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魔戦姫編13-2

「結局のところ、私たちはいつ、ベダイル様の元に帰れるのですか?」


 純然たる部外者であるマルガレッタは、ライディアン竜騎士学園の食堂で三度目の昼食を平らげると、隣で食後のお茶をすするフレオールに、やや焦りと険を含んだ声で問いかけた。


 午前中に主の異母弟と最強の竜騎士見習いに勝利した魔戦姫ふたりは、一年生らと共に食堂に移動し、運動によって消費したカロリーの摂取に努めた。


 フレオールの周りはこの三日、イリアッシュ、ミリアーナ、シィルエールに加え、リナルティエとマルガレッタも同席し、いつにも増して華やぐと共に、その周りはギスギスしていた。


 毎度のことだが、ミリアーナとシィルエールの周りには、ゼラント、フリカの生徒らが陣取っている。ミリアーナはいつも通りだが、シィルエールは魔戦姫らに対してやや緊張した表情を見せており、他の生徒らの反応も、ゼラントの王女よりフリカの王女のそれに近い。


 さすがに、フレオールやイリアッシュに身構える生徒はもういないが、リナルティエやマルガレッタにはそうはいかない。特に、魔戦姫ふたりはアーク・ルーンとの交渉しだいで、実力行使に出る可能性があるのだ。


「そんなもの、時間はまだまだかかるぞ。報告を受けたばかりのロペス王が、他の王らと連絡を取り合い、オマエらをダシにした皮算用を話し合う。それだけでも、何日かかるか知れたもんじゃない」


「ふざけないで下さい。そんなに待っていられるわけありません」


「タチの悪いことに、それが七竜連合の実態だからなあ」


 マルガレッタの抗議に答えるとおり、七竜連合は各国の王たちが方針を話し合って決めるため、その何事も決定が遅くなってしまうのだ。


 そもそも、魔戦姫ふたりがライディアン竜騎士学園で妥協的に拘束してあるのを知るのは、今の時点ではロペス王だけなので、七竜連合としての話し合いすら始まっていない状態なのだ。


「その点に関してはすまんと思う。まさか、空間封鎖をかけられるとは予想していなかった」


「まあ、ボクたちもやられっ放しってわけにはいかないからね」

 フレオールのセリフに、ミリアーナが意味ありげな表情でシィルエールを見る。

 

 現在のライディアン竜騎士学園は竜騎士らというより、ドラゴン数匹が空間を封鎖しており、ベルギアットの空間転移が使えない状態にある。


 魔戦姫らとは何年ものつき合いなので、彼女たちが数日でぶつくさ言い出すのは、魔法戦士も予測していた。フレオールとしては、学園側に妥協したように見せかけ、その実、隙を見て、魔竜参謀の能力で、二人をワイズ領の西の国境、つまりはアーク・ルーン軍の居留地まで逃がすことも視野に入れていたが、それはティリエランの指示で阻止されてしまった。


 フレオールがウィルトニアとの決闘に敗れた際、ベルギアットは己の能力を敵にさらしている。当然、その対応策は魔法戦士の療養中に練られ、


「ドラゴンに、亜空間、干渉して、封鎖の結界、張ればいい。たぶん、六頭で、足りる。これで『マジカル・テレポート』も、防げる」


 シィルエールの意見の有効性が、現在、学園の周りに配置された六頭のドラゴンによって実証されている。


「では、力ずくで押し通るまでだ」


「それも無理だろ、さすがに」


 マルガレッタの強行策を、フレオールはやや呆れ気味に、言下に否定し、


「そうですよ、マル。ドラゴンが百頭以上、勝ち目がないとかのレベルじゃありません。私たちの身体は、私たち自身が勝手にドラゴンのエサにしていいものではないのですから」


 リナルティエもそれに強く同意する。


 ライディアン竜騎士学園の周りには三千のロペス軍が配置されているが、それだけなら薙ぎ払って帰路につける。


 問題は学園の外ではなく内、学園長と教官と生徒らが皆、一頭ずつドラゴンを従えている点だ。


 フレオールは五頭のドラゴンを倒したが、その二十倍以上となると、一方的にやられるだけだ。しかも、そこにティリエランら七竜姫が加わるのだから、魔戦姫らがいたところで焼け石に水にしかならない。


