魔戦姫編23-2
「我は求めん! 魔力の灯火!『マジカル・ライト』!」
再度の襲来に、まずフレオールが魔法の明かりを生み出し、ほぼ同時にベルギアットが魔法のランプを起動させる。
フレオールの術が天井から、床に置かれたランプと共に、辺りを青白い光で照らしたのは、竜騎士とその見習い、魔戦姫や魔竜参謀と違い、魔法戦士は暗いと視界が効かないからだ。
最初の突入と異なり、窓の外は月や星のわずかな光があるのみ。無論、暗視の術やその手のマジック・アイテムを用いる手もあるが、暗闇の中で視線を通すだけなのと、その場を照らしているのでは、動き易さがまるで違う。
イリアッシュらやリナルティエらとて、暗くてもいくらか見えるという程度で、闇をまったく苦にしないわけではない。ティリエランの側がダーク・ドラゴンらに能力を止めさせたのも、視界が効かない方が、多人数の側に不利に働くからだ。
「……おや、来ませんね。持久戦のつもりでしょうか?」
イリアッシュが小首を傾げるとおり、ナターシャらは渡り廊下を突っ込んで来ず、距離を置いて足を止めている。
いつでも突入できる状態で相対されれば、フレオールらの側はずっと睨み合っていなければならないわけではなく、フレオールとイリアッシュの両名は一年生の教室から離れ、ナターシャらの方に向かう。
向こうが距離を詰めなければ、こちらから遠距離戦の可能な地点まで移動すればいい。
「ハアアアッ!!!」
が、フレオールらが動き出すと同時に、三人のロペスの竜騎士が、廊下をふさぐほどの氷の塊を生み出す。
「あくまで、持久戦……」
「ハアアアッ!」
足を止めたイリアッシュのつぶやきが終わらぬ内に、風の唸る音と共に氷塊が、文字どおり滑るようにして、フレオールらへと向かって動き出す。
シィルエールが乗竜の能力を使ったのは考えるまでもないことなので、
「ハアアアッ!」
「我は求めん! 一陣の猛き風!『マジカル・ブロー』!」
イリアッシュの放ったドラゴニック・オーラが氷の塊を砕き、フレオールの起こした強風が砕け散った氷の破片を吹き散らす。
氷の塊を砕いただけでは、その破片がシィルエールの放つ風に乗り、二人を打つだろう。ゆえに、フレオールは風の魔法を使ったのだ。
強風に挟まれた氷片はさらに細かく砕け、左右に、壁際へと積もっていく。
フレオールは双革甲を、イリアッシュは竜鱗の鎧をまとっているので、氷の破片だけなら問題にはならないが、氷片を浴びているところにナターシャらが仕掛けてきてはたまらない。
だから、イリアッシュは両手でトンファーを抜きながら一気に駆け、フレオールもそれに続き、接近戦に持ち込もうとする。
対して、ナターシャは矛を構え、シィルエールはレイピアを抜き、さらに打棒を手にするティリエランも前に出て、三人の王女が前衛に立つ。
廊下は二、三人が並んで戦える幅しかなく、
「ハアアアッ!!!」
三人のロペスの竜騎士が再び乗竜の能力を用い、巨大な氷の塊を出現させたのは、フレオールとイリアッシュの背後であった。
「味なマネを」
廊下をふさぐ氷によって、フレオールらと分断されたマルガレッタだが、相手の小細工を鼻で笑うだけの余裕があった。
いかに分厚い氷でも、魔戦姫の力ならば砕けぬことはない。フレオールらとの分断も一時的なものとはならなかった。
「あっ、こちらからも来ましたよ」
むしろ、予想していたかのように、元より人でない存在が落ち着いた声で、反対側からの敵の襲来を人でなくなった二人に告げる。
ベルギアットの告げたとおり、魔戦姫二体が視線を転じると、フォーリスとミリアーナを先頭に、十人ほどの別動隊の姿があった。
「これまた、味なマネと言いたいところだが、薄味すぎるな」
リナルティエと共にベルギアットの前に出るマルガレッタは、挟撃されつつある状況、相手の浅知恵に笑みすら浮かべた。
フレオールらの基本姿勢は、スラックスが交渉を有利にできるだけの戦果を挙げる間、現状を維持することだ。学園の外にいる人とドラゴンの数を思えば、相手を破れかぶれにしてもマズければ、七竜姫らの態度を硬化させるだけの戦果を、ここで挙げてもマズイのだ。
だから、前回、撤退する敵に追い討ちをかけなかった。
だが、出来る限り穏便に学園を占拠するというのは、あくまで可能ならばという話だ。敵が策を巡らし、追い詰めようとして来るなら、手痛い反撃をするしかなく、
「槍よ! 進軍を突き崩せ!」
マルガレッタは手にする黒塗りの長槍を、フォーリスらへと投じる。
そして、魔戦姫の手から放たれた魔槍から膨大な魔力がほとばしり、
「ハアアアッ!」
二人の七竜姫を含む十人強が放つドラゴニック・オーラもむなしく、無様に床にはわせた。




