外れた目論見と移り変わる戦況
デリウスの宗主達が現れ、カイルが固有空間に消えてから戦況は目まぐるしく動いていた。敵の勢力のほとんどは先ほどの閃光で消し飛んでいたが、どこかに潜んでいたのか構成員達がゲリラ的に各地で戦闘を開始していた。
それとはまた別に、部隊の指揮をとっていた場所に現れた宗主によって混乱が深まっていた。宗主を炙りだし、黒騎士との一対一の対決に持ち込むのは予定通り。
しかし、宗主のもつ力に関しては予想を裏切る、上回るものだったのだ。幾度となく繰り返した魔人達との戦闘訓練。
その中で見せた魔人達の実力に勝るとも劣らない闇の魔力。しかし、そこには魔人達の魔法の中にはなかった瘴気のようなものが含まれ、掠るだけで少なからぬ影響を与えていた。
魔界の瘴気はただそれだけで人を蝕む。それを体現するかのように宗主を中心として人が倒れていく。まだかろうじて息はあるものの、みな身動きが取れないような状態に陥っていた。
それに対抗できるであろう魔界の住人達は召喚された魔物達が消えた時点で魔界に戻されていた。宗主がカイルの結んだ盟約魔法を正しく認識しているということだろう。
増援を覚悟してでも召喚魔法を使ったのは、破れかぶれと見せかけて少しでも多くの敵をあの爆発の範囲内に取り込むため。
実際、カイルが気付かなければ連合軍の五分の一ほどの犠牲者が出ていただろう。
そして、例えそれが阻止されたとしても結界の破壊とその術者の消耗を狙っていた。あの結界内に囚われている限り、連合軍の旗頭であり本命であるカイルの元にたどり着くことは出来ないと悟ったから。
元々カイルにぶつけて時間稼ぎをするはずだった黒騎士が空間内に取り込まれたことは計算外だったが、逆にカイルを自分達から遠ざけることが出来たと言ってもいい。
その間に、絶望を作り上げてやろう。黒騎士が勝てば、人々の心のよりどころでもあるカイルの死体を見せつけてやればいい。その後で黒騎士の正体を見せればなお効果的だろう。
仮に黒騎士が負けたとしても、自らの父親を手にかけたのだ。精神的にも肉体的にも疲弊しているカイルを叩くことが出来る。
意気消沈して出てきて、自ら以外が息をしていない戦場を見ればどんな顔をするだろう。
かつてロイドに対して感じていた敵愾心とも、加虐心ともとれる思いが沸き起こってくる。きっと、とてもいい顔をしてくれるだろう。
宗主が魔人として糧としているのは人々の絶望の思い。故に、苦しめはしてもすぐに殺してはやらない。長く長く苦しみ、助けを期待しながら助けが来ないまま、絶望の中で死んでいくその姿が何よりも力となる。
「フフフフフッ、ハハハハハ、絶望しろ! 抗えぬ力の差の前に、地べたに這いつくばるといい! 人など所詮その程度の存在でしかない!」
言葉と共に広がっていく魔力。魔法など使っていないのに、その魔力に触れるだけで全ての力がそがれ、地に臥してしまう。
傲慢な言葉に歯をかみしめながら、それでも立ち上がることが出来ないでいた。
悔し気に、わずかな恐怖もにじませて宗主達を見ていた人々の眼に、宗主の真後ろの空間に亀裂が入ったのが見えた。
間を置かずして、その亀裂から光と共に斬撃が繰り出される。
振り返った宗主は、とっさに闇の魔力を固めてその斬撃を受け止めるが数m弾き飛ばされる。そして、チリチリと音を上げて浄化されている闇の魔力を忌々し気に睨み付けた。
先ほどまで宗主が立っていた場所、そこに足を付けていたのはつい先ほど黒騎士と共に姿を消したカイルだった。
同時に、宗主の闇の魔力に対抗するように、いや、払拭するように冷たくも優しい風が戦場を吹き抜け闇の魔力の影響を払っていく。
聖剣を構え、五体満足で自らの前に立つカイルの姿に宗主は苦虫をかみつぶしたような顔をした。カイルが出てきたことで、黒騎士の敗北は確実なものになった。その上、自身が生み出す闇の魔力の影響も無効化してしまえるのだ。
