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千の魔術に導かれて  作者: しろうとしろう
序章
2/26

担い手

2話目となります。

 視界は晴れて、あたり一帯には先ほどのような立派な庭園はなく、うっそうとした木々の数々があった。

 どうやら俺は森の中へと召喚されたようだ。

 とりあえずは、あたりの安全確保ともし俺のことを召喚した人間がいた場合への対処をする。

 幸いその手のような人間はおらず、あたりも見るからに安全そうである。


 自分の体がきちんと繋がっているかの確認をすべく少し動く。

 たまーに召喚のさいの事故で体がバラバラで神経がぐちゃぐちゃなんてこともあったりする。

 スペースを確保すべく一歩下がったその時何か獣のような感触のものを思いっきり踏んだのと同時にお尻の方から強い痛みを感じた。


「っ!??いったぁあああああ!!!」




 なにが起こったのかを完全に理解するまでに10分ほど使ってしまった。

 いや、むしろ10分でないと理解に苦しむ事態が起きていた。

 自分のお尻の方には前まで無かった銀色の尻尾が、さらには頭の上にもケモノ耳が二つぴょこんと可愛らしくついていて、さらに驚く事に女性を象徴する決して大きくはないけれどそこにはあった。

 そう、俺はどうやらエセ女神(エンジェル)に獣人&女性化をさせられて転移されたようだ。

 性転換魔法や種族変更魔法といった人間の身体に関わる現象への干渉が可能なのは神だけと言うのは知っていた。

 なので、その類の魔法がこのようにポンポン使われるとは思ってもみなかった。

 どんな形であれ異世界へと導いてくれたのだ。たとえ女性になっていたとしてもあまり気にするようなことはない。

「これはこれでありかもしれない」で割り切るのが大切である。

 とりあえず、こんななにもないおそらくは森であろうところにずっといるのは勿体無い気がしたので少しこの辺をぶらぶらしよう。

 魔法が現役で存在している世界なのだ。それが意味することは、使い魔や幻獣、魔物がいて当たり前の世界。

 安全には最大級の心配をしなくてはならない。


 ともあれ、自分のなんとなくの直感を信じて歩いていくとかすかにではあるが人間の気配を感じた。

 こっち側の世界の人間を見つけることができてやっとひと段落できる。と思っていた。


「おいおいおい、坊ちゃんよ〜」

「俺らは遊んで暮らせるだけの金が欲しんだよ〜」

「そうだぜ〜坊ちゃんのところからちーっとばかし金を持ってきてくれないかねー。ざっと金貨500枚ぐらいっ!」


「なにを言うんですかっ!!あなた方が助けて欲しいとおっしゃったから、ついてきて差し上げたらそんなことですかっ!!」


 小学生低学年ぐらいの少年が大人3人に脅されていた。

 しかし、大人3人組の方の要求は少年には全くもって通用していないようだ。


 何かあれば逃げられもして助けられる位置へと静かに移動する。

 あまり厄介ごとには巻き込まれたくないので、なるべく穏健に今目の前で起きてる事が終了して欲しい、と願っていた。

 話を聞いていくうちに男3人の口調があからさまに苛立っているのが把握できた。

 そんな時であった。


「ぼっちゃまー。ソウ坊ちゃんまー。どこですのー?ーーあら!こんなところに…お屋敷を抜け出し……」


 メイド服を着た女性が大人3人の姿を見て硬直する。


「ぼっちゃま!!早くお逃げを!!」


 使用人は少年の手を引いて一目散に来た道を戻っていった。


「おい!!逃すな!!貴重な金ずるだ!!」

「了解で!!」


 3人の男が一斉に駆け出し使用人と少年を追いかける。

 この構図になって今起きていたのが、山賊もしくはそれに近い賊がどこぞのやんごとなき御身分の少年から金をせびっていた。そして、自分らの姿を悟られたので強行で金を脅迫するっていうところであろう。