 単純に安全面だけなら、ライディアン竜騎士学園の中にいた方がいいのだ。学園の外に出て、広い場所で三千の兵と百頭以上のドラゴンと戦えば、万に一つの勝ち目もないが、屋内なら数がいくら多くても一度に相手にする数は限られるし、何よりドラゴンらがその巨大さゆえに手を出せないのが大きい。


「リナ、元はと言えば、キサマの失言が原因なのだが」


「それを言われると面目ありません」


 すまなさそうな魔戦姫に対して、もう一方の魔戦姫は疑るような表情となる。


 魔改造の手術を受けて魔戦姫になるまで、病弱だったリナルティエはずっと病床で過していた上、名門貴族の生まれなので、だから世間知らずということはない。


 むしろ、直情径行にあるマルガレッタより視野が広くて思慮も深いくらいだ。


 ゆえに、関所での間抜けな発言は、どう考えてもおかしく、マルガレッタは同じ魔戦姫に疑惑を感じている。


 その疑惑が晴れるまで、マルガレッタも強行突破に出れない。


 何も無理に交戦しなくても、近くにいるお姫様を人質に取るという手立てもあるが、リナルティエが裏で何やら画策しているのならば、強行突破に出ても足を引っ張られる可能性もあるし、


「まあ、トイ兄なりがうまく交渉をまとめて、遠からず、大手を振って帰れるようにしてくれるだろうから、それまで待つしかないな」


 フレオールまで積極的に動かぬよう言われて、マルガレッタの表情に浮かぶ疑惑の色はますます濃くなる。


「しかし、リナ、私たちがトイラック殿あたりのおかげで助かるということは、ベダイル様に迷惑をかけるということだ」


 フレオールとベダイルの父親はアーク・ルーンの将軍であるので、大宰相たる異母兄の部下であるので、ネドイルは父親を顎で使える立場にある。


 もっとも、父親だけに留まらず、皇帝の全権代理人であるネドイルは、アーク・ルーン帝国の公的な地位にある者すべてに命令を下すことはできるが、逆に言えば大宰相であっても官職にない者に対しては、法的な命令権はないのだ。


 フレオールとベダイルはアーク・ルーンの貴族ではあるが、無位無官の身であるので、ネドイルの権限で命令を受ける立場にない。だから、大宰相は日頃から有能な異母弟らの世話を焼き、異母兄として頼み事をし易い環境を整えのるのに努めている。


 ネドイルからの頼み事は、ベダイルにとって研究費用を稼ぐ機会でもあるが、自分の研究時間を削るものでもあるので、祖国からの魔道兵器に関する依頼は必要なだけしか基本的に受けない。


 が、ベダイルの都合に合わせて軍事行動を決めていれば、当然、支障が出ないわけがないので、ネドイルは常にお兄ちゃんらしき行動を心がけ、アーク・ルーン軍の必要な時に魔道兵器を得られるよう、貸しをいくつかストックするようにしている。


 部下の功績は上司の功績。トイラックに助けられるということは、ネドイルのお願いを断れず、ベダイルの研究時間が減ることを意味するのだが、


「どうせ、無駄にしかならんことに時間を使ってんだ。むしろ、ネドイルの大兄のおかげで、ベダイルのクソが、わずかながら有意義な生き方をできているんだ」


 すぐ上の異母兄を嫌悪することこの上ないフレオールは、ベダイルの不幸を大いに喜ぶ。


「フレオール様、あなたの言う無駄なことのおかげで、私は人でなくなりましたが、元気に動き回れる自由を得られました。いえ、人質だった私を助命してくれた上、実験体に向かない病持ちに、わざわざ多くの手間と時間を割いてくれなければ、私の一生は小さな病室と処刑場しか知らず、とっくに終わっていたのですが?」


「いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだ。オレもリナルティエが助かって、あの時はマジでホッとしたんだぞ」


 さすがに声と表情を険しくした抗議に、魔法戦士がバツの悪そうに言いつくろうが、その点には偽りはない。


 リナルティエが助からぬより助かった方がはるかに良いし、幼少期の弱々しい彼女の姿を知るだけに、強い口調で責められることすら、心から嬉しく感じるほどだ。


 ただ、それを成したのがベダイルである一点が、心の底から気に食わないだけである。


「たしか、リナルティエ殿はブラジオン侯爵の姉上に当たるのですよね?」


「ええ、そうなりますね。当主は十二歳、所領四百戸に満たない、名ばかりで死に体の侯爵家ですが」


 自信なさげなイリアッシュは、当人に苦笑まじりに肯定されて、ホッとした表情となる。


「……ブラジオン侯爵家って、ネドイルに最初にケンカを売って、負けた相手だよね? その後もまた逆らって返り討ちにあったって聞くけど、一応、まだ残してもらっているんだ」


