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魔戦姫編23-6

 マルガレッタの初撃でフォーリスらはダメージを負っているし、先ほどの戦いで七竜姫らやターナリィはずっと苦しい戦いを強いられていた。その後方にいた面々も能力を用いたり、ドラゴニック・オーラを連発しているので、少なからず消耗をしている。


 ダメージの方はドラゴンの体機能を発現させればすぐに回復するが、疲労や消耗に関してはそれなりの休息を必要とする。


 だが、自分たちがゆっくりと休めば、フレオールらにも時を与えることになる。それゆえ、フォーリスらがダメージ回復した後、息を整えて体力をそれなりに戻るや、ティリエランは叔母と後輩と同僚と家臣の隊列を再編し、慎重に担当教室の扉を開け、まず室内に満ちる熱気に触れて眉をしかめる。


「この季節にしては冷え込むからな。ちと部屋を温めておいた。とりあえず、風邪の心配はいらんぞ」


 真紅の魔槍を構えるフレオールが軽口を叩くとおり、一年生の教室はただ立っているだけで汗が出てくるほど、気温が上昇していた。


 仕掛ける前に満たされていた闇と冷気の内、闇は自然のものだけとなったが、冷気は息を白くするほどに残っていた。


 現在、一年生の教室にいる竜騎士とその見習いらの内、実にその半数以上がアイス・ドラゴンと契約している。そして、戦場が寒いほど、フレイム・ドラゴンと契約しているミリアーナには不利に働くが、半数以上を占めるティリエランらにとっては、乗竜の能力を用いる際に補正が受けられる。


 春から夏に移ろうという季節に、わざわざ戦いの場に寒冷をもたらしたのも、フレオールらを消耗させると共に、少しでも有利に戦うのためのものだ。


 そうした意図を見抜き、魔法戦士は熱系の魔法で相手の小細工を無力化したが、そんな小手先のこともここまで。


 教室に踏み込んできたティリエランらに相対するように、フレオール、マルガレッタ、そして斬馬刀を手にするリナルティエが大きく間隔を取って身構えていた。


 元から魔法戦士と魔戦姫らの得物は、広い場所で戦うのにこそ向いている。それゆえ、三人は思い切り武器が振るえるようにしたが、特にリナルティエが離れている理由は言うまでもないだろう。


 その三人の後ろには、イリアッシュとベルギアットがいる。正確には、フレオールとマルガレッタを後ろから援護できる位置に竜騎士見習いがおり、そのさらに後ろ、窓際の辺りに魔竜参謀がいるという配置だ。


 後方にいる二人は後ろからの支援に向いているが、イリアッシュはその両手に愛用のトンファー二丁を握られている。


 教室の前の渡り廊下とは違う。回り込むくらいの広さは、この場にはある。今年度の生徒数に等しい人数を思えば、ドラゴンの爪牙や角で作られた武器を、イリアッシュやベルギアットに届くほどの乱戦となるだろうから、それに備えておくべきだった。


「……フレオール、状況は見てのとおりです。よく粘ったが、これまでと悟りなさい。おとなしく降るより、あなた方に選択肢はないのだ、と」


「ああ、オレたちに選択肢はない。頭がなくなれば生きていけん。手や足、耳や目がなくなっても大事だ。が、髪の毛が数本、抜けようが残ろう、そんなものに意味はない。が、無意味だから何もしないでは、本当に何も残らん。何より、降る条件は告げたはずだ」


「シャーウの謝罪、ですか。その求めに応じられないからこそ、このような事態となったと心得なさい」


「では、応じる気になるまで抗うより他ないな」


「仕方ありません。応じる気になるよう、手荒なマネをしましょう。冷たい思いをするでしょうが、凍傷になりたくなければ、早々に降りなさい」


 降伏勧告をはねのけられたティリエランは、やむ無しといった表情で、


「この者たちに氷の縄を与えよ!」


「ハアアアッ!!!!!!!!!!!!」


 その号令一下、二人の王族を除く、アイス・ドラゴンと契約する十二人が、一斉に能力を用い、教室内に強烈なブリザードが発生した先から、空間の歪みに吸い込まれていく。


 当然、仕掛けた側は一様に驚くが、


「ハアアアッ!」


 仕掛けられた側、イリアッシュはドラゴニック・オーラを放ち、フレオール、マルガレッタ、リナルティエは前へと進み出る。


「我は求めん! 我が痛みを映す鏡!『マジカル・リフレクト』!」


 予想外の事態に大半の者が棒立ちとなる中、驚きつつもティリエランはフレオールを、ナターシャはマルガレッタを、ミリアーナはリナルティエを迎え撃ち、フォーリスがイリアッシュへと回り込むように向かい、その放ったドラゴニック・オーラを、シィルエールが魔法ではね返す。


