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大征編45

 辛くも二皇子の危機を救ったイゲイツは、五千を護衛に残し、もう五千を以て追っ手を打ち払いつつ、ソナン復興のために駆けつけて来る味方を助け、その軍容を強化していった。


 このイゲイツ率いるソナン軍の反撃の餌食になったのは、竜騎士たちだ。


 千金の懸賞が仇となり、躍起になって先行、しかもほとんどが個々で動いていた竜騎士らは、一方的に追い回していたため、すっかりと油断しており、思わぬ反撃を受けて次々と討たれていった。


 このイゲイツの反撃によって、アーク・ルーン軍の従う竜騎士は、フォーリスやミリアーナを含めてわずか十三騎に激減。ただ、ソナン軍の反撃を竜騎士が受けている間に、フレオールとファブンは追撃に出していたアーク・ルーン兵や旧ソナン兵を、大した損害もなく引き上げ、まとめることはできた。


 そうしてまとめた計五万の兵で、進出してきたイゲイツらに対して攻勢に出るのを、フレオールとファブンは避ける。二皇子の元に忠臣、旧臣が続々が集い、その数は日に日に増え、その軍容も増している。


 祖国復興に燃えるその士気も高く、フレオールとファブンは今は交戦を避けるべしと意見が一致したこともあり、五万の兵を一時後退させる。


 目前の危機が去ったソナンの残党は海岸部にある城市に拠り、そこで兄皇子が即位してソナン皇帝となる。


 こうして形を整え、それなりに兵馬も揃ったソナンの残党は、国土回復に大軍を動かすことはなかった。


 アーク・ルーン側がそうできぬよう、手を打ったのである。


 ソナンの残党を放置するなど論外。では、どのように討滅するか。アーシェア、ムーヴィル、フレオール、リョガン、ファブンは集い、その方策に議論を重ねた。


 ちなみに、ギガは未だ奮闘するリディンジを攻囲しており、会議に参加できない状況にある。


「我らはこの辺りに進出して日も浅い。今、ソナンの残党を正面から攻め、一戦で片がつかねば思わぬところから反攻の火の手が上がり、足元をすくわれることになりかねない。まずは足元を固めるのを優先とするが、そうはさせじとソナンの残党が動くのは目に見えている。その動きを封じるため、一隊が大きく迂回し、敵の根拠地を南東から攻める構えを取る。これでソナンの残党は守りを固めるはずだ」


 今、ソナンの残党が根拠地としている城市は、交通の便が良いので味方を集め易い反面、敵からも攻められ易い。何より致命的なのは、防備がそう整っていない点だ。


 ソナンの残党が絶対に守らねばならぬのは、二皇子の身の安全だ。ソナンの皇統が断たれれば、ソナンの復興も叶わなくなる。だが、それゆえにソナンの残党は守りに重点を置かねばならず、積極策が取り難い。


 アーク・ルーン軍の一部でも攻め来る気配があれば、軽々に兵を動かせなくなる。せいぜい、繰り出せて小勢であろう。


 アーシェアの立てた計略と方針は以下のとおりだ。


 フレオールが三万を率いて大きく迂回し、南東からソナンの残党を突ける位置にある城市に入る。


 同時にファブンが三万の兵を率い、北から攻め入る風を装う。


 一方を攻めれば、もう一方に攻められるソナンの残党は、これで満足に動けなくなる。


 フレオールとファブンがソナンの残党を牽制している間に、アーシェア、ムーヴィル、リョガンはこの一帯の平定を進める。


 平定が進み、足場が充分に固まったなら、本腰を入れてソナンの残党の殲滅に乗り出す。


 この策がうまいところは、例えアーク・ルーンの思惑が読み取れても、ソナンの残党は二皇子が安全を計らねばならないという制約で、思いきった軍事行動が取り難いことだ。


 二皇子を守るために多くの兵を割かねばならず、これでソナンの残党は小勢でアーク・ルーン軍を攻めるしかなくなる。


 繰り出してきた小勢を叩き潰し、リディンジなどの忠臣の徹底抗戦を鎮圧すれば、アーク・ルーンは全力でソナンの残党に対処できる。わかっていても、二皇子の安全という足枷がある以上、どうすることもできないが、ソナン復興に執念を燃やすイゲイツからすれば、それですませるわけにはいかない。

 手勢が壊滅後、ソナン復興に参加しているテイゼムなど一部の者は、アーク・ルーンの想定どおりにわずかな兵によるゲリラ活動に活路を見出だそうと動くが、それでどうにかならねば、いよいよ追い詰められてしまう。


 ソナンの残党は、攻める兵と守る兵を充分に確保できていない。そして、守る兵を減らすわけにはない。少ない兵で二皇子の安全を守れる態勢を築かねば、滅亡を座視するようなものだ。


 議論百出。


 様々な打開策が出た結果、ソナンの残党はついに動く。


「ここより南に何日か下ったところに、小さな半島があり申す。三方は海、唯一の陸路は険しい岩場という要害です。我らはここに移り、陛下の安全を計ります。この地の防備を固め終わった後なら、我らは憂いなく反攻作戦に出られるでしょう」


 ソナンの残党の元には、全員が乗船できるだけの船団がある。


 実行可能な方針であり、ソナンの残党は根拠地としている城市を去り、アーク・ルーンの目をごまかすために一端、海上に出てから、南下してこの半島を目指すことに定まった。


 決して悪くない打開策だが、何点か問題はある。しかし、その程度のこと、実行した直後に起きた問題に比べれば、小さなものだろう。


 ソナンの残党は天運に見放されていたいるのか、海上に出た途端、彼らは災難に見舞われることになる。


 まず、嵐にあったが、造船技術に優れたソナンの戦船である。転覆した船は微々たるもの。ただ、荒れ狂う波に流され、船団が一時的にバラバラになってしまう。


 方々に流された船だか、行き先はわかっているので、ソナンの残党は半島に再集結を果たす。


 半島は岩ばかりの土地で、漁村がいくつかある程度だ。何もない土地に苦心し、小さな新帝の在所を築いた時には、その主が崩御してしまった。


 いや、新帝ばかりではなく、千人以上が病で倒れて死去する。


 半島は大勢の人間が暮らせる場所ではなく、ソナンの残党は船上での生活を余儀なくされた。


 慣れぬ船での生活に体調を崩したところに、疫病が発生したのだ。


 嵐で遠く流されたいずれかの船が、病原菌を拾ってきたのだろう。これが体調を崩していた者らに発症してしまい、それが無情にも多くの命と幼き命を奪ったのだ。


 そして、幼君を失い、喪中にあることなど斟酌せず、非情なるアーク・ルーン軍はもう一つの幼い命を奪わんとする手をゆるめることはなかった。



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