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レスティア物語  作者: マリア
第三章 遊行と躍進
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旧友との再会

 十一の月に入ると、冬が近づいてくるためぐっと気温が下がる。少し前までは夏も冬もそう変わらない格好をしていたカイルだったが、今では秋冬仕様の服を着ている。

 いつものようにギルドで受けた依頼を終えて戻ってくると何やらにぎわっているのが目に入った。午前中は一日おきにハンターと魔法ギルド交互に通っている。ハンターギルドの場合はアミルとハンナを除いたメンバーと、魔法ギルドの場合はその二人もしくは片方と一緒に依頼を受ける。以前と同じように週三回の内一回は街中での雑用依頼を受けている。


 そのため、こなした依頼の割にポイントのたまりは少ないが、その分王都の人々にはカイルの顔や名前の周知が広がっている。ただ名を上げるだけではなく、こうした地道な努力によって信頼を積み重ねていくこともまたカイルの夢のためには重要なことだ。

 今日もまた街中であった収穫した作物の運搬依頼を受けていた。最初はカイルのこうした行動に首を傾げていた仲間達だったが、回数を重ねるごとに一般の人々から信頼と親しみを持たれ、出会えば挨拶をするようになるとカイルの意図を理解する。


 滞りやすい依頼を受けてギルドや依頼者を助けるだけではない。報酬やポイントのように見えるわけではないが、お金を積んでも得られにくい人々の信頼を得る手段でもあるのだと。カイルと同じような境遇の者であろうと、一概にそれだけで判断できるものではないと知らしめることにもなっているのだと。

 受けてみて初めて、魔物の討伐や採取などとは違った、ギルドランクにはよらない仕事の大変さというものも知ったのだ。確かにこれは駆け出しの新人である子供達だけではこなすのが難しい依頼であると。


「なんかあったのか?」

 カイルは受付のナナの所に行って依頼の終了と報酬の清算などをしてもらいながら、人山ができているギルドの食堂の方に顔を向ける。

「ああ、今日王都入りしたパーティがいるんですよ。メンバーのギルドランクはいずれもAランク以下なのですが、パーティとしてのランクはSランクです。中でも若手の二人は将来が期待できそうとのことで、みなさん顔を見に行っているのでしょう」

 将来性のあるギルドメンバーとの繋がりは色々と得なことも多いため、出来る限り顔合わせをしたがる者は多い。特にカイルのように、見た目や経歴によらない実力者もいると分かったのでなおさらだろう。


「へぇ。ナナさんは見たのか?」

「はい。わたしは受付ですのであちらの方から挨拶に来られました。二人ともなかなか頼もしく見えました。カイル君達とも年が近いように見受けられましたので行ってみてはいかがですか?」

「……どうする?」

 カイルはレイチェル達に聞く。ハンナとアミルとはこの後、ハンターギルドの食堂で合流する予定なのでついでではある。カイルとしても興味がないわけではない。

「うむ、わたしも少々興味があるな」

「歳が近いってなら話してみるのもありだよな」


 レイチェルとトーマは乗り気だ。意外と同年代において自分達と同じような実力者は珍しいのだ。王都であっても十代で二つ名持ちはレイチェル達を除けば片手で数えられるほどだ。それも生産者や商人といった、知識や技術を要したとしても戦闘などの分野とはあまり関わりのない者達だ。

「魔法主体か物理攻撃主体か、あるいは両方か」

 魔法剣士であるダリルも賛成のようだ。キリルは、と見てみたが特に反対はなさそうだった。キリルは危険なことでない限り、基本的にカイルの好きなようにやらせてくれる。それをフォローするのが自身の役割だと考えていた。


 カイル達が近づいていくと、顔見知りのギルドメンバー達も気づいて輪の中に入れてくれる。前にもまだ人垣があって席についているらしい件のパーティや若手二人の姿は確認できない。もう少し待つ必要がありそうだ。

「よっ、お前らも来たのか」

「ああ、いつ入ったんだ?」

「ちょっと前だな。お前らは今仕事上がりか?」

「そんなとこ。残り二人とはここで合流するからその間に、ってな」

 カイルとトーマが質問に答える。アミルやハンナなども興味を持ちそうだが、こう人が多くてはどうしても順番待ちになるだろう。ならばこうして順番取りと時間つぶしを兼ねて輪に入った。これなら二人と合流してそう待たずに顔合わせができるだろう。