 ミリアーナがイリアッシュに輪をかけて自信を欠くのも当然だろう。


 リナルティエの実家はネドイルが台頭するまでは、アーク・ルーンで最大の勢力を誇る大貴族だったが、ネドイルの踏み台になってからは、没落の一途をたどり、今ではネドイルが足の裏を乗せる価値すらない存在に成り下がっている。


 七竜姫は皆、ネドイルの資料には隅々まで目を通しており、そこに「最初の敗残者」として明記されていたから、ミリアーナも一応は知っていただけで、ブラジオン侯爵家の現状については何も知らない。


 ブラジオン侯爵家が過去の栄光や勢力の十分の一でも保持していれば、アーク・ルーン国内の不平分子として、七竜連合も詳しく調べたかも知れないが、四年前の内乱に兵を集めることもできなかった「名ばかりで死に体」の大貴族など、調べる以前に存在すらも気づかなかったのだろう。


 先年、アーク・ルーンの一員になったイリアッシュにしても、ブラジオン侯爵家のことを知っていたのは、ネドイルに逆らった者の中で奇跡的なまでにマシな末路、という例外的な話を耳にしていたからにすぎない。


「けど、何でブラジオン侯爵家だけ、皆殺しにされなかったんですか?」


 ネドイルに逆らった者は、基本、一族皆殺しコース、オプションで悪魔がつく場合があるくらいで、新参の裏切り者としては、二度に渡ってネドイルと戦って敗れたにも関わらず、リナルティエの祖母と異母弟、何と二人も肉親が生き残っているのに、疑問を抱かざる得なかった。


「ブラジオン侯爵家ってのは、シャムシール、エストック、オクスタンと並ぶ、古い家柄で、ネドイルの大兄も遠慮するくらいの伝統があるのが、まず一つ。そして、古いだけではなく、ブラジオン侯爵家は貴族たちの盟主となるほど、昔は大きな勢力を誇っていたらしい。二段階に分けて叩かないと無力化できないくらいにな」


「つまり、一度目は敢えて、二度目の決起ができるくらいの余力を残した処置をしたということですか?」


「ええ、そうです。その最初の敗北の後、父は側室が産んだ、病弱で役に立たない娘、つまりは私を人質に出し、ネドイル閣下を油断させるなんて、浅はかな手を使いました。ただ、そのおかげで、私はベダイル様とフレオール様と会えたのですから、地獄の父に感謝すべきなのでしょうが」


「補足すれば、ネドイルの大兄はこういうことには徹底しているからな。リナルティエが自分を油断させる手立てであるなら、人質であるリナルティエを実家にあずけ、人質として扱わず大事にすることで、ブラジオン侯爵を逆に油断させる材料にしてのけた」


 ネドイルはフレオールの母が無類の子供好きであるのを知っていれば、下の二人の異母弟の性格も理解している。だから、安心してトイラックとサリッサをあずけたように、リナルティエの身柄を信頼する肉親らに引き渡した。


 実際にリナルティエはフレオールらと、自分の肉親以上に親しくなり、病弱なこともあって、大事に大事にされたので、ブラジオン侯爵はすっかりと油断した。


 油断しているフリのネドイルは、娘を人質に出したブラジオン侯爵家を完全に信用したフリを装い、ブラジオン侯爵を逆に油断させて、軽率な行動に出るように仕向け、再び大宰相を討とうとした途端、逆に先手を打たれて、リナルティエの肉親はほとんど刑場で首と胴が離れ離れになった。


「本来なら、私も反逆者の娘として処刑される予定でしたが、ベダイル様とフレオール様が助命を願ってくれたので、父たちのようにさらし首にならずにすみました」

 ベダイルが七歳で、魔道戦艦の図面を引けるような天才児であったのが、ネドイルに七歳の病弱な少女を殺さない大きな理由となった。


「あと、ブラジオン侯爵家はやはり名門中の名門だからな。そういう血統だの伝統だのを重んじるやからは多く、完全に取り潰すと動揺が大きいから、政治的に形だけでも残したってところだ。まあ、形だけだが」