天敵とはこのような者のことをいうのだろう。何もかも、それこそ情報を集めてみればお互いの存在を知らなかった幼子の頃から邪魔され続けてきたのだ。
つくづく、十五年前、かつてロイドが住んでいた村を襲った時に見つけることが出来ていればと歯噛みする。そうすれば、今自分がいる場所は全く違ったものになっただろう。
当時から人というくくりから逸脱し始めていた宗主には、ロイドに残された時間がそう長いものではないと気付いていた。
聖剣を振り、戦場を駆け抜けるたびに消耗していく様子に。徐々に生命力の輝きが失われて行っていることに。
だからこそ、常に力を使わないといけないように戦力を配置した。それでも、思っている以上に粘られ、逆にこちらの戦力を大幅に削られることになってしまった。
そんな中で湧いて出た、ロイドの隠れ家の情報。そこにはきっとロイドの弱みがあると思った。何よりも大切にしている伴侶にまつわるものがあると。
しかし、三度の襲撃でも発見できたのはそのカレナの墓のみ。そこで手を止めてしまったのが失敗だった。
最愛の者が死んでいるという事実に浮かれ、その忘れ形見がいるかもしれないことには意識が向かなかった。それほど、当時の自身にとってロイドの存在は大きく忌々しいものだった。
まさか、その息子が生きながらえ、父の後を継いで剣聖になるなどと。まして、要所要所において組織の邪魔立てをしていたなどと思ってもみなかった。
「貴様っ、貴様が、ロイドの息子か!」
「ああ、カイル=ランバートだ。しっかりと覚えておけよ、あんたを殺し、あんたの組織を潰す男の名だ」
その生意気な言葉も、自信と力強い生命力にあふれた姿も、かつてのロイドと重なり宗主の視線がきつくなる。
「ククク、我の切り札が黒騎士だけだと思ったのか! 我が配下達よ、今こそその身に秘めたる魔の力を解き放つのだ!」
宗主の声が戦場に響き渡る。街中で、街の外で戦っていたデリウスの構成員達の体が、その声とともに黒い霧に包まれる。
その光景を確認して、宗主はニヤリと笑う。そう、魔物を失ったとしても構成員の大部分は生き残っている。
そして、その構成員達は完成した魔人化の魔石を取り込み、戦力の大幅な増強に成功している。いかに数で劣るといえど、構成員すべてが魔人化すれば押し返せる。むしろ勝てるという確信さえもあった。
なぜなら、魔界からもたらされた改良された魔石を使った魔人化を一度試した際、それまでの魔人化とは比べ物にならないくらいの力を得ていたのだから。
惜しむらくは自分達幹部が魔石を取り込む際に完成していればよかったと思ったほどだ。有象無象の凡百な兵を超一級の将に変えられるほどの力を秘めていたのだから。
だからこそ、その次に起きた光景に宗主は茫然となった。
霧に包まれ魔人化できたのはごく一部、改良前の魔石を取り込むことに成功した者達だけだったからだ。
改良後に魔石を取り込んだはずの者達は黒い霧に包まれただけで少しも姿形が変わっていない。それだけならまだしも、その力にも何の変化も見られなかった。
その様子に、今度はカイルのほうが笑みを浮かべる。脳裏には玉座に座ったまま腹を抱えて笑う魔王の姿が浮かぶ。
かの偉大なる魔の者の支配者の目論見通り、全く何の役にも立たない魔石を構成員達にせっせと配っていたのだから。
そして、この大舞台、このタイミングで魔王による壮大な嫌がらせが成功してしまったのだ。
「な、なぜだ……。なぜ、何も、起こらん。これは……一体?」
「はっ、分からないか? 俺は半年ほど前までどこにいた? んでもって、あんたはやりすぎた。領域の王の癇に障るほど、人に許された分ってやつを踏み越えちまったんだよ」
