落命編24
反乱を起こしたフレオールが、ゼラント領にあるケンタル城を拠点とした理由は、城砦としてはそう大きくなくとも、その地形が実に攻め難い点にあるからだ。
小山の中に建てられたケンタル城は、地形的に一度に多くの兵で攻められないだけではない。魔法帝国アーク・ルーンの二大主力魔道兵器、魔道戦艦と魔甲獣の運用もカンタンではない。この辺り、あっさりと鎮圧されてきた凡百な反乱と異なる点だろう。
そのケンタル城に立て籠る兵は約五百。ザラスのように罪人に武器を持たせた素人集団ではなく、フレオール個人の人脈や人望で集めた正規兵らだ。
そのフレオールの鎮圧に五千の兵で以て当たっているのは、ムーヴィル。かつては故アーシェアの元で共に戦った仲だが、そのような私情が邪魔して、未だフレオールとミリアーナの首が胴体につながっているわけではない。十倍の兵を有しながら鎮圧できずにいるのは、ひとえにケンタル城周辺の地形のせいである。
力攻めではどれだけ犠牲が出るかわからない。兵糧攻めをしようにも、フレオールに抜かりはなく、物資の備蓄は充分、城内に井戸もある。
試しに数度、攻めて見たが、正規兵が堅城を守っているのだ。小揺るぎもせず、ムーヴィルは今、兵を引き、兵糧攻めに切り換えたが、当然、それでは落城にまでかなりの日数が必要となってしまう。
五百の寡兵とはいえ、堅城に立て籠り、指揮を採るのはフレオールなのだ。ムーヴィルとて、一朝一夕で落とせるものではないのは理解しているが、今、アーク・ルーンの情勢は大きく揺らごうとしている。
世界帝国アーク・ルーンにそんな大きな揺らぎをもたらしている人物の名は、ザラス。亡父に劣らぬ才を持つ一方、亡父と異なる生き方を選んだ若者こそ、アーク・ルーンは総力を挙げて叩くべき相手であり、ムーヴィルもヅガートの指揮下に入るべきなのだ。
だが、ザラスを討つのに総力を傾けすぎれば、フレオールがいかな蠢動を見せるかわからない。ザラスに比べれば何ほどもないが、それでもフレオールの乱は放置して良いものではない。
理想はフレオールを早々に討ち、ザラスに総力を傾け、短期決戦で一挙にカタを着けることだ。そのために、ムーヴィルは竜騎士の動員を要請したものだ。
竜騎士なら上空からの攻撃、威圧が可能だ。空陸両面から攻めれば、ケンタル城を力ずく落とせるとムーヴィルは考えたのだが、しかし、現在、その陣中に竜騎士の姿はない。
軍務大臣たるイライセンに脚下されたからだ。
イライセンが故郷たるワイズの地を大事に想っているのは周知のことではあるが、せっかくの竜騎士、ワイズの空を駆っているだけではもったいないというもの。何より、戦況が戦況である。ムーヴィルは再三再四、竜騎士の動員を要請し、それをイライセンが都度、脚下している内に、ベネディア、クラングナで反乱が生じ、その鎮圧に竜騎士の部隊が飛び立った。
ベネディア、クラングナはワイズと隣接する地だ。この反乱を放置すれば、ワイズの地がどんな悪影響を受けるかわからず、イライセンの対応と動員は早かった。
幸い、竜騎士が向かった先の反乱は小さなもので、即座に鎮圧な成されたが、反乱が生じたのはその二ヵ所のみではない。
元々、小さな反乱の絶えないアーク・ルーンだったが、明らかにザラスの反乱の影響を受け、決起する者が目立ち出したが、その鎮圧にヅガートやムーヴィルは動けない。
ヅガートは準備万端に待ち構えるザラスを前に渡河を強行できるものではないし、ムーヴィルも堅く守るフレオールを力ずくで落とす計略がない以上、各地の小反乱の動向や拡大がどうであろうと、目の前の反乱と睨み合うしかなかった。
が、各地の小反乱を放置し、拡大していけば、それはそれでアーク・ルーンの統治全体に悪影響を受ける。
だからこそ、ムーヴィルはかなり強い調子でイライセンに竜騎士の指揮権を寄越すように訴えている間に、
「よし。まずはフレオールの首を取るぞ」
ザラスが降伏したため、ヅガートとクロックがムーヴィルの軍勢と合流した。
それはフレオールの命運が定まった事を意味した。




