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レスティア物語  作者: マリア
第一章 剣聖の息子
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森での出会い

 カイルは周囲に警戒しながら森に入っていく。視界が悪くなる森では、目よりも耳や気配の方が頼りになる。目は採取のために回し、それ以外を索敵に回しておく。さらにカイルは風の生活魔法の応用で、薄く魔力を広げることでそこに触れる生き物や植物などの探知もしていた。

 これがかなり有用で、かないそうにない魔獣や魔物を避けるためにも、食べ物や薬草を見つけるのにも役立つ。狩りの獲物を先に見つけることも。


 カイルは解毒草以外にも薬草や食べられる草を取りながら森を進んでいく。途中リコルの木を見つけ、袋一杯実を回収する。何本かに分けて取り尽さないようにしておく。こうすれば落ちたり鳥が食べたりして広がって増えていくからだ。

 つぶれる危険があるリコルの実の袋はいったん亜空間収納アイテムボックスに入れておく。階級が上がると、魔法の難易度も上がる。最初は無詠唱で発動することが難しかったが、今では使える魔法はほとんど無詠唱で発動できるようになっていた。


 それがどれほどすごいことなのか、カイル自身自覚していない。誰でも訓練すればできるようになると考えているのだ。逆に十六になってようやく二階級以上の魔法を学び始めたカイルは遅れているとさえ考えていた。そのため余計に必死になって魔法を覚え、習熟していっている。

 解毒草はすでに三束集まっていた。こちらもいったん亜空間収納アイテムボックスに入れておく。足音と気配を殺して森を行くカイルにかすかに笑みが浮かぶ。目的だったホーンラビットを見つけたのだ。四頭ほどの群れだ。今は草を食べているのか寝ているのか動いていない。


 カイルは風下からそっと近づいていく。視界に丸くなって固まって寝ているホーンラビット達が映った。カイルは太くて長い針のような飛び道具を取り出すと両手で構える。カイルは剣も使うがこうした飛び道具も活用する。狩りをするのに便利だからだ。弓はかさばるし矢を買うお金もないので、もっぱら木を削ったり、金属のかけらを固めて作れる針を利用していた。針といっても太さは五mmほどあるし、鋭くとがらせているため、殺傷能力は十分だ。

「シッ!」

 カイルは短い気合の声と共に針を投擲する。そのまま針を追いかけるように駆け出す。カイルに先んじた針は狙い違わず、二匹のウサギの首元に刺さり仕留める。驚いて逃げ出そうとした一匹の首を断ち切ると、もう一匹は突進してきたところを躱しざま仕留める。


「よっしゃ、傷が少なけりゃ毛皮も売れるな」

 カイルは先に仕留めた二匹のホーンラビットの首に傷を入れると血抜きをする。これだけで肉の味が大分変ってくる。その分、血の匂いにひかれてやってくる獣や魔物には注意しなくてはならない。しかし、カイルの場合は別だ。

 水属性の生活魔法を応用し、あっという間にウサギの体から血を抜いてしまうと、浄化クリーンの魔法で血を消してしまう。こうすることで血の匂いや痕跡を残さず危険が減るというわけだ。町から町への道中、森でサバイバルをする過程で死に物狂いで編み出した技だった。


 どうやら生活魔法をこんな使い方しているのはカイルだけらしい。他の人は生活魔法の制御をそこまで鍛えるなんてことはしないという。カイルにはそれしかなかったから、有り余る魔力に任せて練習しまくった結果といえよう。服に着いた返り血も同じようにして処理する。 

 あれから練習した結果、服や建物から特定のものだけを浄化して消すことができるようになった。これを使えばお風呂いらずなのだが、気持ちの問題でなるべく毎日入るようにしている。カイルが来てから、毎日ただでお風呂に入れるということでグレン達にも歓迎されていた。鍛冶仕事をするため、汗だくになる体をさっぱり流したいのだろう。


 カイルはホーンラビットの角を折ってから袋に入れ、角は束ねて布にくるむ。そうしないと袋を突き破ってしまうし、傷もつく。この角は色々使い道があるようで、本体よりも高く売れることさえあるのだ。