あちこちで戸惑いと焦りのままに次々と捕縛または殲滅されていく構成員達を見ながら、宗主の体が震えている。
それは会ったこともない領域の王の力と怒りを感じたためか、はたまた思惑が外されたことによる屈辱のためか。
その返答は、怒りと戸惑いのままにカイルをにらみつける目によって返された。これもまた、天敵たるカイルとかかわりがあると確信したからだろう。
これでここ以外の戦場は片が付くだろう。宗主に集中しているため、援護ができないのが痛いが、宗主を野放しにするほうが被害は広がる。カイルは一つ深呼吸をして宗主に向き合う。
「あんたはなんて呼べばいい? コンラート=フェンデルの皮をかぶった人外のあんたを」
「……何を、言っている? 我はコンラート、コンラート=フェンデル。デリウスの宗主にしてすべての領域をこの手に納める者だ!」
カイルの言葉に、宗主は理解できないという顔をして、それから胸を張って宣言する。自らの名と、これから成し遂げる野望を。
しかし、それを聞いたカイルはどこか納得したような顔をした。
「ああ、なるほど。あんた、自分自身でも自覚がないのか」
カイルのその顔に、言葉に言いようのない苛立ちと胸がざわつく感覚を覚え、宗主の魔力がざわめく。
その様子に。周囲にいる人々はその魔力に触れないように距離をとっていく。先ほど対峙しただけで、自分達では宗主の前に立つことさえ叶わないのだと理解した。ならば、出来ることは邪魔をしないこと。自分達に気を取られて不覚を取ることがないよう、カイル達から距離を置くことだけだった。
カイルが宗主と交わしている会話は、その時間を稼ぐためでもあった。そして、宗主自身自覚していないという事実を突きつけるための。
「訳の分からないことを言って、我を煙に巻く気か? 周りの者達が逃げるための時間稼ぎか? 相も変わらず貴様らはどこまでも甘い。だが、我の力の前には等しくすべてが無力だ! 跪き許しを乞えば飼ってやらんこともないぞ? 揃いの鎧を着せてやろう!」
こちらの心を揺さぶりに来たのだろう。宗主の言葉に、カイルの眉ばピクリと動く。だが、それだけだ。激高することも、声を荒げて否定することもしない。
「ふん、碌な反応をしないとは。案外貴様は薄情だったようだな?」
「……意味が、ないからな」
「意味がない?」
宗主の言葉に、ややあってカイルが答える。おうむ返しに聞き返す宗主に、カイルは薄く笑みを浮かべた。
「ああ、そうだ。あんたの妄言も妄想も俺には全く響かないし、実現しないからだ」
「何だとっ! この、この我の言葉が妄言、我の宣言が妄想だというのか!」
心を乱そうとして、乱されたのは宗主の方だった。ロイドであれば、先ほどの言葉に怒り狂い真っ先に剣を打ちつけてきただろう。
しかし、目の前にいる剣聖は違う。ロイドの息子でありながら、ロイドにはない反応を返してくる。どこか底知れない、うかがい知れない余裕すら見せて。
「ああ、俺にはそう聞こえる。狂ったじじいの妄執に憑りつかれた憐れな孫が、決して実現しない未来を語っているようにしか聞こえない」
宗主は虚を突かれたように真顔になり、それから血管が浮き出るほどの怒りを見せた。
「我の、我の偉大なるお爺様を何とっ、なんと呼んだっ! 生かしてやろうかとも思ったが、貴様だけは許さぬ。死ね、死んでその過ちを償え!」
「……死ぬのあんたの方だよ」
喚き散らしていた宗主だったが、静かなカイルの言葉に口をつぐんでしまう。まるで噴火寸前の火山のように煮えたぎる怒りと殺意を感じて。
「偉大? ああ、確かに武国の歴史に名を残すほどには優秀だったんだろうさ。だが、勇名より悪名の方が高い時点で察するべきだったな。あんたの祖父が非道で悪逆だったことに」
