異世界召喚?
テンプレだと思って読むとミスリードに引っかかるの法則。
視点があと数話変わります。
街は帝都という名に相応しいほどの広さを誇っていた。
商業人たちの客引きの声やその露店へと買い物に来たのであろうおばちゃん達の会話、カップルによるイチャイチャであったり、どこかのお偉いさんによる路上演説の声や、ある一画から聞こえてくる職人の金属を打つ耳に心地の良い一定の金属音などが響き渡る活気にあふれた街。
〈帝都・ローマ〉
この帝都の中心部には巨大な闘技場があり、年に2度そこで武闘大会が開かれている。
その闘技場を中心にして円形状にきちんと整備された街が広がっていた。建物の造りは中世のヨーロッパ風の建造物と言うより中世へ入る直前によく見られた建物がよく目に入る。
「ここがギリシア一番大きい街、帝都〈ローマ〉なのか、ルーサー」
身長180cmはあるかと思われる黒髪のアジア系によく見られる独特な顔をした青年が隣にいる少女に尋ねる。
「はい、そうですよイサムさん」
「おほーってことはここで"武闘大会"が開かれるんだな!!」
「そうですご主人様。この〈ローマ〉で武闘大会は行われるのです!」
とイサムと呼ばれた男の半歩後ろを歩く、栗色ロングな髪が美しい猫人族の美少女が答える。
男は「そうか〜ここで俺の武勇譚が幕をあけるのかー」と何かに浸っていた。
(女神様にこちらの世界へと召喚されてから2ヶ月。ここから俺の名を広めていくんだ!!)
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「これは、一体どういう状況なんだ??」
気付けば目の前には、草原…ではなく庭園のようなものが広がっていた。
「初めまして、イサム・ヤマダさん」
背後から天使のような声が聞こえ、その声につられて振り返ると、そこには絶世の美女がいた。
「初めまして、イサムさん。私は"アデピスト"における監理の女神をしている者です」
「…は、はい……」
イサムはその女神に見惚れてほとんど話しへの意識が無いように思えた。
「あの、イサムさん?聞いていますか?」
「…え!?あっ!!はい…」
どうやらダメのようである。
「今日はあなた様の願いを叶えて差し上げるべく、この場にお呼びいたしました」
願いと言う単語で現実へと戻ってくるイサム。
「あ、あの…願いと言うのは一体なんなのですか?」
「あら?覚えておいでではないのですか?」
「覚えて……あっ!」
思い出す。
あの時俺は願ったの。確かに今日…すなわち七夕の夜に、星に願ったのだ。
「てことは…本当に!?」
「ええ、本当ですとも。あなた様を"異世界"へと招待させていただきたく思います!!」
両腕を広げる姿は、今のイサムからすれば本当に女神様に見えたのであろう。
「ありがとうございますっ!!!!」
「いえいえ、こちらこそ。と言いますのも、こちらの世界でも少々厄介な出来事が進行しておりまして……」
「ん?魔王でも誕生して猛威でもふるってるのか??」
よくある小説だと異世界の神を名乗る存在が異世界人を異世界へと召喚して、その規格外な力を利用して魔王を討ち滅ぼす。なーんて、ネタはよく見かける。
しかし、そんな王道ネタでもロマンに溢れていることには変わりはない。
やはり、男たるもの女の子達からはちやほやされたいと思うのが真意であると思う。
「ええ、なんといいますか…魔王と呼ばれる存在はおりませんが、それと同等に強い力を持った者がおりまして……」
歯切れの悪い女神様。
「まーいいぜ!行ってやるよ!異世界!!んでもって、女神様を困らす不敬な輩を倒してくればいいんだろっ?」
「はい!そのような感じです!」
よっしゃ!とガッツポーズをして盛大に喜ぶ。
「それでは、異世界へとお送りしたいのでーー」
「ちょっとまったー!!」
女神様の言葉を遮るイサム。
「異世界に飛ばされる前にちょっとばかし確認したいんだがいいか?」
「??はい、構いませんが?」
もじもじとしだすイサム。
「俺はーそのなんだ…"チート"性能で召喚されるのか?」
「??はて?チートととは一体なんでしょうか?」
あーっと何かに納得するイサム。
「いや、少し聞き方が悪かった。あれだ!俺は女神様が飛ばしてくれる世界では最強なのか?っていうことを聞きたかったんだ」
納得のいったような表情をする女神様。
「はい、一応そのようにはなります。あなた様の扱いは神に導かれた"十五人の神の使い"になりますので、神の力の一部を行使することができます」
なに!??神の力の一部を行使できる!???
なんと言う規格外な能力を!!!これならなんでもできてしまうのではないか!??
(うぉおおおおおおおおおおお!ここまで生きててよかったーーー!!)
ぴょんぴょんしているイサムを眺めながらも話を続ける。
「あなた方15名の異界の方々はいずれ訪れる脅威に対しての対抗手段を身につけてもらいます。そして、いずれ訪れる脅威に対しての15名の方々と協力して打ち破って頂きたいと思います。よろしいでしょうか?」
「もちろんですっ!!」
もちろん即決である。
人生生きていて17年。彼女もできなければ、なに一つとしていいことはなかった。しかし、17年目の今日より俺の人生は薔薇色となるのだ!