 依頼も達成したため、帰ろうかとしていると妙な気配を感じて森の奥を見つめる。カイルは眉をひそめて探知を森の奥に集中させる。そして目を見開いた。

 四人ほどの人の反応と、この森の主である魔獣の反応が感じ取れたためだ。


「何考えてやがる。森の主なんて殺したら、大変なことになるってのに!」

 カイルはホーンラビットが入った袋ごと亜空間収納アイテムボックスに入れると、森の奥に向かって駆け出す。一応とはいえ森の平穏と人との共存がなされているのは森の主である魔獣のおかげだ。魔獣は魔物や獣とは違い、高い知能を有している。それに強い力も持っているため、森を統治し管理している存在なのだ。

 それなのにいたずらに森の主を殺せば、森中が大混乱になる。次の主を巡って魔獣や魔物同士が戦い合ったり、逃げまどった魔物や獣が町に押し寄せてきたり。

 そのため、ギルドでもみだりに森の主に手出しすることを禁じている。どこの馬鹿が手を出したのか。事故ならともかく、故意なら犯罪にもなる行いだ。


 カイルは探知をしたまま森の奥へと入っていく。主の怒りを感じているのか、奥に近づくほど魔物や獣がいない。好都合でもあるが、その分危機的な状況ともいえる。ここまで荒ぶっている主を鎮めることができるだろうか。

 反応があるので、四人の人はまだ生きている。それに、動いている、というより主と交戦しているのは一人のようだ。それも主といい勝負をしている。むしろ押している感じだ。カイルは主が寝床にしている、森の奥の広場に近づき様子をうかがう。下手に飛び出せばカイルが標的になってしまうかもしれない。


 探知で感じた通り人は四人いる。三人は後ろに下がり、戦いを観戦している風だ。そして、戦っている一人は。

「すげぇ……あんな早く動けるのかよ……」

 カイルは主を鎮めることを一時忘れ、両者の戦いに目を奪われる。この森の主は狼だ。真っ黒い毛並みで頭からしっぽまで三mほどもある。俊敏で、鋭い爪と牙を持っている。それなのに、戦っている男はそれを翻弄するほどに速く、そして両手に握る双剣を巧みに使いこなして優位に戦いを運んでいる。


 父以外ですごいと思える剣の使い手に出会ったことのなかったカイルだったが、自分と同い年位に見える人物の技量に悔しくもあり、見事な剣捌きに感嘆する。だが、このまま見ているわけにもいかない。確かに人には危険がなさそうだ。このままいけば主を倒してしまうかもしれない。

 だが、この森の主はこちらから手を出さなければ穏やかで、きちんと森を守り管理している。カイルはその町を根城にする際、周囲の森や草原の主達と面識を持つようにしている。敵意がないことを示し、テリトリーを荒らさない代わりに必要な糧を得る許可をもらっていた。それに、もし死人が出た時に供養ができるように。


 確かこの森の主は雌で、この間番ができ身ごもっているはずだった。若干動きが鈍く思えるのはそのせいだろう。カイルはホーンラビットに使ったのと同じ針を構えると、主ではなく戦っている男の方に向けて放つ。彼ほどの技量があれば、かわすか弾くかできると信頼しての行動だ。もし当たったとしても手足だから命に別状はないし、治療もできる。

 互いの戦いに集中していた両者だったが、思わぬところから入った邪魔に互いに距離をあける。主は興奮したまま、カイルを視界の端に映す。カイルは慎重に距離を詰める。未だ興奮の抜けない主も、結果的に攻撃した形になった少年も危険なことに代わりはない。


「……誰だ?」

「ペロードの町のギルドメンバーだよ。ここには依頼で来てた」

「そうか、なぜ邪魔をした?」

「邪魔して当たり前だろ。この狼はこの森の主だ。主を殺せばどうなるかくらい知ってるだろ?」

「主? 俺は森に入った人を襲う凶悪な魔獣だと聞いていたが……そうか、道理で。だが、なぜ主だと分かる?」

「主はたいていそのテリトリーの真ん中にいるし、独特の雰囲気を持ってるだろ。それに、ちゃんと話せば意思の疎通ができる。顔見知りだよ、それに世話にもなってる」

「主の世話に? ……では聞くが、この魔獣の討伐依頼は出ているか?」

 カイルは少年の言葉にため息をついて答える。

「主の討伐依頼なんて出るわけないだろ。それに、この森では人が魔獣に襲われたなんて話滅多に聞かない。いたとしても魔物の方だ。どっからそんな話聞いてきたんだ?」

「そうか……」

 だが、少年はカイルの言葉に答えず、後ろに下がっていた三人の元に帰っていく。どうやらつれらしいが、どうにも合わない。実力もそうだが、たった一人に戦わせて、それを観戦していたような様子だ。まるで見世物のように。


