表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
513/551

大征編44

 わずか七歳と五歳の身で、滅びた祖国の再建を課せられた二皇子は、母親の異なる異母兄弟である。しかし、不遇な境遇の中、この兄弟に救いがあるとすれば、二皇子は互いに仲が良いだけのみならず、互いの唯一の身内にも恵まれたことであろう。


 二皇子に随行する者の中で、兄皇子の身内は母親のみだが、この女性は慎み深く優しい性格をしており、我が子と同様に、生母のいない弟皇子も可愛がっている。また、弟皇子の肉親である亡き生母の父、つまり祖父も温和な人柄で権力欲がなく、実の孫と同じように、兄皇子にも丁重に接している。


 肉親だけではなく、他にも随行する文官、女官、侍従、さらに護衛の武官や兵士らも、二皇子の境遇に同情し、苦しくとも弱音を吐くことなく、忠節を尽くした。


 だが、お供に恵まれ、彼らからどれだけ忠節を尽くされようが、二皇子が苦しく、厳しい境遇にあることには変わらない。


 国が滅びてなお、ソナンの忠節を尽くそうとする者は少なくない。それこそ、フレオールが危惧したとおり、彼らが一ヵ所に集まれば、十万人にもなろう。


 ただし、集結したならばの話だ。


 確固たる拠点を築き、そこに二皇子のどちらかが即位し、ソナンの健在をアピールすれば、忠臣たちは新帝の元に集うことができる。しかし、現実には二皇子は裏切り者やアーク・ルーン兵に追われ、一ヵ所に落ち着ける状況ではない。忠臣らも、どこに向かえば二皇子と合流できるかわからぬ有り様で、その点ではファブンの打った手は的確であった。


 忠臣らは主君の元に駆けつけるべく、二皇子がいるであろう場所に向かっているが、確たる拠点がない状態では無駄に探し回るしかない。そうしている内に、ファブンの手勢やアーク・ルーン兵に見つかり、討たれてしまう。


 無論、偶然にも合流できた忠臣はいるが、彼らは二皇子を追う裏切り者やアーク・ルーン兵を防ぐため、命を張って足止めをして忠節を果たしていく。


 こうして苦しい状況にある二皇子一行をさらに追い込んだのが、竜騎士の存在だ。 


「亡国の王子様の身柄には、どちらも千金の懸賞をつける」


 フレオールは味方のやる気というより、欲望を刺激した結果、確かに竜騎士らが誰よりも熱心に二皇子一行を追い回した。


 逃げる側からすれば、空を飛び交う竜騎士は厄介、極まりなく、実際に二皇子一行を竜騎士らは何度か捕捉し、この際に二皇子を逃そうと武官や兵士、文官や侍従、女官までもが身を挺し、一行は半数を失いながら、辛くもドラゴンの顎から逃れ続ける。


「森に入れば、上からの視点も届くまい」


 緑の豊かな土地ゆえ、森はいくらでもあり、一人の文官の発案で二皇子一行が森の中を進むようになると、確かに竜騎士らも発見が困難にはなったが、これで完全にその目を逃れられたわけではない。


 それに二皇子一行は見つけることはできずとも、合流を計る忠臣の集団は次々と竜騎士の空襲を受け、主君の元に駆けつけられぬまま無念の死を遂げていった。


 ただ、主君の元に駆けつけられずとも、忠節を尽くして倒れた者もいる。


 ソナン皇室の宴席に当たるハーバール侯爵は二人の幼い息子を使い、二皇子一行を装い、竜騎士らの目を欺き、引きつけた。


 まんまとだまされた竜騎士らは、ハーバール侯爵を幼い息子ごと皆殺しとしたが、そうして手間をかけさせることが忠臣の狙いである。


 思わぬタイムロスを被ったが、躍起になって二皇子一行を探し回る竜騎士らの内、ナターシャを含む四騎がついに捕捉に成功する。


 二皇子を守る兵は五百程度。竜騎士四騎で充分に討てる数だ。


 あくまで、二皇子を守る兵だけならば、だ。


 ハーバール侯爵が身を挺して時を稼がねば間に合わなかっただろう。だが、二皇子一行に襲いかかろうとした矢先、ナターシャら竜騎士四騎は側面から矢の雨を浴びることになる。


 イゲイツという将軍がいる。彼も他の忠臣と同様、兵を率いて二皇子の元に馳せ参じようとした。が、自分たちが追撃を受けていると知るや、


「バラバラでは、ただ討たれるだけだ。ある程度、まとまらねば、殿下らの元にたどり着いてもお守りすることがかなわぬ」


 イゲイツは味方に声をかけていき、一万ほどの軍勢を整えてから、二皇子の元に向かい、間一髪で間に合い、ナターシャらに横撃を食らわすことができた。


 目の前の獲物しか見てなかったナターシャらは、矢の雨を浴びるまで側面の敵に気づかず、無防備に矢を食らってしまう。


 矢が何本も突き刺ささり、背中の翼も損傷した四頭のドラゴンは地上に落ち、飛び立つことがかなわなくなる。


 ナターシャともう一人も深手を負い、残る二人は急所に矢が刺さり、乗竜の背に倒れて動かなくなる。


 賞金の取り分を多くせんと、味方を出し抜き、だいぶ先行しているので、味方の救援は期待できない。


「放て!」


「ハアアアッ!!」


 逃げる事もかなわぬ状況のナターシャらは、イゲイツの号令の下、放たれた第二射をドラゴニック・オーラで防いだ直後、矢の雨を再び浴びてしまう。


 ナターシャともう一人のトドメを刺した矢は、言うまでもなく二皇子を守る五百の兵が射たもの。


「放て!」


 人は討ったが、傷を負いながらも四頭のドラゴンはまだ生きており、イゲイツは兵に第三射を命じる。


 主を失った四頭のドラゴンは瞑目して、矢の雨を受けてそれで果てていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