 男3人の足は非常に早くすぐに少年と使用人のところへ追いつきそうな勢いである。


 さすがに目の前で起こっている犯罪を見過ごせるわけがない。

 覚悟を決めてあの3人組を追う。



 少年が転んでしまいその場に倒れこむ。


「早くお逃げください!!ソウ様!!」


 使用人が自分を盾にして少年を逃がそうとする。

 その間に男たちは2人の追いついてしまう。


「手をかけさせるなよ!!くそったれ!!」


 抜剣した剣を大きく振りかぶりながらそう叫ぶ。

 あと少し早く。あと少しだけ早く振り下ろされていたら危なかった。

 使用人は斬りつけられると思い目をつぶって次に来るであろう衝撃を覚悟していた。

 しかし、その衝撃は一向に来ない。

 ゆっくりと目を開くと足元には剣が落ちており、斬りかかろうとしていた男が手をかばっていた。


「イッテーな!貴様っ!!」


 男は吠えながらこちらへと叫ぶ。


「間一髪のところで"失神の呪い"が当たって助かったよ…」


 本当は腕を吹き飛ばすくらいの力を込めて放ったのだが、あのぴんぴんしている様子だとタンスの角に足の小指をぶつけた程度の痛みしかないのであろう。


「クソ狐!!人間様に向かって刃向かうなんていい度胸してんな〜。オイィ!」

「リーダー、あっちからやっちまいましょうぜ!ついでに奴隷にでもして…グヘヘ…」


 性的な目線を感じて身震いをする。

 だが、もうここまで来てしまったのだ。あとには引けない。こちらも全身全霊をもってあのゲスな3人を蹴散らそう。



 このままあの3人をぶちのめしてハッピーエンド。なーんてことにはならない。

 現実は厳しい。

 男3人が飛びかかってきたのに対して、魔術を要して迎撃するのは先ほどの件からいって邪道。

 ならば、父親に死ぬような地獄を見せられてトレーニングさせられた護身術で蹴散らす他ない。


 最初に飛びかかってきた男Aに対して腹に一発叩き込み。次に飛び込んできた男Bに対して回し蹴りを胴に一発。その反動を利用して男Cの首に一発打ち込む。全てきちんと急所に命中する。

 普通の人間であれば立っていることはできない


「っ、ちーぃっとばかし女だからって油断した…」

「次はねーぞ!!亜人!!」


 男A、B、Cはやはりぴんぴんしていた。

 俺のセンス無さのせいか、もしくは女になってしまったせいでの筋力の低下のせいかわからないが、明らかに力が落ち込んでいるせいでこちらの攻撃が通らない。

 "身体強化"と言う魔術はあるにはあるが、一番の不得意分野であるため、無駄に魔力を消費するだけのものである。


 ガードに失敗して俺は吹っ飛ばされて木に激突する。


「ーーくはぁっ!!」


「ははは、てこずらせやがってこの狐が…」

「勢いは口だけか?」

「たっぷり楽しませてもらうぜ…グヘヘ…」


(マズイ。ここで俺が倒れたら、そこで震えている二人まで……)


 そこにいる少年と使用人に目をやる。

 もし、俺がここで倒れたら確実にこの人達の命はない。いや、あったとしてもその先にあるのは苦痛のみだ。


(何か、武器が欲しい。強い武器が…)


 頭の中に一瞬よぎる。家に飾られているあの剣が。

 しかし、あの剣はここにはない。


 男Aが力一杯に込めているであろう拳が飛んでくる。それを防ぎきれまいと分かっていながらも身体が反射的に自分の身を守ろうとする。

 これから先の人生はこんな奴らの奴隷(ペット)か…と諦めていた時であった。


『汝、我が力を存分に使うが良い…我が永久腐敗の最大魔術を!!』


 体の内側から響くあの時の声。流れ込んでくる大量の"何か"。はっきりとしない"何か"が身体中に溢れていく。

 そして、気付けば男A、B、Cがその場でうずくまっていた。


「貴様っ!何をしたっ!??」


 何かをした記憶はない。あるとすれば流れ込んできた"何か"である。


 そして、男たちと自分の間にある薄い膜のようなものに気づく。

 一瞬にして何が起きたかの状況把握ができる。この膜はおそらく、

(これは、盾か?なぜこんな……そうか!!これが!!)

 やっとこさ、俺はあの謎の靄が流した"何か"がなんなのかが理解できた。


「いやはや…原典の魔術に触れるなんて…」


「何をぶつくさ言ってやがるっ!!」


 体勢を立て直した男たちは剣を構えてまたもや突撃してくる。


 その状況に対して冷静に念じる。

 あの家に飾られているあの剣を。

 想像するあの剣を。

 想定するあの剣が持ち得る力を。

 思い出すあの剣に伝わる伝説を。


 そして…顕現させる…"解放者の剣"を!!