どれだけ貢献しようと、人を軽んじ命を弄んだ時点でその名など地に落ちている。そんなこと、言われるまでもなくまともな善悪の認識が出来れば分かることだ。
「生かしておく気がないのはこちらも同じだ。こちとら、祖母に父まであんたに殺されてんだ。だがな、それ以上に俺があんたを気に喰わねぇ。俺の理想にとって、夢にとってあんたの存在は邪魔でしかない。あんたに償い何て求めない。死んで次世代の糧になることも許さない。魂の一欠けらまで残してやるつもりはない、覚悟しておけ、人でなしが」
連合軍に普及させることが間に合った武器のおかげで、魔人と化した構成員達の魂を還元することは出来ている。
しかし、この宗主だけはたとえ魂の残滓であっても父や母たちと同じ冥界になど送ってはやらない。そのための手段は、そのための武器は今この手にある。
聖剣とは神が創って人に与えた武器。その力は神の持つ武器、神器に匹敵する。聖剣の持つ破壊の力はその気になれば魂をも打ち砕き消滅させる。
本来ならば魂の消滅に関して渋い顔をする冥王もこの件に関しては許可してくれた。あまりにも不純物が混ざり過ぎ、異質になりすぎた魂は残滓であろうとも悪影響を及ぼすのだという。
そんなものが無垢な魂の源に交じってしまえば何が起きるか分からない。だから、宗主に関しては滅することを余儀なくされたのだ。
「人でなし……、そうだ、我は人を超越した。あらゆる領域の力を取り込み、人という枠から飛び出したのだ! ゆえに、我はこの世界を制するに相応しい能力を得た!」
幾度となく繰り返される人外を表す表現。しかし、それは宗主を貶める言葉とはならない。むしろそのことに誇りを持っているようにさえ見える。
もはや、彼には意識することさえできなくなっているのだ。自身のあまりにも歪に過ぎる在り方に。人の手によって無理矢理作られたが故の歪みと不安定さが一層不快感をあおってくる。
「そうだ。あんたはあらゆる領域の力を取り込んだ。人という器に、無理矢理詰め込んだんだ。その反動が、代償が出てこないわけないだろ」
持って生まれた血筋や、運命の導きともいえる要素、そして不可抗力などにより自然とそれらを受け入れていけたカイルとは違う。
もうそれ以上入らない器を歪め、人為的に膨張させて詰め込んだ宗主の力。今にも崩壊しそうなその有様はある意味憐れとも言えた。
一度に、極端な変化ではなかったから誰も気付かなかったのだろう。それでも、カイルには分かる。人の質を、魂を見る能力を持っているからこそ宗主の魂がもはや原型をとどめていないことに。
姿形は、記憶や意識は確かにコンラート=フェンデルのものだ。しかし、今その体を動かしている魂はとてもではないが人のものとは呼べない。
人の魂ではないのに、人であったころの意識がある。それがどれほどおかしなことなのか、いい加減自覚させなければならないだろう。
心の鎧を剥ぎ取り、魂の偽装を取り払う。そうして初めて本当の魂に触れることが出来る。今のままでも聖剣の力を使えば滅することはできるだろう。
それでも、宗主がコンラートの意識と自覚を持ったままでは歪んだ残留思念が土地や人に残ってしまう可能性がある。
それを阻止するためには、コンラートとしての意識を取り去り、魂本来の姿を取り戻させる必要がある。
「反動? 代償? フハハハハ、そんなものが我に起きるわけがなかろう。我は完璧なのだ。まさに、この世を統べるに相応しい存在なのだ!」
宗主の体を黒い魔力が覆う。自信に満ちたその言葉に答えるように膨張していく。
「完璧、ねぇ。そんな継ぎ接ぎだらけの体と魂でよく言えるな」
ピタリと闇の魔力の膨張が止まる。宗主の意識がカイルに向くのと同じくして闇の魔力もカイルに向けて放たれる。
しかし、二人のちょうど中央あたりでその浸食は止まり、それ以上進むことが出来なかった。よく見ればうっすらと光る膜のようなもので防がれていることが分かった。
