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大征編40

 半年に渡る抗戦をリョガンが断念したことにより、ヨージョのみならず、大河の中流域がアーク・ルーンの手に落ちることになった。


 ずさんなジドの挟撃作戦に強引に応じさせられた結果、キュフスのような良将、守兵の半数以上、ほとんどの戦船を失っても、リョガンはなおも抵抗を続け、ヨージョは不落ではあった。


 何度か猛攻を加えても、リョガンは良く守ってこれを撃退した。また、出撃した際に捕らえたヨージョの守兵らを示し、その士気をくじこうとしたが、リョガンは良く兵を鼓舞し、その士気が潰えるのを防いだ。


 無論、どれだけ抗おうが、敵に包囲されて補給を断たれた城に未来はない。リョガンは何度も密かに使者を出し、救援を乞い、状況の打破を求めた。


 それにソナンも応じなかったわけではない。しかし、自らの保身を第一とするジドが援軍の指揮を握り続け、まずい用兵を繰り返し、アーク・ルーン軍にことごとく撃退された。


 そして、何度目かの敗走の後、さすがにジドを排斥する動きが起こり、ジドは流罪となって失脚したが、それで万事が解決とならないどころか、ある意味でソナンの情勢は悪化してしまう。


 空位となった宰相位を巡る権力闘争が起こり、権力者たちは外敵よりも政敵に注意を払わねばならなかったからだ。


 こうして内輪もめに時を費やしている内に、ヨージョは抗戦の限界点を迎え、


「兵と民を害さぬと約束してもらえるなら、城門を開こう」


 兵と民の助命を条件にリョガンは降伏を申し出て、アーシェアはそれに応じ、かくしてソナン最大の要衝は陥落した。


 落城に際して、リョガンは死を覚悟したが、アーシェアに奮戦した降将を罰する気はない。それどころか、軍列に加わるように求めた。


 当初、死を免れたリョガンは下野し、これ以上、祖国の攻防に関わる気はなかったが、ギガが自分の処罰を求めているとなれば、そうも言っていられない。


 ギガはリョグスと反目しており、その憎悪は死後、弟に向けられるようになった。ヨージョを守り切れず、戦いに疲れたリョガンだが、敵国に処刑されるならともかく、個人の私怨のために殺されるなど、真っ平ごめんだ。


 とはいえ、ギガが味方し、リョガンが味方しないとなれば、アーシェアの裁定がどうなるか、考えるまでもない。元味方から一族郎党を守るためには、侵略者の手先となって祖国の滅亡に貢献するより他にない。


 幸い、リョガンがアーク・ルーンの軍列に加わることに応じると、アーシェアはギガの私怨を退けてくれた。それどころか、ソナンにトドメを刺すための一方の先手を任され、それなりに遇されている。


 ソナンからの降兵は五万に及ぶ。アーシェアはこれを二分し、一方をギガに率いさせて大河から、もう一方をリョガンに任せて南回りで、ソナンの首都リンカンを突くように定めた。


 そのギガの後ろから、四万のアーク・ルーン兵を率いてムーヴィルが続く。もう一方もやはり四万の兵を与えられ、フレオールがリョガンの後続を務める。


 アーシェアは二万の兵と共に、制圧したヨージョなど、大河中流域を鎮定した後に進発することとなっている。


 ソナンの正規軍はジドの指揮の元、敗退を繰り返して、だいぶ目減りしている。それでも残存兵力を結集させれば、まだ対抗するのは不可能ではなかったが、それも総力を結集したならばの話だ。


 要衝たるヨージョ陥落の報を前に、ソナンの高官らが真っ先に議論したのは、


「見ろ。貴様が余計な言を吐くこうなったのだ」


 責任のなすりつけ合いであった。


 もちろん、ソナンの迷走など攻める側は知ったことはない。上がこうでは下はそれぞれの城、それぞれの部隊で侵略者に立ち向かわねばならず、当然、勝ち目などない。そして、勝ち目がないのは迎え撃つ側にもわかるので、戦わずに降って安全を計る者が相当数に昇った。


 ギガもリョガンも情けなく思うほど、快進撃を続けられたが、それもリンカンに迫る頃には、リョガンの手勢のみとなった。


 大河を下って進むギガの手勢の方が、南回りに進むリョガンの手勢よりも、距離的にはずっと有利である。アーシェアとしては先に降ったギガを配慮した進軍路を取らせたのだが、敵地を踏破するに際して重要なのは距離ではなく、何が立ち塞がるかである。


 リディンジという文官がいる。文官ながら兵学に通じ、勇を好む人物で、彼は権力争いにふける高官らに見切りをつけ、リンカンの西にあるソーシュルという城市に入り、兵を集め、防備を固めた。


 地理的に無視できる城市ではない。ギガはソーシュルを攻めたが、リディンジはこれを良く守ったので、ギガたちはここで進軍を止められ、足踏みを余儀なくされた。


 そうこうしている内に、後続のムーヴィルが到着し、城攻めに加わったが、それでも落ちない。


 ムーヴィルが憮然となったのは、ソーシュルを兵の一部で囲み、残りはリンカンに進軍することができなくなった点だ。


 リディンジはギガらの攻撃を防ぎながら、ソーシュル周辺の友軍と連絡を取り合い、ムーヴィルが到着した時には、ソーシュルを中心とする防衛線を築き上げていた。ソーシュルのみを攻め、あるいは封じたとしても、周囲のソナン軍がそれを阻害せんと蠢動するのは目に見えている。


 ムーヴィルはリディンジが防衛線を築くのを許したギガを叱責したが、もう手遅れである。ムーヴィルやギガらがリンカンを攻めるには、ソーシュルを抑えながらリディンジと協力関係にある周囲の遊軍を一つ一つ潰していき、それから全力でソーシュルを攻め落とすしかない。


 手間も時間もやたらとかかるが、他に選択肢がないのだから、どうしようもない。


 こうしてギガとムーヴィルが足止めしている内に、南周りのリョガンが祖国の首都に迫った。が、憂国の硬骨漢はリディンジだけではない。ソナンの文官の一人、テイゼムも私財を投じて二万の兵を整え、南西から首都に、何より主君に迫ろうとする降将・降兵の前に立ち塞がった。



出張のため、当面、更新ができそうにありません。七月中は無理なのが確定しています。すいませんが、しばらくお待ちください。

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