「それでは、どうぞ異世界ライフを!あなたの他にも十五名の方々が異世界にいらっしゃいます」
その言葉が全て聞き終わる前に俺の意識はその場から消え失せる。
次に目を覚ました時は正真正銘の草原であった。
どうやら女神様は俺のことをなにもないだだっ広いただの草原に召喚させたようだ。
とりあえず、こういう異世界によくあるテンプレのあのセリフを口にしてみる。
「ステータスオープン」
びよん!と目の前にステータスが現れなかった。
「あれ〜こういうのではお約束なのに〜んじゃ〜こうか?」
といろいろと試してみるが一向によくあるような半透明なステータス画面は一向に出てこなかった。
諦めかけ目を閉じたその時、ステータス情報が見えるようになった。
いや、少し表現がおかしい。可視化できているわけではなく、なんと言うか脳内に見えるようになったのだ。
(そうか…ステータスって念じて目を閉じれば見えるのか…なんと言うかちょっと不便だな…)
女神様にちょっと不満を漏らしながらもステータス画面を見る。
そこにはVRゲームでよく見たようなステータス表記がなされていた。
(lv.に、HP、MP、STR、VIT、INT、AGIか…ってよく見たらlv.1で全部が3桁越えか!あとは……スキルか、どれどれ…【全魔法適性 S】、【独創魔法 S】、【身体能力向上 S】、【技能向上 S】、【詳細鑑定 S】か…名前の横についている英語はなんだ?)
疑問に思う点もありながらも、十分にチート性能を持っているということがわかったので良しとしよう。
さて、異世界へ来てからまず確認すべきことは魔法だ!『異世界と言ったら魔法!魔法言ったら異世界!!』
という迷言があるくらいなのだ!まずは魔法の確認をせねば。現実世界では魔法なんて存在しなかったのだから使ってみたくなるのは男の常である。
とりあえず、一番ベタは魔法を口にしてみる。
「ファイヤーボール!!!」
口にしてアニメとかでよく見たファイヤーボールを想像してみると、体の内側からグツグツと煮え滾るような何かが溢れ出し、それを指先へと集中させて一気に放出させると、火球が現れて指先で示した方向へ直進していき地面に当たって直径3mほどのクレーターを作り出す。
「うわぉ!!すごい威力!!」
そして、脳内に"スキル【火属性魔法 B】を獲得しました"と言うのが流れ込んできた。
どうやら新たなスキルを解放してしまったようである。
「つまり、【独創魔法】とかを使うごとに新たなスキルが解放されて、強くなっていけるっていうわけか……これが女神の言ってた備えろってやつなのか…」
この世界での強くなっていく方法を見つけたのであれば、あとは楽勝だ。あとはひたすら"レベルを上げて物理で殴る"をすれば、魔王でもなんでもどんと来い!である。
こうして、イサムの異世界冒険記は幕を開けたのであった。
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こう思い返してみれば、異世界に呼ばれてからいろいろなことがあった。
最初に着いた〈パルム〉の街では冒険者になってすぐにこの隣でウキウキしているルーサー=ペンドラゴンに振り回されて、むちゃくちゃいろんな任務を受けさせられて、挙げ句の果てには任務中に〈パルムの迷宮〉に住まう大ボスと遭遇して死にそうになりながらも、全滅してしまったパーティにいた猫人族の奴隷の少女を助けて、感謝されまくったのちに奴隷の少女ニーニャを引き取り主となり、気付いたら〈パルム〉では知らないものがいないレベルの冒険者になっていたりしたら、〈パルム冒険者組合〉の長にして、冒険者ルーサー=ペンドラゴンの父親であるウーサー=ペンドラゴンに「帝都で開かれる闘技大会に〈パルム支部冒険者組合〉の代表として出てもらえないかと頼まれ、半月かけて〈パルム〉から帝都〈ローマ〉へとやってきて現在に至る。
「やふぅ〜!イサムー!!向こうに美味しそうな食べ物があるよっ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるルーサー=ペンドラゴン。
「いやなールーサー。俺たちは観光にきたんじゃなくてーー」
「わかってるーって、組合の代表としてくれるって言いたいんでしょー、いいのよ〜父さんが来るのは本当に直前になってからだからー」
ルーサーはイサムのことを引っ張っていき、お目当のお店で飴菓子を一本手に取りイサムに会計をさせる。
「はぁ〜、んで?登録はどこでするんだ?」
「あー登録?中央区画に大きな組合本部があるから、そこでするのー」
「ルーサー。お前は出ないのか?」
「わたしー、んなのでないでない。ブロンズランク風情のわたしじゃかないっこないからゴールドランクのあんたが頑張りなー。それよりイサム!これ美味しいよ!!」
とイサムのお金で追加分を要求するルーサー。
「はぁ〜ったく……!?」
ルーサーに追加分のお金を渡そうとした時、金髪が美しく仮面をつけた騎士の格好をした女性が目に止まった。その美しさに思わず見惚れてしまう。
「どうしたのですか?」
と猫耳をピコピコさせて尋ねるニーニャ。
「いや、なんでもないよ…それより?ニーニャは闘技大会でないのか?」
「わたしは出れませんよ。奴隷と言う身分故に大会には出ることができません」
「そうだったのか…すまなかった」
「いえいえ、聞いてもらえただけでも嬉しいです!」
尻尾をフリフリさせる仕草はまた格別に可愛いのであった。
「それより、ご主人様?登録をしなくてよろしいのですか?」
「そうだな。善は急げって言うしなっ!おい、ルーサー先行ってんぞー!」
「っあぁ!待ってください〜!」
食いしん坊なルーサーは放っておいてイサムは組合本部を目指すのであった。
有名になるために!!
ステータス表記をって言うかあんな描写をするのはここ一回だけだと思います。
感想、誤字の指摘、評価などを頂ければうれしいです。
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