「何でも、俺らと歳が近いって話だけど」

 トーマはどうにか見えないかと背伸びしたり隙間を覗き込もうとしているが見えなかったようで気落ちしたまま聞く。

「おうっ、聞こえた話じゃ男の方が十九、女の方は十八って話だな。ギルドランクはどっちもBって話だ。それもハンターギルドだけじゃなくて魔法ギルドでも同じランクとかで盛り上がってたな」

「俺達と似たようなタイプか。珍しいな」


 ダリルは今まで自身の師匠であり同時に養父でもある人物を除き、戦闘で魔法と物理攻撃を同時に使って戦うタイプはあまり見たことがなかった。だからこそカイルも同じような戦闘スタイルだと知った時いいライバルだと考えたのだ。その二人がどんな武器を主体としているのかは分からないが、魔法にも長けているというのであれば一筋縄ではいかないのだろう。

 そこへいかにも中堅と言った感じのグループが飲み物や食べ物などを持って現れる。昼や夜の忙しい時間帯は基本的に注文した者が料理や飲み物も取りに行く仕組みになっている。通常は新人や若手の役目なのだろうがこの状況のため、同じパーティのメンバーが代わりに行っていたらしい。


「すまないがこれから食事なんだ。顔合わせはまた後にしてくれるか? こいつらもここまでの道中で疲れているようだしな」

 パーティのリーダーらしき男性の言葉でひとまず解散となった。カイル達もそれに納得して踵を返す。自分達の席も確保しなければならない。少し離れた場所にテーブルを確保したカイル達は席についてアミル達を待つ。


 人垣が解散したことで、例のパーティメンバーも見えるようになってきた。こちらに背を向けている二人がどうやら話題に上っていた若手二人らしい。それ以外のメンバーは皆三十代から四十代ほどに見える。どういう経緯があってあの二人がパーティに加わることになったのか、確かに疑問と興味が尽きないだろう。

「なんかアンバランスっていうか、不釣り合いな組み合わせだよな?」

 トーマもカイルと同じ疑問を持ったのか、声を抑えて言う。年齢的にも親子ほどの隔たりがある。しかし、様子を見てみるにそういった関係であるようにも思えない。生産者と同じように成人して独り立ちするまでの弟子入りなのだろうか。


 後姿だけなのだが、どこか見覚えがあるような、知っているような気がしてカイルは記憶を掘り起こしながらも見ていた。そこへハンナやアミルがやってくる。彼女達もどこかいつもと違うギルドの様子を感じたのか周囲を確認して、見慣れないグループを見つけた。

「……新しくきた人達?」

「今日王都入りしたらしい」

「そうでしたの、道理で……。顔合わせはしましたの?」

「いや、まだだ。向こうも食事ってことらしい、俺らも食事だしいったん解散ってとこだな」


 ハンナの問いにカイルが答え、アミルにはトーマが答える。それぞれの注文を聞いた後、男性陣が料理と飲み物を取りに行く。これも交代で、女性陣が行く場合は一人男がついて行くことになる。ギルドでは日替わりのランチメニューが値段的にも量的にも手ごろで手早く用意してもらえる。

 テーブルに料理がそろったところで、カイル達も食べ始める。その間に、ギルドでナナやメンバーから聞いた話をハンナやアミルにも伝えた。二人ともカイル達と同じように興味を持ったようだった。やはり食事が終わったら一度話をしてみようということになった。


 カイル達が終わるのと同じようなタイミングで向こうも食事が終わったようだった。各々食器を返しに行く。その際にちらりと顔も見えたのだが、やはりどこか見覚えがある。喉元まで出かかっているのだが、出てこない。せめて名前が分かればいいのだが。もどかしさに頭をかいていると、交代の食事時間になったのかナナがやってきた。

「あぁ、もうお食事はすみましたか。できればご一緒したかったのですが……それより例の二人とは顔合わせできました?」

「いや……まだだけど」


「では、ここはわたしが少しお手伝いをいたしましょう。これもギルド職員の務め……フフッ、見直してください」

 最後さえなければ本当に見直していたのかもしれないが、やはりナナは残念だ。容姿自体は優れている方なのに、性格が残念なため未だ恋人ができないのだろう。などと余計なお世話なことを思っていると、ナナがパーティメンバーに合流した二人の元に駆け寄っていた。

