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魔戦姫編23-7

 ベルギアットは六人の竜騎士見習いによって能力を封じられ、マルガレッタはナターシャと四人の竜騎士を相手に一進一退の攻防を繰り広げている。


 ミリアーナと四人の竜騎士は、リナルティエが暴走状態にないおかげで、どうにか防戦一方ながら、魔戦姫一号体を相手取って一応は戦線を維持している。


 均衡が崩れ出したのは、六対一の戦いからだった。


 フォーリスとシィルエール、七竜姫の二人に、ロペスの名だたる竜騎士四名も、二丁のトンファーのみならず、全身をドラゴニック・オーラで覆うイリアッシュの猛攻に、すでに敗色濃厚なところまで追い込まれていた。


 二人の王女の鎧には亀裂が入っており、フォーリスなどは右の肩当てが吹き飛んでいる。竜騎士らは鎧どころか、武器さえ壊されている者もいるほどだ。


 六人がかりでここまで一方的な状況になった理由は、イリアッシュのバカげたドラゴニック・オーラの量のためである。


 イリアッシュは全身をドラゴニック・オーラで包んでいる。このため、彼女に攻撃を加えれば、自らの武器を傷めるだけではない。武器が届くほどの至近距離、攻撃をドラゴニック・オーラで防がれると同時に、カウンター気味のドラゴニック・オーラを放ってくるのだ。


 当然、フォーリスらもドラゴニック・オーラで攻めつつ、身を守っているが、それでもこの状態である。武器や鎧だけではなく、負傷して動きが鈍くなっている竜騎士もいれば、体力のないシィルエールは息がだいぶ乱れ出している。


「このままでは、こちらが先に崩されてしまいますわ」


 誰にも聞こえないようにつぶやくその弱音のとおり、フレオールを真っ先に倒したティリエランらが、順次、加勢に入っていくどころか、逆にイリアッシュがフレオールの加勢に入る事態になりかねない。


 フォーリスもシィルエールも伊達に七竜姫に数えられているわけではないから、彼女らの攻撃はイリアッシュのドラゴニック・オーラの守りを破り、身にまとう竜鱗の鎧を傷つけてはいる。


 ただし、ちびっと。


 全身を覆ってなお、密度の濃いドラゴニック・オーラを突破した時には、フォーリスのフランベルジュも、シィルエールのレイピアも、攻撃力の大半が削がれて、竜の鱗に引っかいたような微細な傷をつけることしかできない。


 そして、七竜姫である二人の攻撃ですらそうなのだから、優れた竜騎士程度のそれは、ただ自分の武器を傷める行為としかならない。


 膨大なドラゴニック・オーラを湯水のごとく使っている内は、竜騎士らの攻撃など気にせず、近づいてきた獲物に反撃を浴びせればいいだけだ。フォーリスやシィルエールにはより注意が必要だが、双剣の魔竜の攻めに比べればそよ風のような二人のそれは、油断さえしなければ不覚を取るものではない。


 六対一で圧倒されている状況に、フォーリスらが気後れするような気配を見せると、イリアッシュはその心理的後退につけ入るかのように攻勢を強めた。


 攻撃が効かない四人の竜騎士を無視するかのように、二丁のトンファーをフォーリスとシィルエールにひたすら振るう。


 フォーリスとシィルエールはイリアッシュの攻勢に必死に耐えるが、疲労で動きと顔色が悪くなり出したフリカの王女は、突き出したレイピアをトンファーに絡み取られて、得物を失ってしまう。


 武器を奪われたシィルエールだが、退くわけにはいかない。退けば二丁のトンファーがフォーリスを襲い、彼女が倒されるのは目に見えている。素手になろうが、二対一を維持せねばならい。


「シィルエール姫、お下がりあれ」


 ロペスの竜騎士の一人が騎士道精神を発揮して、他国の王女とはいえ、姫君のピンチに進み出てるや、イリアッシュはトンファー本でフォーリスを攻めつつ、もう一本をシィルエールに振るおうとした矢先、巧みに動かして、その竜騎士の顔面にヒットさせる。


「おのれっ!」


 戦友が血まみれの顔面を押さえてのたうつ様に、激昂した三人の竜騎士が突進し、イリアッシュの放った三条のドラゴニック・オーラをマトモに食らい、気を失って倒れる。


「……あれほど、ティリー教官が前に出るなと注意されたというのに」


 あのイリアッシュと渡り合うのに、共に戦うのが武器を失ったシィルエールとだけとなったシャーウの王女は、内心で毒づきつつ、一方で冷静に自らの敗北を認めていた。


「いいですか。イリア、いえ、イリアッシュには私たち以外、絶対に正面に立ってはなりません。また、私たちにしても、単独で戦ってはなりません」


 ティリエランが噛んで含めるように、何度も口にした注意は、決してイリアッシュを過度に恐れてのものではない。


 七竜姫でイリアッシュと単独で渡り合えるのは、ウィルトニアとクラウディア、そして辛うじてナターシャだけだ。もちろん、ウィルトニアですら、どうにか戦えるというレベルで、互角というわけではない。


 そのイリアッシュと一応は二対一ではあるが、シィルエールの今の状態を思えば、フォーリスにはもう十合か二十合、しのぐのが精々という判断を下し、


「ハアアアッ!」


 振るわれたトンファーをよける以上に、大きく後ろに跳んで間合いを取ると、乗竜の能力を用いて、教室をたちまち闇で満たす。


「ハアアアッ!」


 それが合図だったか、乗竜の能力を用いたナターシャが、闇の中、電光を縦横無尽に走らせた。



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