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落命編29

 祖国アーク・ルーンに二度目の反旗をひるがえしたザラスは、もう一介の反乱軍の頭目ではない。


 ヅガート率いるアーク・ルーン軍を撃破し、旧ソナン領をも支配下に置いたザラスは、さらに東の島々、南の地も従属させ、広大な土地の上に君臨すると、帝国を打ち建て、自らザラス一世として即位した。


 皇帝となったザラスは改めて祖国アーク・ルーンに宣戦を布告、六十万もの大軍を編成し、自らが統率して西へと進軍する。


 これに対して、ベーヅェレとゴドーが旧スティス領に六十万の軍勢を集結させ、これを迎え討つ準備に着手している。


 兵数は同じ。遠路を越えてやって来る敵を迎撃準備を整えての戦いだが、双方が激突した場合、軍配はザラスの方に挙がるだろう。


 アーク・ルーンの軍列の中には魔道兵器が多数とあるが、ザラスの軍勢の中にも、投降した魔術師や捕獲した魔道兵器が少なからずある。だが、何よりも西へと進軍する六十万の大軍には連戦連勝の勢いがあり、その士気の高さはアーク・ルーン軍を大いに上回っている。


 ソナン領での大敗以降、アーク・ルーン軍は明らかに精彩を欠いていた。ベーヅェレもゴドーも無能な将ではない。だが、ヅガートに比べると、戦場における駆け引きと発送は、どうしても見劣りは否めない。


 そのヅガートは今、西へと向かう六十万の軍勢の中にいる。


 ザラスに敗れた後、殺到する敵兵に捕らわれ、ザラスの前に引き立てられると、


「ヅガート殿。私の覇道に残る命を費やしてもらいたい」


 率直に投降を求め、ヅガートが二つ返事でオッケーしたからだ。


 どれだけ長くアーク・ルーンの軍籍にあろうが、その根幹たる傭兵としての気質は未だ健在で、ヅガートに忠義だの節義だのの持ち合わせはない。もらうものさえもらえば、どの旗の下だろうが戦う。


 ただ、一方でどれだけ金を積まれようが、裏切りや内通などという面倒な稼ぎ方をしないのもヅガートだ。ヅガートをアーク・ルーンから引き抜くには、金額や待遇ではなく、ザラスのように勝ち、捕らえた上で雇用を持ちかけるしかない。


 今のヅガートは自力で立つこともできぬ身だ。兵の指揮を採れる状態ではない。しかし、その破天荒な頭脳も性格も衰えておらず、軍事顧問のような役割でザラスの西進に大いに貢献していたが、それもこれまでの話となるだろう。


 輿で運ばれるしかないヅガートだが、相変わらず酒を飲み続けている。そのような状態にも関わらず、気力も命数もまだ尽きそうにない。


 気力も命数も尽きようとしているのは、ザラスの方だ。


 六十万の大軍を親率し、西へと向かう最中、にわかに血を吐いて倒れ、わずか数日で寝たきりのヅガートよりも顔色を悪くし、意識も混濁しているありさまだ。


 総指揮官が、何より主君がこのような状態なのだ。六十万の軍勢は進軍を停止し、後退すべきかどうかに側近たちが頭を悩ませている。


 亡父と同じく、若くして、そして志を果たせず朽ちようとしているザラスの軍勢は、六十万を数えようがもはや烏合の衆。今、ベーヅェレやゴドーが全面攻勢をかければ、容易く撃破できるだ

ろう。


 いや、兵を動かすまでもない。ザラスの手腕あればこそ、雑多な勢力が一つにまとまり、一個の軍団として機能していたのだ。そのザラスが倒れた途端、その配下はザラスがアーク・ルーンからもぎ取ったものを我が物にせんと味方を味方と見なさなくなった。


 結局、ザラスが意識を失ったまま崩御した翌日には、その壮途を受け継ぐどころか、後継者争い、権力争いが起こり、六十万の軍勢は味方同士で相争い、自滅して四散した。


 一際、豪奢な天幕で息を引き取ったザラスの遺骸は家臣や部下に捨て置かれ、皮肉にもアーク・ルーン軍の手で埋葬された。


 ただ、アーク・ルーン軍が発見したのは、ザラスの遺骸のみ。ヅガートの姿も死体も誰も見ることはなく、これ以降、完全に消息がわからなくなってしまう。



アーシェア……亡国ワイズの王女。アーク・ルーンの将軍として生涯を終える。


フォーリス……亡国シャーウの王女。フレオールに看取られ、先立つ。


ティリエラン……亡国ロペスの王女。竜騎士学院の再建に尽力し、過労のために亡くなる。


イリアッシュ……竜騎士学院の再建に協力し終えてから亡くなる。


モニカ……ウィルトニアの無事を祈りながら最後を迎える。


スラックス……亡国ミベルティンの宦官。アーク・ルーンの元帥にまで昇りつめて生涯を終える。


シダンス……亡国ミベルティンの宦官。長くスラックスの副官を務めて生涯を終える。


インブリス……アーク・ルーンの元将軍。退役後もうまく立ち回り、一族の安定に成功して逝く。


フィアナート……元暗殺者。アーク・ルーンの将軍として生涯を終える。


ザゴン……元凶賊。最後まで軍務を隠れ蓑にして快楽にふける。


ヤギル……幼女の尿の飲みすぎが原因で死亡。


マフキン……アーク・ルーンの代国官として、最後まで父祖の地タスタルの復興と安定に務める。


ベフナム……アーク・ルーンの司法大臣。最後まで法による人の幸せを追求する。


ファリファース……アーク・ルーンの吏部大臣。最後まで人生を謳歌する。


ヴァンフォール……アーク・ルーンの財務大臣。次の大宰相と目されるも、ネドイルより先に逝く。


フレオール……大宰相ネドイルの異母弟の一人。己の本心に従って戦い、ヅガートの策によって敗死する。


ミリアーナ……亡国ゼラントの王女。フレオールと共に戦い、共に果てる。


ムーヴィル……ネドイルの知遇に応え、アーク・ルーンのために戦って天寿を迎える。


イライセン……アーク・ルーンの軍務大臣。天寿を迎えるまで、ワイズの地の安寧を計り続けた。


ゾランガ……アーク・ルーンの内務大臣。復讐より覚め、民の安寧を案じた一生を終える。


クロック……ヅガートの副官として、振り回されながらも、最期まで良き補佐役を全うする。


ヅガート……元傭兵。ザラスに降伏し、その死後、行方は全くわからなくなる。


ザラス……トイラックの息子。アーク・ルーンに反逆し、一国を打ち建てるも、亡父のように志半ばで命数が尽きる。



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