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千の魔術に導かれて  作者: しろうとしろう
序章
6/26

青髭の海

遅くなって申し訳ないです

 船が1隻〈ギラメ〉から帝都〈ローマ〉を目指して北上していた。

 天気晴朗なれども波高し。と言ったような言葉がぴったりな海上である。

 その帝都へと向かう船の中に仮面をつけた金髪のどこかお嬢様感が溢れでいる格好をした少女、アルトリアの姿がそこにはあった。



 アルトリアは船のデッキに上がって洋上の景色を楽しんでいた。


「姐御〜、もう直ぐ帝都につきますぜぇ〜」


 とバンダナを巻いたいかにも"海賊!"と言ったような格好をしている男がアルトリアの元へ報告に来る。

 その格好をよく見るとこの前〈ギラメ〉の街を襲撃した海賊"青髭海賊団"のものと瓜二つである。


「はぁ〜、わかりました。もう直ぐつくのですね…」


 大きなため息をついて船室へと向かうのであった。




 なぜ、このようなことになっているかというと…

 時間は3週間ほど巻き戻る。




 〈ギラメ〉の街へと進行侵略をしに来た海賊"青髭海賊団"はアルトリアが海賊船2隻を血祭りにあげるという事態にあい、即座に撤退をしていった。



 青髭海賊団・団長ジル=バージェスは部下による一つの報告を受けて激おこプンプン丸になっていた。


「な、なんだとぉお!??おいっ!!もういっぺん言ってみろっ!!あのうちの2隻を沈めたのは"女"だってっ!??」


 何事なのかと、海賊砦にいた海賊たちが船長室を覗き込む。


「報告に間違えはねぇーんだろうなっ!!」


『は、はいぃ!!間違えありませんっ!!俺が、、、うっせーー今俺がお頭と話してんーー』


 何やら会話の先でもめているようである。


「うっせぇぞ!!この野郎どもっ!!」


『ヒィイいいいいいいいい!』


「それで…本当に女なんだな?」


『はい!間違えなくっ!その女は現在〈ギラメ〉を離れて帝都行きの船に乗るそうですっ!』


「そうか、よくやったクソ野郎ども。おねぇーらもその船に乗り込んでおけ。その後のことは追って伝える」


『了解でー!』


「…あと、そうだな…絶対に気づかれるなよ…」


 青髭はそう言い終えると念話具を机の上に置く。



「この借りはきっちり返させてもらうぞ…グハハハハハハ」



 砦にジルの悪い笑い声が響くのであった。





 その頃アルトリアは〈ギラメ〉にいた。


 あの後ビルとラムが見たものをそのままジーク氏に伝えたらしくジーク氏から3、4時間ほど質問攻めと言う名の尋問にあっていた。

「どこでその魔法を覚えたのか?」「どこで弓を習ったのか?」「是非ともうちのところで冒険者にならないか?」とかを何度も何度も尋ねられたが、魔術関係に関しては「門外不出なのでお答えできません」と返答し、一番しつこく頼み込まれた"冒険者にならないのか"と言う問いも「あまり何かに縛られたくないので」と返答してやり過ごした。

 しかしジーク氏の諦めは悪く、船で旅立つその瞬間まで冒険者への勧誘を続けていた。


 その必死なところから察するに冒険者組合でも何らかの実力を示すような場があるのであろうというのは理解ができた。


 船で帝都まで向かう手配が済んだのは街がだいぶ復興してからのことであった。

 ジーク氏曰く、この帝都行きの船を手配するのはものすごく大変だったのこと。「だからといっても冒険者にはなりませんよ」とジーク氏の勧誘をスルーした。



 冒険者ならないか?おじさんの勧誘を振り切り、船で約3日進んだところの街〈マクス〉にて物資の積み込みと船員の交代と言ったような補給を行い再度帝都へと向かって船は進む。




 海賊砦。


「頭〜潜入していた2人からの報告でーす」


「おう、やっと来たか…それで?やつは今どこに?」


「2人の話だと昨日〈マクス〉の街を出たそうな…」


「ほう、もう〈マクス〉か…随分と早いじゃねーか。 航海士を呼べ!進路を図る」


「へいっ!」



(ふふふ…うちの船を2隻も沈めやがった女には死ぬまでうちらの元で働いてもらんとな〜)




 @



「何でしょうか…この不吉な感じは…」


 夜遅くにアルトリアは目を覚ます。

 何か不吉な感覚に当てられて目を覚ます。そして、あたりのの様子を見渡す。

 いたっていつも通り今まで通りの船室が目に入ってくる。

 何も無いのなら無いでいいのだが、何かあるのか無いのかわからないこの感覚と言うのは嫌なものである。

 とりあえずは、経過を見るとして息を潜める。


 10分、20分、30分…40分が経った。


 いい加減神経を尖らせているのにも疲れが出始めた。

 いつまでも受けと言うには色々な方面で不利である。不安の種を取り除くためにも船室を出て何が起こっているのかの確認に向かおうとする。

 何度かのこの手の事件があったので、この手の直感は特に信用ができる。


 静かに扉を開けて通路を確認する。

 人はおらずいつも通りの静けさが広がっていた。やはり思いすぎかと思い部屋に戻る。

 疲れがたまっているのだろうと思い寝ようと仮面に手をかけた時、ある的確な異変に気付いた。


(ん?あれは?ボートですか?でも…何でこんな時間にあんなものが?)