 二人だけではなく二人を含む七人のパーティごと連れてきた。カイル達が見ていたのと同じように向こうのパーティメンバーもカイル達をもの珍しそうに見ている。確かに若年層だけで構成されたパーティというのも珍しいだろう。


 大体同じくらいのギルドランクや年齢層でパーティを組むが、本格的に活動するのは成人して以降が主になる。それまでは他所のパーティに混ぜてもらう形で少しずつ経験を積むのだ。いっぱしのギルドランクと経験を積んで、それから気の合う相手を見つけてパーティを組むことになる。

「ご紹介しますね。こちらSランクパーティ『渡り鳥』、リーダーはフランツ=クレソンさん。それで、こちらが中央区で最も将来を期待されているパーティです。あれ? でも、正式なパーティ登録はしていませんでしたね」


 ナナは紹介しようとして、カイル達は正式にパーティ登録をしているわけではないことを思い出した。気の合うメンバー同士でパーティを組むのはいいが、組んでみてやっぱり戦闘スタイルが合わないということも起こり得る。そのためパーティを組むのは自由にできるが、正式なパーティ登録はいくつか手続きを踏むことになる。

 パーティ登録すればパーティ名やメンバーはもちろんの事、パーティのランクや共有の口座なども開設できる。カイルもギルドカードを持って初めて知ったのだが、ギルドカードを作る際に同じようにして個人の口座も作られる。ギルドで受けた依頼の報酬などは窓口で受け取ることもできるが、口座に預金という形で預けることもできる。


 そうすることで高ランク依頼などで得る大金を持ち歩く必要がなくなるのだ。また、大きな店になるとギルドカードでの支払いも可能であり、ギルドや銀行に行けば預けているお金を下ろすこともできる。それなりの手数料は取られるが、世界中どこでもギルドカードさえあればお金の出し入れができるのだ。

 パーティ共通の口座とはパーティ登録しているメンバーなら誰でも利用できる口座となる。さらに渡り鳥のようにメンバーのギルドランクがAまでであったとしても、パーティ単位でその実力があると認められればパーティ単位でのギルドランクも付けられることになる。そうするとパーティ単位であれば普通なら受けられない高ランクの依頼も受けられるようになるというわけだ。


 色々とお得な面もあるが、その分守らなければならない規則もある。また、一生のパーティになることもあるため、正式なパーティ登録が行えるようになるのは成人して以降なのだ。渡り鳥の場合も未成年である二人は正式なメンバー登録はできていないということだ。

「随分若いメンバーだな? 全員未成年者か?」

「いや、俺は成人している」

「同じく、今年成人した」

 フランツの問いにキリルとハンナが答える。フランツはまさかパーティの中でも最年少だろうと考えていたハンナやキリルの方が成人していると聞いて驚いていた。


「キリルさんはドワーフのクオーター、ハンナさんはドルイドです」

「なるほど、道理で。そっちのリーダーは……」

 フランツはうなずきながらカイル達に視線を向けてくる。獣人にハイエルフ、ハーフエルフと個性的なメンバーがいることに驚き、この国では珍しい容姿のダリルを見た後、カイルに視線が移る。そこで何やら考え込むようなしぐさを見せた。


 カイルとしても、こうして身近に接してみて、不機嫌そうな仏頂面をしている二人だけではなく、そのパーティメンバーにもどことなく見覚えがある気がしていた。二人は王都についてから続く顔合わせで嫌気がさしてきているのかもしれない。

 いい意味では注目されていると言えるが、悪く取れば見世物にされているのと変わりない。その気持ちはよく分かる。

「えっと……レイチェルさんでよろしいですか?」

「そうだな、今はわたしがリーダーということになっている」


 パーティの中心にいると言えばカイルなのだろうが、立場や名目上レイチェルがパーティのリーダーということになっている。フランツは噂で聞いていた姫騎士に出会えたということで喜んでいた。機嫌よさそうに歳若い二人の頭をなでる。

「不愛想で済まないな。こいつらはちょっと緊張してんだ、王都は初めてだしあんなふうに囲まれるのも苦手でな」

「いや、気持ちは理解できる。王都にはしばらく滞在するのだろうか」

「少し骨休めもかねてそのつもりだ。こいつらに見せてやりたいものもたくさんある。歳も近いようだし仲良くしてやってくれ。ほら、クルト、モニカ、挨拶くらいしろ」

 二人はフランツに促され、仕方なしに口を開こうとしたのだが、それよりも早くカイルが声を上げた。


「クルトとモニカ? まさか、お前らあのクルトとモニカ、か?」

「何だ、カイル。知り合いか?」

 名前が出たことで、カイルの脳裏にはっきりとよみがえってくる姿があった。今の二人とは違って痩せていたし小さかったが、確かに髪や眼の色は同じだ。それに顔立ちも面影が残っている。その二人とはあまり後味のよくない別れ方をしている。カイルの方はともかく、二人にとって傷になるであろう別れ方を。