 年老いた祖母が後見を務め、まだ十二歳の少年がブラジオン侯爵家の当主にあるが、殺されていないだけマシとはいえ、敗残者は実に惨めな末路を送っている。


 家財は全て没収されたが、領地は収入の乏しい四百戸があるので、使用人を雇って細々と食べていく分には困ることはない。が、悲惨なのは、ネドイルに逆らった者として、貴族社会で完全に孤立し、他家との交流が一切ない点だろう。


 ブラジオン侯爵家は食って生きているだけで、貴族としては死んだも同然の状態にある。


「リナルティエは人質としての役割を終えた後も、うちに居たんだが、そのせいでベダイルに犯された上、実験材料にされた」


「人聞きの悪い言い方をしないでください。どちらも同意の上のことですし、何よりベダイル様が私の身を案じた結果なんですから」


 再び抗議の声を上げてから、


「私の不治の病を何とかしようと、ベダイル様はこの身を、それこそ何年もかけて調べてくれましたが、まあ、私もベダイル様も、いつまでも子供ではないので、互いにどうしてもそういう感情が避けられず、成るようになってしまったのです」


「つまり、あいつはむっつりスケベってことだ」


「そうでしょうか? よくお見舞い来てくれたある方は、チラッチラッと私の胸を見ていましたが?」


「うぐっ」


 恥ずかしい思春期男子の行動を指摘され、魔法戦士は押し黙る。


「結局、ベダイル様は何年も頑張ってくれましたが、私を助ける手立ては魔戦姫となるしかないという結論に至り、そうなるリスクをちゃんと説明してもらった上で、私は魔戦姫一号体となる生き方を選びました」


「相変わらずうらやましい話だ。私など、兄上の件を引き受けてもらうのに、半年以上も頼み込んで断られたというのに」


 率先して体をいじくり回された一号体と違い、かなり強引に体をいじくり回させた二号体がぐちをこぼす。

「マル、魔戦姫はまだ確立された技術ではないのです。私の時はそれしか手段がなく、仕方なしに私を人でなくした。が、二号体に着手する段階でもなければ、人体の神秘を解き明かしたわけでもなかったから、ベダイル様はあなたがた兄妹の件に慎重に対応されただけというのに」


「わかっている。ベダイル様を襲い、強引に押し倒すなど、私もどうにかしていた。が、すまないと思うが、後悔はしていない。そのおかげで、ベダイル様のものとなれたのだからな」


 押しかけ実験材料は一片の悔いも見せず言い切る。


「ベダイル様は別に、魔戦姫にならずとも、スラックス将軍の件は引き受けるとおっしゃったというのに」


「だからこそ、ベダイル様の厚意に応えるを、我が槍を捧げる道とした」


 敢えて人でなくなることを己で決めたことにも、一片の悔いも見せずに言い切る。


「でも、マルガレッタ殿はそうして魔戦姫になったのに、スラックス将軍の体はまだ元に戻っていないんですよね? 魔道のことはよくわからないので、そうカンタンにいかないだけかも知れませんが」


 イリアッシュの素朴な疑問に、魔戦姫二号体はやれやれという表情で、


「その点は兄上が悪い。ベダイル様が元の体に戻そうとしても、それに協力しないのだから」


「まあ、スラックス将軍は軍務で忙しいからな。何年も長期療養というわけにもいかんだろう」


「私もマルも、何年にも渡り、肉体の詳細なデータを取ってから、魔戦姫となる手術を受けました。スラックス将軍の体を戻すには、最低でも半年は、データ取りをしてもらわねばならないのです」


 フレオールとリナルティエの補足で、アーク・ルーンに寝返って半年程度の竜騎士見習いは、ようやく合点がいく。


 直属の手勢のみで十万、他の四個軍団も合わせ、計五十万の司令官として最前線にあるスラックスが、長期休暇など取れるものではないし、当人も己の一身よりも責務をはるかに大事にしている。


「まったく、ベダイル様の英知を以てすれば、棒の一本や玉の二つ、どうとでもなるというのに、なぜ、兄上は体を元に戻そうとされぬのか」


「武人として生きる以上、スラックス将軍としては、ネドイルの大兄のために戦い続けねばならないのだろう」


 フレオールは淡々と、男でなくなった武人の心情を語る。


「オレは宦官ではないから、スラックス将軍の苦しみなどわからん。が、武門の男子として、男てして生きられぬより、武人として生きられぬ方が辛い。だからこそ、武人として生きる道を与えてくれたネドイルの大兄に、スラックス将軍は忠節を尽くすのだろう。武人であると自らを任じるなら、ただ主への忠功に勤しむより他ない。もし、主への忠功を捨て置き、我が身を優先して男と戻ったところで、それは匹夫と成り下がるだけの話。男であらずとも、スラックス将軍こそ真の武人であり、男でないからこそ、スラックス将軍は真の武人であるのだ」