 今のいる部屋からだとそのボートのことはよく見えない。しかし、月明かりによる影によって誰かしらがこの船に乗り込んできていることは確かだ。

 しかし、ここは陸から約80kmは離れている海上。密航者が乗り込んでくるとは到底思えない。

 なんせ、帆船である。そんなどこにいるのか風任せの船の位置をピンポイントに予測して乗り込んでくるなど、凄腕の航海士がいなければ不可能である。

 なんにせよ、この異常は確かめなければならない。


 生身の人間ならまだしも、肉体の無い霊体が相手ならば即座に海に飛び込んで泳いで逃げていくまでである。



 警戒をしながらデッキを目指す。


(どこの部屋も…ドアが開いている?)


 ここまで来た部屋全ての扉が開いていた。やはり何かあると確信して最大級の警戒をしてデッキへと出る。

 するとそこには……



「ガハハハ!!出てきたなアルトリア!」


 大柄で青い無精髭を生やした男が目の前には立っていた。


「あなたは誰なのですか?」


「ほひう、お前は俺の名を知らんよな…よかろう、問われたからには答えてやる。我が名はーー」


「そんなあなたの名前などに興味がありません。それよりも、この船に乗っていたはずの私以外のお客さんや乗組員の方はそちらへ行ったのでしょうか?」


 男の話に全くに興味を示さずにこの船に乗っていたはずの人たちの所在を問う。


「っっっ、生意気な口を聞くんだなぁ〜アルトリア。貴様が俺様の名前よりも興味のある乗組員さん達は彼方だよ〜」


 男は右弦に付けてある大型の船を指差す。

 そのサイズはこの船の約1.5倍の大きさがある。そして、メインマストの上には髑髏の旗(ジョリー・ロジャー)が掲げられていた。

 そして、乗組員とお客さんはその船のデッキに両手両足を縛られた状態で拘束されていた。


「っ、貴様は海賊か?」


 先程とは全くもって違う怒気を含んだ声で男に尋ねる。


「そうよっ、俺様はこの一帯の海を統べる男"青髭海賊団"団長ジル=バージェス様よっ!」


「あらよっと!」「ヒューヒュー」「世界一!!」と言った合いの手が入る。


「ふふ、アルトリアよ…俺様のはnーー」


「それよりも貴様、なぜ私の名を知っている?」


 アルトリアのその質問に堪忍袋の尾が切れたのか、


「腐れ野郎っ!この俺様の言葉の途中でよくも話を切りやがってっ!!許さんぞっ!一人殺れ」


 癇癪を起こした青髭が部下の1人に命じる。


「待て、貴様!何をする気だ!?」


「何をする?こうするんだよっ!!」


 青髭は腰に差してあったピストルを抜いて部下の1人が前に連れ出した乗組員の脳天を打ち抜く。


「ー!? この、外道め!」


「ははぁ〜ん?外道だ?ああ、そうともよっ!海賊ってのは外道ってのが筋ってもんよ…」


 アルトリアは剣を顕現させて青髭と対峙する。青髭はそのアルトリアの姿を見て何か思いついたようで、


「そうだ!いいことを思いついた。 ゲームをしようじゃ〜ないか?アルトリア?」


「ゲームだと?ただでは彼らを離さんというのか?外道」


「おうよ、アルトリア。ゲームは簡単だ…この俺様に傷を一つ付けていく度に1人解放していってやる。その代わり、貴様が傷つく度に5人づつ殺していってやる」


「っ、なんて外道な…」


 しかし、洋上の船の上と言う閉鎖された空間ではこちらに指導権はない。ここは素直に従っておくのが被害を最小にする最大の手立て。囚われているのは約45名。つまり、あいつに45本の傷をつけてやればいい。

 しかし、こんな外道に45本もの傷をつける余裕などない。一気に切り伏せればいい。


「よかろう、本当に解放してくれるんだな?」


「あぁ、もちろんだとも海賊は嘘を吐かない」


 ニンマリと笑う青髭。背中に大量の汗をかきながら剣を構えるアルトリア。


(やつの兵装は、ピストルが3丁…その内1丁には弾が入っていない。あの手のピストルであれば再装填に時間がかなりかかるはず。『金山羊の円環』(プロト・アイギス)で防げるので問題はない。あとは剣か…)


 青髭の兵装を見て考え得る全ての状況への対処をシュミレートする。


「ふっ、準備はいいようだな…では…」


 ドォン!


 やはり、初めはピストルで撃ってくる。それを予測していたアルトリアは『金山羊の円環』(プロト・アイギス)を展開して攻撃を防ぐ。


「ほう、それがうちの砲弾を防いだっている保護魔法か…なら、こいつはどうだっ!」


 腰にさしていた剣を抜いて襲いかかってくる。

 これも想定内の行動。なるべく剣で弾かず交わして隙を伺い、隙ができた瞬間に一発入れる。

 大振りなおかげで隙ができやすい。しかし、相手は男。それも結構なデカさの。

 人たち受ければこちらはただでは済まない事態になりかねない。


(隙が!!今だ!!)