 カイルはもう一度ため息をつくと、今度は主の方を向く。大分興奮も収まってきたようだ。妊娠中でただでさえ気が高ぶっているのに、戦いなんてすれば腹の子供に障るかもしれない。

「大丈夫だったか? すまない、こんな大事な時期に騒がせた」

 いまだ瞳に怒りを宿していた狼だったが、カイルの謝罪にようやくいつもの色に戻る。低く唸り、謝罪を受ける旨の意を伝えてくる。不思議とカイルは彼らの伝えたいことを理解することができた。


「腹の子供は無事か? 何もないといいんだが」

 カイルはそっと狼の腹に触れて、体で隠すようにして回復魔法を使う。魔法を学ぶにあたって基本属性を一通り読んだ後、力を入れたのは光属性だ。この属性は浄化や解毒・回復など裏通りに住む子供達には必要な魔法が多い。強い回復魔法が使えれば、普通なら死ぬ怪我を負った子供や病気になった子も助けられるかもしれない。そう考えて必死に練習してきたのだ。


 主もカイルが回復魔法を使ってくれていることを感じたのか、じっとしたままそれを受け入れる。初めてカイルがこの森を訪れた時から、変わった人間だとは思っていたが、彼ら魔獣相手にでもちゃんとした敬意を持って接してくる。それに、森の歩き方を知っているし、不用意な戦いをしたり森を傷つけることもない。

 何より、命の弔い方というものをよく知っている。そのためこの森の主を含め、カイルと知り合いになった主達は皆、カイルのことを気に入っていた。いきなり人に戦いを挑まれ、危うく母子ともども命を落とすところだった。そうなれば番が次の森の主となり、森に入る人を皆襲うようになっていただろう。そして町を襲撃することさえもあったかもしれない。

 そうなれば森も人も多くの命が失われることになる。それを未然に防げたことに感謝もしなければならない。


「大丈夫そうだな。元気に育ってるみたいだ。なぁ、生まれたら見に来てもいいか? 魔獣の、しかも主の赤ちゃんなんて見たことないんだ」

 それなのに、大したことはしていないような顔でこんなことを頼んでくる。主は低く穏やかに喉を鳴らしながら許可を与える。途端にカイルは嬉しそうな顔をした。主達がカイルを気に入る理由がここにもある。