「ーーなにっ!!!」

「剣をっ!?」

「一体どこからっ!??」


 苦悶の声をあげて下がろうとするが時すでに遅し。

 剣を振るいその男A、B、Cを屠る。




 @



 男A、B、Cもとい山賊に成り立て3人組を倒した後に助けた少年の屋敷へと案内された。

 さすがに女の体で両手剣を振るうと言うのはものすごく辛いものがある。

 もっと真面目に強化の魔術の勉強をしていればよかったと後悔をしている。

 先程戦闘があった場所より10分ほど行ったところに立派な洋風の屋敷があった。


 この屋敷はソラと呼ばれた小学生ぐらいの少年の家らしい。昔はもっと名声も富も権力もあったのだが、その少年の父親がこの国で起こった内乱を沈めに行った際にその戦場で死んでしまい、その権威は失墜してしまい現在のような田舎住まいをしているとのことだ。


「粗末な館ではありますが、どうぞ中へ」


「いいえ、お気にならさらず」


「……あ、ありがとう……」


「??」


 使用人の後ろに隠れながら何か少年が言ってきたようであったがよくわからなかった。


 使用人に連れられて応接間まで連れてこられた。ここで少し待つように言われたので待つことにする。


 ここにいる人間は自分に害をなすような人間はいないようだ。

 その部屋にあった鏡に映し出されている自分の姿を改めて見る。

 銀髪の長い髪に銀色の獣の耳、銀色の尻尾。さらにあの山賊(仮)たちの言葉から俺は狐人?のようだ。


 そんなことをしていると一人の老紳士が部屋に入ってきた。


「この度は、我が孫を助けていただきまして、感謝の限りでございます。なんとお礼を申したら良いかと…」


「いえいえ、そんなに頭を下げないでください。私はあそこで当たり前のことをしただけですので」


「そんな!!当たり前のことなどと、狐尾族であるあなたが、本当にありがとうございました。 何かお礼ができれば良いのでしょうが、何分辺境の地のためできるお礼が少ないのですが、出来る限りの事をさせていただく所存です」


 老紳士は何度もなんども頭を下げていた。

 その後、老人に対して自分は異界よりやってきた者でこの世界のことについて何もわからないので教えて欲しいとお願いをした。


「異界の方でしたか……合点がいきました。わたくしたちの孫を助けていただけた訳が…」


 そうして老人は話を進めていく。この世界の事、ここがどこであるのかというところまで隅々と。

 最後に老人はこう言ってきた。


「助けもらったのにあつかましいと思われると思いますが、わたくしたちの孫と結婚してはもらえないでしょうか?」


 これは大きく出たなと思ってしまった。しかし、無理もない。この屋敷はギリシア帝国の最南端に位置する辺境の地。出会いがあるとは全く思えない。つまり、掴んだチャンスは話さないということらしい。


「異界からきた者と言うのはそんなに珍しいのですか?」


「ええ、珍しいって言う次元のお話ではないですよ。なんせ神の使いなのですから、引く手は数多かと、存じます」


「そうなのですか…」


 少しここで思考をリセットして損得勘定で動くとする。

 もし、ここで老人の申し付けを受ければ100%この世界で生きていけるであろう。しかし、ここでその選択をしてしまえば、せっかくの古代魔術が現存している世界に来た意味がない。


「すみません。お嫁に来てくれという提案は飲むことができませんが、ここで2~3週間ほどお世話になってもよろしいでしょうか?」


「そうですか…残念ではありますが致し方ありません。滞在の方はもう何ヶ月でもいてもらっても構いませぬ」


 ここに安息の地を得たのであった。


「あぁ、そういえばまだお名前を伺っておりませんでした」


「そうでしたね…私の名前は…」


 言ってなかったなーと思いつつ、あっちの世界での名前を言おうと思ったが、せっかく異世界に来たのだから名前まで変えてしまおう。

 少し考えてあの名前が出てきた。


「どうかされましたか?」


「いえ、私の真名()は、アルトリアです。よろしくお願いします」


 こうして2~3週間ここのお屋敷でお世話になるのであった。




 @



 ジャック家でお世話になった3週間の間にソウとものすごいほど親密になった。

 ソウはこのジャック家の時期跡取りである11歳。

 私が滞在していた3週間べったりであった。森の中を散策するとき、屋敷の内部を探検するとき、食事をするとき、お風呂に入るとき、それから寝る時も何かと理由をつけては私の近くに居ようとした。


 しかし、そんな日々も今日でおしまいである。


「短い期間でありましたが、本当にありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ何も出来ずに申し訳ない。またどこかでお会いできる機会を」


「はい、そうですね」


 この3週間で随分俺は女のっぽくなった。と言うよりもう女と遜色無い状態にまでなっていた。


「絶対、帰ってきてよ」


 ソウは瞳をうるうるさせながら言う。

 最後の夜ソウは私にこう言ってきた。『僕が立派になったら結婚してください!』と。


 にこやかに笑って。屋敷でもらった仮面を手にしてジャック邸を後にするのであった。

頑張れば今日もう一回21:00ぐらいに投稿します。


感想、誤字の指摘、評価などを頂ければうれしいです。

どうかよろしくお願いします!

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