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野外学習編28-6

 ライディアン竜騎士学園において、ワイズ出身の生徒がアーク・ルーンに次いで少ない理由は言うまでもないだろう。


 だが、それでもワイズの竜騎士見習いは九名を数え、たった二人しかいないアーク・ルーン勢を大きく上回る。


 無論、アーク・ルーン勢はそれ以上の数の差を制し、バディン、ゼラント、タスタル、フリカ、ロペス、シャーウを下してきた。が、その数の差をくつがえしてきたトリック、ベルギアットの能力は相手にバレている。


 もっとも、ベルギアットの能力がワイズ勢に通じても、その中にウィルトニアが含まれていなければ、アーク・ルーン勢の勝算は少ないだろう。


 これまでフレオールらが争旗戦で勝ってこられたのは、ベルギアットの特殊能力のみだけではなく、七竜姫と一対一、正確にはその乗竜も相手取っても負けなかったからだ。


 だから、八人のワイズの竜騎士見習いをでんぐり返しさせて、ウィルトニアのみとしたところで、これまでのようにいかない。


 七竜姫最強の亡国の王女の実力は、フレオールとの決闘で証明されているが、それよりもはるかに脅威となるのは、双剣の魔竜レイドの存在だ。


 知謀はともかく、単純な戦闘力なら、ベルギアットよりもレイドの方が上だ。当然、イリアッシュがギガを駆って挑んでも、双剣の魔竜にかなわないだろう。


 これこそ、フレオールらがワイズを後回しにした理由である。ナターシャの時のように、ウィルトニアらと渡り合っている時、他の七竜姫が駆けつけてきたら、対処のしようがない。強敵と集中して戦うためにも、後顧の憂いを断っておかねばならなかった。


 もちろん、それでもマトモにぶつかれば、ワイズ勢の勝利は揺るがない。ウィルトニアも自分たちの有利を理解しているので、九名の竜騎士見習いが陣取るのは、見晴らしのいい山中の平地であり、奇襲を避ける場所を選んだ。


 小雨が降っているとはいえ、視界の開けた場所なら不意を打たれることはない。ウィルトニアが最も警戒すべきは、物陰からベルギアットがニッポン昔ばなしを語ることである。


 さらに、自分とワイズの旗を背中にくくりつけたレイドを中心に、前後左右に二名ずつを配置し、空間転移による奇襲にも備えつつ、近くの小さな森の中にいるフレオールらを睨みつつ、


「森の中に誘い込み、こちらを一時的に分断して、その間隙を突き、レイドを狙うつもりか。乗って見せるしかないな」


 見抜いた相手の意図のとおりに動くことを決めるウィルトニア。


 この場にいる十一人の竜騎士見習いと主審であるティリエラン以外の教官は、六十人近い者をでんぐり返しから解放するために動いている。


 が、問題はフレオールが六本の旗を奪った点にある。


 争旗戦は決着がつくまで延々と行うわけではない。今日は野外学習の最終日であり、昼すぎあたりで決着がつかねば、勝敗は判定によって決まる。


 ティリエランら教官のアーク・ルーンへの心理を思えば、ワイズは有利な判定を受けられるだろう。


 ただし、フレオールらがバディンなどの六本の旗を手に入れたのに対し、ワイズの手に入れたそれは0本。ここまで明確なポイント差があると、多少の身びいきではどうにもならず、ウィルトニアには戦って倒す以外に勝つ手立てがない。


「向こうから来てくれたら楽だったのが、そうはいかんか」


 判定による勝利など望むフレオールではないが、さりとて勝ち目がないところに突っ込んでくるようなマネもしてくれない。


 ただ勝つだけなら、逃げ回って判定に持ち込むのが一番なのだ。ベルギアットの空間転移など、それに最も適した能力と言える。にも関わらず、フレオールらが戦う姿勢を見せている以上、ウィルトニアも向こうが仕掛けられるくらいの隙を、わざと作らねばならず、


「全員、今の布陣を維持しつつ、前進して、アーク・ルーンの旗を奪う。が、決して深追いはせず、冷静に敵の動きに対応せよ。敵の挑発には絶対に乗るなよ」


 王女は噛んで含めるように注意をするが、怒りと闘志が満ちるどころか、過多な状態にある家臣らが、どこまで指示を守っていられるか、まったく自信がなかった。


 そして、その彼女の懸念したとおり、ゴーサインを出した途端、ワイズの竜騎士見習い八名は乗竜を駆り、ギガを目指して突き進む。


 ワイズ勢が動くと同時にに、ギガは周りの木々を薙ぎ倒しながら反転し、やはり木々を蹴り倒しながら駆け出し、戦う前に逃げ出す。


「待てっ! 裏切り者!」


 ウィルトニアの左右にいた四人の竜騎士見習いはそれぞれの乗竜、フレイム・ドラゴン、サンダー・ドラゴン、二頭のドラゴニアンの翼を羽ばたかせ、逃げるギガの前に出ようとする。


 力はあるが、鈍重なギガント・ドラゴンを先回りするのは難しいことではない。ワイズの竜騎士見習いの乗竜にはギガント・ドラゴンがいるが、先回りしてギガの足を止めれば、追いつくことが可能になるどころか、敵を挟み撃ちにできるというもの。


 実際に、ウィルトニアを置いて突き進んだ八名の竜騎士見習いは、ギガを前後から挟み撃ちするのに成功した瞬間、彼らは愕然となる。


 ギガの背中からフレオールとイリアッシュ、ベルギアットの姿が消えたからだ。


「……ガアアアッ!」


 直後、雄叫びを上げたレイドの方に視線を転じたワイズの竜騎士見習いらは、その側に消えた二人と一頭があることに、再び愕然となる。


 が、驚いたのはギガの周りにいる八名のみ。不意に出現したフレオールらに、冷静に吠えて味方に報せたレイドのみならず、ウィルトニアも鞘ごと大剣をイリアッシュへと振るう。


 味方が暴走することも、フレオールらが空間転移による奇襲をかけてくるのも、ウィルトニアにとっては予想の内であり、だから彼女はすかさずイリアッシュに攻撃を仕掛けられたのだ。


 レイドと共に戦えば、マトモに渡り合っても、ウィルトニアも負ける気はしない。ましてや、この一時をしのげば、味方が引き返してきて、それで勝敗は決する。


 その上で、ウィルトニアがイリアッシュへと大剣を振るったのは、念には念を入れたからだ。


 魔法戦士とは互角に戦えるが、従姉には数歩、及ばない。つまり、強い方と相対することで、レイドの負担を減らすのが、ウィルトニアの狙いであり、それがフレオールの狙いを狂わせた。


 奇襲を不意打ちで対処されたが、それで終わるほどイリアッシュの技量は低くない。


 ウィルトニアの振るった大剣をとっさにかわしたイリアッシュは、予定と作戦と異なり、この場に残ってしまう。


 ベルギアットの側から大きく飛び退いてしまったせいで、フレオールとレイドを捕らえた空間転移の効果範囲から逃れてしまったせいで。



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