したレオノーラと神と人との間に生まれた子供とは違い、人の身にその力は大きすぎた。

 それゆえ、以降レオノーラや神子と呼ばれた子供の子孫達は属性を受け継げば虚弱と短命という宿命を背負うことになった。


 レオノーラにとって幸いといえたのは、たとえ憎い相手の子供であっても我が子は我が子として慈しみ愛することができたこと。

 狭いコミュニティの中で、長い年月を経て少しずつ心の傷を癒すことができたことだろうか。彼女は生涯その村から一歩も外に出ることはなかった。けれど、その生涯を閉じる時には笑顔を浮かべることができたのだという。


 そして、彼女は死の間際かねてから願っていたことを念押ししたという。神から見れば何の意味もないようにも思える、それでいて次の生に大きく関わるような願いを。

 本来であればランダムであり、神とてそうそう干渉はできない転生する際の体に関する案件。それでもレオノーラの強い希望により彼女の転生には枷がつけられた。


 規格外の魂の器を受け入れられるだけの肉体強度を持ち、その上でレオノーラの希望を満たすこと。

 通常の人が十数年から数百年の転生周期であるところ、彼女は次の生を得るまでに長い年月を経ることとなったのだ。


 この話を聞いた時、誰しもが言葉を失っていた。今自分達を苦しめ、二度にわたる大きな戦いを引き起こした原因が二千年も昔に遡ること。

 狂ってしまった神による暴虐。そして、それによって人生を狂わされた一人の女性がすべての始まりであったのだと。




 今、目の前にいる神はどのような気持ちで二千年の時を生きてきたのか。そんなものは知る気もないし、知りたいとも思えない。

 本人にとっては純粋で嘘偽りのない真実の愛なのだろう。けれど、始まりから間違っていたものをいくら積み上げようと正しい形にはならない。


 それすら気付かずに数多くのものを巻き込み、歴史をゆがめ、無意識を操ってきた。この神は、どうあっても好きになれそうにはない。

 何より心が、魂が、その者を許すなと叫んでいる。これまでの人生で背負ってきた思いと命が、二千年の因縁を終わらせろと背中を押す。


 カイルは一度目を閉じると聖剣を右手に顕現させ、堕ちた神ゼメトルを見据えた。

「俺たちはお前の人形遊びに付き合う気もなければお前の願いを成就させる気もない。俺たちをここに招いたということはそっちだって見逃す気はないんだろう?」


 二千何にわたる自身の野望が成就する前だからか妙に機嫌がよかったゼメトルの顔が歪む。

「人形遊び? 人形遊びだと! 違うっ! わたしは今こそ取り戻すのだ。かつてのあの幸せで満たされた日々を! 二人きりで過ごしたあの至上の幸福を!!」


 ゼメトルにとってはすべてをかけて成し遂げようとした、取り戻そうとした日々だ。それを人形遊びなどと愚弄されては冷静でいられなかったのだろう。

 しかし、そんな怒号を聞くカイル達の表情は冷めていた。それにもまたゼメトルは怒りを募らせる。何もわかっていない者共が、あれほど満ち足りた日々を否定するなど許されない。


 ゼメトルの周囲に魔力とは違う、けれどそれよりもはるかに強大な力を秘めた魔法が展開されていく。神や天使が使う神属魔法と呼ばれる神力を糧に生み出される魔法。同じ規模でも魔力で生み出される魔法の数倍から数十倍の威力を誇る。


 神力によって振るわれる聖剣が絶大な威力を持つのと同等の力をもっているのだ。

 百を超える黒い光で形作られた魔法の刃。大きく力を制限されていながら、そこはさすがに元上級神というべきなのだろう。


 ニヤリと口元に笑みを浮かべるゼメトルだったが、カイル達の誰一人として動揺もしていなければおびえてもいなかった。

 そう、確かに神属魔法は通常の魔法の数倍から数十倍の威力を誇る。同じ数では撃ち負けるし、生半可な防御では貫かれる。


 ならばどうすればいいのか。答えは簡単なことだ。展開された魔法の数十倍の数を用意してやればいい。

 攻防共にそれを可能とするものがこちらには存在するのだ。舐めてもらっては困る。こちらは最初から神と戦うことを前提に力を磨いてきたのだから。


 神が魔法を展開するも、それをはるかにしのぐ速度で、数でこちら側の魔法も展開される。ハンナによる数の暴力とも呼べるほどの無数の魔法が周囲を埋め尽くし、アミルの防壁が各人の前に張られる。

