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魔戦姫編23-3

「くっ……」


 二対三ではない。


 三人の七竜姫の背後には、九人のロペスの竜騎士がいる。


 彼らは場所が場所がだけに、王女らと並んで戦うことはできないが、背後からドラゴニック・オーラを放って援護することはでき、実際に氷による敵の分断を成した後は、竜騎士らは王女の援護に徹している。


 変則的ながら二対十二という状況だが、しかし劣勢なのはナターシャ、シィルエール、ティリエランの方だった。


 フレオールの真紅の魔槍は、使い手の強大な魔力を吸い上げ、その威力はかなりのものである。また、イリアッシュも膨大なドラゴニック・オーラを、二本のトンファーに込めて振るっている。


 ゆえに、イリアッシュに二人がかりで挑んでいるナターシャとシィルエールは、得物にかなりのドラゴニック・オーラを注がねばマトモに打ち合うこともままならない。それは、強力な魔槍と相対しているティリエランも同様である。


 無論、三人の王女には九人の竜騎士の援護があるが、激しく立ち回りしているところにヘタに手を出そうものなら、美しき王女たちを傷つけることになりかねない。そのため、ロペスの竜騎士らは慎重にタイミングは見極めてからでないと、ドラゴニック・オーラが放てずにいる。


 もっとも、時折、放たれる竜騎士らの援護がなければ、七竜姫らは早々に敗北していただろう。たった二人で、どうにかイリアッシュと互角に渡り合おうとするならば、ウィルトニアとクラウディアでないと無理な話なのだ。加えて、フレオールと同等に戦える七竜姫となれば、やはりウィルトニアだけとなる。


 フレオールもイリアッシュも、刃を交える相手の背後からの援護に気を配りながらであるので、三人の王女に全力を傾けるわけにはいかないが、それでもナターシャらは少しずつ追い込んでいた。


「いやあ、ウィルがいないのが幸いしましたね」


 ナターシャの繰り出す矛と、シィルエールの突き出すレイピアを、両手のトンファーで弾きながら、内心でそんな感想をつぶやけるほど、イリアッシュには余裕があった。


 ナターシャらの戦い方が悪いわけではない。が、ウィルトニアの戦い方、徹底して周囲や状況を利用するそれに比べれば、何ら脅威を感じない。


 このような局面、ワイズの第二王女はまるで背中に目があるのではないかと思わせるほど、後方からの援護射撃をギリギリまで、一歩、間違えば自分に当たるくらいまで利用するから、味方だけではなく、敵からしてもこの上なく行動を予測し難い。


 だが、逆に言えば、ウィルトニアがいない以上、マトモにやり合うだけでいい局面でもあるのだ。


 イリアッシュはドラゴニック・オーラ、フレオールは魔力が、先天的に他者よりはるかに恵まれており、それが両者の武器を強力なものとしている。


 それとマトモに打ち合えば消耗を強いられると判断したゆえ、ウィルトニアは決闘の際、自らの得物を捨てる選択をした。


 そして、二十余合、マトモに打ち合っていた双方の均衡は完全に崩れていた。


 イリアッシュとフレオールはわずかに息が乱れている程度だが、ティリエラン、ナターシャ、シィルエールは肩を激しく上下させるほど呼吸が荒くなっており、動きも鈍り始めている。


 特に、小柄で元から体力的に劣るシィルエールの疲労が顕著で、可愛い顔をしかめながらレイピアを重そうに振るっている。


 戦う場所がこれほど狭くなければ、動きの幅を広げてマトモな打ち合いも避けられただろうが、それができない以上、相手の膨大なドラゴニック・オーラや魔力と真正面からやり合う他ない。


「そろそろ、退いてくれませんかね」


 矛とレイピアに叩きつけるように振るう、二本のトンファーにかなりの量のドラゴニック・オーラを注ぎ込みつつ、飛んできた二発のドラゴニック・オーラを軽くドラゴニック・オーラで打ち消し、内心でそうつぶやくイリアッシュは、弱り出した敵に手加減を加えつつあった。


 七竜姫とはいえ、フォーリス、シィルエール、ミリアーナあたりとなると、彼女からすれば物の数ではない。だから、疲労の色が濃くなり出したシィルエールのところから敵を切り崩すのも不可能ではないが、それをすると大局的な敗北を招きかねない。


 いかに優勢だろうと、数は相手の方が多いのだ。シィルエールを倒しにかかれば、後方の竜騎士らがなりふり構わず前に出ようとするだろう。


 無論、廊下の狭さを利用すれば、多人数にも対処できる。が、相手が死に物狂いで向かって来た場合、フレオールやイリアッシュにも冷静に対処する余裕がなくなる。


 最終的に和解交渉による決着を望むフレオールらからすれば、むやみやたらに倒しても傷つけるわけにもいかない。相手に血を流させれば、こちらも血を流さなくては、向こうもおさまりがつかなくなりかねないからだ。


 だから、敵を敗北ではなく敗走に追い込もうとするイリアッシュ、フレオールの攻めが、苛烈さを欠き、手ぬるいものであったがゆえだろうか、


「ハアアアッ!」


 甘い戦い方の隙を突くかのように、発現したエア・ドラゴンの能力が戦局を一転させた。


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