 カイルは主達の意思を、敏感に正しく感じ取ることができるのだ。言葉は交わせなくても、心を通じ合わせることのできる相手。気を許すことのできる数少ない人間だった。


「一応、ギルドにも報告しとくよ。どっかの町で変な噂が立ってるかもしれないってこと。またこんなことがあったら困るからな」

 主はまた低く唸る。任せると言っている。人のことは人でどうにかしなければならない。二度とこんなことがないように、きちんと調べる必要もあるだろう。

 主との会話を終え、カイルはもう一度彼らの方を見る。何か話していたようだったが、また戦っていた少年だけがこちらにやってくる。


「どうしたんだ? 帰らないのか? それとも、まだ主に手出しする気なのか?」

「主だと分かれば殺さない。だが……このまま帰ることはできそうにない」

「? どういうことだ?」

 主と戦わないのに、なぜ帰れないのか。不思議に思ったカイルだったが、少年の殺意ではない闘気が自身に向けられていることに気付いた。

「何のつもりだよ? 俺と戦おうってのか?」

 中途半端に終わった戦いで不完全燃焼なのか、止めるためとはいえ攻撃されたことに対する仕返しなのか。


「俺としては感謝したいところなんだがな。危うく主を殺して混乱を生み出すところだったのを止めてくれて」

「じゃあ、なんで……」

「恩がある」

「恩? あいつらにか?」

「正確にはその中の一人の父親に、だ」

 少年の言葉は断片的で情報を拾うのに苦労しながらカイルはおおよその事情を察する。

「じゃあ、主に戦いを仕掛けたのも、その恩人の息子とやらの頼みか?」

 少年が目を伏せたことで、正解なのだと分かった。

「律儀なもんだな。当人じゃないってのに」

「当人には、もう返せない」

 当人には返せないというのは、当人はもう故人であるということなのだろう。だからせめてその息子に恩を返すことで報いようというのだ。


「恩返しはいいことだと思うけど、だからって相手の言いなりになるのは違うんじゃないのか? まして俺と戦う理由なんてないのに……」

「……こちらにもいろいろある。それに、その腰に付けている剣は飾りではないのだろう?」

 何か事情があって、引くに引けないということか。カイルは訳もなく戦いをしなければならないことに複雑な気持ちを抱きつつも、剣の柄に手をかける。

「勝負するのはいい。でも、相手を殺すのはなしってことでいいか。俺もあんたもお互いを殺す理由なんてない。それに、結果がどうあれ主には手出ししないでくれ」

「承知した」

 先ほどの戦いから勝敗は見えている。でも、強い相手と実際に剣を交えてみないと分からないこともある。こうして口約束だが命までは奪わないことも了承してもらった。なら胸を貸してもらうつもりで精一杯ぶつかってみる。


 カイルが剣を抜き構えると、少年は一瞬だが目を見張り、驚いた様な顔を見せた。

「いい剣を持っているな」

「腕には見合わないだろうけど、なっ」

 カイルは踏み込んで間合いを詰めるが、相手の方が早い。素早く振られた剣の間にかろうじて剣を入れることができたが、予想以上の重さに防御したまま飛ばされる。剣を持つ手がしびれるほどの衝撃だ。

 背丈はカイルより頭一つ分くらい低いのに、力はカイル以上に強い。それに小柄な体を生かした素早い身のこなしにはついて行けそうにない。ならば、とカイルは踏み込みを利用して土や小石を飛ばし、目つぶしに使う。

 カイルの剣士らしくない戦い方に少し反応の遅れた少年だったが、すぐに身をかわして避け、接近してくる。


 キィン! ガキン! ギャリ! と、剣同士がぶつかり合う音が響くが、次第に手数で押されてくる。カイルは防御に精一杯で攻める余裕がない。その防御も追いつかなくなってくる。そして、少年の右手の剣を防いだ時、腹部に衝撃が走る。

「ぐふっ、げほっ、ゴホゴホ」

 息が詰まり、せき込んで涙が出て視界がにじむ。どうやら剣の柄を叩き込まれたらしい。距離をとって腹部を押さえる。

「動きが粗削りだな。我流か?」

「生憎、教わる人がいなくてね」

「そうか……」

 少年は何かを考えていたようだったが、そこで第三者の声が届く。

「何をやっているんだ、キリル。そんな奴、さっさと叩き伏せてしまえ。僕の楽しみを奪ったんだから」

「楽しみ?」

 カイルのつぶやきが聞こえたのか、後ろで偉そうにふんぞり返っていた少年が少し前に出てくる。彼もまたカイルと同じくらいの年頃に見えた。


「そうさ。強い魔物や魔獣と、腕の立つ剣士が戦う。これ以上の見物はないだろう?」

 確かに先ほどの戦いに、カイルも一瞬目を奪われたのは確かだ。だが、それは大勢の人を危険にさらし、森の生態系を崩してまでやることではない。

「あんたは……あの狼が森の主だって知ってたのか?」

 どうも今の口ぶりからはそうとしか思えない。分からずにやったのなら、未遂ということもあり罪にも問われないかもしれない。だが、分かっていてキリルという少年をけしかけたのだとすれば、それは罪になる。町の人に知れればそれこそ大問題だ。


「そんなの知らないさ。ただ強そうに見えたから……」

「だから、人を襲ってる凶暴な獣だって言って戦わせたのか? その、キリルに」

 先に聞いていたキリルの話と、この少年の話は矛盾する。ならばどちらかが嘘を言っている。だが、カイルにはキリルが嘘を言っているようには思えなかった。言葉数は少なくても、精霊達の後押しがなくてもそう感じられた。