 次の瞬間には両者の間ですさまじい衝撃と閃光が巻き起こり土煙が舞う。


 互いが互いを相殺しあい、どちらにも一発も魔法は届かない。

 ゼメトルも追加で魔法を展開しているようだが、それよりもこちらの手数のほうが多く防戦を強いられている。


 カイルの視界の端にわずかに身をかがめるレイチェルとキリル、そして腰を落とし力をためるトーマが映った。

 ゼメトルの舌打ちが聞こえ、後方に下がるのと同時に三人の姿が消えた。間に立ち込める土煙を突き破り三方から攻撃を仕掛ける。


 最初に刃を届かせたのはレイチェルだった。接近に気が付いたゼメトルが身をかわすもかわし切れず胸元の服が切り裂かれる。

 驚愕と忌々しさを込めて反撃しようとするも、その左右からキリルとトーマが仕掛け、両腕を剣へと変化させて対応する。


 神が地上に降りる際に使用する器は人の姿を模しているが、そのつくりも能力も大きく異なる。いってみれば一種の粘土細工で作られた人形。中に宿る神の意志と力によりどのようにも姿を変えるものなのだ。


 土煙が晴れてくると、三人に入れ替わり立ち代わり攻められ、その合間にもハンナによる魔法が死角から襲ってくる有様に、ゼメトルがひどく苦戦している有様が見て取れた。

 人とは違うからか血は出ていないがあちこちに切り傷もできている。その表情は怒りと屈辱に歪んでいた。


「ダリル、どう思う?」

「……不自然だな。ここは向こうにとって有利な空間だ。それに、想定していたよりも弱い」

「はぁ、だよなぁ。……面倒だな」


 ダリルはもともと後衛であるハンナとアミルの護衛として残っている。剣と魔法で遠近両方に対応でき、視野も広がってきたダリルにはうってつけだ。

 そして、カイルはここに連れてこられてからずっと魔法を使い続けていた。


 いきなり相手の支配空間に連れてこられたのは予定外だったが、想定内ではあった。そのための対策もいくつも練っていた。

 その対策に従って各々行動していたが、何より想定外なのがゼメトルの実力だ。仮にも神を冠するもの。これほど容易であるはずがない。


「外界と完全に切り離されてる。見渡す限りに広がってるが、端に触れると反対側に出る。通常の方法での脱出は難しいな。穴を開けたり、一部空間の支配権を奪うことはできそうだが世界そのものの破壊は無理だろうな」


 聖剣の破壊の力を持っても一部を切り取れる程度。長い時間をかけて準備したのだろう。中に入ったものを決して逃がさないという執念を感じる空間だった。

 端にたどり着いても外に出ることはできず空間の反対側に出る。穴一つ開けるのにも聖剣をもって全力の一撃を叩き込む必要がある。さらに自己修復の機能もあり、その穴も十秒もたたないうちにふさがるだろう。