「はぁあ!!」


 青髭の脇腹に一撃をお見舞いする。


「くふぅう…よくもやったな…この女!!!おい!!」


 青髭は部下に向かって吠える。

 アルトリアは少なからずも、この男が約束を守る男だと少しホッとした。

 したのも束の間、青髭の部下…よく見るとあの〈ギラメ〉にいたビルとラムである。


「へいっ!頭っ!お一人様"生"からの解放でーーす!!」


 ズドン!!


「き、貴様ぁ!!!話と違うぞ!!解放すると約束したではないかっ!!」


「 ああ、確かに約束はした"解放する"とは」


「では、なぜっ!??」


「ああん?俺は一言も命を助けてやるなんて言ってねぇんだヨォ!!!」


 ズドン!!


 青髭から2丁目のピストルから弾丸が弾かれる。アルトリアはその弾丸の反応に少し遅れ『金山羊の円環』(プロト・アイギス)の展開が数秒遅れる。

 その遅れは致命的なものであった。

 ピストルから放たれた弾丸は悠々と展開した盾を超えてアルトリアの右脇腹へと命中する。


「っ!???」


 ピストルの痛みが腹部を襲い片膝をつく。


「5名様さらにはあの世行きぃぃいい〜!!」


 ラムが喚き叫ぶ。


「ほらほら〜そんなところでくたばってるんじゃありませんよ〜!」


 青髭がアルトリア目掛けて剣を振り下ろす。

 間一髪で剣を盾にして攻撃を防ぐが、青髭の力押しによって顕現させた『解放者の剣』が折れる。


「あらあら、さらに5名様のあの世行きぃぃいい〜」


 ビルが狂気に飲まれる。


「今のはっ??」


 抗議をしようとするも青髭の攻撃を回避するのでやっとである。


(くそッ、このままでは…剣ではダメだ。距離が取れないこの船の上では矢は役には立たない…ならば…)


 体術ではどうにもならない相手。さらには剣でも通じない相手。距離を取ることができない状況。

 この絶望的な状態で、唯一通じるであろう一つの手段。


『千の魔術』(プロト・イディア)『不敗の剣』(クラウ・ソラス・プロト)!!」


 一本の槍がアルトリアの呟きとともに顕現する。

 『不敗の剣』(クラウ・ソラス)

 ケルト神話に登場する『理想の果ての勝利の剣(エクスカリバー)』と並ぶほどの実力を所持している伝説の剣。

 その特性は、光をまとい相手を幻惑させる呪いから。炎を吹き出す呪い。さらには、狙ったものに対して必ず命中させると言う呪いを兼ね備えている伝説の剣だ。


 アルトリアはその『不敗の剣』(クラス・ソラス)における最大の伝承である『撃てば、必中』の伝承を引き出し、それを槍として顕現させる。

 これはオリジナルの『必殺必中の大槍』(グングニル)に大きく性能では劣るが十分な効果を発揮する。さらにはアルトリアが【千の魔術(プロト・イディア)】によって改良を加えたのオリジナル武具である。


「どこから槍を!???」


 青髭より驚きの声が上がる。


「それに答えるつもりはない。貴様はここで死ぬのだ。青髭!」


『不敗の剣』を剣として顕現させなかったのは、間合いを詰められて力押しにされるよりも流してクロスカウンターを決める方が都合がいいために槍として『不敗の剣』を顕現させたのである。


 目的は図にあたり、青髭の大振りの攻撃を流しに流していく。


「はぁあああ!!!」


 隙ができようものなら容赦なく急所へと突きを繰り出して行く。


「こ、このクッソがぁああああああ!!」


 猛り狂い攻撃が単調になる。こうなってしまった相手など恐るるに足らず。

 力押しの攻撃を流せば流すほど青髭の攻撃は単調になり、最後は持っていた剣を弾き飛ばされる。


「貴様の負けだ…青髭。おとなしくあの人たちを解放しろ!」


「ふふふ、誰がそんなことをぉ!!」


 青髭が何かに火をつけてこちらへと走ってくるのが見えた。


(!?爆弾を!!)


 気付いた時には青髭はアルトリアの目の前まで来ていた。

 そして、



 ドゴォオーーーーーン



 青髭は船もろとも爆破させた。



「か、頭…」


 青髭海賊団の頭を失った海賊員は燃え盛る船を凝視する。


「惜しい人を失ったな…」


 悲しみに包まれる船内すると、鈴を鳴らしたような静謐な声が響く。


「さて、あなた方?私の言うことは聞いてもらいますかね?」



 メインマスト上部に声の主はいた。

※ちなみにアルトリアは泳げません



すごく個人的な解釈なのですが"投影魔術"の原典(オリジナル)が"千の魔術"なのではないかなと睨んでいます。



感想、誤字の指摘、評価などを頂ければうれしいです。

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