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魔戦姫編23-4

 ドラゴン族との盟約は伊達ではなく、ライディアン竜騎士学園の建物にはその術が用いられ、かなり頑丈な造りになっている。


 また、頑丈なだけではなく、霊的な保護も施されたため、アース・ドラゴンの能力による干渉すらも弾いてしまう。ゆえに、補修の必要がそう生じない反面、改築などが困難でまずできないようになってしまっている。


 もっとも、ライディアン竜騎士学園を壊すのが絶対不可能なほど、ドラゴン族が本気になっていないので、マルガレッタの投じた一撃は校舎の壁や床に小さな亀裂をいくつか走らせた。


 魔戦姫はその肉体のみならず、手にする武器もベダイルの作品である。同じように見えて、黒林兵の装備とは違うのだ。


 彼女の黒塗りの長槍は、フレオールのものに比べ、多勢を相手取る際の機能も追加されている。


 敵の集団に投げ放てば、その穂先から大量の魔力が放たれ、数十人くらいなら打ち倒せ、その威力たるや、竜騎士学園の壁にこそ被害が生じたが、倒れていたフォーリスやミリアーナらは次々と全員が立ち上がった。


 言うまでもなく、彼女らはドラゴニック・オーラで身を守ったからだ。並の騎士や兵士の数十人を倒す威力では、十人強の竜騎士やその見習いを倒しきるには不充分であった。


「槍よ! 来い!」


 が、一撃で倒せなかっただけで、立ち上がったフォーリスらは少なからずダメージを受けており、魔槍を手元に戻したマルガレッタは、二撃目を加えるべく歩み出す。


 マルガレッタと並ぶように、大鎧、全身を完全に防具で覆ったリナルティエも進み出て、ベルギアットも少し間を置いてそれに続く。


 それに対して、フォーリスとミリアーナ、さらに姪と同じく打棒を構えるターナリィが並んで迎え撃たんとする。


 ライディアン竜騎士学園の構造的にどうしようもないので、三人が先頭に立ち、残りが後方から支援する、フレオールらのそれと同じような形で、フォーリスらは魔戦姫二体と戦ったが、ナターシャらの方と違って、形勢はたちまち劣勢へと追い込まれた。


 マルガレッタにはフォーリスが正面に立ち、ターナリィがサポートするように相対したが、ほんの数合で防戦一方となってしまう。


 リナルティエを相手取るミリアーナは、最初から回避に専念することで、どうにか一対一の状況を維持している。


 狭い廊下ゆえ、マルガレッタの持つ長槍は取り回しが悪く、リナルティエに至っては斬馬刀などとても振るえるものではないから、素手でミリアーナにつかみかかっている。


 体格的にはリナルティエとミリアーナに大差はないが、魔戦姫一号体の力はドラゴニック・オーラで強化したそれで対抗できるものではなく、つかまれたら終わりなので、ゼラントの王女は機敏かつ必死に逃げ回っている。


 フォーリスもターナリィも長槍の弱点が間合いを詰めることとわかっていても、マルガレッタの素早い連続突きの前にひたすら防ぎ、かわすしかない状態にある。


 当然、王女や王妹の後ろにひかえる、ドガルダン伯、教官、生徒らはドラゴニック・オーラを放ち、援護するものの、ベダイル作の防具はそれらを全て弾くので、魔戦姫らはほぼ目の前の相手に集中できた。


「……ティリー教官らは何をしているのですの?」


 マルガレッタの攻撃を必死にかわすというより、もう逃げ回っているフォーリスが内心で毒づくのも無理はないだろう。


 言うまでもなく、挟撃のために二手に分かれた七竜姫らの戦力には偏りが見られる。そもそも、ウィルトニアとクラウディアがいない今、ナターシャとティリエランが固まっているだけで、均等な配置とならないのだ。


 シィルエールがフォーリス、ミリアーナと肩を並べていれば、魔戦姫に対抗できたかも知れないが、彼女たちの意図が戦力を偏らせることで、ナターシャらの側から敵を切り崩すことにある以上、一方が不充分な戦力で粘らねばならいのは仕方がないというもの。


 だから、最低限、フォーリスらは切り崩されないようにせねばならないのだが、それすら難しくなりつつある。


 ギャリンッ!


 ちょこまかと逃げ回るミリアーナに業を煮やしたか、リナルティエの右手が左手首をつかむと、留め具を引きちぎって強引に左の手甲を外し、それをゼラントの王女に投げつける。


 至近距離から投げつけられたミリアーナだが、身体をひねって軽くかわし、


「ぎゃっ」


 その後ろにいた竜騎士見習いは、援護することばかりに気を取られ、手甲が直撃してしまう。


 そして、反射的に手甲を胸に食らい、衝撃でアバラにヒビが入って悶絶する男子生徒に、意識を向けてしまった瞬間、


「なっ! しま……」


「くっ!」

 リナルティエは左手を伸ばして、ミリアーナの鎧をつかみ、マルガレッタは甘くなった防御を突破し、フォーリスの胸元に魔槍を突きつける。


 当然、ミリアーナはドラゴニック・オーラをフル稼働して逃れようとするも、魔戦姫一号体の左手一本分の力に及ばず、フォーリスとて無論、これではヘタに動けない。


 まさしく、勝負ありとなったが、


「……リナ、マル、教室に退くわよ! レオ君らと合流しないとマズイ!」


 魔竜参謀は、魔戦姫らに敗走を促した。


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