「それに、ここは……」

「魔力が自然回復しない。すごく、いやらしい設定」

「命の気配がまるでない。気も存在していないな」

 魔法を使っているアミルやハンナだからこそ感じるのだろう。この空間は外とは違い環境魔力が存在していない。そのため魔力を消費しても回復することができないのだ。


 魔法を使えば使うほど消耗していく空間。それでも魔法を使えばその分魔力は周辺に霧散するはずなのだが、この乾ききった空間そのものが魔力を吸収しそれを許さない。

 通常魔力を持つものはオーラとして微量な魔力を放出してしまうものだが、それさえも取り込まれてしまうのだ。


 魔法を使わずともいずれ魔力切れを起こしてしまうだろう空間。魔力を持つものを効率よく弱らせるためには最適だろう。

 時間がたてばたつほどこちらが不利になるということだ。その上この世界は彼は停滞し完結している。気功も満足に扱えない空間だ。


 気功を使うレイチェルやキリル、トーマは今自身の内部の気だけを使っている。だが、世界に満ちる気とは違ってそれには限りがある。

 魔力にせよ気にせよ、戦いが長引くほどにこちらが消耗するということだ。それを理解しているのか攻め込まれている割にゼメトルの表情には余裕がある。


「どうした? 最初の頃の威勢は? もう息切れしそうだな」

 神力はすべての力の集合体ともいえるもの。同じ条件ならゼメトルのほうが消耗が激しいはずだ。しかし、この空間の支配者は彼であるがゆえにそんなそぶりは見られない。


 その様子にレイチェルたちも一度引いてこちらに戻ってきた。息切れはしていないが、見た目より消耗は激しそうだ。

 ここまで特殊な空間で戦う訓練はしていなかった。だが、己の持つ力の一つ二つを封じられたくらいで戦意をなくすようなものはここにはいない。


 何より、自分たちは一人で戦っているわけではない。自分にできないことは別の誰かがやってくれる。そしてまた、その誰かができないことを自分ができればいいのだ。

 最初から簡単に勝てるとも勝とうとも思ってはいない。


「そっちこそ、自分にとって圧倒的に有利な空間に連れ込んだ割に苦戦してるな?」

 確かにこちらも消耗している。しかし傷を負っているのはあちら側だけ。その事実にゼメトルはギリりと歯をかみしめる。つくづく気に食わない小僧だと内心ののしりながら。


「強がりだな。戦闘にも参加せずに何かしていたようだが策は見つかったか? ここにいる限り、貴様らに勝利はない」

「ん~、別に長期戦ができないわけじゃないぜ? これくらいの仕掛けなら補給はできる。ただ、そうするとあんたの思惑通りになりそうだから短期決戦に持ち込みたいだけだ」


 戦闘行為をしたほうがこちらを早く消耗させられるのは事実だろう。だが、ゼメトルの言動から向こうは時間稼ぎをしているように感じられた。

 ならば、相手に付き合っての長期戦は好ましくない展開だろう。


「補給だと? その状態でどうやって回復を……」

「……こうやって、だな」

 余裕を持ち、ばかにするような表情をしていたゼメトルが凍り付いたように動きをとめた。それは先ほど戦闘行為を行っていた五人が一瞬にして影の中にのまれ同じようにして現れた時、魔力も気力も体力も完全に回復した状態だったからだ。


「貴様っ!」

「空間属性もってるの、そっちだけじゃないんだぜ?」

 カイルが生み出した空間達は、もはや一つの小さな世界のようになっている。さらに、カイルにはほぼ無限といってもいいくらいの魔力回復手段がある。


 魔人としての力を手にした後、糧を得るために魔王様より授けられた魔界樹の種。それが、カイルが管理する一つの空間内で息づき、今や若木となり膨大な瘴気を生み出している。

 それを取り込むことで、カイルは周囲に魔力がない状態であっても魔力回復を可能にしている。気も同じように管理する空間より補給可能だ。


 そして、レイチェルたちを時間が拡張された空間に取り込むことで現実空間ではほぼ一瞬で回復が可能になるというわけだ。

「忌々しい。つくづく忌々しい小僧だ。貴様だ、貴様がすべての元凶だ。いったい何度、どれだけわたしの邪魔をしてきた。そのせいでわたしが何度計画を軌道修正しなければならなくなったと思っている」


 自分の二千年が、高々十数年しか生きていない小僧によって邪魔され続けている。それは許しがたく、それは罪深い。

 カイルだけは自分の手で始末しないと納得できなかったがゆえにこうして招いたのだ。実際に会ってみれば、思っていた以上に厄介で、自分を脅かす存在だと感じた。


 神を前にしても一歩も引かず、強い光をたたえる目が、その色もあって一瞬かつての彼女に重なる。そのことが余計にゼメトルをいら立たせていた。

 性別も顔立ちも違うのに、その眼だけが同じ存在。今なお責めるように、軽蔑するように見てくるその眼は思い出したくもない過去をよみがえらせようとする。

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