「カイル? は!? え、いや、カイル?」

「嘘……でしょ。まさか……でも」

 レイチェルがカイルの名前を呼んだことで、二人は顔を上げてカイルを見つめる。当時はカイルの方が小さい背丈だったが、今ではカイルの方が頭一つ分以上大きい。それに中性的とはいえ、あの頃よりは随分と女の子らしさが抜けたカイル。髪が伸びていて一つに縛っていたことでもすぐに思い当たらなかったのだろう。


 しかし、すぐに記憶の中のカイルと今のカイルを比べ、同じように共通する面影を見出したのだろう。二人の目に涙が浮かんでくる。フランツ達もまた信じられないというような顔で見ていた。あの時は緊急事態だったためよく見ていなかったのだが、森の中で出会ったパーティが彼らだったのだろう。

「本当に? 本当に、あなた、カイル? カイル=ランバート?」

「ああ。久しぶりだな、モニカ。四年半ぶりくらい、か?」


 カイルがそういった瞬間、クルトとモニカはガンっと音がするほどの勢いでその場で土下座した。それにはカイルだけではなく、周囲で見ていた者達も驚きを示す。ただ、渡り鳥のメンバーだけはどこか納得したような顔をしていた。

「あの時は本当にすまなかった」

「ごめんなさい、わたし達が馬鹿だったわ」

 二人からの謝罪を受けたカイルは、どこか気まずい気持ちになる。もしかすると死んだことになっているかもしれないとは思っていた。それがこの二人にどんな傷をもたらすかということも。でも、当時は余裕がなかったことや、双方のために生きていることを知らせなかった。

「俺の方こそ悪かったな。生きてたのに、知らせなくて」


 クルトは顔だけを上げてカイルの全身を見て、本当に生きているのだと再確認したようだった。

「……生きて、たのか。良かった、本当によかった。っ! そうだっ! お、お前、あ、足は?」

 クルトは涙をこぼしながらも、何度もよかったとつぶやいていたが、ふと思い出したようにカイルの右足に視線を向けた。クルト達が、そしてフランツ達がカイルを死んだのだろうと推測した要因でもあった怪我。それが今はどうなっているのかと。


 レイチェル達は事情を聞きたい様子だったが、黙って見守ってくれていた。クルトやモニカの様子からどう見ても、あのカルトーラの町の人達と同じ、死んだと思っていた人物との再会なのだと分かってしまったから。

「この通りちゃんとあるよ。それよりお前らも無事でよかったよ。あれからみんなはどうなった?」

 カイルは土下座したままの二人を立たせると気になっていたことを尋ねる。

「大丈夫、みんな行き先が見つかったから……カイルがきっかけをくれて、フランツさん達も協力してくれたの」

「俺達はギルド登録させもらって、それからはパーティにも入れてもらってる。お前はあの後どうしてたんだ? ここにいるってことはギルドにも入ったんだろ?」


「あー、あれからも色々あってな、あちこち放浪してた。ギルド登録したのも今年、十六になってからだな。今はドワーフの世話になってる。あの直ぐ後って言うなら説明できないこともないけど」

 カイルは込み合い始めたギルドの食堂の様子を見る。二つのパーティを合わせれば十四人にもなる。ここで固まっているのも邪魔だろう、そう思ったのだが何やら職員達やギルドメンバーが協力して食堂のテーブルを繋げた話し合いの席を設けてくれていた。


 どうやらカイル達のやり取りを聞いていて、両者の間に浅からぬ縁があることを察したようだ。このまま出て行かれたのでは話を聞く機会を逃してしまうのではと考えたらしい。無駄なところで結束力が高いギルドだ。

 カイルは相変わらずな様子に苦笑するが、クルトやモニカは目を丸くしていた。フランツでさえもあまり見ることのない様子にどう対応したものかと考えているようだ。お互い確認したいことはあるものの、ギャラリーも多い。クルトやモニカにとって辛い話題にもなる。できれば当人達だけで話したいところだった。

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