 そっくり返された自身の攻撃をイリアッシュがかわしたところに、フォーリスは突っ込むようなマネはしない。単独で仕掛ければ、瞬殺されかねないからだ。


 迎え撃ったナターシャ、ティリエラン、ミリアーナも、一対一では勝ち目などないから、まずは守りと回避に徹する。


「何をしているのですか! 早くティリーらを援護なさい! そこの六人は、魔竜参謀の空間干渉を封じなさい!」


 自分のことは棚に上げたターナリィの指示が飛び、ようやく七竜姫らに続いて他の者たちも動き出す。


 ベルギアットに対抗するように命じられたのは六人の生徒で、彼らは自らを介して乗竜らの能力で空間封鎖を実施する。


 ライディアン竜騎士学園の外では、六頭のドラゴンが空間封鎖を行っているので、ベルギアットは学園の外への空間転移ができない。が、学園の内の空間ならば、魔竜参謀の能力で干渉できるので、ドラゴニック・オーラの攻撃を防いだり、吹雪を異空間へと送って無とした。 考えるまでもなく、ベルギアットの能力はとても放置できるものではない。空間を操作できるということは、フレオールらの位置を自在に変えられる可能性もあるのだ。戦闘中、もし、そんなマネをされたら、瞬間的に四対一を形成されていくことになる。


 ともあれ、魔竜参謀が空間をどれだけ操れるかわからない以上、真っ先にこれを何とかせねばならず、そのために六人どころか、それで封じられなければ、もっと人数を割かねばならないだろう。


 六人が一匹にかかりきりなった以上、十八人で四人を打ち負かさねばならない。ドガルダン伯を初めとするロペスの竜騎士ら、そしてターナリィは次々と七竜姫らの援護に向かうが、その人数には偏りが見られた。


 ナターシャ、ミリアーナ、シィルエールと合流したフォーリスの元には竜騎士が四人ずつ助勢に入ったが、ティリエランの元にはターナリィやドガルダン伯を含む六人もが駆けつけた。


「つまり、オレが一番、なめられているわけか」


 七対一の状況となり、一転して苦境に立たされたフレオールが、内心で苦笑する。


 敵の弱い部分に戦力を集中し、そこから突き崩す。戦法として間違っていないし、魔法戦士を最弱とする着眼も正しい。


 ティリエランとの一対一なら、フレオールはまず負けることはないだろう。が、七竜姫の突き出す打棒に加え、ターナリィ、ドガルダン伯、四人の竜騎士の攻撃も集中すると、フレオールも防戦一方となるが、一方で七人がかりでの攻めをしのがれ、魔法戦士の守りを突き崩すことができないでもいる。


 さすがにティリエランら七人に囲まれ、その攻撃をすべてかわすのは不可能だが、多少の攻撃は受けても構わないほど、魔法戦士のまとう双革甲は優れていた。


 ドラゴンの牙などを素材にした武器を、ドラゴニック・オーラで強化した力で振るえば、双革甲の守りを突き破るのも可能だが、それはマトモに当てた場合だ。


 ドガルダン伯の振るう戦斧に対して、フレオールは無理にかわそうとせず、わずかな動作で刃筋がズレるようにすることで、威力と殺傷力の落ちた一撃は、双革甲で受け止められてしまう。


 ティリエランやターナリィの突きに対しても、前に出て鎧に当てさせ、打棒が伸びきる前、本来の威力が発揮しない内に受けたりし、また他の四人の竜騎士の攻撃もそのような感じでうまくしのいでいく。


 加えて、教室に固定された机やイスなど、その手の障害物も、フレオールは誰よりもうまく活用した。


 教室はそこそこ広いといっても、その大部分は机やイスに占められている。攻撃を仕掛ける際、または立ち回りの際にそれら障害物が邪魔になり、タイミングや動作に遅れが出る方が普通なのだ。


 そうしてティリエランら七人がフレオール一人を攻めきれずにいる間に、他の局面が変化していった。



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