「継ぎ接ぎ、だと?」
「ああ、あんたの力も体も、魂さえももうあんたが生まれ持ったものじゃなくなってるだろ? それなのにどうして自分がコンラートだと言い切れる? 何をもってして、そう断言してるんだ?」
カイルの言葉に、宗主は分かりやすすぎるくらい動揺した。その顔を驚愕に染め、その体はわなわなと震えている。
「あんたが最初に得たのは魔の者の力。高い魔力と魔法の力を得たが、魂が汚染され、肉体は瘴気に侵された。魔人化した奴らの肉体や魂が残らないのもこれが原因だ」
カイルの指が一本立てられる。大きな声ではないのに、周辺から避難した人々にもその言葉はよく聞こえていた。
なるほどと思う者もいれば、顔をしかめる者もいる。かつて魔人化した者達が黒い液体となって消えゆくさまを見たことがあるのだろう。あまりにも人間離れした終わり方に疑問を持たない者はいない。
「色々手を加えた魔石によってかろうじてバランスをとっているが、それが少しでも崩れたらあんたらは人としての形さえ保てなくなる」
一息に魔石を砕かれたなら人に戻ってから死ぬ。逆に傷ついただけの場合、手足の末端から脆くも崩れ落ちていくのだ。幾度かそういうことがあり、一思いにとどめを刺すのはむしろ温情ある措置となった。崩壊していく自らの体を見た者達の発狂ぶりからもそれは確かだろう。
「第二に手に入れたのは精霊の力。それも、あんた精霊を喰ったな? ミッドガル共和国にある神殿都市に奉じられていた無の大精霊。長年にわたる神官達の専横によって悪霊に堕ちてしまった、精霊だ」
かつて神官達から感じた悪霊の気配。あれは大精霊の残り香のようなものだったのだ。いくら精霊達の存在を感じられない俗物たちとはいえ、悪霊がそばにいて正気を保てるわけがない。
カイルが気付いた時にはすでに無の大精霊は悪霊化し、さらには宗主によってその存在ごと喰われてしまった後だった。
シェイド達の活躍によってそれを知った時、ひどく胸が痛んだ。もう少し力を手に入れるのが早ければ、悪霊となっていてもまだ精霊として死なせることもできただろうに。
今は紫眼の巫女達が離れ、空っぽになりつつある神殿都市。神官達の凋落をよそに、浄化だけは済ませることが出来た。巻き添えで悪霊化していたいくつもの微精霊達も送ることが出来たことだけが救いか。
神殿都市に大精霊がいたということも、さらには悪霊化していたことも知らなかった者達は息を飲んでいる。だが、宗主の笑みは深まるばかりだ。
「ああ、あの狂った精霊か。なかなかに美味であったな。悠久の時を生きる精霊を取り込んだおかげで、我の肉体も若返った。精霊の力とやらはろくに使い物にならんが役には立ったな」
カイルはぎりっと歯をかみしめる。宗主の魔人としての能力は捕食による強化。あらゆる領域を飲み込もうとするその果て亡き欲望が形となり、あらゆるものを喰らい自らの力とする。
喰属性にも似ているが、それよりもずっとおぞましい。ロイドが喰われなかったのは、すでに死んでいて得られる力が半減していることや、戦力になるということ。何より、ロイドを配置した時の戦略的効果を狙ってだろう。
そうでなければ、この男によって遺体さえ取り戻すことが出来なくなっていた。想像するだけで身震いしてしまう。
「精霊の力の源は霊力。健やかな肉体と健全な魂によって生み出される清浄な霊力によってのみその真価を発揮する。あんたみたいに、歪な体と悪逆な魂では無理な話だな」
精霊達から最も嫌悪されるような存在になり果てていて、その力を行使できるわけがない。今も嫌な気配はしているが、どこか嘆いているようにも聞こえる。取り込まれてしまったかつての大精霊を解放するためにも手は抜けない。