「そうさ。剣を学ぶためには、実戦を見ることも大切だろう?」

「剣を学ぶため?」

 カイルも剣を使う以上、そうした気持ちは分からないでもない。だが、この少年のやり方は気に食わない。剣を学ぶためと言うより、どう考えても他人が戦うところを見て楽しんでいるようにしか見えなかった。


「ふふっ、まあ、君が相手では参考にできることなんて何もない」

 カイルは奥歯をかみしめる。悔しいが言われたことは事実だ。キリルはどう考えても手加減している。先ほど主相手に戦った時の速さやキレが見えない。

「でも、僕の邪魔をした以上は埋め合わせをしてもらわないとな。ほら、キリル、もう二度と僕の邪魔をしようなんて思わないくらい痛めつけておけ。身の程知らずが」

「そうだ、お前。この人を誰だと思っているんだ?」

 取り巻きをしていた一人がニヤニヤ笑いながら言ってくる。

「? 誰、何だ?」

 少なくとも顔見知りではないし、名前も名乗っていないのでは有名人だとしても判断がつかない。


「僕は、先の剣聖ロイド=アンデルセンの息子、カミーユ=アンデルセンだ!」

「は? 剣聖の……息子?」

 カイルはあっけにとられる。とっさに否定しかけるが、喉元で言葉を止める。可能性がないわけではないことに気付いたからだ。ロイドの子供はカイルだけだと思っていたのだが、他にも子供がいたのだろうか。

 ロイドは世界中を飛び回っていたし、剣聖との子供を望む人達も多かっただろう。本人でなければ真偽のほどは分からない。だが、カイルとしてはこんな兄弟なんて遠慮したい気分だった。


「驚いたか?」

「ああ、まあね。子供が……いたんだな」

 俺の他にも、という言葉は呑み込んでおく。下手に明かしても信じてもらえないだろうし厄介なことになりそうだったからだ。カミーユの言葉が本当でも嘘でも、何かしらの騒ぎにはなるだろうと思われた。

「まったく、どいつもこいつも。僕の父親がいなければ世界は滅んでたかもしれないって言うのに。敬意が足りないんじゃないか?」

 カミーユの言葉にカイルは目を細める。


「剣聖には敬意を払ってしかるべきだと思うけど、あんたは違うだろ」

「何っ!」

「偉業を為したのは父親の方だ。息子だからって理由で、同じように敬われようって言うのはお門違いだろ」

「貴様っ! 貴様だって、剣聖のおかげで今、生きているんだろうが!」

「そうだな。剣聖のことは尊敬してるし誇りにも思う。でも、それであんたに敬意を払う理由にはならない」

「何をっ!」

「あんたが何をしたっていうんだ? 強者同士の戦いを見たいって理由で、森の主に父親の恩がある人物をけしかける。その邪魔をされたからって、俺にまで戦いをけしかける。このどこに敬意を払えって言うんだ。俺に文句があるなら自分が戦えよ。人に戦わせて高みの見物なんて、剣聖の息子が聞いてあきれる」

「貴様、貴様、貴様ぁ! この僕を侮辱した罪、その命で贖わせてやる!」


 カイルの言葉に激高したカミーユは、腰に付けていた無駄に装飾の多い剣を抜くとカイルに切りかかってきた。だが、その剣はあまりにも素直というかひねりがなく、軌道を読みやすい。軽く身をかわすだけで避けることができる。

 カイルに避けられたことに驚いた隙を見て、カイルは先ほどキリルにやられたように剣の柄でカミーユを殴り飛ばす。カミーユは地面に膝をつき、腹を押さえてせき込む。体で味わっただけにその威力はちゃんと分かっている。


「お前、分かっているのか? 殺す気で相手に剣を向けるってことは、相手から殺されても文句は言えないってことだぞ」

 カイルはうずくまるカミーユに近づいて忠告する。

「き、貴様、まさか、僕を……」

「……殺さないさ、キリルとの勝負もそういう約束だったし。別にあんたに恨みがあるわけじゃない。ただ、もう二度とこういうことをしてほしくないだけだ」

 カミーユが真実剣聖の息子なら兄弟になるし、違っていてもそう名乗っているのならその評判はロイドにも繋がってくる。これ以上剣聖の名を汚すようなことはしてほしくなかった。

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