「そのようなこと、言われずともわかっている」


 家族のために全てを諦め、男であることも武人であることも捨てた兄が、一人の独裁者に武を認められてどれだけ救われたか。それを間近で見ていた魔戦姫には、憮然となりながら魔法戦士の見解を否定することはできなかった。


 兄の愚かさを誰よりも知るがゆえ。


「ところで、魔戦姫、それはどういう、ものなの?」


 不意に、根本的な疑問を、シィルエールが口にする。


 ベダイルが今後も魔道兵器の開発に着手するなら、魔戦姫の技術を用いた代物がアーク・ルーン軍に配備されるかも知れないし、今の状況では魔戦姫と七竜姫が戦う事態が生じかねない。


 が、それよりもフリカの王女からすれば、未知の魔道に対して単純に疑問を抱いて、引っ込み思案な彼女はそれを切り出したのだろう。


「まあ、カンタンに言うと、ベル姉、つまりは魔竜参謀のデータを取り、その技術で解析できたいくつかな点を元に、人体に強化や付加機能を施したってところだな。あくまでカンタンに言えばだが」


 アーク・ルーン帝国の国家機密ではなく、ベダイル個人の秘密なので、あっさりとバラす異母弟。


 こうもあっさり魔戦姫の基本情報がわかり、ミリアーナはやや面を食らいながらも、


「……その二人、もしかして、ドラゴンに変身したりするの?」


「それはないな、今のところ。ベル姉は様々な能力が発現するメカニズムを組み込まれ、無から肉体を造り出されたが、二人は、元となるリナルティエ、マルガレッタの肉体を強化されているだけにすぎない」


「何か、竜騎士に、近い」


「おっと、さすがに、ヒントを出しすぎたか」


 シィルエールの洞察が、ニアピンであることを認める。


「……そろそろ、昼休みも終わるから、片づけようか」


 ゼラントの王女が言うとおり、話し込むあまり、午後の授業が迫りつつある時間であるのもあるが、フレオールがおどけながらも警戒の気配を見せたので、これ以上は追求してもはぐらかされるだけと判断したのもあるだろう。


 それに昼食後、胸焼けするくらいの情報が拾えたので、まずそれらの検討に気を取られたのを、油断と非難するのは酷だろう。


 昨日はフレオールとマルガレッタが片づけたので、イリアッシュとリナルティエが四人分の食器を持って席を立った後、ミリアーナとシィルエールが家臣の申し出を断り、自分の食った分は自分で片づけようとしたため、


「……何でも、キサマの父親は、側室の連れ子に手を出したそうだな」


 ゼラントとフリカの王女がいなくなるタイミングをうかがっていたか、それともそれにたまたま気づいたか、二年生らしきシャーウの男子生徒が、決闘で敗れた相手に前触れもなく個人攻撃を仕掛けようとする。


 ごく短時間とはいえ、一応は手合わせたしたので、噛みついて来た相手の顔と発言に、隣で気色ばむマルガレッタを片手で制しつつ、内心で呆れながらも、


「そのとおりなので、何も言えんな。子として弁護のしようもない」


 フレオールは軽く受け流してすまそうとする。


 が、自分に圧勝して大恥をかかせた相手が、父親の所業で大いに恥じ入らないのが気に食わず、


「ふん、それはそうだろう! 夫を亡くしてすぐに股を開き、義理の父親に股を開くなど、汚らわしい!


 そんな淫売が好みとは、キサマのち、ぢっ!」


 NGワードを発した途端、フレオールの拳を顔面に食らい、その男子生徒は盛大に床に転がる。


 拳が顔面にクリーンヒットした鈍い音と、ガタイのいい若者が床に倒れる音は、昼食後の一同を驚かせ、耳目を集めるのに充分な音量だった。


 無数の視線を向けられるフレオールは、鼻と口から大量の血を流す男子生徒を睨みつけ、


「クリスタ殿がどのような想いを抱いたか知らずとも、それを侮辱した以上、その想いと名誉にかけ、オマエを絶対に許さん!」


 ベダイルの母親への暴言に、激しい怒気をみなぎらせた。



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