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野外学習編28-4

「いいですわね、魔竜参謀の手の内はわかっているのです。それへの対抗策は告げたとおりですわ。だから、魔竜参謀がヘンな話を始めたら、とにかく耳をふさぎなさい。これと、どこから向こうが現れようが、落ち着いて対処することを心がければ、アーク・ルーン勢を返り討つにするのは容易いですわ」


 ダーク・ドラゴン『ブラック・シューター』の背中から、シャーウの王女は噛んで含めるように、十人ほどの家臣らに向かって何度目かの説明を繰り返す。


 当初の予定では、とっくに七ヵ国同士で争旗戦を行う、従来の形となっているはずが、いつまでも経ってもクラウディアやミリアーナから、待機解除やアーク・ルーン勢に吠え面かかせたとの報告はないので、おかしいと思ったフォーリスのみならず、ウィルトニアも家臣に状況を探らせ、現在の異常事態を把握している。


 もちろん、異常事態となっているので、ティリエランは強制的に争旗戦を中断させたいのだが、それを告げるべきフレオールらの姿が、ロペスの竜騎士見習いらをでんぐり返しさせた後、体長約五十メートルに及ぶギガント・ドラゴンを含めて見えなくなっているのだ。


「おそらく、幻術などを使っているのでしょう。ですが、姿が見えなくても、いなくなったわけではありませんわ。これも落ち着いてさえいれば、対処は難しくないのですから」


 シィルエールほどに魔道に精通していなくとも、退魔学を学んでいるフォーリスもウィルトニアも、幻術の対処法くらい心得ている。


 シャーウやワイズの竜騎士見習いらは、きちんと四方を警戒しつつ、不自然な物音などがしないかに気を配っており、視角をごまかすだけの幻術ではだまし切れぬ体制を取っている。


 無論、多様なる魔術は、音を消す術、気配を隠す術もあるが、アーク・ルーン勢で魔法を使えるのはフレオールのみ。魔術が多様でも一人ではいくつもの術を同時に使えるものではない。


 何より、ギガント・ドラゴンほどの巨体、完全にごまかし切るのは魔法でも不可能、という判断は間違っていない。


 それゆえ、正面の、二十メートルほど離れた開けた場所に、突如として出現したギガに、シャーウの竜騎士見習いらは一斉に気づき、


「……全員、周辺への警戒を怠りなく! あれが囮の可能性がありますわ!」


 フォーリスの警告は正しく、すぐに視線を動かすと、背後から木々の合間に隠れながら近づく、フレオールの存在を発見する。


 背後からの奇襲に気づかれたフレオールは足を止め、精神を集中させつつ、右手の人差し指で虚空に六芒星を描き、


「我は求めん! 一瞬の激しき輝き!『マジカル・フラッシュ』!」


「ハアアアッ!」


「ガアアアッ!」


 フレオールが放った閃光は、しかしフォーリスが乗竜の能力を用い、発生させた闇に包まれ、消えると同時に、ギガント・ドラゴンが猛々しく吠え、シャーウの陣営に真正面から突っ込む。


 フォーリスが闇で打ち消した『マジカル・フラッシュ』は、一瞬、激しい光を生み出すだけの術だが、強い光を直視すれば、眩しさに目をやられ、しばらく視界が効かなくなる。


 背後からの目潰しに、瞬時に対応してのけたのは、さすが七竜姫の一人と言うべきだろう。また、ギガの咆哮と突進に気を取られつつ、空間を渡ってブラック・シューターの背中、フォーリスの背後に出現したベルギアットとイリアッシュに対し、闇をまとって隠れていた四人の男子生徒が襲いかかる。


 ダーク・ドラゴンの闇色の鱗の上に、闇をまとって伏せていれば、パッと見ただけではわからない。

アーク・ルーン勢の手の内とこれまでの戦法を知り、考案した対処法の一つがこの待ち伏せである。


 当人にとっては屈辱以外のなにものではないが、フォーリスではイリアッシュにもフレオールにも一対一ではかなわない。そのために必要な小細工は、空間を渡って来た一人と一頭の虚を確かに突いたが、同時にシャーウの王女の完璧な対処法が裏目に出た。


 ベルギアットとイリアッシュの出現に、覆っていた闇を消し、武器を手に立ち上がったシャーウの男子生徒四名と、腰に下げるフランベルジュの柄に手を伸ばすフォーリスの動作は、両手で腰に差す二丁のトンファーを抜き放つのではなく、自分の耳をふさぐ動作で決着となる。


 イリアッシュが両耳をふさぐと、ブラック・シューターの背中にいるフォーリスら五人だけではなく、周りで自分の乗竜に跨がる、全てのシャーウの竜騎士見習いが武器を手放して、自分の耳を押さえる。


「はい、ゲット」


「……あっ!」


 両耳を両手でふさぐ面々は、ベルギアットが握るシャーウの旗を見て、一人を除いてフェイントに引っかかったことに気づいて唖然となる。


 フレオールが幻術でその巨体を見えないようとしたギガは、ベルギアットの重力制御能力で二十メートルほど先の開けた場所にまで運ばれ、そこでほとんど音を立てずに着地した。ギガ自体の翼が動いていないからは音も立たない。


 ただし、晴天ではなく、小雨が降っているので、かなり注意深く周りを見ていれば、幻術で見えないだけのギガの巨体に当たり、雨が一部、不自然な動きを見せていたのに気づかなかったので、フレオールらの奇襲を許す結果となった。


 そして、着陸後、幻術を解いたギガでシャーウ勢の耳目を集める一方、ベルギアットの空間転移でフレオールとイリアッシュはシャーウ勢の後方に移動し、フレオールだけが突っ込む。


 ギガとフレオールの前後からの突進で二重の陽動を成し、本命のベルギアットとイリアッシュが空間転移でブラック・シューターの背中に移動する。


 フォーリスの策、四人の男子生徒の待ち伏せには意表を突かれたものの、イリアッシュの機転でそれも無駄となるどころか、シャーウ勢の動きが止まった隙にベルギアットがシャーウの旗を奪い、これで残るはワイズ勢のみとなると、ベルギアットは呆然と立ち尽くすフォーリスらを尻目に、まずイリアッシュと共にフレオールの元へと空間転移する。


 そして、フレオールと合流するや、即座にまた空間転移を行い、ギガの背中へと移動する。


 イリアッシュは当然、とっととギガを駆って、かつての同胞らへと向かおうとするが、


「……この争旗戦を監督する者として、緊急事態により、一時中断とします! 各自、手を止め、こちらの指示があるまで待機すること! これを無視する者はルール違反と見なします!」


 凄まじい速度でこの場に現れた、シィルエールの駆るスカイブローの背中に立つ、かつてのクラスメイトの監督権の行使により、イリアッシュは仕方ないといった風に、乗竜の巨体をこの場に留めた。


 シャーウの竜騎士見習いらの暴走を警戒しながら。



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